2024大学ラグビー関東対抗戦:早稲田対青山学院を簡単な数字で見てみた
みなさんこんにちは
気温差が激しい今日この頃、いかがお過ごしでしょうか
今回は10/12に行われた関東大学対抗戦、早稲田大学対青山学院大学の試合について、レビューをしていこうと思います
それではメンバー表から
次にスタッツです
それでは順番に見ていきましょう
早稲田のアタック・ディフェンス
早稲田のアタックシステム
今シーズンの早稲田のアタックの大きな特徴といえば、10番と12番の組み合わせからなる複層的なアタックラインと、ハンドリングがうまく器用なFWの細かいパスを繋いだ攻撃的なシステムといったあたりが挙げられるかと思います
服部選手がメインの10番を務めるようになっておそらく2試合目といったあたりかと思いますが、結果的にはかなりハマってきたということができるかと思います
アタックラインのコントロールという点ではまだ伸び代があるかとは思いますが、自分でも仕掛けることのできるランニングスキルと、何よりも超長距離のキックがゲームの盤面を大きく動かすことができているように見えました
12番の野中選手も学年が上がるにつれて安定感が増し、3年生となった今年も12番を主戦場に、SO的な役割も果たしながらボールを大きく動かすことに貢献しています
12番としてのパンチに関してはもう少し伸びが欲しいところですが、今年の早稲田のアタックスタイル的に自分でガツガツ仕掛けるというよりは二大司令塔スタイルでゲームを動かすことが求められているようにも見えます
そのため、現状大きな問題は見られていません
ポッドのスタイルとしては9シェイプと10シェイプを比較的バランスよく用いながら、FWが堅実に前に出るようなキャリーを見せています
ただ、今回の試合の中では細かいパスワークを繋いで前に出るというよりも、相手との1対1を体の強さを生かして制し、前に出ようとする動きを見せていたようにも感じました
そのためかはわかりませんが、全体的に階層的な構造を作ってアタックをするフェイズは比較的少なく、パスをいくつも重ねて外志向のアタックをしているようにはあまり見えませんでした
むしろ、そこにある選択肢に対して1回のパスの投げ分けでバリエーションを作って相手を惑わせていたという表現の方が近いかもしれません
普段の試合では主将でもある佐藤健次選手が最もスイベルパスを多く、かつ効果的に使っているシーンを見せているため、もしかすると同選手の欠場も試合様相の変化にもつながっているかもしれません
全くないわけではなかったですが、普段のイメージに比べると少なかったように感じます
また、特にゲームを大きく動かした要素としては「キック」が挙げられるかと思っています
裏のエリアは主に10番の服部選手と15番の矢崎選手が張っていましたが、特に服部選手のキック水準が非常に高く、前回の試合と同様に相手のポゼッションを大きく後ろに下げることに成功していたと思います
一方で青山学院が好んで用いてきたハイパントキックに対しては若干後手に回っているようにも見受けられ(こぼれ球からのトライフィニッシュはあったものの)、青山学院に効果的にボールを再獲得されていたようにも見えました
大まかなイメージで言うと、青山学院の選手に「より高いエリア」を確保されていたような感じで、ボールをクリーンに確保されないまでも青山学院に有利な位置どりをされていたように感じます
その辺りに関してはもちろんバックフィールドを守っている選手のハイボール処理の水準ということもできるかと思いますが、もしかするとエスコートと言われるような「反則にならない範囲で相手のチェイスコースを妨げる動き」の部分で改善できるところもあるかもしれません
全体的に相手に容易に深くまでチェイスされているようにも見えました
セットピースの部分で言うと、スクラムが圧倒できたのはゲーム運びの最低ラインの担保につながっていたと思います
レフリングによる部分も大きいですが相手をわかりやすく押し込むことができていて、ペナルティにつなげたり、プレッシャーを緩和した状態でアタックに繋げることができていました
一方でラインアウトは若干苦戦気味というか、青山学院サイドのラインアウトディフェンスにハマってしまうシーンも多かったようにも見えます
この辺りは相手の戦略によるところも大きいですが、特に前半最初の時間帯といった勢いを出したいタイミングでミスが続いていたのは、後半立ち直ったとはいえ、改善点として挙げられるかもしれません
早稲田のキャリー
早稲田の強さとして、目立った大きさのある選手が揃っていなくても前に出られる選手が揃っていることが挙げられます
2番の安恒選手や13番の福島選手など、トライにこそ繋がらなかったものの粘り腰でアタックにテンポを出すことのできる選手が躍動していました
キャリーの回数は88回と、青山学院の回数に比べると圧倒しているといえます
試合全体を通じて両チームともにセットピースが多かったこともあって、圧倒していた試合展開の割に少ないと言えることもできるかと思いますが、キャリー数から推定できるポゼッションに関していうと、試合の大きな部分を支配していたということができるかと思います
細かく見ていくと、9シェイプは23回、10シェイプは8回といった数値を示しています
