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ペケとジマの線形代数 #5


登場人物

ペケ
理系,学部1年.
メガネ

ジマ
文系,ペケの先輩.
メガネ

ペケ:前回は疲れました.

ジマ:ククククク…www ほとんどの初学者向けの教科書では証明誤魔化されてるもんなw

ペケ:前みたく2次元で示して他もこんな風に示せるよって言うことにはできなかったんですかね?

ジマ:まぁ,どう足掻いてもあの式の形になるから,今後$${n}$$次元の説明のときラクするために$${n}$$にしておいたんだわ.

ペケ:ふーん.今日こそは対角化のやり方を教えてくれるんですよね?

ジマ:n~~~.もう一つ説明することあんだけど良い?

ペケ:ハイ.

ジマ:こいつらを掛け算してみてくんね?

$$
A=\begin{pmatrix}
a & b \\
c & d
\end{pmatrix},
T=\frac{1}{|A|}\begin{pmatrix}
d & -b \\
-c & a
\end{pmatrix}
$$

ペケ:$${A}$$に$${T}$$を右から掛けると

$$
\begin{aligned}
AT
&=\begin{pmatrix}
a & b \\
c & d
\end{pmatrix}
\frac{1}{|A|}\begin{pmatrix}
d & -b \\
-c & a
\end{pmatrix}\\
&=\frac{1}{ad-bc}
\begin{pmatrix}
ad-bc & 0 \\
0 & ad-bc
\end{pmatrix}\\
&=\begin{pmatrix}
1 & 0 \\
0 & 1
\end{pmatrix}\\
&=I
\end{aligned}
$$

$${A}$$に$${T}$$を左から掛けると

$$
\begin{aligned}
TA
&=
\frac{1}{|A|}\begin{pmatrix}
d & -b \\
-c & a
\end{pmatrix}
\begin{pmatrix}
a & b \\
c & d
\end{pmatrix}\\
&=\frac{1}{ad-bc}
\begin{pmatrix}
ad-bc & 0 \\
0 & ad-bc
\end{pmatrix}\\
&=\begin{pmatrix}
1 & 0 \\
0 & 1
\end{pmatrix}\\
&=I
\end{aligned}
$$

どっちから掛けても単位行列になりました.スカラーで言うとなんか$${aa^{-1}=a^{-1}a=1}$$みたいですね.

ジマ:Soー.この逆数みたいな$${T}$$を$${A}$$の逆行列って言うんだよねー.ペケくんが言った概念を踏襲して$${A^{-1}}$$っていう風に書くんよ.

ペケ:これどうやって見つけたんですか?というか,そもそも$${T}$$以外にも$${A}$$に掛けて単位行列になるような行列ってあるんですかね?

ジマ:見つけ方はあとで教えるから,自分で証明してみれば?

ペケ:分かりました.$${S,T}$$を$${SA=AT=I}$$なる行列として,

$$
S=SI=SAT=IT=T
$$

あれ,$${S=T}$$になったということは,逆行列は可換$${(TA=AT=I)}$$で,しかも一つしかないってことですか?

ジマ:なんで一つしかないって言える?

ペケ:逆行列は可換なのが分かったので,$${PA=AP=I,QA=AQ=I}$$という2本の式が成立するような$${P,Q(P\neq Q)}$$を仮定してさっきと同様に計算すると$${P=Q}$$となって,仮定に反するからです.

ジマ:Soー.逆行列の一意性って言って,逆行列はあるとしたら・・・・・・せいぜい1個しかないんだよォ.
逆行列が存在する行列のことを正則な行列と言うよー.

ペケあるとしたら・・・・・・

ジマ:じゃ,$${A=\binom{1 \ \ 1}{2 \ \ 2}}$$の行列式を計算してくれ.

ペケ:$${|A| =1\cdot2-1\cdot2=0}$$…あ,これだと逆行列の係数が$${1/0}$$になってしまいますね.$${|A| =0}$$となる$${A}$$は$${00^{-1}=0^{-1}0=1}$$となる$${0^{-1}}$$がないのと一緒で,$${A^{-1}}$$が存在しないんですね.
てか,話が逸れましたが,この逆行列はどうやって見つけたんですか?

