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大学授業一歩前(第129講)
はじめに
今回は政治学者の大井赤亥先生に記事を寄稿して頂きました。お忙しい中作成して頂きありがとうございました。是非、ご一読下さいませ。
プロフィール
Q:ご自身のプロフィールを教えて下さい。
A:政治学者の大井赤亥です。専門は20世紀イギリス政治から出発し、ハロルド・ラスキという政治学者に焦点をあてて『ラスキの政治学』(2019年)という本にまとめました。
その後、関心を現代政治に大きく振り向け、現代世界秩序の考察を『武器としての政治思想』(2020年)へ、ポスト冷戦期の日本政治の分析を『現代日本政治史』(2021年)として世に問いました。
2021年年には衆院選挙の候補者としても活動しました。政治学の知見を社会に還元し、時代の現実を掴む政治学を目指しています。
オススメの過ごし方
Q:大学生のオススメの過ごし方を教えて下さい。
A:授業はもちろん知的刺激を受ける場ですが、結局、一つの授業は週一回90-100分程度のふれあいにすぎず、それ以外の時間、すなわち一人でいる時間に何を読み何に触れるかが大事だと思います。
大学の授業は「このテーマに関心を持ったらどんな本を読んだらよいか」を教えてくれる「読書案内の時間」かもしれません。2005年にオックスフォード大学に留学しましたが、このテーマに関心を持ったらこれを読めというReading Listが充実しており、今考えてもそれが重要だと感じています。
必須の能力
Q:大学生に必須の能力を教えて下さい。
A:「学びて思はざれば則ち罔(くら)し。思ひて学ばざれば則ち殆(あや)ふし」。2001年、私自身が大学1年生の時、評論家の加藤周一さんを大学に招いて講演しもらいましたが、その際に加藤さんが学生に投げかけた論語の言葉です。まずは謙虚に虚心坦懐に、自分を殺して対象を厳密に認識しなければなりません。そうでなければ独断や思い込み、あるいは主観的な「正義」にも陥ってしまう。
他方、知識の吸収を踏まえて、その使い道を自分の頭で考えなければなりません。知識を活用するための、自分なりの価値判断を形作っていかなければ、知性の公共的使用(カント)とはいえません。その双方の重要性を説いた言葉と受けとめています。
学ぶ意義
Q:先生にとっての学ぶ意義を教えて下さい。
A:逆説的ですが、「バカになれる」こと、と思います。世の中には、一見まっとうに聞こえる主張ながら、よく吟味すると中身がスカスカだったり不正確だったり、「はったり」だったりする議論がたくさんあります。厳密な学問の経験をしていないと、これらの議論に遭遇した時、「理解できないのは自分が無知だからかもしれない」と怖気づいてしまいます。
自らの知に自信があれば、堂々と「すいません、私バカなんでよくわかりません。もっと明晰に説明してもらえますか?」と言うことができます。そのような単純だが本質的な問いを、臆せずに出せるようになります。
オススメの一冊
Q:今だからこそ大学生に読んでおいてほしい一冊を教えて下さい。
A:一冊といえば、やはりJ・S・ミル『自由論(On Liberty)』(関口正司訳)をあげたい。個人の自由が、自分にとっても、社会にとっても、なぜ重要かを説明しています。
SNSでのフェイクニュースからプーチンのウクライナ侵攻まで、世界に暗澹たるニュースが流れていますが、それでも私がやはり人間の「理性」に信頼を置いているのは、ひとえに大学時代におけるミルとの出会いゆえです。
メッセージ
Q:最後に学生に向けてのメッセージをお願い致します。
A:現在の大学生がおかれている立場は、時代的にも、経済的にも、大変に厳しいものがあると思います。とりわけコロナ禍の学生生活は今の世代の共有体験であり、今の大学生は時代の重荷を背負っている。
しかし、人は自分が生まれ落ちた時代から逃れることができません。大学生活で獲得した知を、少しでも同時代が明るくなるように、将来への展望が開けるように、最大限に活用してほしいと思います。
おわりに
今回は政治学者の大井赤亥先生に記事を寄稿して頂きました。お忙しい中作成して頂きありがとうございました。
私自身は先生の『ハロルド・ラスキの政治学 公共的知識人の政治参加とリベラリズムの再定義』を昨年、「難しいなぁ」と唸りながら読みました。一人の政治学者を対象に論文を書くお手本として今も再読しております。
大学生活で獲得した知を、少しでも同時代が明るくなるように、将来への展望が開けるように、最大限に活用してほしいと思います。
このメッセージを私自身も考え、実践できるように頑張っていかなければ!と改めて実感しております。次回もお楽しみ!