【小説】真神奇譚 第二十二話
小四郎と五郎蔵は礼を言うと茜の後に続いて神社の裏まで行くとなるほど人目に付かぬ場所に洞窟があった。
二人は横になると疲れがどっと出たのかすぐに眠ってしまった。
日も暮れて、小四郎はそろそろ五郎蔵も起こそうと思っていると、入り口に気配がして誰か入ってくるのを感じた。
「誰だ」小四郎は身構えると同時に五郎蔵を揺り起した。
「私です。茜です」
「茜殿か、失礼した。長い間の旅暮らしでなかなか気が休まらないものでな」
茜は優しく微笑むと持ってきた食べ物を置いた。
「よく休めましたか。となり村からきた人のはなしでは結界の番人たちがあなた達を探し廻っているそうなのです。この村に来るのも時間の問題ですから、村の者もあまり知らないもっと山奥の隠れ家に移ってもらいます。急いでください」
まだ疲れの見える五郎蔵を励ましながら、山を登っていくと大きな洞の開いた椎の木の大木が見えた。
「この洞の奥が広くなっているからそこに入っていて下さい」
茜はそう言うと急いできた道を戻って行った。
なかなか居心地の良い場所でしばらくここで暮らすことになった。
「そうでしたか、あの白いのと黒いのを見ていると隠れ里の中の様子も心配でしたが良い人たちに会えて良かったでやすね。これもあっしが毎日旦那の無事をお祈りしていたお蔭ですよ」
「なに言ってんだよ、そんな訳ないだろ。それで旦那、それから今までどうしてましたか」
「与兵衛殿と茜殿によくしてもらったが五郎蔵さんは気落ちしたのか体調が戻らず、残念ながら一か月後に亡くなったよ」
「五郎蔵さんはかわいそうでしたね、せっかく生まれ故郷に帰ってこられたのにすぐ亡くなっちまうなんてね」
「そうでもなかったぞ。死に顔は私には満足そうに見えた。望み通り最後に生まれ故郷を見ることが出来たのだからな。与兵衛殿の計らいで父親の隣に墓も建ててもらったしな」