ジマ:今から教えるから見とけ.

$$
\begin{aligned}
&\left( \begin{array}{cc|cc}
a & b & 1 & 0 \\
c & d & 0 & 1
\end{array} \right)\\
&\rightarrow
\left( \begin{array}{cc|cc}
ad & bd & d & 0 \\
bc & bd & 0 & b
\end{array} \right) \ \ (1行目\times d,2行目\times b)\\
&\rightarrow
\left( \begin{array}{cc|cc}
ad-bc & 0 & d & -b \\
bc & bd & 0 & b
\end{array} \right) \ \ (1行目-2行目)\\
&\rightarrow
\left( \begin{array}{cc|cc}
ad-bc & 0 & d & -b \\
bc(ad-bc) & bd(ad-bc) & 0 & b(ad-bc)
\end{array} \right) \ \ (2行目\times (ad-bc))\\
&\rightarrow
\left( \begin{array}{cc|cc}
ad-bc & 0 & d & -b \\
0 & bd(ad-bc) & -bcd & abd
\end{array} \right) \ \ (2行目-1行目\times bc)\\
&\rightarrow
\left( \begin{array}{cc|cc}
1 & 0 & d/|A| & -b/|A| \\
0 & 1 & -c/|A| & a/|A|
\end{array} \right) \ \ (1行目/|A|,2行目/(|A|bd))\\
\end{aligned}
$$

縦棒の右側が逆行列だ.ガウス・ジョルダンの消去法っていうよ.

ペケ:なんでこれで求まるんすかね.

ジマ:次の連立方程式を解いてるのと同じことだよォ.係数のみにしてるだけで.

$$
\begin{aligned}
&\left\{ \, \begin{align*}
&ax+by = 1 \\
&cx+dy = 0 \\
\end{align*} \right.,
\left\{ \, \begin{align*}
&az+bw = 0 \\
&cz+dw = 1 \\
\end{align*} \right.\\

&\rightarrow
\left\{ \, \begin{align*}
&adx+bdy = d \\
&bcx+bdy = 0 \\
\end{align*} \right.,
\left\{ \, \begin{align*}
&adz+bdw = 0 \\
&bcz+bdw = b \\
\end{align*} \right. \ \ (1行目\times d,2行目\times b)\\

&\rightarrow
\left\{ \, \begin{align*}
&(ad-bc)x+0y = d \\
&bcx+bdy = 0 \\
\end{align*} \right.,
\left\{ \, \begin{align*}
&(ad-bc)z+0w = -b \\
&bcz+bdw = b \\
\end{align*} \right. \ \ (1行目-2行目)\\

&\rightarrow
\left\{ \, \begin{align*}
&(ad-bc)x+0y = d \\
&bc(ad-bc)x+bd(ad-bc)y = 0 \\
\end{align*} \right.,
\left\{ \, \begin{align*}
&(ad-bc)z+0w = -b \\
&bc(ad-bc)z+bd(ad-bc)w = b(ad-bc) \\
\end{align*} \right. \ \ (2行目\times (ad-bc))\\

&\rightarrow
\left\{ \, \begin{align*}
&(ad-bc)x+0y = d \\
&0x+bd(ad-bc)y = -bcd \\
\end{align*} \right.,
\left\{ \, \begin{align*}
&(ad-bc)z+0w = -b \\
&0z+bd(ad-bc)w = abd \\
\end{align*} \right. \ \ (2行目-1行目\times bc)\\

&\rightarrow
\left\{ \, \begin{align*}
&1x+0y = d/|A| \\
&0x+1y = -c/|A| \\
\end{align*} \right.,
\left\{ \, \begin{align*}
&1z+0w = -b/|A| \\
&0z+1w = a/|A| \\
\end{align*} \right. \ \ (1行目/|A|,2行目/(|A|bd))\\
\end{aligned}
$$

と同じことだねー.

ペケ:あー.$${A^{-1}=\binom{x \ \ z}{y \ \ w}}$$として

$$
(AA^{-1}=)
\begin{pmatrix}
ax+by&az+bw \\
cx+dy&cz+dw
\end{pmatrix}

=\begin{pmatrix}
1&0 \\
0&1
\end{pmatrix}
(=I)
$$

を解いてるんですね.係数のみにするメリットあります?

ジマ:おめぇチンパンジーか? 組立除法するとき,お前はわざわざ文字も書くのか?

ペケ:確かに.計算に必要ない要素だから,慣れれば書かない方がラクですね.3次以上もこうやって求めるんですか?

ジマ:n~~.成分が具体的な数字の行列ならこれでラクに求められる場合があるんだけど,公式作るってなったら流石にもっといい方法あるよね.例えば,$${|A|=|\boldsymbol a_1 \ \ \boldsymbol a_2 \ \ \boldsymbol a_3|}$$のとき,

$$
|\boldsymbol a_i \ \ \boldsymbol a_2 \ \ \boldsymbol a_3|,|\boldsymbol a_1 \ \ \boldsymbol a_j \ \ \boldsymbol a_3|,|\boldsymbol a_1 \ \ \boldsymbol a_2 \ \ \boldsymbol a_k|
$$

これ計算できる?

ペケ:$${(i,j,k)=(1,2,3)}$$で$${|A|}$$,それ以外は前回示したように同じ列が二つあるからゼロになりますね.

