見出し画像

ミニコラム:「大学生日本代表」矢崎由高を見る

日本代表の試合を見ている、もしくは応援しているラグビーファンの中で「矢崎由高」という名前を知らない人は恐らくいないでしょう
もはや「知らない人はいない」と断言していいと思います

桐蔭学園→早稲田大学とスター街道を進んできた矢崎選手は昨シーズンの大学シーンでも優れたパフォーマンスを見せていました
U20カテゴリーにも早い段階で参加し、今シーズンは U20よりも日本代表でプレーしていた期間の方が長いという、現在日本で最も優れたBK3であるとの評価も高い同選手について今回は見ていきたいと思います


矢崎選手の良さ・持ち味

様々な良さが挙げられることは想像に難くないですが、個人的には矢崎選手はランニングスキルが突出した存在であるということを特に言及していきたいと思っています

では矢崎選手のランニングスキルのどの部分が優れているのか

こういったところはあまり明確に言及しているメディアはあまりないように感じています
極端な話どの側面をとっても優れているといっても過言ではないので限局した言及が難しいということも考えられますが、今回はそういったところをあえて限局して語ってみたいと思います

私が矢崎選手のプレーを見て特に優れていると思う部分は、一言で言うと「ランニングコース」にあると思います
ありがちな部分とも捉えられる部分ではあると思いますが、個人的にはこの部分で他の選手にはない素晴らしさを見せているように感じています

どのようにランニングコースが優れているかというと、そもそものランニングコースの選択が優れていると言うのは当然であるのですが、矢崎選手は理想のランニングラインに対して自身のランニングフォームを適応させる能力が非常に優れていると感じました
理想に対して自身の動きをうまくコミットさせることができるといった感じですね

これはつまり「理想的なコースと実現されたコースのギャップが少ない」と言うことでもあります
一般的な同ポジションの選手であれば理想的なランニングコースに対して「自分の実現できる最大限のコース」を取ることが多かったり、もしくはコンタクトを含めた力技で打開するシーンを見ることが多いのが現実的なところかと思います

しかし矢崎選手はその「理想のランニングコース」に対してしなやかなボディコントロールと、体の大きさからは想像できないパワフルな足腰の力で適切なランニングラインをとっているように感じました
限りなくそのシーンでとりうる正解に近いランニングコースで走ることができているといった感じですね

矢崎選手はステッパータイプともスプリンタータイプとも明確に分類することができないように感じていて、発展途上ながらハイブリッドタイプということもできるかもしれないと思っています
ステップを踏んでも上半身のブレが少ないので余計な移動量が不要であり、細かい移動も大きい移動も全身をうまく使うことでこなしているように見えています

チェックしていきたいポイント

アタック時のランニングに関してはリーグワンにおいても即戦力になりうる矢崎選手ですが、諸手を挙げて賛同できるほど現状の国際舞台などでプレーできているかというと、正直なところそうではない部分もあるように感じています

まずランを除いたプレイングの部分です
矢崎選手の持ち味はダイナミックなランニングによるチャンスメイクや、自身のラインでトライまで取り切るランニングスキルですが、逆にいうとそれ以外の部分では明確に世界レベルであると断言できる点はそう多くはありません

気になるプレイングとしては例えばパスチョイスの精度とスキルの部分などが挙げられます
ランニングが目立つ分「パスの精度があればもう一段階チャンスができていたのではないか」というような部分もあったのではないかと思います
ただ、これはスキルが劣っているというよりかはこれまでプレーしていた大学レベルとの間合いの違いによるものであると思うので、間合いの感覚を磨いていけば十二分に向上が見えてくる領域なのではないかと思っています

あとはキックゲームへの対応力もより一層求められてくる部分ではないでしょうか
大学レベルでは正直なところキックゲームのレベル感は高くはなく、エリア取りの部分でもハイボールの競り合いの部分でもある程度対応しやすいところがあったと思います

しかし、インターナショナルになってくるとこの辺りの精度やいやらしさが一段階以上上がり、特にハイボールの競り合いの部分になると激しさが増してくるような印象を受けています
矢崎選手もハイボールの競り合いを得意としている印象ですが、若干のびたボールでの取り合いが多く、空中で相手と競り合うシーンが増えた際にどうなるかはまだ明確なビジョンはないのではないかと感じています

今後の展望

矢崎選手はPNCのカナダ戦を最後に大学シーンに戻るということが明言されています
早稲田も菅平ではいいパフォーマンスを残しているので、このまま合流してもかなりいい流れでプレーを活かすことができるでしょう

一方で「矢崎選手をこのまま大学シーンでプレーさせることが正しいのか」という論調があるのも把握しています
大学シーンはやはりインターナショナルに比べると格が下がってしまうため、強度やレベル感が下がってしまうことに対する懸念の発露といった感じですね

個人的には「可能ならできる限りリーグワン以上の強度でプレーする機会を設ける」というのが必要ではないかと感じています
やはり育成や強化というのは「自分が心地よくプレーできない強度」で行っていくことが大事であると思っており、春シーズンなどの試合を見た限りでは矢崎選手には少し伸び伸び出来すぎる試合も増えてくるのではないでしょうか

もちろん将来性の部分やセカンドキャリアといった部分で日本のラグビー環境において大学に在籍する意味というのはあると思います
ラグビーだけで生きていけるわけではないと思うので、それ以外の要素も踏まえたキャリア形成が必要というわけですね
一方で、より上のレベルで活躍できる才能が大学のラグビー部でプレーし続けることの意味に関しては一考する余地はあるのではないかと思っています

この点に関しては様々な立場の人の様々な意見があり、様々なステークホルダーの考え方もあると思うので一概にこうすべきといった対応は難しいかもしれません
ただ、「誰のために環境はあるべきか」といったところは議論になってもいいのかもしれない、と感じました

今回は以上になります
それではまた!

いいなと思ったら応援しよう!