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2024関東大学ラグビー春季大会Aグループ:帝京対東海を簡単な数字で見てみた
みなさんこんにちは
リーグワン決勝の翌週、いかがお過ごしでしょうか
今回は5/26に行われた関東大学ラグビー春季交流大会Aグループ、帝京大学対東海大学の試合についてレビューをしていこうと思います
まずはメンバー表から
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次にスタッツです
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それでは順番に見ていきましょう
帝京大学のアタック・ディフェンス
帝京大学のアタックシステム
帝京は今回の試合で特段目立ったプレーをしたような選手はいなかったようにも感じますが、「特段目立つ選手がいない」という平均値の高さにこそ帝京の凄みといったものは現れてくるのではないかと思っています
おそらくは普段通りのプレーになっているとは思うのですが、その普段通りの水準が高いために、少し苦戦したようにも見える試合展開でもむしろ安定感を感じる流れになっています
アタックの主な傾向としては、今回の試合では普段の試合以上に「手堅い」試合運びになっていたのではないかと感じました
12番に入っていた大町選手はCTBでありながらSO適性もあるためにキック視野が広く、要所でキックを挟むことで安定感のあるエリアワークを可能にし、10番の神田選手の左足から繰り出されるキックでどのエリアからでも落ち着いたゲーム展開に持ち込んでいたように思います
15番の吉田選手もキックが伸びるので、どのエリア・どの選手からでもキックが選択肢に入っていたのは大きいかもしれません
キャリーの項目内で詳説しますが、アタックの中心になっていたのは9シェイプになっており、普段の帝京の様相と見比べると若干パス回数が少ないようなプレー選択が多かったように見えました
帝京のポッドの中核となるFWの選手達はどの選手もキャリーに強さと安定感があるので多くのラックが安定していて、一度ジャッカルを許したシーン以外ではSH李選手の意図的なテンポダウン以外では一貫性のあるアタックスピードを展開していたように思います
アタックの主となった9シェイプは若干流動的な様相も示しており、決められたレーン内での前後運動を繰り返すというよりは狙いをつけた方向に適宜おくことで狭い範囲でも質量で押し勝つようなアタックをしていたように見えました
15mラインよりもタッチライン際で作るようなシーンもあり、意図的かの判断はつきませんがある程度のこだわりはあったのではないかと推測します
ゴール前になるとCTBの選手を組み込んだポッドを構築しているようなシーンもあり、柔軟性と流動性を感じました
一方でアタック自体に極端なスピードがあったような雰囲気は感じられず、むしろ意図的に一定のリズムでフェイズを重ねているようなイメージで、ボールレシーブからは体の強さの土俵で勝負をしているような印象を受けました
若干ゆったりとしたアタックテンポの中でも後方のアタックラインを構成する選手で複雑なライン形成をするといった様子はありませんでしたが、そういった場面では各選手の間合いの取り方やキャリースキルでうまく対応しているような印象です
CTB陣がそれぞれ一定のプレー水準を保ちながらもある種の個性を生かしながらアタックに参加していたのも印象的な部分であると思います
先述した大町選手はSO的な視野も持っているので立体的にフィールドを見ながら裏を狙うことにも長けており、控えとして入っていた久木野選手はCTBらしい突破役をそつなくこなしていたりとキャラクターが戦術フローの中にうまく組み込まれていたあたりに面白さを感じました
帝京のキャリー
帝京のキャリーはどの選手も強烈なのは周知の事実かと思いますが、今回の試合ではその上で安定感が目立つような試合展開だったように思います
東海がかなり個々で刺さるようにプレッシャーをかけてきていたこともあってコンタクトエリアはゲインラインから下げられた位置で生まれることが多かったように感じていますが、一方でブレイクダウン周辺でターンオーバーを奪われるといったシーンはそこまで見られておらず、どの選手も即座に倒されることなくボールを丁寧にフィードしたりとアタックに狂いが生じにくいようなキャリーシーンが多かったように感じました
特に強さの面で目立っていたのはダウナカマカマ選手あたりかと思います
昨シーズンの後半で見せていたようなスピードを持って走り込んで強烈なヒットを見舞うようなシーンは控えめでしたが、スピードをあまり出せない中でも持ち前の体の強さを生かして相手を弾いたり、ぐっと前に差し込んだりとラックにプレッシャーを受けにくいようなコンタクトワークをしていたように感じました
それ以外にも平井選手や當眞選手といった走力を兼ね備えたフロントローの選手達が目立つようなシーンも多く、ラインブレイクに貢献したりとブレイクダウンを落ち着かせる以外の役割もきっちりと果たしていたと思います
