アズライトの沈黙。
わたしの楽しいお仕事のひとつに、石売りがあるのだけれど、数ヶ月前も、世界のミネラルが集うミネラルの祭典にて、大好きな人が営むお店の石たちの、売り子として立ってきた。
商品を扱ってお店に立つとき、その商品の販売は売り子にとっての大切で楽しいお仕事のひとつだと思うけど、どこにいても何をしていてもわたしはわたしでしかないため、商品を売ることよりも、もっぱらそこに流れている、ありとあらゆるタイプの交流にばかりに五感とSenseを傾けて、そこに居る。
これは単に、わたしがすべてが純粋に流れているのを感じるのが至福の喜びなタイプなため、そう在る時にもっとも自然に最高潮な流れが発揮されるためで、何でもかんでも極端に現実に現れてくるわたしの人生においては、わたしが無理やりに売ることのみを意識して自分の心地よさを手放す選択をした瞬間、その店も、時にはその業界さえもを潰す勢いで、お客様がいなくなる。
そんなかつての経験さえも、心って本当はすべて伝わっているんだなぁ、というような、現在のメインの仕事である、communicatorとしての確信に繋がっていくのだけど、今日はそんな石のお仕事のときに、わたしが出会ったとある物語をひとつ、書いてみたいとおもう。
石が大好きな人々で賑わう石のお祭りの最中、大好きで大切なお店を、ちょっとだけひとり任されているとき、ふと、わたしのSenseが、いつも以上にぶわーっと開いた瞬間があった。
何かくる、という予感と、ふと、あたりを見渡して、なにかを探してしまう目線、そばだてる耳、伸びる背筋。
それから、からだを包むように力強くめぐる、温かなエネルギー。
けっこうな温室育ちな割に野生動物みたいなSenseで世界にいて、からだの反応が一番はやく、本能的に確かなことを察知して伝えてくるわたしは、あ、何かくるのだな、とその時わかったのだけど、そのとき、なにがあるのかもわからないまま、そのナニカを探していた目線が、ひとりの男の人に目を留めた。
目線は交わらなかったけど、わたしのなかのナニカが反応したのは、この人で間違いない。
まだ、わたしのいるお店から三軒ほど向こうの空間で、なにを見つめるでもなくそこにいた男の人の存在を認めて、わたしはようやく、自分がお手伝いしていたお店の方に意識を戻した。
それから30分後。
男の人が、わたしがお手伝いしているお店にやってきた。
"まだ、話かけられたくない"、というくうきを纏って、夢中で、静かにジッと石をみつめていたから、わたしは売り子なわたしを必要としているほかのお客様とお話したり、移動したい石たちを置き換えたりしながら、男の人が石をジッと見たり、腕を組んだり、別のお店に行ったり、また戻ってきたりを繰り返しているのを、静かに感じながらそこにいた。
そうしたらね、フッと、空氣が変わって、男の人の目が、はじめて石以外を見ながらキョロキョロとして。
そこで、わたしはやっと、その人に話しかけた。
わたしが店員だと知ると、その人はある石を指差して「これはなんという名前の石ですか?」ときいてきたので、わたしは「アズライトといいます。ここのベルベットみたいになっている青いのがアズライトで、こっちの緑はマラカイトです」とこたえた。
その人はもう一度石を見つめると、少し赤くなった頬で、「アズライト‥」と呟いた。
そのあと、少し話をしたのだけど、その間ね、そのアズライトがずーーっと、無言で、その人をみつめているのを感じて。
けっこう長くお店にいた石だったのだけど、これはあれだな、両想いってやつだ、と、わたしはそんなことを思った。
すごく綺麗だから、すごくほしいけど、けっこうほかの石を買ってしまったから、お金が足りるかわからない、という男の人に、とりあえずいくらありますか?ときいてみた。
その人は目の前でお財布を出して、数えはじめた。
そうして、これだけある、と言われた金額が、ちょうどその石の値段で。
わたしがそう伝えると、男の人は目をキラキラさせて、買います!と、お財布の中に入っていた全部のお金を笑顔で差し出してきた。
アズライトはついに最後まで黙っていたけれど、すごく誇らしげで、しあわせそうで、なによりも、とてもきれいだった。
そうして嬉しそうな男の人と、嬉しそうなアズライトをみて、わたしもとてもしあわせだった。
キラキラの美しい石、自己主張の豊かな石たちが並ぶそのお店のなかで、アズライトの原石は、美しいけれどどちらかというと、主張の少ない、地味な石で。
だけど、その石はここぞ、という時に、その魅力である「沈黙」をつかって、いちばんぴったりな場所へと旅立っていった。
あの、奥の奥まで愛するように、静かに見つめる男の人と、語らないけれど静かにその魅力を主張するアズライトの織りなす物語は、素敵だろうなぁと想像した。
静かに情熱的にまっすぐな愛と、その愛を受けるアズライトの沈黙に、キュンとしたある日のお話。
2019.4.13 まだ桜のきれいな日本にて
地球に暮らす、さやかより♬