柿の木の所有権とデジタル的な保有権。
今回は、我が奈良県で柿の木オーナー×NFTによる「NFTを活用した高付加価値化」の事業性検証のためのモニター調査について、実際に収穫体験会に参加したうえで感じたことをアウトプットしてみましたので、長文となりますが、興味あればどうぞ。
地元奈良県の農業界に注目のweb3ニュース
地方創生のコミュニティで地元奈良県の柿の木オーナーのプレスリリースが流れてきました。
このプレスリリースの発信元のKEYT合同会社は、2023年6月に福島県南相馬市で創業した新しい会社で、HPによると、HP作成、SNS集客、メタバース、NFTとWeb1.0からweb3を活用して地域課題解決を行う実践型のコンサルティングを行っており、2024年8月には経済産業省が実施する「IT導入補助金2024(令和5年度補正サービス等生産性向上IT導入支援事業)」において、IT導入支援事業者として採択されています。
本業で柿の産地振興を進め、家に帰るとweb3×地方創生に入り浸る著者としては、地元奈良県でこのような挑戦的な取組にワクワクしているとともに、NFT×地方創生の情報としてGoogleから通知メールがあったのに、気づかなかった自分の未熟さを痛感しました…(そんな大げさには思ってませんが😁)
柿の木オーナー制度とは?NFTとは?
まず、柿の木のオーナー制度とNFTについて少し簡単に仕組みを紹介したいと思います。
柿の木オーナー制度の493(仕組み)
オーナー制度といっても様々ありますが、一般的な果樹のオーナー制度の仕組みは次のような感じです。
オーナーは年間会費を支払う。
オーナーは柿農家の柿の木を所有する権利をもらう代わりに費用を柿農家に支払います。通常、1年間毎に更新となり、更新毎に年間会費(おおよそ4,000~25,000円程度)を支払います。
日常的な栽培管理は、農園側にお任せ。
立派な柿を作るには、枝を剪定したり、肥料を与えたり、芽かきや摘蕾摘果(花のつぼみや、小さい果実を取り、適正な量に調整すること)をしたり、虫や病気の防除をしたりという柿の木の管理が必要となります。
これらの作業は柿農家が代わりに実施してくれます。
定期的に農園に訪問する機会を作る農園も
定期イベントにオーナーが参加して、農家の指導のもと剪定や摘果等の作業が体験できるオーナー園もあります。
収穫した柿はオーナーの所有となる
秋の収穫季節になると、オーナーは自ら所有する柿の木の収穫を行い、採った柿はオーナーのものとなります。
つまり、果実の柿の販売ではなく、柿の木の収穫権利を購入することになります。
NFTの493(仕組み)
ブロックチェーンが作り出す新しいデジタル資産、NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)について著者の分かる範囲で解説します。
なお、ブロックチェーンの仕組みなどは正確に説明すると、1冊の本が軽くできてしまうので、正確性を欠くことを承知で、端折って説明します。
NFTとは何か?
デジタルコンテンツに唯一無二性を付与する技術です。
デジタルデータは簡単にコピーできますが、基となるデジタルコンテンツ自身やその保管場所に紐づけて、その保有権を証明する技術です。
デジタルコンテンツの希少性を保証
例えば、1万枚のデジタルアートコレクションであれば、それぞれに固有のシリアル番号(#0001など)が付与され、各作品の唯一性が保証されます。
所有権の明確な記録と証明
NFTの所有権移転は、ブロックチェーンと呼ばれる分散型の取引台帳に自動的に記録されます。
この記録には:
取引日時
売り手のデジタル財布(ウォレット)のID
買い手のデジタル財布(ウォレット)のID
NFTの固有識別子(例:CNP #00001等)
取引金額 など
が含まれ、一度記録された情報は皆で信憑性が管理され、改ざんが不可能です。
補足:ブロックチェーンの特徴
端的に伝えると間違いが生じてしまうのですが、NFTを支えるブロックチェーン技術には、以下のような特徴があります。
分散型:中央管理者不在でも自動的にシステムが機能
透明性:すべての取引履歴が公開
改ざん耐性:一度記録された情報は変更不可
セキュリティ:暗号技術による高度な安全性
他にも、ブロックチェーンについては、匿名性、取引台帳や箱の作る仕組み(ゲーム性、暗号化技術、分散管理の点でのコンピュータサイエンス)などの説明が必要ですが、ざっくりとした概念はこんな感じです。
3.多様な活用方法
NFTの用途は幅広く、国内外で以下のようなものがあります。ここでは国内の事例を中心に例示しました。
デジタルアートの所有権証明
イベントチケットのデジタル化
コミュニティ参加証明
ゲーム・メタバース内アイテムの所有権管理
不動産や商品の所有権証明
財団への出資証明と用途の投票権の行使
ここが注目したいポイント。
プレスリリースのみの情報では『「NFTを活用した高付加価値化」の事業性検証のためのモニター調査』を行うとあります。
著者個人の興味としては以下の3点が挙げられます。
柿の木オーナーとNFTをどのように関係させていくのか?
