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『映画を愛する君へ』月永理絵さん&森直人さんトークイベントレポート
19世紀末に誕生してから現在に至るまでの映画の魅力と魔法を語り尽くす、映画への深い愛と映画館への賛美に満ち溢れたシネマ・エッセイ『映画を愛する君へ』(原題:Spectateurs!/英題:Filmlovers!)が現在、新宿シネマカリテほかにて全国順次公開中。
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第77回カンヌ国際映画祭で特別上映され、最優秀ドキュメンタリー賞にあたるゴールデン・アイ賞にノミネートされた本作。
ドラマとドキュメンタリーを融合したハイブリッドな構成で綴られ、デプレシャンの自伝的ドラマと共に、フィクションのシーンには、一般の観客が映画体験エピソードを語るインタビューシーンが挟まれ、映画史に功績を残した50本以上の名作が登場し、“映画とは何か”に迫る。
シネ・ヌーヴォ(大阪)やアンスティチュ・フランセ(東京)など、日本の映画館の登場も見逃せない。デプレシャン監督が贈る映画と映画館へのラブレターがここに完成。
1月23日(木)の特別試写会にて、ライターの月永理絵さんと映画評論家の森直人さんをゲストに迎えたトークイベントを開催! その模様をお届けする。
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まず、本作に月永さんが出演していることが森さんより告げられ会場は少し驚いた様子。
月永さんは、「いろんな劇場が断片的に映し出されるシーンで、日本の劇場からは大阪のシネ・ヌーヴォ、京橋の国立映画アーカイブ、飯田橋の東京日仏学院エスパス・イマージュの3つが登場していて、東京日仏学院エスパス・イマージュの客席の通路で喋っている女性3人の真ん中が私」と話し、「2023年9月にアルノー・デプレシャン監督が『私の大嫌いな弟へ ブラザー&シスター』(22のプロモーションで来日し、東京日仏学院で特集上映があった。私もトークのお相手を務めたが、その時にカメラを終始回していて、東京日仏学院の坂本安美さんが"今、デプレシャン監督は映画館についてのドキュメンタリーを撮っている"と言っていた。まさか自分が映っているとは」と、思いも寄らぬカメオ出演に笑いを誘った。
デプレシャン監督の大ファンであり、監督にも何度もお会いしてきた月永さんだが、本作について、「本当にデプレシャン監督らしい。デプレシャン監督が映画についての作品を撮ったらこうなるよねという納得できるもの」と感想を述べた。続けて森さんは、「こういう映画人生の自伝的映画でオートフィクションは、映画監督自身の気持ちがとても反映されている」と話した。本作の構成について、森さんは、「本作はトリュフォーの『大人は判ってくれない』(59)で終わるが、今回、デプレシャン監督がロールモデルにしたのはトリュフォーのアントワール・ドワネル・シリーズになる」と指摘し、「アントワール・ドワネルはトリュフォーの分身的存在でジャン=ピエール・レオが計5作に渡って演じているが、この映画ではそれを繋げたような構成で、4人の俳優が年代別にバトンリレーのように演じている」と解説。
4人目のポールが黒人の青年になることについて、月永さんは、「最初はちょっと驚いた。ただ、ポール・デダリュスは、実は『そして僕は恋をする』(96)から『あの頃エッフェル塔の下で』(15)まで監督の映画にこれまでしばしば出てきた名前であって、監督の分身のように監督自身の家族関係や恋愛関係をすごく色濃く受け継いだキャラクター。そのことを考えると、1人の俳優である必要はなく、ある意味どんどん開放されていく存在で、自由に解釈されていいと捉えた。そのことが、人種を問わないキャスティングに繋がったのではないか」と持論を展開した。
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森さんも、「そこがその自伝的作品でオートフィクションであるという面白さ。映画を観る我々観客とのコミュニケーションになっていて、ポールは私でもあるがあなたでもあるというような解放の仕方。だから、白人男性にこだわる必要はないし、もしかしたら5人目のポールは女性なのかもしれないというイメージも湧く」と共感した。
