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エボルマ、デザイナーズノート
記事説明
本記事はゲームマーケット2023春の両-M36にて頒布予定のエボルマという2人用ゲームのデザイナーズノートである。本記事はプロモーションを含みます。
企画立ち上げ
作者はTCGを嗜んでいる。友人と遊ぶカジュアル戦からオンラインを利用したガチバトルまで行っている。そんな友人と遊んでいたある日、こう思った。「相手の手札、あいつしか見られないのズルくね?」
前作のグリッツはありがたいことにゲムマの2日のみで完売した。Twitter(自称X)を見ている限り楽しんでもらえているようで、複数日にわたって遊んでいるプレイヤーも観測された。小部数とはいえ確実にファンが付いた感覚はあり、次に出すゲームも2人用だろうとなった。
— 安納 うん(うやむ屋) (@Unnouunn) December 10, 2023
とはいえ12月の中旬にゲムマが終わり次は4月末。期間が短すぎて参加できる気がしない。一回見送って次にして、正月で何かやるか。メインシステムは何にしようと自分のメモを漁った。目についたのがゲムマ当日の「案外子供多い」という6文字だった。
前回のゲムマでは小学生程度の年齢の子供が親に手を引かれて、という感じで「この子が欲しいと言ってたので来ました」というお客さんが複数いた。ゲムマというイベントの性質上、子供はそんなに多いとは思っていなかったが案外いるらしい。自分自身が子供の時は輪ゴムで十字に縛ったデッキで擦り切れるまで戦っていた。
ただ、作る側になって思う。自分の作るゲームにはスリーブをつけてほしい。そうだ、スリーブ必須のゲームにしよう
スリーブ変えてレベルアップ
スリーブについての分析
スリーブを必須にすることにより、何が出来るかということについて考えた。
安いのは透明スリーブだが、裏面が不透明なスリーブに自分は可能性を感じた。大体のゲームではカードの裏面は統一されている。ランダム性を重視するカードゲームにおいて、裏面で区別できるのはあってはならないことで、そのタブーに踏み込める可能性を感じた。
タブー、と仰々しく言ったがそれをやっているゲームもある。マジックザギャザリングでは最近このメカニズムを多用している。
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こちらのカードは、昼間は人間で夜は狼男であるというキャラクターを再現している。フレーバー的にも合っておりゲームとしても面白い。ただ、遊んでいる側の感想で言うと手間でしかない。
一見良さそうに見えるが、何度もやるとだんだん面倒くさくなる。デッキでは裏面が見えないでほしいが場では裏表が見えてほしい。不透明スリーブを使用すると、カードを完全に抜いて裏表を入れ替えて指し直す、という行動を1試合に何度もする必要がある。最初はいいが慣れると面倒くさいのだ。
表裏を何度も入れ替えるのはどうやら良くないようだ。ただ、スリーブを使っているからこそのルールにしたい。上下入れ替え、シールを張る、透明カードはどうだ、と色々模索したがしっくりこなかった。
アイデアがないので自分の作ったデッキを眺めてみる。自分の好きなものにヒントがあると思ったのだ。一通り眺めたりメモを漁ってみたがどれもピンとこない。諦めて席を立った時に気づいたのがスリーブの色だった。マイルールとして、黒系のデッキは黒いスリーブ、赤いデッキは赤いスリーブにしているのだ。カードは同じでも、スリーブを変えることによって効果が変わるのは面白いのでは?
そんな感じで、スリーブの要素のうち
・裏面を隠す(裏面を統一しなくてよい)
・スリーブの色
を使用することになった。何色かのスリーブを入れる必要が出てきたが、丁合が大変なだけで原価に差はない。
ゲーム中にレベルアップ
表裏、そしてスリーブで効果が変わるのであればレベルアップや変身という要素を入れるのが良さそうに思えた。最初は弱くてもだんだん強くなっていく、面白そうだ。とりあえずデザインだけでもカードを作ってみる。表に2レベル、裏で1レベルの3段階、仮イラストをネットから拝借して入れてみると非常に良い。満足いく出来だ。
ここまでかなりボトムアップ(システム重視)デザインでゲームを作っていったが、フレーバーによる分かりやすさの補助は考えていきたい。そこで、カードのデザイン方針としてシンデレラを採用した。
シンデレラはbefore/afterの象徴であり、このシステムにかなりマッチしている。少しひねって「自身が魔女になったシンデレラ」とすることでインパクトもあり、一番最初にこのカードを作った。
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仮でもいいのでルールを作っておこう。
・ラウンド制、終了条件は誰かが勝利点を一定以上集めること
・ラウンド開始時に手札からカードをベットする。ラウンド勝者はそのレベル分の勝利点を得る
・ラウンド終了時に互いにカードがレベルアップする。敗者はより多くレベルアップする
このルールで狙った効果は以下の通りだ。
・何度かラウンドを繰り返すと、「デッキの強さ+プレイヤーの強さ」の比率が近くなる
・勝利点が不定なので逆転勝利がある
・ラウンド開始時のベットで「勝率を上げることに使う」「勝った時のリターンを大きくする」というジレンマが発生する
・同時にレベルアップすることでダウンタイムの削減+スリーブ入れ替えるタイミングを分かりやすく
テストプレイ第0回
とりあえずルールは出来た。カードを作って一人回しをしてみよう、テキスト量が多い。
