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大学授業一歩前(第136講)
はじめに
今回は文芸翻訳を中心にご活躍なさっている越前敏弥様に記事を寄稿して頂きました。大変お忙しい中、作成して頂きありがとうございました。是非、ご一読くださいませ。
プロフィール
Q:ご自身のプロフィールを教えてください。
A:越前敏弥です。おもに文芸翻訳の仕事をしています。ミステリーが多いですが、純文学、ノンフィクション、児童書などを訳すこともあります。英語学習者向けの著書も何冊か書いています。2021年から学習院大学で翻訳演習の授業を担当中。大学時代にどんなふうに過ごしたかは東京大学文学部のサイトに、各種講座やトークイベントなどの情報はnoteにあります。
オススメの過ごし方
Q:大学生にオススメの過ごし方を教えてください。
A:大学の翻訳演習の授業を、去年は完全オンライン、今年はハイブリッドで進めています。授業の効率自体はオンラインのほうがいいのですが、キャンパスでみなさんの生き生きとした笑顔を何度も見たいま、できるかぎり対面でおこなうべきだと痛感しています。
寺山修司に『書を捨てよ、町へ出よう』という作品がありますが、みなさんにはぜひ「書とともに」町へ出てもらいたいと思っています。
必須の能力
Q:大学生に必須の能力を教えてください。
A:いまはスマホとSNSで断片的な情報はいくらでも手にはいりますから、それらの真偽を見分けて取捨選択し、自分なりの「知」として血肉にする力が必要でしょうね。「知」の体系としての書籍は、まさにそういうことのためにあります。
少しの訓練さえすれば、動画よりも文字のほうが時間の無駄なく情報を収集できるようになるでしょう。結局、そのほうが楽です。
学ぶことの意義
Q:先生にとっての学ぶことの意義を教えてください。
A:若いころには、学ぶことの意義などを考えて迷ったこともありますが、歳とともに、ただ楽しいから学ぶようになってきたと思います。翻訳という仕事をしていると、脳のいろいろな部分を刺激されます。何歳になっても、知らないことはなくならないどころか、むしろ増えていく。どんな仕事にも、そういう側面はあるでしょう。だからこそ楽しんでつづけられます。
オススメの一冊
Q:今だからこそ大学生に読んでおいてほしい一冊を教えてください。
A:いま思いついたのは手塚治虫の連作『火の鳥』ですね。太古から果てしない未来までの地球の歴史を、不死身の鳥を狂言まわしにして描く超大作です。自分はなぜ生きているのか、人類はなんのための存在しているのかを考えるきっかけになります。最初の2冊(黎明編、未来編)だけでも読んでみてください。特に未来編は、作者がいかに鋭く人類の将来を予見していたかがわかって、戦慄します。
メッセージ
Q:最後に学生に向けてのメッセージをお願いします。
A:いま、わたしの周囲にいるとびきり優秀な人たちのなかには、高卒や高校中退、あるいは有名大学出身ではない人などがたくさんいます。ただし、全員に例外なく言えるのは、長期にわたって、興味のあるものを徹底的に追い求めてきたということです。その時期は人それぞれですが、みなさんも少々のまわり道を恐れず、ぜひ学生時代に何かに夢中で取り組んで、たくさんの「引き出し」を作ってください。
おわりに
今回は文芸翻訳を中心にご活躍なさっている越前敏弥様に記事を寄稿して頂きました。大変お忙しい中寄稿して頂きありがとうございました。先生の著作には私自身も大変お世話になっており、その中でも特にオススメの一冊は『「英語が読める」の9割は誤読 翻訳家が教える英文法と語彙の罠 』ジャパンタイムズ出版です。読めていると思い込んでいたことを実感できました。
ただ楽しいから学ぶようになってきたと思います。
楽しいから学ぶ。もしかすると学ぶことの意義と硬く考えなくても良いのかもしれませんね。次回もお楽しみに!!