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ペケとジマの複素解析 #6 リーマン面と乗根の複素積分


 

登場人物

ペケ
理系,学部2年.
温厚

ペケ

ジマ
文系,ペケの先輩.
獰猛

ジマ
 


 図1.w=√zのリーマン面とジマペケ

ジマ:どうやらオレら$${w=\sqrt z}$$のリーマン面上にいる様ですけれども.

ペケ:僕たち複素数平面上の点になっちゃったってことですか?

ジマ:そうね.せっかくだからペケくんに試してもらいたいことがあるんだけど,原点を中心にしっぽりと一周回ってからまたオレに会いに来てくんね?



図2.原点周りに1周したペケ

ペケ:分かりました.あれ,ジマさんがいない.足元に実軸が見えるし,目盛も変化してない…
ジマさーん.かくれんぼは複素数平面ここじゃなくてもできるでしょー.からかうのも程々にしてください.

ジマ:ククククク…w オレさっきから一歩も動いてないよォーw
もう一回原点中心にしっぽりと回っておくれ.

図3.原点周りに2周したペケ

ペケ:あれ,ジマさんがいた.どういうことですか?床も歪んでるわけじゃないし…

ジマ:だからオレ一歩も動いてないって!これが$${w=\sqrt z}$$のリーマン面の性質だよ.

ペケ:変な世界もあるんですね.こんなんでも平面って言い張れるんですか?

ジマ:それならお前さぁ,球面は平面じゃないの?

ペケ:なるほど.なんだか,時計で言うと10:10(昼)から針が一周すると同じ針の角度でも22:10(夜)と別モンになり,また一周すると10:10(昼)に戻るといった感じですねぇ.

ジマ:そういう考え方もできるな.
まぁ,こんなとこにいるのもなんだから,一旦現実世界に戻ろうか.


 

スッパ!!!

ペケ:...戻れた.ジマさんは奇術師かなんかですか?

 

ジマ:さて,これを踏まえて次の積分をやってもらおうか.

$$
\int_{|z|=R}\sqrt z \ \mathrm dz
$$

例によって1周時計回り,一周する偏角を$${\arg z=0}$$から$${2\pi}$$とするよォー.

 

ペケ:$${z=Re^{i\theta}}$$と置換して,

$$
\begin{aligned}
\int_{|z|=R}\sqrt z \ \mathrm dz
&=\int_0^{2\pi}\sqrt{Re^{i\theta}}iRe^{i\theta}\mathrm d\theta\\
&=iR^{3/2}\int_0^{2\pi}e^{3i\theta/2}\mathrm d\theta\\
&=iR^{3/2}\left[\frac{2}{3i}e^{3i\theta/2}\right]_0^{2\pi}\\
&=\frac{2R^{3/2}}{3}(e^{3\pi i}-1)\\
&=-\frac{4R^{3/2}}{3}\\
\end{aligned}\\
$$

できました.ゼロになりませんでした.

 

ジマ:おうよ,じゃ次は2周$${\arg z=0}$$から$${4\pi}$$でやってみろ.

 

ペケ:はい.

$$
\begin{aligned}
\int_{|z|=R}\sqrt z \ \mathrm dz
&=\int_0^{4\pi}\sqrt{Re^{i\theta}}iRe^{i\theta}\mathrm d\theta\\
&=iR^{3/2}\int_0^{4\pi}e^{3i\theta/2}\mathrm d\theta\\
&=iR^{3/2}\left[\frac{2}{3i}e^{3i\theta/2}\right]_0^{4\pi}\\
&=\frac{2R^{3/2}}{3}(e^{6\pi i}-1)\\
&=0
\end{aligned}\\
$$

お,ゼロになった.今までのように1周ではなく,2周してやっと頭とケツが一致したんですね.

 

ジマ:さっきペケくんが2周しないとスタートに戻ってこれなかった理由分かった?

 

ペケ:なんとなく分かりました.

 

ジマ:良かったわ.じゃ次の積分やって今日は締めにすっか.

$$
\int_0^\infty\frac{x^{-1/3}}{x+1}\mathrm dx
$$

 

ペケ:これは名前あるんすか?

 

ジマ:無いけど,ベータ関数$${\mathrm B(1/3,2/3)}$$の変数変換したヤツとも解釈できるな.

 

ペケ:へー.で,初手どう手を付ければいいかわからんです.相変わらず天下りな予感しますが…

 

ジマ御名答.そしたら,次の積分を計算してくれ.

$$
\oint_{視力検査}\frac{z^{-1/3}}{z+1}\mathrm dz
$$

積分経路は次だよォー.$${(0 < r < 1 < R)}$$


図4.積分路 : 視力検査 (0 < r < 1 < R)

視力検査の途切れた輪っかみたくねー?

 

ペケ:ランドルト環ってやつスカ.また変なネーミングを.$${C_1,C_3}$$はなんで実軸から浮いてるんですかね?

 

ジマ:良いこと訊くじゃん.実は浮いてないんだよ.重なってたら見にくいからこう書いてるだけだよォーw
浮いてんのはペケくんだけ定期.