ジマ:じゃ次は$${|\boldsymbol a_i \ \ \boldsymbol a_2 \ \ \boldsymbol a_3|}$$を1列目で余因子展開してみろ.

ペケ

$$
|\boldsymbol a_i \ \ \boldsymbol a_2 \ \ \boldsymbol a_3|
=a_{1i}(-1)^{1+1}
\begin{vmatrix}
a_{22} & a_{23} \\
a_{32} & a_{33}
\end{vmatrix}
+a_{2i}(-1)^{1+2}
\begin{vmatrix}
a_{12} & a_{13} \\
a_{32} & a_{33}
\end{vmatrix}
+a_{3i}(-1)^{1+3}
\begin{vmatrix}
a_{12} & a_{13} \\
a_{22} & a_{23}
\end{vmatrix}
$$

ですかね.

ジマ:So~.これ$${\boldsymbol a_i}$$と「符号×2次の行列式部分」との内積にみえるくねー?

ペケ:なるほど,ある行列の1行目を

$$
\left(
(-1)^{1+1}
\begin{vmatrix}
a_{22} & a_{23} \\
a_{32} & a_{33}
\end{vmatrix}
\ \
(-1)^{1+2}
\begin{vmatrix}
a_{12} & a_{13} \\
a_{32} & a_{33}
\end{vmatrix}
\ \
(-1)^{1+3}
\begin{vmatrix}
a_{12} & a_{13} \\
a_{22} & a_{23}
\end{vmatrix}
\right)
$$

としたら,$${A=(\boldsymbol a_1 \ \ \boldsymbol a_2 \ \ \boldsymbol a_3)}$$と左から積をとったとき,1行目が$${(|A| \ \ 0 \ \ 0)}$$になるんすね.

ジマ:So~.2,3列も同様に定義して$${A}$$と積をとったら,$${(0 \ \ |A| \ \ 0),(0 \ \ 0 \ \ |A| ) }$$になるから,これらを縦に並べて$${|A|}$$で割れば逆行列になるしね.
割る前の行列の成分を余因子$${\~{a}_{ij}}$$,割る前の行列を余因子行列$${\~{A},\mathrm{adj}(A),(\~{a}_{ij})}$$と言うよー.記法がいっぱいあるのは行列式のときと同じ理由だろうね.

$$
\~{A}=
\begin{pmatrix}
\begin{vmatrix}
a_{22} & a_{23} \\
a_{32} & a_{33}
\end{vmatrix}
&-\begin{vmatrix}
a_{12} & a_{13} \\
a_{32} & a_{33}
\end{vmatrix}
&\begin{vmatrix}
a_{12} & a_{13} \\
a_{22} & a_{23}
\end{vmatrix}\\

-\begin{vmatrix}
a_{21} & a_{23} \\
a_{31} & a_{33}
\end{vmatrix}
&\begin{vmatrix}
a_{11} & a_{31} \\
a_{13} & a_{33}
\end{vmatrix}
&-\begin{vmatrix}
a_{11} & a_{13} \\
a_{21} & a_{23}
\end{vmatrix}\\

\begin{vmatrix}
a_{21} & a_{22} \\
a_{31} & a_{32}
\end{vmatrix}
&-\begin{vmatrix}
a_{11} & a_{12} \\
a_{31} & a_{32}
\end{vmatrix}
&\begin{vmatrix}
a_{11} & a_{12} \\
a_{21} & a_{22}
\end{vmatrix}\\
\end{pmatrix}
$$

見通しよくするために一応載せたけど,教科書などにある余因子の作り方を覚えた方が良いよォー.$${n}$$次元のも作れるようになるから.

ペケ:作り方ってあのボンバーマンみたいなやつですか?

ジマ:So-.

ペケ:分かりました.でも,余因子展開を内積に見立てるなんて,最初に思いついた人頭いいっすね.
$${\~{A}}$$←これ,$${A^{-1}(=\~{A}/|A|)}$$を$${A}$$に左から掛けたら$${I}$$になるように都合よく定義したのは分かったんですけど,右からだと計算面倒そうですが,ちゃんと$${I}$$になることを確かめられるんすか?

ジマ:さっき逆行列($${TA=AT=I}$$を満たす$${T}$$)はあるなら1個しかないって話したばっかりでしょ?おじいちゃん.

ペケ:すみません.忘れてました.計算せずとも分かるんですね.


#5のまとめ

  1. 逆行列の求め方は2つあるから適宜楽そうな方で求める.

  2. ジマが言っているように,2次の逆行列くらいなら覚えてもいい.

  3. 逆行列が存在する行列,すなわち,$${|A|\neq0}$$なる行列$${A}$$を正則であるという.

  4. 逆行列は存在するとしても高々1つしかない.(逆行列の一意性)

#ペケとジマの線形代数 #ペケとジマ#数学#線形代数#大学数学

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