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旅立ちの朝
この街の空は、どうしてこんなに歪なのだろう
冷たい小雨が降る土曜日の朝
雑多な建物に切り取られた東京の空を
無数の電線がさらに分断していた
駅に向かう人は誰もが背中を丸め
誰もが地味な色のコートを着ていた
僕もまた、その一人だ
前を歩く二人組の女の子の派手なセーターだけが
狂い咲きの花のように、周囲から浮き上がっていた
女の子たちが空を見上げて騒ぎ始めた
僕もつられて、空を見た
灰色の空に、鳥の黒いシルエット
1羽、2羽、3羽・・・数えきれない
北へ向かう渡り鳥の大群だった
いくつものV字編隊が連なって
東京の空を次々と横切っていく
暗く寒い、旅立ちの朝
行く手に待ち受ける困難
それでも彼らは、真っ直ぐに首を伸ばし
目的地を見つめ、力強く羽ばたいていた
小さなその黒い体から、旅立ちの喜びが溢れていた
やがて最後の一羽が去ると
空にはまた、元の歪な曇天だけが残った
開店前のショーウィンドウに
黒いコートを着た姿勢の悪い男が映っていた
僕は頭を上げ、背を伸ばして歩き始めた