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初めての世界 居酒屋という空間

3人の成人した友達に連れられ、僕は居酒屋という世界を初めて訪れた。僕は19歳の旅人である。大人の階段が近づいている中、暗鬱とした気分を殺して、4人で乾杯した。僕は大人になるのが嫌で仕方がなかった。大人になると毎日が忙しくなり人生がつまらなくなる。大人ってそういうものだと考えていたからだ。だからこそ、大人を象徴する「居酒屋」という空間にいることが耐えられなかった。
仕方がない。我慢して3人に付き合うことにした。

一応注文が終わり、心を落ち着けて、居酒屋という空間を見渡した。何人もの大人が座席に座り、会話をしている。皆、堅苦しい、ロボットみたいな顔で一杯を交わしている。
いつもの空間だなと思った。
時が進む。酒が運ばれ、照明が暖かくなる。少しずつテンションが上がり、みんなの顔が火照り出す。ますます声が大きくなり、あちこちで爆笑の声。ついに騒がしくなる。隣のことなどお構いなしという感じで盛り上がる。
夜が深くなる。皆の属性が明らかになる。酔うと寝出すタイプ、饒舌になるタイプ、笑い上戸になるタイプ、みんな個性がメキメキ出してて、みんな違っていい。
温かな提灯に守られ、自分が暴かれる妖しい世界。それが居酒屋なんだ。酒…酒っていいなぁ。
ラストオーダーの声。ハッとすると世界はしんみりとした空間に包まれていた。終電のことに気付いて、急いで居酒屋を出た。大笑いで店から吐き出される大人達を見つめ、何か勘違いしていたのかなと思った。大人って本当は楽しいのかも…。
自分の中で新たな芽が生まれようとしていた。そして友達は、ネオンの街に包まれ溶け込まれてゆく僕を見ていた。

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