色のある人生を送る
「人がチャレンジできる場所を広げる」「スポーツの価値を高める」
7年間の海外生活を経て今年帰国し、中央大学でこの二つの夢を追う男がいる。今年から中央大学サッカー部の指導者に就任した高橋龍之介コーチである。したがって第8回となる今回は就任から約半年、壮大な夢を掲げ今も常に熱く選手とぶつかり続けている高橋コーチのその原動力に迫っていく。
夢を持ったきっかけ(大学生活〜海外生活)
プロサッカー選手という目標のために中大サッカー部に入部したが、2年次の終わりにアキレス腱を断裂し、約1年間の離脱を余儀なくされた。4年次に怪我から復帰し関東リーグにも出場をしたが、結局プロからオファーの声はかからなかった。そこで、将来について考え、改めて自分の視野を広げるために海外に飛び立つ決断を下した。
オランダ、ドイツ、アメリカの3カ国で過ごした7年間はそれまでの22年間よりも人間的に大きく成長でき、刺激的で濃い時間を過ごしたと話す。そんな日々の中で特に重要性を感じたこととして「思考力」「コミュニケーション能力」「自己解決能力」の三つを挙げた。
欧米の人たちは誰もが身の回りにある問題について深く考え、クリエイティブな解決策を導き、それを主張・表現する習慣がある一方で、日本人は“考える”習慣がなく、言われたことをただやっている人が多いため「色のない」人が多いと指摘する。
7年間で得たような幅広い価値観を、もし進路について悩んでいる大学時代に与えてくれる人がいたら、自分の人生はもっと違うものになっていたと考えるようになり「人がチャレンジできる場所を広げる」という夢を持つようになった。
また、アメリカでスポーツの可能性を目の当たりにした経験から「スポーツの価値を高める」という夢を見るようになった。アメリカではプロはもちろん、大学でもスポーツ選手や監督の給与・知名度が日本とは比べ物にならないほど高く、まるで地域のヒーロー的な存在であり、日本が目指すべき理想だと感じたと話す。
指導者として目指していること
このようにしてできた二つの夢を、最も実現できるのが大学での指導者だった。一般企業ではなく教育の場に身を置くことで、直接未来ある若者に想いを届けられるからだ。よって現在、指導・教育の場において勝敗の結果よりも「個人の成長」を何よりも大切にしていると話す。具体的には大学を卒業し、社会に出た後「色がある」充実した生活を送ってもらえるように「思考力」「コミュニケーション能力」「自己解決能力」の重要性を学生に伝えている。
しかし、まだコーチング能力やスポーツホスピタリティの実務経験不足など、まだまだ夢への道のりは長いと自己分析をしている。ただ、その課題を乗り越えるために、中大サッカー部はこの上なく恵まれた環境で「日本の中で俺が一番成長している」と実感していると話す。なぜなら中大サッカー部にはサッカーのスペシャリストである宮沢正史監督や中村憲剛コーチ、スポーツビジネスのスペシャリストである渡辺先生が在籍しているからだ。
さらに、今後は中大サッカー部の事業本部に関わっていくなど、学生に多くのものを与えながら自分も成長するというモットーを持ち、夢に向かって歩み続けると語った。
筆者コメント
私自身、高橋コーチから半年間指導を受けており、一貫して「考える」ことの重要性を伝えられてきた。時にコーチの言葉には一選手として納得いかないこともある。しかし、それは言われたことをただ受け入れるのではなく「考える」習慣がついているからこそだったのだと思う。したがって、サッカー選手としてだけでなく「社会人として」学ぶべきことを多く教えて頂いていると、この取材を通して実感した。
また、高橋コーチは第一回に取材した宮沢監督とは全く異なる夢を持っていたが、一方で二人とも共通して学生と共に成長するという強い信念を持ち中大サッカー部に携わっていることを知った。よって私は今、非常に恵まれた環境に所属していることが分かり、残り少ない大学生活で出来るだけたくさんのことを指導者たちから吸収したいと考えている。
(取材・執筆=橋本泰知)