競輪は“体力勝負”だけではない!「複雑だけど面白い」技術や駆け引きとは【前編】内藤敦選手(競輪選手/競輪選手会岡山支部 支部長)
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今回取材したのは、現役の競輪選手であり、一般財団法人 日本競輪選手会岡山支部 支部長でもある内藤敦(ないとう あつし)選手です。21歳で競輪選手になり、選手生活は26年を迎えました。
この取材は、2024年2月29日(木)~3月3日(日)に開催された「【玉野競輪】令和6年能登半島地震復興支援競輪 開設73周年記念 瀬戸の王子杯争奪戦」を記念し、特別に内藤選手ご本人へ取材させていただきました。
内藤選手が競輪選手になった理由や、競輪選手ならではの楽しさ・苦労、競輪の楽しみ方に至るまで、さまざまお話しいただきました。まずは競輪の奥深さが知れる【前編】です。
日本の競輪は世界レベル
――内藤選手は、なぜ競輪選手になろうと思ったのですか?
もともとは競輪ではなく、野球少年だったんですよ。高校野球もやっていたので、野球漬けの毎日でした。でも野球で大成したわけではなく、かといって進学や就職を考えても「なんか違うな」という気がしていて。
どうしようかと考えたときに、遠い親戚に競輪選手がいたのを思い出しました。競輪選手について話を聞いてみて、今まで体を動かしてきた経験を活かしてやってみようかなと思ったのがきっかけです。
――そもそもの質問ですが……競輪とは何でしょうか。一般的にはギャンブルのイメージが強いですが、スポーツとしても捉えられますよね。オリンピックの競技にもなっていますし。
いい質問ですね(笑)。競輪はスポーツです。私が選手としてデビューした頃はアスリートと職人の間くらいの感覚だったのですが、今はトレーニングひとつとっても世界基準のものを取り入れています。アスリート一色!という印象で、競技としてのレベルが上がってきています。
でも、ギャンブルとは切り離せないですよね。
我々競輪選手は、お客様の大切なお金を賭けていただくことを理解し、透明性を持たないと競技は成立しないと考えています。技術だけではなくて、競輪選手としての考え方も大切。養成所でしっかりと教育を受けてから、競輪選手としてデビューするんです。
目指す方向によって違う、練習方法
――競輪場でレースに出場している競輪選手と、オリンピック選手は違うのですか?
そうなんですよ。まったくと言っていいほど違います。
養成所を出て競輪選手になったら、まずは競輪場で競輪選手としてレースに出ます。選手になってからもしっかりと練習し、レースで経験を積むのが最初の1歩です。
その後、オリンピックなど世界で戦う選手を目指していくか、そのまま競輪場でのレースに出場し続けるか、二択で分かれていきます。というのも、練習方法がまったく違うからです。
――どのように違うのですか?
オリンピックを目指す場合は、相当な練習量と体力づくりをします。「とにかく早く走るため」の訓練です。基本的には脚力を鍛えていくと思ってもらえたら。タイムトライアルに挑んで、1人で走るのが速い選手から世界で戦えるようになっていきます。
一方で競輪場のレースに出ている私のような選手は、体力づくりも大切なのですが、同時に技術力も大切なんです。競輪っていうのは、選手同士が邪魔しながら1位を目指します。イメージは障害物競走ですかね。
レースでの選手同士の接触にはルールがあり、多少は認められているから、相手の力をいかに使わせずに自分の力を出し切るか、で勝負が変わってきます。
年齢問わず勝てる面白さ
――邪魔してる……!正直レースのスピードが速すぎて、どのような技術があるのかあまり分からないのですが、言える範囲で教えていただけませんか?
分かりやすいのは衝突ですよね。外からまくってくる(前の選手を追い越そうとする)選手がいたときに、前を走っている選手は、ぶつかって捲り(まくり)を阻止することを「捲り(まくり)を止める」と言います。
ぶつかる練習はできるのですが、やっぱりレースで走ってみないと技術は身につかないし、磨いていくこともできないんです。レースごとに選手も、レース運びも、全てが異なるので。
レースで他の選手にぶつかられて、負けて悔しい思いをして、「じゃあ次はどうするか」という作戦が練られるというか。そうやって一つひとつの経験を積み上げて、技術力をつけています。
――プロの技ですね。
「重力を制す」という言葉もあるのですが、いかに相手の力を借りてゴールするか、相手の長所を消すかを考えています。体力勝負だけではないので、ベテラン選手になってもレースに出られるのです。
――体力がある選手が必ず勝つわけではないのが、競輪の面白さなのですね。
ベテランも活躍できる時代なので、体の変化に合わせてトレーニング方法や自転車の設定を変えて、レースに臨んでいます。レース表に選手の年齢が書いてあるので、見ながら観戦いただくと競輪がより面白くなると思いますよ。
あとは人柄が出るのも競輪の面白さだなと思います。他の選手の力を使って自分が前に出たり、邪魔をしたりするスポーツなので。
――内藤選手から見て、「いい選手」とはどんな選手ですか?
