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12月7日(土)『フード・インク ポスト・コロナ』山田優さん登壇トークイベントレポート
アメリカのフード・システムに鋭く切り込み、タブーとされていた食品業界の闇を暴いた『フード・インク』(09)の続編、『フード・インク ポスト・コロナ』が、12月6日(金)より新宿シネマカリテほかにて全国順次公開となった。
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https://www.youtube.com/watch?v=0FZ0_mrPc5Y
12月7日(土)に新宿シネマカリテにて農業ジャーナリストの山田優さんをお迎えし、トークイベントを開催。
「トランプ大統領と米国のフードインクの行方」をテーマに本作ついて、お話いただいた。
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まず、アメリカは来年1月20日にトランプ政権になるが、それによって農業政策がどう変わるのかについて、山田さんは解説。日本の場合は農林水産省や財務省が予算を配分するが、アメリカの農業政策は、5年に一度に議会で決まるアメリカ農業法に基づいて農務省が政策を執行する。その農業法は、来年新しくまとまるだろうと言われており、トランプ氏や共和党の意向が非常に強く反映するだろうと指摘。
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現在の農業政策は、民主党の農務長官トム・ビルサク氏が担当しており、農業が盛んなアイオワ州出身であることからも、農業にはとても詳しい。彼は、オバマ政権下ではより競争力を高める方針で企業寄りな姿勢であったが、4年前にバイデン政権の農務長官になってからは、少しリベラルに動いてきていると山田さんは続ける。例えば、アメリカの農業といえば白人の高齢男性が運営しているイメージが強いが、女性や白人以外のルーツを持つ人、若い人など、多様な人々が農業に入りやすい仕組みを作ることに力を入れてきた。また、ビルサク氏は、「あまりにも長い間、アメリカの農業政策は農家が大きくなるか撤退するかを奨励し、その結果、経済が中小規模の農場と結びついている地域社会を弱体化させてきた。過去50年間で437,000近くの農家が退場せざるをえなかった」とし、本作でも描かれている巨大食品企業の寡占状態に対する規制にも力を入れてきたとのこと。アメリカの農業といえば大規模で全て機械化されているイメージがあるが、農業だけでは食べられず、兼業農家もたくさんいる。大規模になるほどコストが下がって競争力が上がるため、小規模な農家はどんどん立ち行かなくなる。ビルサク氏はそのように中小規模の農家が衰退し、地域経済が疲弊していくことに危機感を持って、競争一本槍から少しリベラル寄りになってきたと、山田さんは述べる。それには、前作『フード・インク』の大ヒットがあり、食品企業の横暴が農家のみならず国民にも悪影響を与えているということが世論となって、政策を動かしてきた背景がある。特に、食肉処理場はこの10~20年でどんどん駆逐されて大きな規模のものしか残っていなく、とても大きな力を持ちアメリカの政治を動かしている事態になっていると続ける。そういった現実をどう変えていくかが重要となるが、トランプ政権ではこれまでのリベラルな政策は継続されるかというと、全くNOと考えざるを得ないとし、さらに効率重視の方向に動くだろうと、山田さんは語る。
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最後に、日本との関係についても言及。第一期トランプ政権の時に、アメリカは中国に対して関税を引き上げた。その結果、アメリカから中国にいく大豆やりんごとうもろこし等が大幅に減ったのだが、トランプ氏は中国に加えてメキシコとカナダの関税も上げると発言しているのだ。それらの国はアメリカの農産物輸出上位3カ国であり、アメリカの農業にとって重要な顧客である。そうなった場合、輸出第4位の日本に市場を開放するよう圧力が強まるのではないかと推測。近い未来、日本は農業や食品をどうするか大きな別れ道を問われる時代がくると、トランプ氏の影響は日本にもあると山田さんは問題提起した。