中でも當眞選手はライン際に張っていることが多く、狭いサイドをSHと攻略したり、崩れたシーンでもらっても弾くようなコンタクトを駆使しながら前進を図ったりとプレーの汎用性の高さをしっかりと見せていたように感じました
キャリー回数としては94回となっており、東海と同水準であることからポゼッションを支配できていたという形ではなさそうですね
ラインブレイクに関してもそう多くはなかったことを鑑みても、今回の試合ではこれまでの春季大会2試合で見せたような「圧倒する試合展開」ではなかったことが見て取れるかと思います
細かく見ていくとポッドを用いたアタックの中では9シェイプでのものが37回、10シェイプを使ったものが8回となっています
後述しますがバックスラインへボールが供給された回数自体はそこまで少ない数値といった感じでもないので、意図的に10シェイプの回数を控えめにしているようにも感じられる数値だったように思います
普段の比率に比べると9シェイプが多いような印象でもあるので、もしかすると相手に応じてこの辺りのイメージを切り替えているかもしれません
シェイプ外のキャリーは18回となっており、中央エリアで10回、エッジエリアで8回といった数値となっています
断言は難しいですが傾向的にはある程度バランスが取れているような数値であり、ガツガツ外側のエリアを狙っていたという形ではなさそうです
試合を見ていた印象レベルでもそこまで外のエリアできっちり走り切ろうとするような様子はそこまで見られておらず、アタック全体の安定感を重視しているような様相を展開していたように見えました
帝京のパス
良くも悪くも特筆すべきようなことはなく、淡々と自分たちがやろうとしていることをこなそうとしているかのようなパスワークだったように見えました
とはいってもそれらのプレー水準が高いのでミスはかなり少なく、例えばパス一つをとっても見方を減速させてしまうようなパスも少なかったように感じています
昨シーズンは比較的よく見られていたバックドアへのスイベルパスも試合全体を通じて3〜4回くらいといった様子となっており、そのうちの一回はセトピースからBKでコンパクトに作った階層構造の中で生まれたものとなっており、ジェネラルフェイズの中で意図的に階層構造を多く用いようとする雰囲気はなかったように感じました
もちろん昨シーズンスイベルパスを得意としていた本橋選手といった選手が代表合宿に行っていたり江良選手が卒業していったという事情もあるかとは思いますが、どうもそれだけではないのではないかという印象もある程度は持っている状態です
パス回数は試合全体でも113回といった数値のレベルにとどまっており、展開もある程度は得意としている帝京の割には少なかったような印象です
ラックからコンタクトが生まれるまでに介在するパス回数もそう多くはなく、自分たちから激しいコンタクトシチュエーションに挑みにいったような様相もあったかと思います
ラックからのパスは39回が9シェイプへ、21回がバックスラインへ渡る形となっており、この辺りの数値からも今回の試合では9シェイプに若干の偏りを持たせながら用いていたことがわかるかと思います
一方で9シェイプで確実にゲインラインを取りにいくようなプレー様相があったかというとそういう感じでもなかったので、9シェイプに関してはリズムを作ることに徹していたということもできるかもしれません
バックスラインへ渡ったボールは11回がバックスライン上でのパスワーク、8回が10シェイプへのパスとなっています
これまでの傾向から見ても今回の試合ではバックスライン内で展開するようなシーンはそこまで多くなく、キャリーまでのパス回数も少なかったりと、フィジカルバトルになるであろう可能性をある程度受け入れた上でのゲーム運びをしているようにも見えました
帝京のディフェンス
今回の試合での特筆すべき点としては、なんといってもディフェンスにあると思います
本当に堅く、ミスをミスのままで終わらせない高い水準でのディフェンスシステムを見ることができたように感じました
シンプルな点で言うとダブルタックルに関しては基本的な要素でありながら高水準でまとまっており、中央付近で起きたコンタクトシーンの多くをダブルタックルで完結させることができていたように思います
東海のキャリー91回に対してタックルは126回程度の回数になっていますが、前半に限って言えば57回のキャリーに対して起きたタックルが82回となっており、半数以上のキャリーに対して二人でコミットしていると言うのが見て取れるかと思います
また、ラインを上げる一連の動きも統制が取れていて質が高く、少し深めのラインでアタックをコントロールしていた東海に対してパスをするごとに丁寧に前に出て圧力を加えており、多くのラックを下げた位置で作らせることに成功しています
内側の選手が安易にバッキングアップのコースを取ることがないので全体でラインを押し上げることができ、穴の少ないラインを作り出していました
東海は昨シーズンに比べると9シェイプを使ったアタックが増えていますが、それに応じるかのようにそのエリアで強固なディフェンスを見せており、先述した統制の取れたラインの中でも9シェイプの主戦場ではより一層前に出ることができていました
ダウナカマカマ選手のような機動力を備えた選手がラインを引っ張るように前に出ていて、それでいて精度が高いので本来9シェイプの部分で期待するようなゲインを東海側は獲得することはできていなかったのではないかと思います