農悠舎さんは今回の取組を機にどのような展開を考えていらっしゃるのか?
この先の拡大の展開の見込み
実際に収穫体験会に参加
体験会に向かうため、今回の協力企業で柿の農業法人である有限会社農悠舎のゆしおファームに集合。「え?まだ上がるの?」を数回繰り返して、山道を上がっていきほぼ山の頂上に、ゆしおファーム天地テラスがありました。
天地テラスだけあり、絶景です。
有限会社農悠舎は、柿や梅の生産、加工、流通、販売の全てを行う、奈良県五條市の農業の法人グループでいち早く「産直」事業に取り組んだ農業者です。創業者の王隠堂(おういんどう)さんのインタビューもありました→https://www.pal-system.co.jp/sanchoku/pdf/daiki.pdf
収穫体験会スタート
ゆしおカフェにて、収穫体験会がスタート。参加者は県内外、遠方では福島県から来た方や東京在住者もいました。
KEYT合同会社の木下代表の事業説明がありました。「農業×NFTの事業展開はまだまだこれからではあるが、柿の木のオーナー制度とNFTで新たな価値を創造していきたい。」とのこと。
事業の現状は?
今年の取組としては試行的実証のモニター調査。どちらかというと今回は、柿の木オーナーという制度の体験会という印象でした。
2024年10月より、Discordコミュニティを開設し、モニターに参加してもらい、柿の生育状況の様子や今回の収穫体験会のお知らせなどを通知して進めているようです。
NFTはまだ発行しておらず、どういった形がいいか動きながらコミュニティ内で考えていきたいとのことでした。事例として、JA夕張市の夕張メロンNFTが挙げられていました。
その後、参加者と本事業関係者の自己紹介。
農悠舎の阿部さんの自己紹介では「五條市は全国で柿の生産量が日本一の市町村であるが、その知名度はまだ低く、もっと奈良の柿、五條の柿を全国の方に知ってもらいたい。そのためにも、当社としてはカフェやグランピングを行う場所を設けて、来てもらった方に好きな場所、好きな柿になってもらえればと展開してきた。今回の取組も先進的な取組でアピールできるいい機会だと感じている。」とおっしゃっており、気になるポイント2について腑に落ちました。
やっぱり、時の感覚が奈良は違う!
少し、園地の話を聞いてから、レストランもされている王隠堂家に訪問。女将さんが珍しい苗字である「王隠堂」の話をしてくれました。
「王隠堂」という苗字は、南北朝時代に南朝凋落の際に高野山へ逃げようとしていた後醍醐天皇一行をかくまった家として頂戴したらしいです。実際にかくまった家は別の場所にあったみたいですが、江戸時代に天誅組の襲撃の際になくなって、160年程前に今の家の地区に引っ越したそうです。このあたりではまだ、新入りと呼ばれるそう。
苗字の話題のちょっとしたお話で、600年前~160年前の歴史上の出来事が入るって、「さす奈良」案件でした。
「王隠堂」家の和室を活かしたレストランも歴史風土を感じさせる見事な空間。レストランは、地元の野菜をふんだんに使った料理らしく、是非ともこの空間で食べてみたい。
いざ収穫体験。
レストランがある王隠堂家の隣の柿園で、念願の収穫体験会。今回のモニター調査の保有の柿は一本でしたが、立派な一本。13人で収穫に取り掛かりましたが、物足りなさはなく、柿をハサミで収穫する体験を十分に味わえる収穫量でした。
農悠舎の和田さんの話では、40分で木の7割ほどの実をとり、約140kg の収穫をしたとのこと。一人換算でほぼ10kg程度、柿1個が250gとすると、1人あたり40個。贈答用の箱で5つ程度です。知り合いに贈っても十分な量と感じました。
今後、アンケート調査を行い、NFTによる付加価値についての展開の余地を見出したいとのこと。難しいチャレンジですが、モニター調査から小さくスタートされていることからも、本取組を大事にしたいというKEYT合同会社の事業への気持ちが伝わりました。
全体として感じる将来性のこと