 

ペケ:ひどいよー.教科書にも説明なしに書いてるからめっちゃ混乱してました.というかそれだと「視力検査」というネーミングは誤解を与えかねませんかね?

 

ジマ:そう見えるから良くねー?理由も説明したことだし.

 

ペケ:まあね.被積分関数は「視力検査」の中の$${z=-1}$$に1位の極があるから,

$$
\begin{aligned}
\oint_{視力検査}\frac{z^{-1/3}}{z+1}\mathrm dz
&=2\pi i \ {\underset{z=-1}{\mathrm{Res}}}\frac{z^{-1/3}}{z+1}\\
&=2\pi i\lim_{z\rightarrow-1}z^{-1/3}\\
&=2\pi i(e^{i\pi})^{-1/3}\\
&=2\pi i e^{-i\pi/3}\\
\end{aligned}\\
$$

 

ジマ:$${-1=e^{3\pi i}}$$じゃダメなん

 

ペケ今回$${\arg z=0}$$から$${2\pi}$$で考えてるので.

 

ジマ:先に言えや!まぁ,ここらへんは教科書でも大体暗黙の了解な部分だよな.次$${C_2}$$.

 

ペケ:被積分関数が$${-4/3}$$次式(?)だから,変数変換後に出てくる$${R}$$を考慮しても$${R}$$の$${-1/3}$$次式(?)になるから,無限大に飛ばしてもゼロになりそうだな.そうなる方向で示してみよう.
積分に絶対値をとって,

$$
\begin{aligned}
&\left|\int_{C_2}\frac{z^{-1/3}}{z+1}\mathrm dz\right|\\
&\leq\int_{C_2}\left|\frac{z^{-1/3}}{z+1}\mathrm dz\right|\\
&=\int_0^{2\pi}\left|\frac{(Re^{i\theta})^{-1/3}}{Re^{i\theta}+1}iRe^{i\theta}\mathrm d\theta\right|\\
&=\int_0^{2\pi}\frac{|R^{-1/3}e^{-i\theta/3}|}{|Re^{i\theta}+1|}R\mathrm d\theta\\
&=\int_0^{2\pi}\frac{R^{2/3}}{|Re^{i\theta}+1|}\mathrm d\theta\\
\end{aligned}
$$

…あれ,これ分母どうすればいいんですか?三角不等式は上から抑える方法しか思いつきません.

 

ジマ:方針は素晴らしいよォー.三角不等式より,

$$
\begin{aligned}
R
&=|Re^{i\theta}|\\
&=|(Re^{i\theta}+1)-1|\\
&\leq|Re^{i\theta}+1|+|-1|\\
&=|Re^{i\theta}+1|+1 \\
\\
\therefore \ &0< R-1 \leq |Re^{i\theta}+1|
\end{aligned}
$$

だよー.これめっちゃ使うから覚えとけよ.

 

ペケ:へー.三角不等式って下から抑えるのもあるんすね.てことは,

$$
\begin{aligned}
&\left|\int_{C_2}\frac{z^{-1/3}}{z+1}\mathrm dz\right|\\
&\leq\int_0^{2\pi}\frac{R^{2/3}}{|Re^{i\theta}+1|}\mathrm d\theta\\
&\leq\int_0^{2\pi}\frac{R^{2/3}}{R-1}\mathrm d\theta\\
&=\frac{2\pi R^{2/3}}{R-1}\\
&=\frac{2\pi }{R^{1/3}-1/R^{2/3}}
\end{aligned}
$$

で,$${\lim_{R\rightarrow\infty}2\pi/(R^{1/3}-1/R^{2/3})=0}$$だから,

$$
\therefore\lim_{R\rightarrow\infty}\int_{C_1}\frac{z^{-1/3}}{z+1}\mathrm dz=0
$$

ですね?

 

ジマ:So-.次ー.

 

ペケ:冷たいなァ…同様に$${r\rightarrow+0}$$のときゼロになりそうだから,

$$
\begin{aligned}
&\left|\int_{C_3}\frac{z^{-1/3}}{z+1}\mathrm dz\right|\\
&\leq\int_{C_2}\left|\frac{z^{-1/3}}{z+1}\mathrm dz\right|\\
&=\int_{2\pi}^0\left|\frac{(re^{i\theta})^{-1/3}}{re^{i\theta}+1}ire^{i\theta}\mathrm d\theta\right|\\
&=\int_0^{2\pi}\left|\frac{(re^{i\theta})^{-1/3}}{re^{i\theta}+1}ire^{i\theta}(-\mathrm d\theta)\right|\\
&=\int_0^{2\pi}\frac{|r^{-1/3}e^{-i\theta/3}|}{|re^{i\theta}+1|}r\mathrm d\theta\\
&=\int_0^{2\pi}\frac{r^{2/3}}{|re^{i\theta}+1|}\mathrm d\theta\\
\end{aligned}
$$

