第1話 コロナ後遺症とは? 基礎知識
▼はじめに
私は横浜にあるUnMed Clinic Motomachiという内科クリニックの院長をしている髙倉一樹と申します。クリニックの名前の由来は、患者さんが今本当に必要としている医学的な要望(英語で”Unmet Medical Needs”、アンメットメディカルニーズと言います)に微力ながら応えていきたいという自分の思いから来ています。
さてこの全4回シリーズでは、コロナ後遺症についてのお話しです。新型コロナウイルスに感染し、療養期間が明けた後に何らかの症状に悩まされる状態、これをコロナ後遺症と呼びます。相変わらず新型コロナウイルス自体は変異を繰り返し、感染力を増大させ、感染患者さんは世界中に多くいらっしゃる中、コロナ後遺症についてはまだまだ病態解明が進んでおらず、その認知度も低く、対応出来る医療施設も限られており、問題山積み状態でまさに”Unmet Medical Needs”の高い病気と言えます。
当院では2021年5月からコロナ後遺症外来を設置しており、以来、多くのコロナ後遺症に悩む患者さんの対応をして参りました。そして、当院に受診されたコロナ後遺症患者さん286名のデータを統計学的に解析し、米国の世界的科学誌であるJournal of Medical Virology誌に"Clinical features, therapeutic outcomes and recovery period of long COVID"というタイトルで論文報告しました。この研究結果は、日頃の診療にも大いに役立っており、患者さんへの説明にも活かしております。これらの経験を踏まえ、皆さんに改めてコロナ後遺症について正しく知って頂きたいと思い、自分なりにまとめることにしました。読んで頂く皆さんにとって少しでも参考になれば幸いです。
筆者紹介:髙倉一樹
<略歴>
私立 精華小学校卒
私立 栄光学園中学・高等学校卒
東京慈恵会医科大学 医学部卒
東京慈恵会医科大学附属病院、川口市立医療センター、東急病院等、複数の総合病院で消化器・肝臓内科医として勤務
David Geffen School of Medicine, University California Los Angeles (UCLA)に2015年4月~2017年9月まで2年半、客員研究員として留学
2021年2月、地元横浜元町にてUnMed Clinic Motomachi 開業
<資格>
医学博士
日本内科学会認定医 / 指導医
日本消化器病学会専門医 / 指導医 / 関東支部評議員
日本がん治療学会認定がん治療専門医
日本禁煙学会認定指導医
日本医師会認定産業医
難病指定医
<論文業績>全て英文です、ご参考までに。
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/?term=kazuki+takakura&sort=date
第1話 コロナ後遺症とは? 基礎知識
コロナ後遺症という病気について、まだまだ聞きなれない方も多くいらっしゃるのではないでしょうか?
コロナウイルスに感染し、所定の療養期間を経て社会復帰したにもかかわらず、様々な症状が残っている状態を『コロナ後遺症』といい、英語でLong COVIDと呼びます。
ではまずコロナ後遺症の定義から確認しましょう。
世界保健機関 (World Health Organization: WHO) の定義によると、通常は感染の疑いが強まって、あるいは感染が確認されてから3カ月以内に発症し、少なくとも2カ月続くが、他の病気で説明できない症状を指すとしていますが、今後新たな証拠が提示され、新型コロナウイルスの影響に関するさまざまな理解が進むとともに修正される可能性があり、子どもについては別の定義が適切かもしれないとされています。
そして、何と日本では、このコロナ後遺症について現在も明確な定義が無いのが現状です。つまり、まだよく分かっていない不明瞭な病気だということです。
次に疫学についてです。
執筆時点 (2022年10月末日現在) での患者数を調べてみました。コロナウイルス感染者数が全国で約2180万人いらっしゃいますが、東京都の専門家ボードからの報告によるとコロナ感染患者さんのうち約76%に何らかの後遺症症状が残ると言われているため現時点で約1660万人のコロナ後遺症患者さんがいらっしゃると見積もることが出来ます。
そして経過の中で徐々に患者数は減っていくものの、半年後で約26%の患者さんに、1年後に約9%の患者さんに何らかの後遺症症状が残ると推定されています。
つまり、今のコロナ患者さんのうち約200万人もの方々が、来年の今頃でもまだ何らかの症状を抱えている可能性があるということです。
もちろん、その残存する症状によって実際に困ることがある方と、別にそこまで困ることは無いという方がいらっしゃいます。広島県のコロナ後遺症実態調査結果 (954人対象) によりますと、コロナ後遺症患者さんのうち38%の方が日常生活に何らかの支障があると答えたとのことですので、このデータを参考にすると現時点で約630万人のコロナ後遺症患者さんがご自身の自覚症状のせいで日常生活に何らかの支障があると推定されます。
つまり、これだけ多くの方々が困っている病気であるにも関わらず、まだ病気の解明も道半ばであり、世の中にコロナ後遺症という病名を知らない人も多くいらっしゃるのが現状ではないでしょうか。
次に、コロナ後遺症の原因についてですが、はっきり言ってよく分かっていません。ウイルス自体の様々な臓器への直接的な障害、サイトカインストロームの影響、身体に抗体が出来ていないことによる不十分な免疫応答などの関与が報告されていますが、全てまだ仮説レベルです。
私個人の仮説は、ウイルス感染を契機に身体に大きなダメージ・ストレスがかかり、そのために自律神経のバランスが崩れることが影響しているのではと考えています。
▼コロナ後遺症の精神的な影響に対する当クリニックでの試み
これまでの話の中にあったように、コロナ後遺症で悩まれていらっしゃる方々は、先の見えない不安を抱え、良くなっては悪くなるといった不安定な日々の中、コロナに感染する前の自分と日頃のパーフォーマンスにおいて大きなギャップを感じて過ごされています。
周囲の人からも自分の今の状態をなかなか理解してもらえず、精神的に孤立化してしまうのも大きな特徴であり、本当にタフな病気と言えます。
当クリニックにいらしたコロナ後遺症患者さんの中で何人かの方々は会社を退職する状況に追い込まれ、もはや問題としては病気の域を超え、社会的問題となっています。
この状況の中、内科医として診療しながら、精神面のサポートに限界を感じており、何らかのその他のアプローチが必要だと常々感じて来ました。
そこでスタートさせたのが、『コロナゴ』というコロナ後遺症専門カウンセリングサービスです。
新型コロナウイルス後遺症に対するオンラインカウンセリング|UnMed Ties (unmed-clinic.jp)
これは、コロナ後遺症に悩む方々の精神面のサポートを目的とした新しい試みであり、内科的治療と併せて相補的に患者さんの社会復帰をお手伝いするためのものです。
資格を有するカウンセラーが、UnMed Clinic Motomachiにおけるコロナ後遺症に関する臨床的特徴について情報共有をした状態で、コロナ後遺症患者さんのお話をしっかり伺います。コロナ後遺症に関することで、どんなことでもお悩みのある方は、是非、お気軽にご相談下さい。
▼この医療記事を執筆した医師からご挨拶
最後までお読み頂きありがとうございました。もし、この記事が少しでもお役に立ちましたら、回りの方々にお伝え頂いたり、SNSで共有して頂けますと幸いです。
また、私の執筆した論文はこちらです。英語ですが、ご興味のある方はご一読下さい。
Clinical features, therapeutic outcomes and recovery period of long COVID - PubMed (nih.gov)
連絡先:
高倉 一樹(Dr. Kazuki Takakura)
https://www.unmed-clinic.jp/
unmed@h-sh.org
(お願い)こちらの記事に関するご質問等はお電話では承っておりません。
メールや文書でお願い致します。