烏山ヲバ利(1)

暗闇に赤黒く光る物がいる。目。目だ。三日月のように尖った赤い大きな目なのだ。頬骨が尖っていることから、かなりコケている事がわかる。鉤鼻のでかい鼻を携えていた。侍烏帽子を付け、黒いマントような布切れを羽織った気持ちの悪い姿をしていた。体は何もつけていないが、黒くただれており、辛うじて足や腕がわかるほどだった。煙のように動き、道でなざる道を闊歩していた。
「貴様。貴様だ、その気持ち悪い面している貴様だ。」
性格の悪そうな下っ端武士がこちらに話しかけてきた。
「はははは。もうお前は生きることはできん。なぜなら、俺の刀の砥石になるからさ。」
そういうと、あの下っ端武士はこっちに刀を振り下ろしやがった。だが、あの侍烏帽子をなめてしまったら困る。煙のように動き、下っ端武士が「だぁああ」という汚い声を出すころには後ろに立ちそいつを殺してしまった。下っ端武士は痛みもなく、天に昇ろとしていた。
だが、侍烏帽子のあいつはあの手であの天に今にも昇りそうなあの魂を掴み、おいしそうに食べてしもうた。グタグタと、グチャグチャとあの魂を食べてしまった。魂がなくなった、少し前まで体であった肉塊は、魂が食べられたころには素早く黒く腐食し、あの侍烏帽子の奴の体に吸収された。そう、あいつの体は魂の抜かれ腐りに腐った人間の集まりだったのだ。
グチ、グチャァと道ならざる道を侍烏帽子のあいつは力強く闊歩していった。
あいつの名は、嚼塊異明神(ひゃっこんいみょうじん)と呼ぶそうな…魂を食い、明神とは全然違うという意味だ。
嚼塊異明神は闊歩していたところ気に食わないことがあったそう。それは道端のお地蔵様である。お地蔵さまは優しい顔つきで、人々を見守っていた。嚼塊異明神はそれが気に食わなかった。嚼塊異明神は黒く恐ろしく細い右腕で、眉間にしわを寄せ、笑っているのか怒っているのかわからない能面のようなその顔つきで優しいお地蔵様を粉々にしてしまった。お地蔵さまとして作られたものは一瞬にして只の石のように見えてしまった。だが、石にも何にも魂というものは宿ると設計されている。あの石ころからお地蔵様の魂が嚼塊異明神へと降り注いできた。反するものと反するものがぶつかり合ったときどうなると思うかい?道でないような道で一つ、衝撃波がぐんと走った。耳に地響きが走ったように思えた。 
道には黒く焦げた溶けた辛うじて形がわかる腕一本しかなかった。
あの音は三日間耳の鼓動の奥で、奥で響き続けた。其のころにはあの周辺にはぽっかり穴が空いたそうな。

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