で,三角不等式より,

$$
\begin{aligned}
1
&=|(re^{i\theta}+1)-re^{i\theta}|\\
&\leq|re^{i\theta}+1|+|-re^{i\theta}|\\
&=|re^{i\theta}+1|+r \\
\\
\therefore \ &0<1-r \leq |re^{i\theta}+1|
\end{aligned}
$$

だから,

$$
\begin{aligned}
&\left|\int_{C_3}\frac{z^{-1/3}}{z+1}\mathrm dz\right|\\
&\leq\int_0^{2\pi}\frac{r^{2/3}}{|re^{i\theta}+1|}\mathrm d\theta\\
&\leq\int_0^{2\pi}\frac{r^{2/3}}{1-r}\mathrm d\theta\\
&=\frac{2\pi r^{2/3}}{1-r}
\end{aligned}
$$

で,$${\lim_{r\rightarrow+0}2\pi r^{2/3}/(1-r)=0}$$だから,

$$
\therefore\lim_{r\rightarrow+0}\int_{C_4}\frac{z^{-1/3}}{z+1}\mathrm dz=0
$$

 

ジマ:最後はいつも通りお決まりの$${C_1+C_3}$$だねー.

 

ペケ:$${C_3}$$の$${r,R}$$は$${C_1}$$より偏角が$${2\pi}$$進んでることに注意すると,$${re^{2\pi i},Re^{2\pi i}}$$と書けるから,

$$
\begin{aligned}
&\int_{C_1}\frac{z^{-1/3}}{z+1}\mathrm dz+\int_{C_3}\frac{z^{-1/3}}{z+1}\mathrm dz\\
&=\int_r^R\frac{z^{-1/3}}{z+1}\mathrm dz+\int_{Re^{2\pi i}}^{re^{2\pi i}}\frac{z^{-1/3}}{z+1}\mathrm dz\\
&=\int_r^R\frac{z^{-1/3}}{z+1}\mathrm dz+\int_R^r\frac{(ue^{2\pi i})^{-1/3}}{ue^{2\pi i}+1}e^{2\pi i}\mathrm du\\
&(z=ue^{2\pi i}と置換)\\
&=\int_r^R\frac{z^{-1/3}}{z+1}\mathrm dz-\int_r^R\frac{u^{-1/3}e^{-2\pi i/3}}{u+1}\mathrm du\\
&=\int_r^R\frac{z^{-1/3}}{z+1}\mathrm dz-e^{-2\pi i/3}\int_r^R\frac{z^{-1/3}}{z+1}\mathrm dz\\
&=(1-e^{-2\pi i/3})\int_r^R\frac{z^{-1/3}}{z+1}\mathrm dz\\
\end{aligned}
$$

通常だと,$${C_1+C_3}$$の積分は打ち消しあってゼロになりそうですが,$${1/3}$$乗があるからそうはいかないのね.
さっきのリーマン面の話がここで活きてくるんですね.

以上により,

$$
\begin{aligned}
2\pi i e^{-i\pi/3}
&=(1-e^{-2\pi i/3})\int_r^R\frac{z^{-1/3}}{z+1}\mathrm dz\\
&+\int_{C_1}\frac{z^{-1/3}}{z+1}\mathrm dz+\int_{C_3}\frac{z^{-1/3}}{z+1}\mathrm dz
\end{aligned}
$$

だから,両辺$${r\rightarrow+0,R\rightarrow\infty}$$として,

$$
\begin{aligned}
2\pi i e^{-i\pi/3}
&=(1-e^{-2\pi i/3})\int_0^\infty\frac{z^{-1/3}}{z+1}\mathrm dz
+0+0
\end{aligned}
$$

ゆえに,

$$
\begin{aligned}
\int_0^\infty\frac{z^{-1/3}}{z+1}\mathrm dz
&=\frac{2\pi i e^{-i\pi/3}}{1-e^{-2\pi i/3}}\\
&=\frac{2\pi i}{e^{\pi i/3}-e^{-\pi i/3}}\\
&=\frac{\pi }{(e^{\pi i/3}-e^{-\pi i/3})/(2i)}\\
&=\frac{\pi }{\sin(\pi/3)}\\
&=\frac{2\pi\sqrt3}{3}\\
\end{aligned}
$$

ですね?勝負!

 

ジマ:完走したわね.もう帰っていいよー.

 

ペケ:頑張ったのに…少しは褒めてくださいよ.

 

ジマ:はぁ?
お前は他人から頑張ったと思われたいがために勉強してんの?
他人に良く評価されたいが為に学問をしてんの?
自分が力つける為にやるんだろ?
新しい発見をするのが楽しいからやるんだろ?
烏滸がましいことこの上ないな!!(正論)

ペケ:少なくとも今回はテストで評定もらうための勉強なんで左様ですね.


#6のまとめ

  1. リーマン面

  2. 視力検査(積分経路)

  3. 三角不等式を下から抑える不等式2種

  4. 今回の積分も例に漏れず解法が天下りなため,大雑把に解き方を覚える必要がある.


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