ゴルコンダ
朝、テレビをつけると、気象予報士の女性が「今日の東京地方にはゴルコンダ注意報が発令されています」と言った。僕は「東京地方って何だよ」と呟いた。江戸川区と奥多摩町の天気が同じ訳がない。もっと正確な表現をすべきではないか。
それにしてもゴルコンダは久しぶりだった。アナウンサーは「不要不急の外出を控えましょう」と呼びかけていたが、むしろ積極的に出かけた方がいい。
ゴルコンダは、世界中のおじさんの哀しみが大気中で凝結し、地上に降り注ぐ現象である。ゴルコンダが起きると決まって大規模な電波障害が発生し、インターネットが使えなくなる。そして、老若男女誰もが哀しい気持ちになるのだ。おじさんは普段、哀しみを表さない。感謝されなくても休まず働き、スカイラインを諦めてセレナに乗り、母親が死んでも人前では泣かず、戦場から逃げる事は許されない。しかし、その哀しみは目に見えない霧となって大気中に滞留し、ある日、臨界点を迎えるのだ。
喜怒哀楽のうち「哀」が最も複雑で高度な感情だと言う。降りしきるゴルコンダに濡れながら、誰もが自分の哀しみに向き合うといい。ゴルコンダが晴れて見上げる空は、以前とは違って見えることだろう。