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過ぎ去った夏が作り出したあの透き通ったあなたを思い出した

10月に入って一気に秋めいてきた。
秋晴れの日は、空がいつもよりずっと高く感じられる。

9月末の平日、仕事を早く切り上げ、ここ2年間で最も私の夏を彩ってくれたバンドであるtetoのライブへ行ってきた。

tetoはいつも、過ぎ去りしものや失ったもの、今ここにはないものを慈しむ態度を教えてくれる。
特に、『拝啓』と『9月になること』がそう。

この曲を聴くと、かつて好きだった人のことを思い出す。

"いらなくなったあの首振り固定の扇風機 買わなくなった安っぽい甘ったるいアイスキャンディー
8月になれば全て蘇る気がしたんだ 何もかもあたかも元通りになって"

私が今までで最も影響を受けた異性は、端的に少女漫画の主人公の恋愛相手のような、雲の上の人物だった。
頭と運動神経が良く、気配りができて、クールでかっこいい。世間が持て囃す要素をいくつも持っていて、ずっとモテてきたであろう人。

これまで陽キャラとされる人達をただ眺めできただけの根暗な私からすれば、普通に生きていたらさして交わることがない、アイドルと同じような存在だった。

"忘れたい筈のあの言葉だけは忘れないように出来ている脳"

しかし予想外のことが起こるのも人生の一興、こと彼に関しては、目の前に存在する生身の人間として対話できた機会があった。

彼の内面に踏み込み、彼を形づくってきたものを垣間見ることができたことは幸運だった。

"過ぎ去った夏が作り出した あの透き通ったあなたを思い出した
焼けた海岸線、割れた蛍光灯、汗ばんだ掌"

恍惚としたサビが流れる時、彼の自らをひけらかさず、卑下もせず、気高くありたいと思い、実際にそうある生き様を思い出す。

彼には、私が嫉妬してしまうような生まれ持った要素も沢山あった。けれどもそれ以上に、蓄積してきた努力の積み重ねに裏打ちされた自信や色気が羨ましかった。

"過ぎ去った夏が作り出した ぶっきらぼうな夜を少し恥じた
あなたへの想い、声、恋、遠い距離が重なって重なって"

勝手な恋心を打ち明けることはできなかったけれど、その存在は今でも心に残り続けている。

まず、彼(をはじめ、そういう風にに飄々と生きてきた人達)と自分を比べ、これも足りないしあれも足りないわと、相当な期間落ち込んだ。
歩んできた道にそれなりに自信はあったはずなのに、それだけでは太刀打ちできそうになかった。

"「南へと向かうあの人の影に私の足で追いつきたいの」"

しかして、このようにも感じる。
彼のその在り方に深く憧れ、傷つくことも経験したからこそ、まだ私にはやるべきことが残ってるし、信じるものへの歩みを止めずにいたいと強く思えるのだ、と。

かつて人生が交差した一瞬、志を共有して奮闘したあの日々は、今の私の原動力となっている。

"掃いて捨ててしまうほどの出会いで
褪せた色や埋もれた都市はいつかまた出会えるだろうか
いつかまた眺められるのだろうか

拝啓 今まで出会えた人達へ
刹那的な生き方、眩しさなど求めていないから
浅くていいから息をし続けてくれないか"

これもまた大好きな、『拝啓』という曲の最後の歌詞。
「 浅くていいから息をし続けてくれないか」、今まで出会った人達のことを微かに思い出す時にうってつけの言葉だ。

でも、彼に対しては少し違う感情を抱く。
きっと君はこれからも鮮烈に輝いて生きていくはずだから、その先で君の理想を実現してほしいし、願わくば私も私の道でそうありたい、と、図々しくも思っている。

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