【小説】真神奇譚 第二話
「いかがです旦那。なかなか良いところでしょう。しばらく厄介になりやしょう」
「とにかく疲れた。一休みさせてくれ」
「あっしは水場を探してきますから旦那はゆっくり休んでいてくだせえ」
小さな影はそう言い残すとさっと扉から出て行った。
「いつもすまんな」と言い終わらぬうちに姿は消えていた。
しばらくするとはたまた息せき切ってどこで拾ったか一升瓶を背負って駆け戻ってきた。
「旦那、水はすぐそこに小川が流れてますんで不自由しませんや。失礼して一口頂きやす」眩次は一升瓶をラッパ飲みすると満足そうに大きく息を吐いた。
「せっかく汲んできた水を早速飲むやつがあるか。水場で飲んでこなかったのか」小四郎は呆れた顔でため息をついた。
「そりゃそうですね。面目ない。また行ってきやす」
「待て待て、次で良いから少し落ち着け」小四郎は無理やり眩次を座らせた。
「そうだ、旦那、この社の鳥居をよく見たら三峰神社と書いてありやしたよ」
「三峰と言えば我々の仲間と縁の深い神社だと聞いたことがある。ここはその末社なのだな。何か手がかりになる物があるやもしれん。ひと寝入りする前に探してみよう」
「ところで旦那、手がかりになる物ってどんなものです」
「そりゃお前、手がかりは手がかりだよ。そんなことくらい自分で考えろ」
しばらくの間手分けして社の周りや中を探しては見たもののそれらしき物は見当たらなかった。
「旦那、それらしきものは何もありやせんね」
「まあいい、そんなに簡単に手がかりが見つかるはずもない。明日からは山の中を歩き回らねばならんからな。今日は休むとしよう」
小四郎と眩次は長旅の疲れもあってすぐに眠りに落ちた。