NFTなどのデジタル面の整備はこれからということですので、期待したいと思います。2024年11月時点では、アメリカで暗号資産推進のトランプ政権への交代を受けBitcoinの価格が高騰しており、にわかに暗号資産バブルが囁かれ始めておりますが、国内外のNFT事情については1度目のバブルが弾けた後の復帰の時期に当たります。国内ではNFTの物珍しさで買われる時期から次のステージに変わっています。
初期にリリースされたNFTはどちらかというと、NFTの保有価値が関連事業の進展・拡大に伴って高まり、売買が活発になることで販売手数料が運営者側に入り、そこからまた新しい事業を発展させるという仕組みを想定していました。
保有するNFTの価値が高まれば、保有する資産価値も高まるため、NFTホルダーが積極的に後方支援や事業参加を行うことのインセンティブにつながります。それによって、NFT事業のコミュニティがより強固となり、発展し、さらにNFTの保有価値が高まるという特徴を備えていると思います。
つまり、NFTの推し活が資産価値の高まりにつながる。ということがホルダーにも運営側にもプラスになる仕組みを備えています。ゴルフ場の会員権や株式に似た性質です。
ただ、NFTが冬の時代を迎え、売買頻度が低下する事業が増えており、現在ではNFT事業としては販売手数料以外の収益を得られなかったプロジェクトは淘汰され始めているフェーズとなっています。
NFT×柿の木オーナー制度は面白い掛け合わせであり、うまく仕組みを作れば持続性のある事業になるのではないかと思いますが、Why NFT? (で、NFTを使う理由は?)という問いに答えられるような仕組みが求められているように思われます。
永年の柿の木オーナー権=NFTにすれば、個人間のオーナー権の譲渡がNFTを介して行うことができますが、農家側の収益性を考慮するとかなりの高額なNFTにしなければならず、オーナー数は伸び悩むように思います。逆に、これまでの果樹のオーナー制度のように、1年間のオーナー権証明のNFTとしてしまうと、お手頃な価格で販売はできるものの、購入履歴証明や限定チャンネル入場券以外に付加価値がつけづらく、多くの人にとって理解が難しいNFTを使わなくても…となってしまいます。
個人的にはお酒の初開封証明としてブロックチェーン技術を活用する「SHIMENAWA」のように、NFTによってエモーショナルな価値をつける形にする。NFTに紐づけられたコミュニティトークン(ポイント)等でオーナー制度のシステムを強化する。等がイメージできそうです。
今回の柿の収穫体験会で感じたのは、一本の柿の木を複数人で所有するということの可能性です。例えば、法人、国内のNFTのデジタルコミュニティが、1本の柿の木のオーナーとなり、その収穫体験をメンバーに送る等の福利厚生的な役割もありなのかなと感じました。
DAO(Decentralized Autonomous Organization : 自律分散型組織)等のコミュニティで柿の木を保有するためにNFTで用いてオーナー権の集金をし、保有した柿の木から採れた柿をコミュニティ貢献度に合わせてお礼として贈る等は面白そうです。
米のオーナー制度×NFTの取組である石高プロジェクトの事例を参考にして。トークンを絡ませる妄想をしてみました。
①柿の木オーナーNFTホルダーに1NFTあたり500Kaki-token、生産者の農悠舎に1000Kaki-tokenを付与する。
②そのコミュニティの貢献度(カフェに行く、盛り上げ案件をDiscordで作る)や五條の柿の拡散等を行った方にkaki-tokenを贈る事ができる。
③kaki-tokenは10個で柿1個と交換ができる
ユーティリティがあれば、収穫期後もコミュニティの活性化につながるとともに、生産者側の「五條の柿」を知ってもらうという目標にも近づけるかもしれないなと妄想してみました。
Why NFT?の問いは常に持ちながら、色々考えていく必要があるかなと感じます。今後の動きに目が離せません。