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空港から出られない

新千歳空港が好き。広すぎないから移動にそこまで疲れないし、快速エアポートに乗ってしまえば札幌までもそんなにかからないし、きれいだし、おみやげも割と揃うし、ごはんがおいしい。毎年のように北海道に行くのでたいてい新千歳空港を使うことになるのだが、空港自体を訪れることも楽しみのひとつにしていたりする。リアル北海道は広すぎて数日の旅じゃ満喫しきれないので、玄関口である新千歳空港はミニ北海道ランドとしてハイライトを楽しめるようになっているんじゃないか、という気がしている。本当にいろんな施設が充実していて、あれもこれも気になって、なかなか空港から出られない。

わたしは都民なので、たいていは羽田から、ごくたまに成田から飛ぶことになる。新千歳までは1時間半くらいのフライトだ。到着ロビーからエスカレーターをあがって吹き抜けのセンタープラザに出ると、サッポロクラシックの幕が垂れているのが見えて、ああ、来た、と実感する。空港にある飲食店はどこも入りやすいのがうれしい。1人旅もべつに珍しいことではないし、空港ってやっぱり圧倒的にきれいだ。おかげでわたしはジンギスカンのお店ですら躊躇なく1人で入ることができる。入りやすくておいしいお店が多いのに胃袋はひとつしかないから、空港に長めに滞在するスケジュールを前もって意図的に組んでおいたりもする。



松尾ジンギスカン新千歳空港店


新千歳空港に行ったらここは押さえたい、という場所が、みっつある。知る人ぞ知るみたいなスポットではなくてごく当たり前に人気の場所ばかりなので、この記事にはなにも新鮮な情報はないのだけれど、好きなんだなあ、ということだけは伝わるだろうと思って書く。
みっつある場所のひとつが、今さっき書いたジンギスカンだ。松尾ジンギスカンは空港内のフードコートにもお店があるけれど、せっかく北海道に来たならちゃんと自分で焼いて食べられるお店がいい。おいしいというのは当然なのだけれども、空港の中にある店ということは、つまり来店するのは普段ジンギスカンになじみの少ない旅行客であることが大前提だから、なんにもわからないまま入店しても恥ずかしくない。堂々としていられる。肥大化した自意識のかたまりみたいな人間にとって、これが本当にありがたいのだ。それに大荷物でも肩身が狭くない。紙エプロンをつけた瞬間、どんなに賢そうな人もどんなにいかつい人もみな一様に平和な見た目になる。200円くらいしか変わらないので、食べるなら特上ラム一択。

これに中ジョッキとか頼んじゃってね



えびそば一幻


安い航空券をとると早めの時間帯に新千歳に到着してしまって、ロイヤルホストしかやってない、みたいなことになったりする。もちろんロイヤルホストもいいんだけどね。そんな中、空港のラーメン店は開店が早めでうれしい。ベンチで少し待っていればおいしいラーメンにありつける。そういえば、新千歳空港はベンチやソファなど座れる場所がかなり多いのもありがたい。

有名店が並んでいてわくわくする


「ラーメン道場」と名のついたエリアの端にあって、毎度長蛇の列ができているのが一幻。ここ、確かエリアの中でも開店時間が早めだったはず。だから早い時間帯に空港に着いた際は、むしろラッキーと思ってここの列に早めに並ぶことにしている。東京でも一幻のえびそばは食べられはするけど、わざわざ行くかっていうと、まあそうでもないんだよな。えびのだしがしっかり効いたスープ、大好きだ。暑さの中で失われていた塩分を取り戻す感覚。並んだ甲斐があった……と毎度思いながら完食に至る。他のラーメン店にもやはり心は惹かれるし、食べることももちろんあるのだが、一度しか空港での食事チャンスがないときは一幻を選んでしまう。

列で結構待たされるから感動もひとしお


待機列である程度待つことが大前提になるので、時間的な制約があるときはほかのラーメン店にも行くし、もちろんおいしい。あじさいの塩ラーメン、美味しかったな。
北海道のラーメンといえば、もし山頭火が空港で食べられたらなあ……とは思ったりする。まあ、本当になんでも空港で揃ってしまったら各地に行くモチベーションが減ってしまうから、今がちょうどいいのかも。


新千歳空港温泉


みっつめは温泉だ。グルメフロアのひとつ上にあがるとちょっと静かになって、そこに新千歳空港温泉がある。わたしは時間が取れたら絶対にここを利用する。
その土地でお湯を浴びたり寝たりすることで、それでようやくその土地に来た、という実感を得られることってないだろうか。初日、宿に着いていないタイミングはまだ日常的な移動の延長でしかなくて、自分の身にしつこくまとわりついた日常性を洗い流してからやっと旅が始まる。これってわたしだけの個人的な話ではなくて、わりとみんなに共通した感覚だと思っている。どうせならわたしは、早めにその禊を済ませてしまいたいのだ。

精神的な話だけでなくて、温泉があることでのメリットはとても多い。早朝のフライトのときはどうせ機内でも半分くらい寝ているし、それなら到着した空港で入浴して身支度して、そこで化粧なんかもしたほうが快適だ。逆に夜遅めに新千歳に着陸したときは、翌朝まで温泉に滞在してしまったほうが効率がいい。新千歳空港のことを本当に便利だと思うけれど、夜9時を過ぎると一気に何もなくなる。飲食店はほとんど閉まるし、空港の外にももちろんなにもないから。

熱すぎなくてさらっとしたお湯で、でも汗はしっかり出る、のんびり入りたい感じの温泉だと思う。充電できる場所がかなり少ないことくらいしか不満はないが、充電までできてしまったらずっと居座ってしまいそうだな。深夜滞在にするとパンとスープ、ドリンクバーくらいのシンプルな朝食のサービスがあって、これが地味にうれしい。


これだけ新千歳空港のことを書いたのに、今年の旅では新千歳を使わない行程になってしまった。(行きは新幹線、帰りは帯広空港を利用する予定)もう一度くらい年内に北海道に行くチャンスがあるかもしれないので、その時こそは。きのとやのソフトクリームも、牛乳カステラも、まだまだ新千歳空港で食べたいものは山ほどあるので。花ぶさのお寿司も美味しいんだよなあ。それに、せっかくなら宮腰屋珈琲で1杯くらい何か飲みたいし。北海道が好き、と話題に出す時、2割くらいは新千歳空港の魅力のことを思っているかもしれない。


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