さらに、月永さんは、「監督の個人史をポールという人物に託し、自分がどういう風に映画と出会って、どう映画を観てきたかという話であると同時に、それが世界の映画史そのものと接続していく。個人と歴史が流れるように繋がっては戻って来る。ちょっと分かりづらいところもあるかもしれないが、この感覚はとても面白い。そもそも映画を観ている時はそういう気分。気づいたら映画の世界の中に入っていたり、ふと自分に立ち返って、友人や恋人、家族のことを語っていたり。映画の中と外は地続きで繋がっていることが、この映画の面白さ」と、個人史と映画史が交差する本作のポイントにも触れた。
また、森さんは、 一人称と映画史の両軸で書くという映画批評と似ている点が引用作品にも表れていると指摘し、「『ストーリー・オブ・フィルム 111の映画旅行』(21)の引用のされ方に近く、ロジカルな意味合いで繋げられている。『ロイドの要心無用』(23)の時計台にぶら下がるシーンから『マイノリティ・リポート』(02)に繋がる点など」と例をあげた。
月永さんも、「『或る夜の出来事』(34)の“シーツ”で2人の間に壁を作るシーンを引用し、その“シーツ”は映画のスクリーンだと批評的に語りながらも、『ノッティングヒルの恋人』(99)のジュリア・ロバーツとヒュー・グラントが“シーツ”にくるまっているシーンに繋がる。どこか騙されているような気分になるが、これが映画を語る楽しさはこういうこと」と、斬新な作品セレクトに触れた。
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『ノッティングヒルの恋人』の話題にちなみ、月永さんは、「デプレシャン監督は熱弁するほど『プリティ・ウーマン』(90)が大好きなのに、本作では『ノッティングヒルの恋人』が代わりに出てくる」と笑いを誘った。その理由として、森さんは「白いシーツという意味付けで『ノッティングヒルの恋人』が繋ぎとして適していたからか、単純に権利問題で許可が降りなかったのかも」と推測した。
さらに、月永さんは、「デプレシャン監督はベルイマンやゴダールからコッポラらハリウッド映画まで、ジャンルにとらわれず幅広く好きで、そういう自由なところが映画にも反映されている。ただ、サム・ライミ監督の『スパイダーマン』(02)はあまり好きじゃなく、『デアデビル』の方が良いらしい」とデプレシャン監督のエピソードを披露し、会場は爆笑に包まれた。
引用作品からは、デプレシャン監督が映画史をどのように捉えているかも試されると森さんは話し、「最初に出てくる映画が映画史上初の女性監督アリス・ギイの『ベイジング・イン・ア・ストリーム』(1897)なところが良い」と好感を示した。
また、月永さんも、本作で需要な位置づけで登場するクロード・ランズマン監督の『SHOAH ショア』(85)について、「デプレシャン監督の作品を観ていると、本人はユダヤ人ではないが、ユダヤの文化に対する謎めいた関心を寄せていることが分かる。どこから来ているのかはわからないが、ランズマン監督への深い尊敬の念があり、『SHOAH ショア』にも強い想いがあることを再確認した」と話す。続けて、「記録映像や写真がないとされるホロコーストを再現やドラマではなく、自分が見て聞いたことを証言して見えてくることを映したのが『SHOAH ショア』。それぞれの個人の記憶を語っていくことで大きな歴史が見えてくる、むしろ歴史というのは個人の言葉や記憶からしか生まれていかないという姿勢が、もしかするとデプレシャン監督にも繋がっているのかなと思う」と、歴史に対する見方に言及。
同じく重要な位置づけで登場するネイティブ・アメリカンの俳優ミスティ・アッパム出演『フローズン・リバー』(08)についても、「デプレシャン監督の『ジミーとジョルジュ 心の欠片を探して』(13)にアッパムが出演していて、デプレシャン監督の彼女への個人的な想いもあったと思うが、 『フローズン・リバー』が監督にもたらしたものが出ているように思った」と月永さんは話した。
それに対し、森さんも、「デプレシャン監督の作品と政治的なものは一見結びつかないところがあるが、ただ本作を観ると、バックグラウンドには彼の政治意識みたいなものが強く流れてるんだなと改めて思うところがあった。特にマイノリティだったり、そのような視点が時代と共に浮上してきたものなのかもしれない」と気づきを述べた。
最後に、月永さんは、「22歳になったポールと2人の女性の三角関係は、『そして僕は恋をする』に登場する人間関係と全く同じ。そういうディテールも楽しむことができる」とデプレシャン監督らしい小ネタも披露した。
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