統計を取ってはいないのですが、体感としては比較的バランスの良い数値になっているように思います
アタック全体の中だと25%ほどが9シェイプであるということもできるかもしれません
一方でポッドの絡まないアタック(一部ポッドに似た配置はありましたが)を見ると、中央エリアで23回、エッジエリアで13回といった数値が見られます
傾向的には中央寄りのアタックをしていたということができるかもしれません
試合を見ていたイメージとしてはもう少し外側だったような気もするのですが、中盤で手堅く当てこんでいたという見方もできるかと思います
早稲田のパス
早稲田のアタックをパス回数で紐解くと、試合全体で152回のパスを生み出しています
一般的な水準から考えても多く、キャリー回数と比してもかなり多い部類に入るので、ボールを大きく動かしているということができるかと思います
ラックからのボールは26回が9シェイプ、同じく26回がバックスラインへと渡っており、ボールをバランスよく動かしていることが見て取れるかと思います
バックスラインへのボールの多くは10番の服部選手が受けており、ゲームをコントロールする選手に的確にボールが渡っている様相をみることができました
一方で9シェイプ、または9シェイプに類するアタックの中で13番の福島選手や15番の矢崎選手がボールを受けにいっていたのも印象的なシーンではないかと思います
青山学院のディフェンスは時間が進むにつれて緩くなり、ディフェンスライン内のギャップが増えていきました
福島選手・矢崎選手の狙い済ましたキャリーはそのギャップを効果的につくことができていたように感じます
バックスラインへと渡ったボールは28回ラインの中で動かされ、9回が10シェイプへと渡っています
絶対数としては少ない10シェイプへのパスですが、他のチームの数値と比べると一定のこだわりが見られる数値ではないかと思っています
10シェイプの周囲に12番の野中選手を配置することによってラインに色を加えているような様子もあったので、全体的にボールを動かす傾向があったのは間違いないでしょう
早稲田のディフェンス
早稲田のディフェンスは基本的なレベル感でいうとかなり高水準を誇っていたように思います
相手を圧倒するようなモーメンタムこそないものの一人一人のタックルスキルが高く、しっかり前に出て相手の勢いを止めることができていました
タックル成功率も90%越えと、下位のチーム相手とはいえ良い水準をキープすることができていたのではないかと思います
一方で早稲田側が圧倒的な試合運びをしている割にはミスもあるという見方もできるかもしれません
弾かれるシーンこそ見られなかったものの、タックルの緩みは一部で見られたようにも感じました
また、青山学院側の激しく何度も仕掛けてくるキャリーに対してディフェンスに微妙なズレが生まれ、少なからず前に出られるシーンもあったと思います
ただ、ゴール前の粘りに関しては早稲田らしい激しさと冷静な動きが見られていたように見えました
しっかりと体を当てこんでいて、ブレイクダウンに対するプレッシャーも定期度にかけているため、一度ズレが生まれて少し前に出られても、その隙をつかれるようなシーンはなかったように感じます
青山学院のアタック・ディフェンス
青山学院のアタックシステム
前回の試合ではキックを効果的に活用しながら筑波大学を破った青山学院ですが、今回の試合でも大まかな部分では戦略的要素は変わっていなかったように思います
15番の井上選手を中心にロングキックとハイパントを交えながら、エリア取りとアタックでの前進を狙っていたように見えました
キックの中心となったのは井上選手からのロングキックで、早稲田が蹴り込んできたキックに対しては高確率でロングキックで蹴り返すことによって抑え込みを図っていました
ただ、この狙いに関しては早稲田の服部選手の採算にわたるモンスター級のロングキックによって逆に自陣に釘付けとさせれていた要素もあったかもしれません
一方でハイパントに関しては大部分で効果的に働いていたように思います
また、ボックスキックではなくラックなどからのワンパスを受けたSO青沼選手によるキックだったのも功を奏していました
早稲田のディフェンスでの動きがきっちり前に出る動きを見せていた分、裏に比較的大きな空間が空いていることによってチャンスを生み出していました
ハイボールを競りにいくBK3の選手のスキルも高く、しっかりと上の空間を制することができているように感じます
ただ、競れてはいる一方で確実な確保に至らないシーンもあり、そういったシーンではむしろ大きなピンチを生み出すシーンもあったように思います
「うまくいかなかった時の二の矢」といったあたりはコントロールし切ることができていなかったかもしれません
また、相手のキックに対する対応策のバリエーションが薄かったのも渋い結果につながっていたように思います
裏のエリアに豊富に選手を配置しているというわけでもないので選択肢も少なく、相手のチェイスに対して攻撃的な選択肢を選ぶことができていなかったようにも感じました
総合的に見ると、「結果として」なのか「狙って」なのかは分かりませんが、青山学院は「戦う土俵を絞りすぎている」ように見えました
