鉄拳は人生だ・中編

2009/3

・イトシュンに惨敗したねじまき鳥は、戦いを忘れまた平穏な日々を取り戻していた。
このまま時の流れに任せて、人並みの幸せを願うのも悪くはない…か…
ねじまき鳥は久しく感じることのなかった安らぎを満喫していた。
しかし、やはり戦いに生きる宿命は、彼を長く放っておくことはなかった。
(おっ、良い感じにアイアンフィストトーナメントっぽくなってきた♪)

ある日のこと…

「鉄拳強いんだって?やろうよ☆」

『TAGしか出来ないよ』

「TAGなんてやったことないな。4は出来ないの?」

『4つまんねーよ。クソゲーじゃん』

「え~超楽しいのに…」

『TAGだったら俺持ってるから今度やろうよ』

「オッケー☆(まぁどうせ勝てるだろ…)」

彼は高校からの友達で、後に伝説となるチーム『大乱闘鉄拳ブラザーズ』や『☆ミラクル真央☆』を創設した漢、『カイジ』だった。
確かに、おれもイトシュンには惜しくも敗れたが、その辺のゲーマー風情に負けるはずがない。そうだ、寧ろあの時だってハメられたんだ。イトシュンとやった時…おれが勝ちそうになったら彼はおれのコントローラを抜いたんだ…。…いや、それやったのはおれだったっけな…まぁそこはそんなに重要じゃないけど、とにかくあんな屈辱を2度も味わってたまるか。
この世の本当の絶望というものを知らないこの甘ったれのゆとり坊っちゃんめが…地獄を見せてやろう…


まぁ軽く、

10勝60敗くらいですた。地獄見せられますた。アフハバファヒブヒデヒデブ

イカサマだった。彼は完全にイカサマをしていた。
あとちょっと、というところまで追い詰めると、決まって彼のキャラは回復しにどこかへ消えた。
おい…プロレスじゃねーんだぞ!タイマンだろうが!出てこいや!
…まぁ…実際は追い詰めたこともあんま無かったんだけどね、うん…
おれの可愛いシャオたんが追い詰められて同じ様に回復しようと思ってもそれを邪魔してきて泣きそうになった。アイツ、それ見てニヤニヤして声も出さずに笑ってたんだ。ひどいよ。ひどいよ。
タッチして出てきた仁は何度もタイミング合わせられて浮かせ技入れられた。取り敢えず登場したらコンボ食らって3割減ってからスタート、が普通みたいになってた。しかもおれの必殺の真羅刹がTAGには無かった。あんなに練習したのに…
逆に彼の方は風神拳で浮かせたと思ったらタッチして違うキャラ出したりしてきた!隙がねぇ…
その他にも吉光が剣回転しながら空から降って登場するのとかやられてなんかもう救えないくらいボコボコだった。モンスターにハメられたりもした。もう半べそ通り越して開き直ってたわ。

Q、これは鉄拳ですか?

 はい、鉄拳です。
→いいえ、これはプロレスです。

悪いけど…おれ、テケナーだから!!!


・カイジに騙された傷もだいぶ癒え、師走も終わりに近付いていたある夜のこと。おれは高校時代の仲間と立川で飲んでいた。そこにはカイジもいた。
だいぶ飲んで場も出来上がってきた頃、カイジはほろ酔い気分のおれの所へ来て、酔いが一気に醒める様な言葉を発した。

『お前さー、鉄拳5出たの知ってる?かなり面白かったよ』

(^・ェ・)

(・・?)

…………

((( ̄□ ̄;)))!!!!!

「マジで!!?(@゚▽゚@)」

『しかもここ(飲み屋の入っているビル)の2階のゲーセンに入ってたよ』

「ふーん…じゃあちょっと…行ってくるわ…(・_・|」

それが立川オスロー1号店だった。そこには2セットの筺体があり、23:30を回る頃にも関わらずどちらも稼働中だった。画面を見るとそれは紛れもなく鉄拳の映像だった。その場で飛び跳ねたくなるくらい心が舞い上がった。おれのシャオおれのシャオおれのシャオ

しかし、幾つかの違和感があった。

まず、対戦中のアンナの服がダサかった。「アンナってこんなダサいカッコだったっけ…」と思った。後で知ったことだが、あれこそがカスタマイズというものだったのだ。つまり、あれは彼のセンスそのものだったのだ。
RNも覚えていないけれど…あの時はダサいなんて思ってごめんなさい!
次に、そのダサいアンナは他のプレイヤーと違い、勝敗数が表示されていなかった。その代わりに、そこには物凄くインパクトのある文字がこう刻まれていたのだ…


【無敗】


スゲー!コイツまだ1度も負けたことねーのか!半端ねーな…あんまり強くない感じだけど…
しばらく見ていたらそのアンナは案の定、乱入してきたヤツに普通に負けた。ついに無敗記録が…!とおれはアンナ使いに同情した。
アンナ使いはそれでも懲りずに乱入していた。「なるほどね~1度でも負けたら勝敗数が表示されるシステムなのかな」とだいぶ酔いの醒めた頭でボンヤリと考えていた。しかし…

【無敗】

(゚□゚;)!!!!!

ええええええーいやいやさっきアンタ思いっ切り負けてたじゃん!あれ…もしかしておれ意外と酔ってるのかな…
などとひどく混乱したことを覚えている。

今思えば初めて見た称号というものがよりによって【無敗】だったとは…無知の誤解と偶然って恐ろしいし恥ずかしい…(*/ω\*)

そして、これがおれの鉄拳ライフの重要なターニングポイントとなる鉄拳5との邂逅だった。


続く

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