2024年10月5日 カスタード入りのたい焼き
用があって、
以前住んでいた町の近くに出かけました。
さして遠方ではないのです。
公共交通機関に乗れば、いつでもいける距離にあります。
しかし、最近はそちらの方に用事や仕事がなく、
すっかりご無沙汰だったのです。
ビルが改装されていたり、
知っている店がなくなっていたり、
新しい店が出来ていたり、
様々な変化があります。
自分がいなくても、
この場所にはこの場所の、確かな時間が流れていて、
変化しているのだ、という至極当たり前のことを様々と感じてしまいました。
特に、通っていたけれど閉院してしまった病院の前に立った時は
切々と時の流れを感じました。
本当のことを言えば、病院の前にはいけませんでした。
少し遠くから、「テナント募集」の看板が貼ってあるのが見え、
それでもう、心が折れてしまったのです。
扉には白い紙がまだ貼られたままでした。
おそらく閉院について書いてあるのでしょう。
でも、その文章を読める距離まで近づくことは、
どうしても無理でした。
「テナント募集」と赤地に白抜きで描かれた文字を間近で見ることはとても耐えられそうにはありません。
たかが、病院の閉院なのです。
家族や友達がいなくなったわけではありません。
でも、かかりつけの病院が無くなるということは、それに準ずるくらいのショックなのだということを
自分の動揺をもって知りました。
あの病院にいた人たちは、元気にしているだろうか
と考えることさえ、
おこがましいくらいの関係なのですが、
それでも、やはりひどく寂しいのです。
さて、今日の用事というのは
歯医者の定期検診と歯のクリーニングでした。
引越しと同時に歯医者も変えて仕舞えばよかったのですが、
それなりに信頼していて、年に数回ならば通えない距離ではないので、
続けて通っています。
遅刻しないようにかなり早めに家を出たので、
まだ、予定時刻には早く、歯医者は開いていませんでした。
こういう時、以前の私なら、歯ブラシを買った上で、
コーヒーショップなどに入ったものです。
しかし、今回は少し悩んでからではありますが、
ごく近くにあるジムで時間を潰すことにしました。
着替えも持って来ているのですが、
着替えをするほどまでの時間はないので、
そのまま軽く、マシンを使います。
隙間時間に運動するなんて、小学生くらいの自分が聞いたら、驚き慄くと思います。
何せ、運動が大嫌いでしたから。
数年前でも、驚くことは請け合いです。
以前は、カフェで手帳を広げて考え事する、とか、本を読むとか、そういう場所で、時間を潰すことが好きでした。
ここ最近は「その時間があればジムに行けるかも…」というこれまでにない選択肢が、浮かぶようになってきたのです。
30分近く、待ち時間があったので、軽く筋トレマシンを使いました。
人も少なく、かなり快適です。
カフェで考え事をするのも楽しいのですが、
運動をやった時の「今日もやれた!」という達成感のようなものは生まれません。
埋まっていく予定や広がっていく不安、あやふやな期待や展望に比べると、
運動は実感があります。筋肉痛もやって来ますが、それだけではありません。
マシンのグリップの硬さ、おもりの重み、汗などを感じることができます。
カフェで考え事をするより、ずっと地道で、それが妙に、安心なのです。
しばらくマシンを動かしていると、歯医者が開く時間になりました。
歯医者もどこか新しくなっているかもしれません。
受付のひとは2人とも
知っている人ではないようでしたが、
建物は変わっていないので、安心しました。
でもよく見ると受付にはマイナンバーカードの読み取り機械が、設置されています。
やっぱり変化しています。
しばらくして、歯科衛生士さんに呼ばれ、歯肉の検査をされました。
驚くほど痛いところが2箇所あり、
そこは歯肉の状態が悪いのでしょう。
仰向けでぴかぴか光る眩しいライトを眺めながら、
この体験が、何かに活かせないかを
ひとしきり考えていました。
歯肉の検査の後、磨き上げ、フロスをして最後に歯科医のチェックで終わるのですが、
今日は途中で歯科医がチェックに来てくれました。
変化だ!と心が叫び出します。
いつもと違うタイミングでの登場なのです。
今日はひどく変化に敏感になっています。
そう言えば、今日は匂いにもひどく敏感です。
自宅で晩御飯の下準備をしてホットクックに入れてから家を出たのですが、
ずっと自分から食べ物の匂いがする気がします。
ひどくニンニクの匂いがするのです。
唐揚げが歩いてるみたいに思われているかも…、
どうやら匂いの元は、カバンで、
そして、さらに言えば、ジムで着用しようと思って持って来た、服でした。その服は出かける前に料理をしていた時に来ていた服でもあり、その時に匂いがうつったようです。
変化に敏感で、匂いに敏感で…と考えて、
「今日の私の調子はイマイチなんだ」ということが実感できました。
これで主治医が変わっていたらもっと動揺したことでしょうが、
ありがたいことに、
歯科医は変わらず、いつもの先生でした。
チェックの結果、問題はないということでした。
全ての行程が終わり、待合で支払いを待っていると、今日が初診だという親子連れがいました。
それを見て、やはり、時間はどんどん流れていっているのだ、と感じます。
以前はなかったもの、いなかった人が登場し、
見慣れたもの、知っている人が消えようとしているのです。
カフェで手帳を眺めて考え事をする予定はやめ、
ジムにもう一度戻って運動してから帰ることにしました。
何となく、運動の方が、まだ、変化の流れに逆らう力を持っていそうな気がしたからです。
一時間ほど運動をして、帰路に着こうとすると、
秋祭りの影響なのか、家族連れが闊歩して、
賑やかな雰囲気でした。
昔にはもう戻れない、でも、新しく生まれることもある、
そういうために、祭りもあるのかもしれません。
屋台は見当たりませんでしたが、
たい焼き屋を見つけたので、
カスタード入りのたい焼きをひとつ買って、
食べました。
たい焼きの尻尾のカリカリの部分のおいしさを噛み締めます。
以前の私なら、あんこ入りを頼んだことでしょう。
もしくは、どこかのカフェに立ち寄ってぼんやりしたかもしれません。
そのどれも、選びませんでした。
これまでのどの私でもない選択をしたのです。
運動の効果は無に帰したけれどこれで良いのだ、と何故か、わかっていました。
これで、良いのです。