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ペケとジマの複素解析 #3 留数と複素積分①



登場人物

ペケ  
理系,学部2年.
メガネが四角い

ペケ



ジマ
文系,ペケの先輩.
メガネが丸い


ジマ

ペケジマさん.ローラン展開ってのが出てきたんですが,これはテーラー展開やマクローリン展開と違うんですか?
どうやって求めたらいいんですかね.

ジマ:n~~.概ねテーラー展開だと思ってくれて構わないよォー.
試しに$${f(z)=e^z/z^2}$$を$${z=0}$$まわりでローラン展開してみろ.

ペケ:えーと,まず,$${f(0)}$$を求めると…発散しますね.

ジマ:ククククク…ww.バガがよォーww.
展開に一意性あるんだからどう展開しようが結果は一緒じゃねー?

ペケ:というと?

ジマ:$${e^z}$$のマクローリン展開に$${1/z^2}$$掛ければよくねー?

ペケ:$${e^z}$$のマクローリン展開は1年のとき死ぬほどやったから覚えてますよ!

$$
e^z=\sum_{k=0}^\infty \frac{z^k}{k!}=1+z+\frac{z^2}{2}+\frac{z^3}{6}+\cdots
$$

だから,$${1/z^2}$$掛けると,

$$
\frac{e^z}{z^2}=\frac{1}{z^2}+\frac{1}{z}+\frac{1}{2}+\frac{z}{6}+\cdots
$$

ですかね?

ジマ:Soー.次に

$$
\oint_{|z|=R}\frac{1}{z^n}\mathrm dz
$$

を計算してくんね?積分経路は$${|z|=R}$$となるような円上に反時計回りに一周まわる経路とするよー.

ペケ:えーと,

$$
\oint_{|z|=R}\frac{1}{z^n}\mathrm dz=\left[-\frac{1}{(n-1)z^{n-1}}\right]_{|z|=R}
$$

あれ,これ原始関数にどうやって代入すればいいんだ?

ジマ:$${|z|=R}$$なんだから$${z=Re^{i\theta}}$$と置換してみろ.

ペケ:ここでオイラーの公式が出てくるんですね.$${\mathrm dz = iRe^{i\theta} \mathrm d\theta}$$だから,初期位置の偏角を$${\alpha}$$とするとそっから一周後の偏角は$${2\pi+\alpha}$$だから,

$$
\begin{aligned}
\oint_{|z|=R}\frac{1}{z^n}\mathrm dz
&=\int_{\alpha}^{2\pi+\alpha}\frac{1}{(Re^{i\theta})^n} iRe^{i\theta}\mathrm d\theta\\
&=\frac{i}{R^{n-1}} \int_{\alpha}^{2\pi+\alpha}e^{-i\theta(n-1)}\mathrm d\theta\\
&=\frac{i}{R^{n-1}}\left[-\frac{e^{-i\theta(n-1)}}{i(n-1)}\right]_{\alpha}^{2\pi+\alpha}\\
&=-\frac{1}{(n-1)R^{n-1}}\left[e^{-i(2\pi+\alpha)(n-1)}-e^{-i\alpha(n-1)}\right]\\
&=-\frac{1}{(n-1)R^{n-1}}\left[e^{-2\pi i(n-1)-i\alpha(n-1)}-e^{-i\alpha(n-1)}\right]\\
&=-\frac{1}{(n-1)R^{n-1}}\left[e^{-2\pi i(n-1)}e^{-i\alpha(n-1)}-e^{-i\alpha(n-1)}\right]\\
&=-\frac{1}{(n-1)R^{n-1}}\left[1\cdot e^{-i\alpha(n-1)}-e^{-i\alpha(n-1)}\right]\\
&=0
\end{aligned}
$$

丁寧に書いたら長くなってしまったけど,一周回って積分すると$${e^{-2\pi i(n-1)}=1}$$が出てくるから,原始関数の頭とケツが打ち消しあってゼロになるっていう理屈にはすぐ気づけました.

