【感想】読書感想文「サーチライトと誘蛾灯」「蝉かえる」_非実在女子大生、空清水紗織の感想Vol.0026
櫻田智也先生の連作短編集。
文庫判だと「サーチライトと誘蛾灯」が2020年、「蝉かえる」が2023年に、それぞれ初版で出ている。
2冊×5編で10編楽しめるのだが、全て面白い。
いやあ、10編全部面白いって凄い。
第1弾の「サーチライトと誘蛾灯」も充分に面白いが、第2弾の「蝉かえる」は輪をかけて面白い。
読み終わった後に、もう一回はじめから読み直したくなる。
ここからは個人的に好きな5編を紹介していく。
ナナフシの夜(「サーチライトと誘蛾灯」より)
泉の人懐っこさや頼りなさと同時に、切れ者であることが存分に伝わってくるお話。
スーツのボタンを付け直すという、一見なんて事のない動作から、その裏にある人情の機微までもを読み取る泉の観察眼が光る。
刑事ドラマの相棒Season2で、砂本量さんが脚本を担当してそうなお話って言って伝わるかしら……。
事件としては悲しい結末だが、人と人との繋がり、その温かさが通奏低音として流れているような、そんなお話。
火事と標本(「サーチライトと誘蛾灯」より)
過去の事件を振り返って「実はこういうことだったんじゃないか?」と、当事者ではない泉が真相を解き明かすお話。
文章の端々から、寒さとか、もの悲しさとかが伝わってきて、本当にその場で話を聞いている気分になる。
100%真実であるという提示はされないものの、おそらくそうだろうという結末に辿り着く。
その結末はとてもやるせなく、胸を打つ。
傑作。
蝉かえる(「蝉かえる」より)
こちらも「火事と標本」と同じく過去の事件を解き明かす形式。
こういう民俗学っぽいお話大好き。
「蝉かえる」という短編集のトップバッターとしても最高の掴みをしてくれているお話だと思う。
ホタル計画(「蝉かえる」より)
サイエンス雑誌の編集長「オダマンナ斎藤」と、少年時代の泉が活躍するお話。
事件としても面白いのだけど、それ以上に泉の少年時代が描かれているのが重要だと思う。
このお話での描写が有ることで、より一層、泉の価値観や人間性に奥行きが増しているように感じる。
オダマンナ斎藤さんも良いキャラクターだ。
少年の泉が斎藤に電話をかけて、何から話せばいいのか戸惑っているときに、斎藤はこうアドバイスする。
「そういうときは、結論からいってごらん」
このセリフだけで、斎藤の聡明さと、他者への面倒見の良さが滲み出てくる。
大人になった泉と斎藤がガッツリ絡む話も見てみたい。
サブサハラの蠅(「蝉かえる」より)
現在進行形で、何か良くないことが起きているお話って、読んでいてずっとそわそわする。
でも、それが解決した瞬間のすっきりした気分は格別だ。
泉の「だったら……ぼくのために生きてはくれませんか?」というセリフも心にしみる。
彼の不器用で優しい一面が端的に出ていて、素敵なセリフだ。
どういう人に、どういう流れで言ったのかを、未読の方には是非読んで知ってほしい。