僕個人から見て、思いきりがいい選手はいいなと思います。思いきりっていうのは、教えてあげられないんですよ。ここで行け!って言われても分からないから。
ひとつとして同じレースがないなかで、「ここで行け!」という勝負勘がいい人は、思いきりがいい選手だなと思います。人柄のよさも感じるし、レース運びもいい選手が多い印象です。
チーム戦でもあり、個人戦でもある
――先ほど「ベテラン選手でも活躍できる」と話されていました。デビュー当時と今とでは、トレーニング方法は違うのですか?
僕がデビューした時は、とりあえず乗り込みだったんですよ。乗り込みとは、とにかく自転車に乗ること。何百キロ乗ったとか、どのくらいの距離を練習したかとか。そして力をつけるために、足や上半身のウエイトをしていました。
年齢とともにスピードは落ちていくので、今は持久力は落ちないようにトレーニングしています。
――練習は個人でするのですか?
基本は個人で考えて練習しています。僕らが若いときは師匠と弟子の関係性があって、師匠が言う練習方法が全てでしたが、今は自分で練習方法を考えている選手が多いです。
ただ、考えが合うメンバーとグループで練習をすることも多くなってきました。インターネットを通して色々な情報がある中で「選手としてこれが必要だよね」という考えが合うメンバーが集まって練習しています。
――競輪は個人戦だと思っていましたが、チーム戦でもあるとお聞きしました。どういうことでしょうか?
ありますね。競輪のレース表を見ると、「①⑨ー②④ー⑤⑧⑥ー③⑦」などのように数字が2つ~3つ連続して書いてありますが、これもグループというか、チームのようなものです。
基本的には同県。岡山県なら岡山県のチームを組みます。次に大きい括りは中四国、次は西日本……など、近いところからチームになっていくことも多いです。
――レース運びもチームで話し合って考えているのですか?
そうですね。レースの注意事項や作戦を話しています。この選手はこうだから気をつけようとか、最悪のケースはこうだから気をつけようとか。
――でも3人のチームだった場合、3人が3人とも1位になりたいのですよね?
そうなんですよ(笑)。それが難しいところで在り、面白いところで。
仮に3人のチームだったら、先行屋、マーク屋、3番手と役割が決まっています。先行屋はとにかく逃げきりなさい。マーク屋は捲り(まくり)を止めなさい。3番手は内側をすくわれやすいから、内側を絞めなさい。そして、ラスト1周くらいで勝負をかけていく。みんな、1位になりたいので、最後は駆け引きをしながら競っていきます。
あと、競輪はレース単体を観るのも面白いですが、選手についている点数を観るのも面白いと思います。選手はこれまでの各レースの順位によって点数が与えられていて、1年間[1] で得た点数の平均である「平均競争得点」で評価されるんです。競輪をよく観ている方は、平均競争得点を見て賭ける方も多いですよ。
―ひとつのレースでも、年間を通しても楽しめる。奥が深いですね。
深いですね。とはいえ僕も、競輪選手になるまで奥深さを知らなかったですから。ベテランも若手に勝負できる可能性があったり、順位や点数・個人戦やチーム戦など、複雑だけど面白い。自分がやっていて面白いスポーツだなあと思っています。
“自分に合う自転車”は永遠の課題
――ちなみに、自転車にはどんな違いがあるのですか?
ブレーキがないことはどの選手の自転車も同じです。ただ、ルールの範囲内であれば自分に合うものをオーダーメイドできるので、選手によってかなり違います。
永遠の課題です、自分に合う自転車を作ることは。サドルやペダル、フレームも作ると考えると……仕様は無限ですね(笑)。毎回、自転車を作ってくださるビルダーさんに相談しながら作っています。
――トレーニングして脚力が上がったときや、年齢、経験などに合わせて変える必要がありますよね。
そうなんですよ、競輪選手にとって自転車は商売道具なので。ちょうど今、僕も自転車を変えようかなと一気に変えようかなと思っていて。
昨日奥さんに相談しました。「作ってもいい?」って(笑)
――(笑)。ちなみに1台どれくらい……?
フレームだけで30万くらいですね。1台で考えると……平均で60万くらいではないでしょうか。もっとかかっている人もいます。
――すごい!それだけ、自分に合う自転車にするのは大切なんですね。
前半はここまで。後半は、気になる人が多い競輪選手の賞金の話(!)や、内藤選手が岡山支部の支部長を務める競輪選手会についてなどを聞きました。後半もお楽しみに!