
『映画を愛する君へ』内山拓也さん&奥浜レイラさん登壇トークイベントレポート
19世紀末に誕生してから現在に至るまでの映画の魅力と魔法を語り尽くす、映画への深い愛と映画館への賛美に満ち溢れたシネマ・エッセイ『映画を愛する君へ』(原題:Spectateurs!/英題:Filmlovers!)が現在、新宿シネマカリテほかにて全国順次公開中。

第77回カンヌ国際映画祭で特別上映され、最優秀ドキュメンタリー賞にあたるゴールデン・アイ賞にノミネートされた本作。
ドラマとドキュメンタリーを融合したハイブリッドな構成で綴られ、デプレシャンの自伝的ドラマと共に、フィクションのシーンには、一般の観客が映画体験エピソードを語るインタビューシーンが挟まれ、映画史に功績を残した50本以上の名作が登場し、“映画とは何か”に迫る。
シネ・ヌーヴォ(大阪)やアンスティチュ・フランセ(東京)など、日本の映画館の登場も見逃せない。デプレシャン監督が贈る映画と映画館へのラブレターがここに完成。
2月2日(日)、新宿シネマカリテにて映画監督の内山拓也さんと映画・音楽パーソナリティの奥浜レイラさんをゲストに迎えたトークイベントを開催。その模様をお届けする。
まず本作を鑑賞して、内山さんは、「ミクロとマクロが入り乱れる不思議な映画体験だった。劇中でもお客さんに向けた映画だと言っていたがそれをひしひしと感じ、現実と虚構、現在と過去がスクリーンを隔ててみると、現在、そして自分の物語になることを改めて考えるきっかけになった」と感想を述べた。
奥浜さんは、「最初に思い出したのが、マーティン・スコセッシが言っていた"最もパーソナルなことは最もクリエイティブなこと"という言葉。自分について語る時、また逆も然り、映画について語ると自分のことを語ってるようにもなり、本作ではそれが行ったり来たりする様がとても面白いなと思った。また、51の映画が引用されているが、デプレシャン監督が大切にしている作品から映画史として見せるべき作品まで、バランスが良いと思った。なかでも、女性監督のアリス・ギイやネイティブ・アメリカンのミスティ・アッパムなど、映画史の中から長らくいないことにされてしまっていた存在を入れていくことで、自分史になっていくところにとても共感を覚えた。視座を広げてくれる作品に出会えてよかった」とコメント。

『佐々木、イン、マイマイン』(21)の公開日まで新宿武蔵野館とシネマカリテで働いていた内山さんは、「19歳くらいの時に『サラの鍵』(10)と『ゲーテの恋』(10)という映画を新宿武蔵野館で観て衝撃を受けた。お金のない家庭で育ったため、VHSで観たりTSUTAYAに行くこともちょっとできるぐらいで、芸術やカルチャーに触れたのは東京に来てから。地元の新潟にシネウィンドというミニシアターがあるのは知っていたが、当時は行ったことなかったくらい。上京をきっかけに片っ端からいろんな映画館に通って、食うように映画を観ていた」と、当時を懐かしみながら語った。
内山さんが、都内では観きれないほどの映画が上映されていることに触れると、奥浜さんも、「私は神奈川の辻堂が地元で、東京は近いと思われがちだが、渋谷とかまで出ようとすると1000円ぐらいかかる。中学生にとって往復2000円の交通費がかかるなんて無理だったので、東京に出てきて映画を観たのは高校入ってからだった」と、学生時代の映画鑑賞事情を振り返った。
続けて内山さんは、映画監督の道に進んだきっかけを尋ねられると、「スタンリー・キューブリックに出会ったことが大きい。元々スタイリストを目指してファッション学校に通っていた学生で、ファッションに映画を絡めた授業があった。そこでキューブリックを知り、こんなに自由な表現があるんだと、映画体験・映像表現という僕の扉を開けてくれた。『時計じかけのオレンジ』(72)とか衝撃的で、こんなの二度と観たくないと思いながらもすごいなという相反する気持ちになった。その過程で新宿武蔵野館に出会った。また、ファッションを辞めて映画の現場に行きたいかどうかまだあやふやな時期に、イメージフォーラムでジョナス・メカス監督の『ウォールデン』(69)という約3時間の記録映画を観て、基本的にはつまらないのにどこか心地よく、脳裏に焼き付くような映画体験をしたことも記憶に残っている」と、人生を変えた映画体験を語った。
さらに、そのような映画体験について、内山さんは「映画館でどんな日に観たか、誰と観たかなど、どこでどういうものをその時摂取したかっていうのが一緒にセットになることが映画館の良さだと自分は思う」とし、奥浜さんも、「体験そのものが先まで残ってるって事が多い。私は何を観たんだと思うようなことを20年くらいやってるような気がするが、それがこの仕事にも良い作用をもたらしている」と、映画館での体験の醍醐味に言及。
また、奥浜さんは思い出深い映画体験として、「初めて渋谷のシネマライズに行った時に『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』(01)という作品を観て、ヘドウィックの髪型を模したおもちゃみたいなものをみんな頭に付けていて、大人ってこういうことしていいんだと思った。自分の中の大人感と映画館が変わった」と、子どもながらにエピソードも披露した。