一方外側のエリアのディフェンスに関しては中川選手のような好ランナーに前に出られてしまうシーンも多く、整備が行き届いていないような印象を受けたのも正直なところです
エッジまで展開された時のBK3の選手同士の連携がうまくいっていないようにも見え、結果的に多くのエリアを中央寄りの選手が押さえる必要性が出ていたかと思います
東海のアタック・ディフェンス
東海のアタックシステム
早稲田戦でも見られたように、絶対的な司令塔である武藤ゆらぎ選手の卒業に合わせて転換点を迎えているようなアタックの様相を見せており、具体的な点で言うとSOを旗印とするようなアタックの回数が若干減り、より攻撃的にフィジカルバトルの土俵で戦いを挑むような形です
バックスラインへの展開も少なくはないですが、SO役の選手のタクトの振り方に依存したラグビーからは脱却したように見えました
後述しますがアタック全体としてグラウンドを多く使い切るようなラグビーをしており、タッチライン際での攻防こそ少ないものの、比較的中央エリアとエッジエリアでのラック形成のバランスが良いようにも見えるような形でアタックを繰り広げているように見えました
狭いエリアでは12番のセブンスター選手が1stレシーバーになったりとパスをした後にそのままサポートに入ることができるようなフォーメーションでのアタックラインが作られている時もあり、エリアに偏ったミスの発生といったものはなかったように思います
ポッドの形としては結構きっちりと1−3−3−1のような形を組んでいることが多く、時に外側の3人のポッドを作らずに1人でダミーのフロントラインを作ったりと、一定水準での柔軟性もあるようなアタックをしていました
ポッドでキャリーを終えた選手は大まかにはそのポッド構成のまま後ろに下がるようなかたちでポジショニングを進めていて、大きく移動することで原曲的に数的優位を作ろうとする動きはなかったように感じています
一方でポッド構築の早さに関しては若干求めているであろう水準に対してゆったりとしたペースになっているようにも感じていて、ポッドを明確に有効打として使うことができている頻度はそう多くはなかったのではないかと感じています
ポッド内の位置関係に関しても全体的に幅があるような印象で、外側の選手が一歩前に出ていたりと厳密な形でのフォーメーションは必ずしも整っていなかったようにも感じました
そんな中でも脅威を与えていたのはエッジを使った攻撃で、特にWTBの中川選手やFLの薄田選手がいいキャリアーとなってラインブレイクや前進を達成していたように見えました
帝京側のディフェンスとしても少し動きが緩慢になっているようなエリアでもあったので少し隙が生まれていて、その隙を大きく展開するラグビーでうまくつくことができていた形となります
中央エリアを固めている選手たちも安定感が試合ごとに増している印象で、特に12番のセブンスター選手は本来司っていたエリアからの転換に馴染んできているようにも見えました
キャリーこそ圧倒的な突破力のようなものには至っていないように見えますが、中盤での高めのボール対応であったり、コンタクト・パス・サポートを高水準でバランスよくこなすことのできるスタイルが東海のグラウンドを大きく使うようなラグビーにフィットしてきているように感じます
東海のキャリー
帝京ほどの爆発力を見せるところまでは至っていなかったようにも感じましたが、全体的に高水準でまとまっており、圧倒されるような様子はなかったように感じました
ただ、中央エリアでは相手の強いプレッシャーを受けてしまうようなシーンも多く、キャリーからテンポを出すことに関してはうまくいっていなかった印象です
個々のランニングスキルやコンタクトスキルは高く、スタメン15人の中では14番の中川選手が突出していたようにも感じました
スピードはもちろん狙うべきランニングコースのチョイスも良く、細かい重心移動のみで方向転換ができるのでスピードをほとんど落とすことなく相手を切ることができていたように見えます
チャンスがもう少し多ければ仕留め切るシーンもあったのではないかと思わせるようなプレーぶりでした
またエッジに配置されることの多かった薄田選手も高いレベルでのキャリーを見せており、ランニングスキルを活かした大外での突破や中央エリアでの前進など、身体能力の高さとスキルの精密さを活かしたプレイングが目立っていました
体が強いこともあってどのシーンでもあおられることがなく、東海側に優位な姿勢でシーンを終えていたのが印象的でした
キャリー回数としては91回と帝京側のものと同水準になっており、その中で奪うことができたトライが一つのみだったと言うことを鑑みると、スコア効率の悪さが少し目立ってくるかと思います
特に中央エリアでFWを使ったキャリーにおいての前進効率が悪く、ワンパスを挟んだりレシーバーをずらしたりといった工夫はあったものの、ギャップの生まれにくい帝京のディフェンスにかなりやり込められていたような印象でした
9シェイプでは38回、10シェイプでは7回のキャリーが生まれており、キャリー全体を見てもポッドないしはポッドに準ずる構成でキャリーをする機会が比較的多かったと言うことができるかと思います
