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『映画を愛する君へ』樋口尚文さん登壇トークイベントレポート
19世紀末に誕生してから現在に至るまでの映画の魅力と魔法を語り尽くす、映画への深い愛と映画館への賛美に満ち溢れたシネマ・エッセイ『映画を愛する君へ』(原題:Spectateurs!/英題:Filmlovers!)が現在、新宿シネマカリテほかにて全国順次公開中。
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第77回カンヌ国際映画祭で特別上映され、最優秀ドキュメンタリー賞にあたるゴールデン・アイ賞にノミネートされた本作。
ドラマとドキュメンタリーを融合したハイブリッドな構成で綴られ、デプレシャンの自伝的ドラマと共に、フィクションのシーンには、一般の観客が映画体験エピソードを語るインタビューシーンが挟まれ、映画史に功績を残した50本以上の名作が登場し、“映画とは何か”に迫る。
シネ・ヌーヴォ(大阪)やアンスティチュ・フランセ(東京)など、日本の映画館の登場も見逃せない。デプレシャン監督が贈る映画と映画館へのラブレターがここに完成。
2月2日(日)、アップリンク吉祥寺にて上映後に樋口尚文さん(映画評論家/映画監督)をお招きしてトークイベントを実施。その模様をお届けする。
かつて存在した映画館である銀座シネパトスを舞台にした『インターミッション』(13)を監督した樋口さん。2013年3月末に映画ファンに惜しまれつつ閉館したシネパトスの不思議な魔力と魅力を「物凄く映画への没入感があった」と振り返った。そんな"映画館と映画についての映画"を作った経験を踏まえて、樋口さんはまず本作について「引用作品が膨大な数ですよね。アメリカにはフェアユースという過去作のフッテージを引用しやすい制度がりますが、本作はフランスなのでそうではないと聞いてびっくりました」とコメント。なお、アルノー・デプレシャン監督は、50本以上もの登場作品のために骨を折った経緯が語られるインタビュー記事はこちらでご覧いただける。
また、引用作品のラインナップのユニークさについても「スコセッシは『エイジ・オブ・イノセンス/汚れなき情事』(93)、ゴダールは『小さな兵隊』(63)、黒澤明は『乱』(85)で そこを選ぶんだ!?」と驚いたことを語った。「シネフィル向けのテキストのようなものが並ぶわけでは決してなく、デプレシャン監督の好みだけではなく、全ての観客に向けたセレクトの引用作品になっている。全き映画史を語るのかと思いきや、『クリフハンガー』(93)が出てくるという、ラインナップのある種の猥雑さに、デプレシャンの"本物"っぷりを感じた」とし、「人間はみんなそれぞれ違く偏っているし、幅広いジャンルの作品を観る機会をたくさん作れる」と本作のポイントに触れた。
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また、心憎いセレクトとして、キン・フー監督の『侠女』(71)、『カルメンという名の女』(83)を挙げ、後者で使われている「Ruby's Arms」が『映画を愛する君へ』ではエンディング曲として登場することにも言及。
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最後には、幼少期の映画体験を振り返りながら、「劇場が大島渚監督の『忍者武芸帳』(67)と『猿の惑星』(68)をSF超大作とアニメ大娯楽作だと勘違いして二本立てで上映したように、何かの間違いみたいな"たまたま"が映画館では起こる。『怪獣総進撃』(68)を夕方までお子様の時間として上映していて、入れ替えせずに『心中天網島』(69)が始まってしまったり。本屋でもそういった出会いがある。そのような"事故みたいな出会い"で映画を探って、いろんな作品と出会っていただきたい」と語った。
なお、樋口さんは現在、神保町にてシェア型書店「猫の本棚」を運営中。多様なテーマの棚主がセレクトした本の中には映画に関する書籍も多く、ここでもある種の"事故"のような出会いが潜んでいるかもしれない。
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