局面ごとに区切ってみると、ディフェンスも含めて大負けしている印象もなかったので、自分たちでアタックの可能性を狭めてしまっているような印象です
もう少しボールを動かす志向があっても面白かったかもしれません
青山学院のキャリー
キャリー回数自体もかなり抑え込まれた印象で、ピック&ゴーを使うシーンもありましたが、全体的に効果的なランニングは少なかったような印象を受けますラインブレイクやディフェンス突破に関しても全体的に控えめな印象で、早稲田のディフェンスに抑え込まれていたように思います
キャリー回数は試合通じて45回と厳しい数値となっており、実際のところ17回はピック&ゴーによるキャリーが占めていたりと、ボールを動かしながらキャリーを生み出すことができたシーン自体が少なかったということができるかもしれません
ゲインラインに関しては算出をしていないのですが、総合的に見るとこちらも厳しい戦いとなっていたということができるかと思います
相手のギャップに対して差し込むことができておらず、むしろ挟まれることによって押し返されるようなシーンもあったように記憶しています
9シェイプでのキャリーは10回、10シェイプでのキャリーは2回と、傾向的には9シェイプに偏ったアタックとなっており、ピック&ゴーの回数と並べると、アタック全体の4割強がFWに依存したアタックになっているということができます
筑波戦ではFW戦にこだわることで活路を見出した様相もありましたが、早稲田戦ではその土俵でうまく仕掛けることができていなかったように思います
ポッド外のキャリーとしては4回が中央エリアでのキャリー、4回がエッジでのキャリーとなっています
先述した情報と合わせてみても、やはりボールを動かしている様相はないということができるかもしれません
ただ、4番の荒川選手や6番の松﨑選手など、粘り腰の効く選手がFWに揃っているのも事実だと思います
特に荒川選手はワークレートも高く、どのようなエリアにもきっちり顔を出すことができていたので、アタック面での貢献度はかなり高いのではないでしょうか
青山学院のパス
パス回数は試合を通じて47回と、こちらでもボールを動かしきれていない様相を見て取ることが出来るかと思います
これまで自分が見てきた試合の中でも、かなりパス回数が少ない部類に入る試合ではないかと考えています
ラックからのボールは11回が9シェイプ、6回がバックスラインへと回っています
この数値からは、「バックスラインへボールを供給することができていない」といった要素とともに、試合のイメージと重ねると「そもそもフェイズ/ラックを積み重ねることができていない」ということを感じ取ることが出来るかと思います
個人的に、試合展開としてキックを使ってフェイズを終わらせる/再獲得を狙うシーンが多く、結果として多くのフェイズを重ねることなくポゼッションの移行が進んでいたと捉えています
アタックシステムの項でも述べましたが、BKには十分勝負できる人員もいたと思うので、少しもったいなかったかな、というのが正直なところです
バックスラインへ渡ったボールは6回6回のライン内パスへつながり、2回の10シェイプへのパスが生まれています
この数値から見ても、バックスライン上ではほとんどボールが動いていなかったことが見て取れるかと思います
特に10シェイプに関しては用いられていないにも等しい回数となっており、バリエーションの薄さが懸念点として挙げられていくかもしれません
青山学院のディフェンス
青山学院のディフェンスとしては、筑波大学戦に続き非常にいいレベル感でまとめることができていたと思います
後半にかけて足が止まってしまったような印象はありますが、全体的に接点の部分で互角に立ち向かうことができていたように思います
タックル成功率も数値としては88%強と、比較的高い水準を示しています
一方で早稲田の矢崎選手に何回も抜かれてしまったシーンなど、ミスマッチやレイジーなセットによって「そもそも触ることもできずに前に出られた」シーンも散見されており、成功率自体には現れてこない問題点もあるように思います
また、体の強い選手たちにコンタクトの部分で上回られ、じわりと前に出続けられるシーンが多かったのも痛手ではないかと見ています
タックル自体が甘かったとは言いませんが、勢いを抑え込めずに前に出られるシーンも多く、ゲインラインを越えられる頻度が増えたことによってフィットネス的な要素にも負担がかかっていたのではないでしょうか
そんな中、ラインアウトのディフェンスは特徴的に見えました
細かい部分は専門外ですが、ポッドを比較的前がかりに配置することによっって相手にプレッシャーをかけるような形でセットしています
その結果として早稲田側のオーバースローをはじめとするミスも増え、アタックを起点の時点で潰すことに成功していたように感じました
まとめ
前節で筑波大学を31年ぶりに破った青山学院大学ですが、良好なコンディション、ミスが極めて少ない早稲田というチームを相手に、試合を通じて厳しい展開となっていたように思います
早稲田としては主将である佐藤健次選手を欠いた状態でしたが、それを感じさせないほどのパフォーマンスを見せていたように感じました
また、矢崎選手の安定したパフォーマンスも素晴らしく、代表合宿に向けて良い弾みになったように見えます
今回は以上となります
それではまた!