一方でポッドを使ったキャリーではコンタクトポイントを大きくずらすことができなかったために圧力を受けやすく、使用頻度の割にはチャンスメイクには至っていなかったようにも見えました
シェイプ外のキャリーでは中央エリアで17回、エッジエリアで16回となっており、前後半で若干様相が異なる形となっています
具体的には後半にかけて外でのキャリーが減っており、こちらに関しては中央エリアでのキャリー頻度を意図的に増やしているようにも感じました
東海のパス
昨シーズンからのイメージを意識してか、バックドアへのスイベルパスが比較的多かったように感じました
一方でそのスイベルパスから展開されたアタックが必ずしも効果的なアタックにつながってるわけではなかったことから、現段階では試行錯誤をしているようにも見えましたね
パスワーク自体はそう複雑な動きをしていると言うわけではなく、シンプルなパスに個々のスキルを活かして打開を図っているような印象でした
セットピースからの展開に関しても若干「オールドスクール」というか、階層構造を緻密に練り上げたといった様相ではなく、強い個々のランナーをいかに生かすかを優先したような形をとっていたように思います
フェイズアタックの中では階層構造やオプションを準備するような立ち位置や位置関係を見る機会もありましたが、惜しかったのは一部の構造において一つのパスで選択肢から切られてしまう位置関係にいる選手が多かったことにあるかもしれません
特に9シェイプと10シェイプのどっちにもならないような位置に立ってしまっている選手が散見されており、一度に4人の選手が選択肢から切れたりと少し非効率的な動きをしていたようにも見えました
また、昨シーズンのようなSOの位置から勢いが生まれるようなアタックはそう多くは見られておらず、SOの奥田選手の立ち位置が浅かったり走り込み切れていなかったりと、勢いを持ったままボールを受けるといったシーンが少ないために勢いを出すのに少し時間と距離がかかっていたようにも感じました
パス自体というよりかはパス前後の動きのレベル感の部分で、そう考えると昨シーズンの武藤選手の動き方の貢献度の大きさを計り知ることができるかと思います
パス回数自体は171回と、一般的なキャリー・パス比である2:3といった水準に比べるとパス回数が多いような数値を示しています
大枠ではその他に分類されるようなパスが多かったのですが、9シェイプをアタックの中核にしながらも展開する時はグラウンドを大きく使うようなラグビーをしており、その際には細かくパスを繋ぐシーンも多かったためにこのような数値になっているのではないかと思います
ラックからのボールは44回が9シェイプへ、30回がバックスラインへと回っており、総パス回数に応じた回数と比率になっているように感じます
昨シーズンはもう少しバックスラインへの展開比率が多かったようにも感じているため、この辺りは現在試行中の範囲内かもしれません
バックスラインへと回ったボールは9回が10シェイプ、25回がバックスライン上でのパスワークとなっており、10シェイプ比率が下がったようにも感じます
東海のディフェンス
東海のディフェンスは早稲田戦から大きく修正されており、高い水準で前に出て相手を仕留め切るスタイルを一貫して続けることができていたように思います
もちろん相手のスコアに応じたミスもありましたが、前半の好ゲームを生み出したのはひとえに統一感のあるディフェンスにあると感じました
若干外側がかぶるような動きを見せながらも全体で揃って前に出ることができていて、個々人の判断レベルにはなりますがグッと加速して前に出てタックルをするスタイルが帝京の勢いを殺すことに成功しており、9シェイプを多用した帝京のアタックを一定水準で抑え込むことに成功していたと思います
これに関してはFWの選手全員が高水準を保っていて、誰がキャリアーの前にいても前に出る判断のレベル感は高かったように見えました
その分ブレイクダウンにガツガツ仕掛けるようなシーンは多くなかったようにも見えましたが、ラインの勢いで押さえていた感じですね
一方でタックル成功率単体で見ると80%前半といった数値に留まっており、もう少し上げていきたいところではあると思います
帝京が得意としているような中央エリアでの突き崩しにはある程度対応できていたように感じますが、どのエリアでも数回のミスタックルが生まれているような状態であり、その一回のミスタックルを簡単にスコアに繋げられてしまったのが今回のようなスコア差につながったということもできるかもしれません
まとめ
東海に関しては先日の早稲田戦以来のレビューとなりますが、かなり修正を効かせてきているように感じました
ディフェンスの水準がかなり上がっている様子を見せており、現時点で堅く押さえられているエリアの一つ外をうまく抑えることができれば秋も十分に戦うことができるような水準に達するようにも感じます
帝京は前半少し抑え込まれるようなシーンが目立ちましたが、細かい隙をついて打開していくところに関しては王者の上手さを感じました
この選手層に代表合宿に行っている選手が合流することを考えると今から秋シーズンが楽しみになりますね
今回は以上になります
それではまた!