ジマペケくん,中1に戻るかい?$${n=1}$$だと分母ゼロになるでしょう?場合分けしなさい?

ペケ:ほんとだ…自分が情けないです.$${n=1}$$以外は上で示せたから,

$$
\begin{aligned}
\oint_{|z|=R}\frac{1}{z}\mathrm dz
&=\int_{\alpha}^{2\pi+\alpha}\frac{1}{Re^{i\theta}} iRe^{i\theta}\mathrm d\theta\\
&=i \int_{\alpha}^{2\pi+\alpha}\mathrm d\theta\\
&=i\Big[\theta\Big]_{\alpha}^{2\pi+\alpha}\\
&=i\left[(2\pi+\alpha)-\alpha\right]\\
&=2\pi i
\end{aligned}
$$

あ,ゼロじゃない…これがこの間言ってた閉曲線の積分路で囲った中に正則じゃない点がある関数ですかね?

ジマ:So-.今後のために一応言っておくんだけど,実はさっきペケくんが躓いてたやり方でもできて,

$$
\begin{aligned}
\oint_{|z|=R}\frac{1}{z^n}\mathrm dz
&=\left[-\frac{1}{(n-1)z^{n-1}}\right]_{\arg z=\alpha}^{\arg z=2\pi+\alpha}\\
&=-\frac{1}{(n-1)(Re^{2\pi i+i\alpha})^{n-1}}+\frac{1}{(n-1)(Re^{i\alpha})^{n-1}}\\
&=0
\ \ (n\neq1)
\end{aligned}
$$

$$
\begin{aligned}
\oint_{|z|=R}\frac{1}{z}\mathrm dz
&=\Big[\log (z)\Big]_{\arg z=\alpha}^{\arg z=2\pi+\alpha}\\
&=\log(Re^{2\pi i+i\alpha})-\log(Re^{i\alpha})\\
&=\log(Re^{i\alpha})+\log(e^{2\pi i})-\log(Re^{i\alpha})\\
&=2\pi i
\end{aligned}
$$

という具合に.

ペケ:$${\log}$$の中身に負の数や複素数が入ってることを意味していますね.$${\log}$$って複素数に拡張できるんですね.

ジマ:So-.じゃ,最後に冒頭の$${f(z)=e^z/z^2}$$を同じ積分路で積分した値を求めてもらおうか.

ペケ:わかりました.積分の線形性から,

$$
\begin{aligned}
\oint_{|z|=R}\frac{e^z}{z^2}\mathrm dz
&=\oint_{|z|=R}\left(\frac{1}{z^2}+\frac{1}{z}+\frac{1}{2}+\frac{z}{6}+\cdots \right) \mathrm dz\\
&=\oint_{|z|=R}\frac{1}{z^2}\mathrm dz
+\oint_{|z|=R}\frac{1}{z}\mathrm dz
+\oint_{|z|=R}\frac{1}{2}\mathrm dz
+\cdots
\end{aligned}
$$

となって,$${n=1}$$だけ$${2\pi i}$$になって,他ゼロだから,

$$
\begin{aligned}
\oint_{|z|=R}\frac{e^z}{z^2}\mathrm dz
=0+2\pi i+0+\cdots
=2 \pi i
\end{aligned}
$$

ですね?複素数の空間なんて頭では想像できないから,こんな値になるなんてにわかに信じがたいですよね.

ジマ:何となく気づいてると思うけど,こういう複素積分は$${1/z}$$の係数×$${2\pi i}$$で値が決まってくるんだよねー.この係数を留数というよォー.

ペケ:複素解析やり始めてから,我々の想像力の限界を超えてくるような結果に何度もでくわしているような気がします.
正直,ラマヌジャンの数式を見ているようなキモさすら感じます.

ジマ:それな.オイラーですらやっとこさたどり着いた概念を後年発展させたコーシーやリーマン等はほんま乙ですわ.

#3のまとめ

  1. 複素積分は$${1/z}$$の係数(留数)が重要になってくる.

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