考えてみれば当たり前で、表裏両方のテキストをまともに読むと実質倍になる。そんなのは初見ではまともに楽しめない。思い切ってテキスト量をかなり減らしてみるとスカスカになってしまった。フレーバーテキストを入れていた時期もあったが、そもそもこのゲームは子供を意識して作り始めていた。ふりがなを入れよう
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この文字の大きさで、1枚に4行というかなり少ないテキスト量でいくという方針が決まった。文字が大きくなり、結果的にテキストがシンプルになった。これによりカードの把握が早くなり、このゲームの最大の楽しみである「何を強化するか」に集中できるようになった。
補助概念の導入
とりあえずデザインと文字の大きさは決まり、一通り遊べるようにはなった。一人で想定通りの動きをしてみて「何を強化すればいいのか分からない」という問題が発生した。場のカードは何枚もあり、そのうち2~3枚を選ぶ方針が無い。もちろんそこが醍醐味ではあるのだが、それにしたって何も思い浮かばなかった。
そこで導入したのが三すくみの概念だ。相手の属性に対して有利なものを選べばいい、というのは分かりやすい。火水草が分かりやすいが色弱対応を考えるとよくない。ヘビ/カエル/ナメクジや剣/斧/槍など様々な三すくみを考えたが結局、火/水/草に落ち着いた。
また、効果を3つに大別することで認識もしやすくなった。
草は横並び、火は常時効果と全体攻撃、水は弱体化。
・草は横並びをする。火は弱いカード全てを破壊するので巻き込まれてしまうが、水による弱体化は全体を見ると効果が薄い。
・火は常時効果と全体攻撃をする。常時効果を持つので水による弱体化の影響を大きく受けるが、草の横並びを全体攻撃で破壊できる。
・水は弱体化(効果無効、戦力値下げ)を行う。草の横並びには効果が薄いが、火の常時効果を無くすことで大幅に無力化できる。
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これが一番大変ではあったが、結果的に良かったように思える。これが方針となり、エボルマのテーマである「魔法」が自然と決まった。結果としてテキストに記載する程ではなく、色弱の人に不利となるためシステムに導入する程ではないと判断したが、そのカードが何をできるかというのは分かりやすくなった。
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当時は10種20枚、3属性×3+無属性1という感じで進めたが結果として7種20枚になった。シンデレラはいつの間にか消えていた。
テストプレイの記録
テストプレイ1回目
そんな感じでテストプレイ会に持ち込んだ
コンセプトの確認という感じが目標で、実際どうなるかは分からない。TCG経験者の方にテストしてもらい、「やりたいことは分かる」といった感想をもらった。懸念していた第一ラウンドの虚無感はそんなに気にならず、新鮮な体験のままレベルアップを楽しめたようだ。
ルールの改善点をいくつか貰った。
・1枚引いて1枚出す、というルールは手札切れが多いことが分かり2枚引いて1枚出すという形式にした。
・何もできないときに次の準備をしたい時があるので「何もせずに自分の手札をレベルアップさせる」という選択肢を追加した。
・表面のままLv3にする正統強化、裏面にしてLv3にする異質進化という強化の分岐が出来るのではと意見をもらった。これは出来たらアツいのでギリギリまで粘ったが難易度や情報量の多さで断念した。
このゲームがデッキ構築型ゲームに当たると知った。TCG文脈として作ったのだが確かにそうだ。
テストプレイ2回目
次の週、同じテスト会に持ち込んだ。今回はルールの完成度を見たい。結果的に、夢中になる場面もありつつ理解度のハードルが高いという感じだった。コンセプトは問題なく、テストプレイヤーのルール漏れはない。テキストの調整がカギという感じだった。
狙った効果である「相手の手札にLv3がある・・」という話や「次もやりたい」みたいな話があった。てごたえあり。
テストプレイn回目
ここまでくれば、バランスとテキスト整備で完成する。カードの種類を減らしてゲーム全体のテキスト量を減らし、先ほどの説明書のようにカードの一覧を作成。
カードを作って一人回し、微妙なカードや面白くないカードは面白くなるまで修正。カード印刷、一人回し、印刷、テスト、印刷、テスト・・
やってばかりでは感覚がマヒするので、完全に距離を置いて一週間。再度テストをした。面白すぎる
満足いくものが出来上がった。レベルアップは楽しいし、Lv3はもはや相棒、ゲーム終了時のデッキは歴戦の記録だ。TCGのコンボや運要素もあり、裏面が分かることで将棋のような情報ゲーム的なプレイにもなる。敵はもはや丁合(≒手動での箱詰め)のみだ。
おまけ
丁合が非常に大変だったので再販の予定は未定です。ゲームマーケット2024春にて頒布予定で、通販などは在庫状況次第という感じです。
誰でも遊べる
言い回しや算数の用語、ふりがななどかなり気を使って作りました。「以上」「以下」を含むので推奨年齢10歳以上としましたが、それのみ気を付ければ8歳程度でも遊べると思います。文字サイズも大きく、老眼の方にも優しい(はず)です。
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↑そんな感じで調べた記録です
もっと知りたい方へ
ゲムマブログ
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