本作に登場する51作品の名作の話題に移ると、内山さんは、「一番最後の『大人判ってくれない』(59)はすごくグッときましたし、ジャン=ピエール・メルヴィルの『恐るべき子どもたち』、トムクルーズ出演の『マイノリティ・リポート』(02)とかいろんな時代やジャンルが入り乱れて入ってることに監督の視座を感じた。『ディア・ハンター』(78)も大好きで、荒野のシーンの使われ方がよかった」と、印象に残った作品を述べた。
奥浜さんも、「生涯で一番観た映画が『ターミネーター2』(91)。小学生低学年くらいの時におじさんの家に行く度にVHSで観ていた。本編に登場したあのシーンを見てあこれ2だ!となった。お!と引かれるところもありつつ、『SHOAH ショア』(85)とかデプレシャン監督自身の体験としても重要でなるほどとなった」と、興奮気味に語った。
さらに、内山さんは、「権利的に51作品も引用できたことがすごい。日本では絶対に無理。国際的に活躍する日本の映画監督が手紙を書いても到達できない量で、デプレシャン監督が映画人から愛されているからこそだと思う。大金を払って叶う領域ではない」と監督ならではの視点も。

最後には、映画館で映画を観ることについても描かれる本作について、「配信がコロナ禍よりもさらに増して勢いを持ってきてるが、抗う必要もないと思っててNetflixしかり色んなのを観る。ただ、どんなに家の環境を整えても集中力や解像度が違うなと感じる。それは、テレビの綺麗さの解像度ではなく、脳裏に焼き付く解像度であって、そこが一番映画館と配信の違い。スクリーンを目的としていない映画に自分も携わるようになってきているが、仕上げ方が違って、映画だとこのミニシアターよりも大きい場所でダビングをするのに対して、配信だと10畳とかそれぐらいの部屋で完成させる。 ヘッドホンで聞いてどうなるか、どういう感じでこの10畳の部屋でサラウンドを聞けるか、もしくは このサラウンドしない 2.1chどうなるかというのを目的にやるので、仕上げ方含めて圧倒的に違うと感じる。僕が好きな映画、アルフォンソ・キュアロン監督『ROMA/ローマ』(18)も、家で観た時はそんなに入ってこなかった。同じ内容でも全然違う」と、映画館と配信の違いを指摘。

奥浜さんは、「仕事上、公開前に観させてもらうことも多いが、それと同じぐらい劇場に足を運ぶのが好き。煩わしさを感じることもあるけれど、周りに人がいてそれぞれ一人一人が違う反応をしてることが、私にとっては映画を観る上でとても強い体験として残る。子どもの時に映画館でジャコ・ヴァン・ドルマル監督の『八日目』(96)を観て、登場人物の障害を持った男の子の行動に対する反応が一人一人違った。その時に、なんで偏見が生まれてしまうんだろうと思ったことをきっかけに、福祉の学校に進んだ。でも、その体験が決して悪いことではなく、いろんな人がいて、みんな違う考えを持っているということを認識し、そういう人たちを受け入れる場所として映画館があり続けて欲しいと思っており、今もこういう仕事をしてる」と、映画館という民主主義の空間で不特定多数の人と共にするからこそ得られる体験の貴重さを述べた。
