![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/162876334/rectangle_large_type_2_7d86aacd1151f39c7dc098d7ec6d4c1a.png?width=1200)
どんぐりと林業、需要と供給の話
どんぐりを育てるという、面白そうな事業から妄想を膨らませたら、林業の課題や、需要と供給のことにも行き着いたので、メモとしてアウトプットしてみます。
戻り苗を知る
フェイスブックで『ベンチャー企業「ソマノベース」の「戻り苗」というサービスに個人や60社という企業が購入する等、広がりを見せている』という日本経済新聞の記事が目に入り、「これおもしろそう」と調べてみました。
期間限定盆栽→地球に貢献という経験
「戻り苗」の公式サイトを見ると、購入者は次のような体験ができるようです。
戻り苗をネット購入
期間限定で盆栽や観葉植物のように、どんぐりの木(令和6年11月時点ではウバメガシという種類)を育てる。育て方等のアドバイスももらえる。
2年間、育てたどんぐりの木(苗)を森に還す。
育てた苗木を自分で植える「植林ツアー」や同じ地域の山で育った「木材製品」を購入もできる。地域と繋がるきっかけにもなる。
面白い取組みなので、ポッチと1万2000円プランに参加。楽しみです。
ソマノベースの設立目的
最も興味深いのは、会社の設立目的です。会社紹介のページには、『「ソマノベース」は土砂災害を防ぐためにつくった会社です』とあります。
代表の 奥川 季花(ときか)氏は、故郷『和歌山県那智勝浦町』で、大きな土砂災害の被害に遭い、災害を経験して、復興のボランティア作業に参加しているうちに、土砂災害を防ぎ、故郷を守りたいという想いが強くなったといいます。
サイトの中には、土砂災害の原因の一つに、山林の荒廃、林業の荒廃ということが紹介されていました。
なぜ日本の山はスギやヒノキ林ばかりなのか
日本の山をイメージするとどうしても、スギやヒノキの林を思い浮かべてしまいます。でも、本当に日本の山の本来の姿はそのイメージどおりなのでしょうか?
スギやヒノキが多いのは国の戦後復興時の造林推進によるもの
引用された林野庁のサイトにはこうあります。
日本では、戦時中や戦後の過度な伐採により荒廃した山地の復旧や高度経済成長期における木材需要の増大など、各時代の社会・経済的要請に応えるため、木材として好まれ、成長が早く、日本の自然環境に広く適応できるスギ・ヒノキの造林を推進してきました。これらの人工林は木材資源であると同時に、国土の保全や地球温暖化の防止、水源のかん養等の多様な公益的機能を発揮しています。
日本の人工林面積のうち、スギ・ヒノキ林は約7割だそう
![](https://assets.st-note.com/img/1732286729-ROwz43taLEnYZMJ6qQjiBVfb.png?width=1200)
人工林のうち「スギ」「ヒノキ」「その他」に記載した割合は、人工林面積に占める割合
林野庁『スギ・ヒノキ林に関するデータ』より
また、日本のスギ・ヒノキ林の多くがすでに伐採適期(スギは10齢級(46-50年生)以上、ヒノキは11齢級(51-55年生)以上が標準伐期齢を超えた森林)となっています。
![](https://assets.st-note.com/img/1732286865-esVBx72FMtXY19qaUNd0EmfP.png?width=1200)
林野庁『スギ・ヒノキ林に関するデータ』より
林業の担い手不足
比較的成長が早いスギ・ヒノキでも使われるのは、半世紀先の話になることから、林業とは相当、長期的視点が必要な産業です。
たぶん、戦後復興時には国が豊かになり、家の作り方も、木材の調達方法も当時、予想もできない環境になったと思います。
10数年ほど前ですが、山林を持つ木材商の社長が「昔は山1つでベンツが買えた。今はせいぜい軽トラ程度。」みたいなことをおっしゃっていて、そら荒廃は進むなーと思った記憶があります。
林業が儲からなくなった理由として次の4点が考えられます。
価格の不安定性
国産材の価格変動が大きく、需要者から「不安定」という印象を持たれています。これにより、安定供給と安定価格を求める需要者が国産材の利用を躊躇する傾向があります。生産コストの高さ
日本の山の急峻さや管理コストの高さにより、国産材の生産コストが高くなっています。これが適正な流通価格の維持を難しくしています。輸入材との競合
国が豊かになり、円の価値も戦後に比べると高くなりました。それにより、これまでは安価な輸入材との競争により、2.のような生産コストが高くなる国産材の価格競争力が弱まってしまいました。現在は円安やウクライナ情勢等でロシア材の輸入が難しくなって住宅メーカーの木材供給先が国産材へ向いてきていることや燃料費の高騰により国産材の価格も上がっているようです。木材の価値観の変化
古民家の柱や天井板をみると木材の節がないものが多いと思います。昔の木材の価値は枝があった後に見られる節のないものが良品とされ、無地材として高価に取引されていました。しかし、プリントの合成板などが増えてくると、逆に無地よりも節のある方が自然な感じがして良いなどの価値観が生まれ、無地材という木材自身の単価を引っ張り上げる等級の価値が落ちていきました。もしかするとこういったことも、無地材を作るための枝落とし等の管理が不十分になり荒廃につながってしまったのかもしれません(私の邪推かもしれませんが)
話を戻します。
スギ・ヒノキはどうしても建築資材としての用途が多いように思います。「戻り苗」の樫は建築資材というよりも、椅子や机などの家具に用いられることが多いです。そういった、用途の多様性も現在では求められる要素ではないかなと思います。また、最近では、カーボンニュートラルの考え方から企業が経済活動によって排出した二酸化炭素を相殺するため、森林による炭素固定分を購入するカーボン・オフセットの取組が進み始めています。
森林の整備を行うことは、上記のように防災の社会的効果もあるので、そういった視点でも「戻り苗」やカーボン・オフセットが林業としての収益改善の一助となればいいなと思います。
右にならえで行動することのリスク
最後に、行政職員としての施策を打ち出す際の注意点もこの中に含まれているなと…。
野菜価格の暴落やニュータウンの空き家問題と一緒で、「せいの」で作っちゃうと、「せいの」で出来たり、「せいの」で老朽化しちゃうので、引き受ける側がお腹いっぱいになる。
需要と供給のバランスを崩しかねないというリスクは頭の端に入れておかないといけないなと考えさせるきっかけになりました。
山と一緒で、社会も多様性がある程度ないとだめなんだろうと思います。
最後までお付き合い頂きましてありがとうございました。