「維新3人衆」発言のファクトチェック!!(その1)
○前口上
「維新3人衆」ともいうべき橋下徹氏、松井一郎大阪市長、吉村洋文大阪府知事は、しばしばテレビに登場して気っぷのいいあんちゃんのような語りをしています。時には脱線気味だったり暴走気味だったりしても、かえってそこに親しみを感じるという人も少なくないことでしょう。
「ほんま?」と感じることがあっても、次の瞬間には話題が変わってしまうので忘れてしまいがち。そこでちょっと時計の針を巻き戻してみようという企画です。
次の参議院選挙で維新の会が候補者を立てる予定といわれる京都から、市民連合「ユナイトきょうと」がお届けします。
第1段は昨年10月の参議院選開票速報『Live選挙サンデー』(2021年10月31日放映、フジテレビ系列)での、山本太郎れいわ新選組代表に対する橋下徹氏の発言です(この記事の最後に文字起こしがあります)。
動画の後半ではインボイスの問題もとりあげていますが、この第1段では最初の2分間くらいの所得税と消費税にかかわるやりとりに注目することにします。
○ファクトチェック!
①"1986年から今に至るまで所得税の改革は年収300万~400万の方々の税率を下げる改革をずっとやってきた"という橋下発言は本当!?
→イエローカード:年収300万~400万の方々の税負担が全体として引き下げられてきたとは言えない。ビミョーで、ミスリーディングな指摘。
まず現状の仕組みで、年収300万~400万の人がどれくらいの税金を払っているのかを確認しておきましょう。
課税の対象となる所得は、世帯年収から必要経費や各種控除を差し引いたものですから、年収より少なくなります。職種や家族構成により控除の額は異なりますが、年収400万でも課税所得が300万を越えることはまずなく、200万以下ということも少なくありません。
課税所得が195万~330万の方の所得税率は10%です。課税所得240万の方の所得税は14万2500円(=24万-9万7500円。9万7500円は一律の税額控除)となります。課税所得195万以下の方の所得税率は5%ですので、課税所得160万の場合には所得税は8万円となります。なお、橋下氏は年収300万~400万の方を「低所得者・中所得者」と称しているので、「低所得者」は課税所得195万以下、「中所得者」は195万~330万あたりを指していると思われます。
それでは、橋下氏の言うとおり、これらの低・中所得者の所得税率は一貫して引き下げられてきたのでしょうか?1986年以降、消費税(3%)が導入された1989年の税制改正では、それまで所得税率が10.5%、12%、16%だった方々の税率が10%へと引き下げられました。さらに、2007年には、低・中所得者のなかでも課税所得195万以下の低所得者の所得税率が5%へと引き下げられました。この点に着目すれば橋下氏の発言は間違いではありません。
ただし、橋下氏が話していない大切なことがあります。住民税のことです。2007年に所得税率を引き下げるのとあわせて、低所得者の住民税が5%から10%に引き上げられました(例えば大阪市にお住まいの方の住民税は、現状で市民税8%、府民税2%、合計で10%となっています)。ですので、合計した税率は15%で変わりありませんでした。今まで国に16万、地方公共団体に8万払っていたのが、国に8万、地方公共団体に16万となっだけです。中所得者の場合も、所得税と住民税を合計税率は20%(=10%+10%)で変わりませんでした。つまり1989年の所得税軽減は消費税(3%)導入の穴埋めとみることもできますが、2007年の所得税軽減は住民税により穴埋めされたというのが真相です。
その後、消費税率は8%(2014年)、10%(2019年)へと引き上げられましたが、低・中所得者にとって所得税率・住民税率の合計に変わりはありませんでした。年収300万~400万の場合、2019年の実績で消費税はおよそ26~28万円程度、年収の約7~8%を占めています(「世帯年収別に見た消費税、所得税、社会保険料負担の実態(2019年)」)。消費税の金額は、所得税と住民税の合計(24万円)を上回っています。課税所得160万の世帯を例にとれば、所得税は8万円ですので、かりに所得税が3倍(税率15%)になったとしても、消費税をゼロにすれば十分すぎるほどのお釣りがくることになります。
「年収300万~400万の方々の税率を下げる改革をずっとやってきた」と言えるかはビミョーです。消費税導入時の所得税引き下げを別とすれば、住民税との合算での税負担に変わりないからです。しかも、その後、消費税はずっと上がり続けています。でも、所得税・住民税が引き下げられたわけではありません。あたかも低・中所得者に対して消費税を補うのに十分なほどの減税が「ずっと」行われてきたかのように思わせる発言は、まったくのウソとまではいえないにしても、勘違いさせるミスリーディングな発言といえます。
②"消費税ゼロにしてね、その時に言わなきゃいけないのは年収300万~400万の方々、大増税になりますよ”という橋下発言は本当?
→レッドカード:消費税をゼロにしたら年収300万~400万の方々の「大増税」が必要という前提は正確ではない。山本太郎代表への「詐欺師的な主張」という言葉は反則。
橋下氏は消費税をゼロにしたら、年収300万~400万の方々の「大増税」がかならず必要とされるかのように語っています。この主張は。年収300万~400万の方の税負担が大幅に軽減されてきたという前提に基づいています。ですが、ここまで記した通り、この前提は正確ではありません。
橋下氏は番組の中で下のようなフリップを示しています。黄色の部分が住民税、緑が所得税、赤がその合計です。1986年から2015年にかけて所得税と個人住民税の合計が大きく引き下げられたのだ(だから消費税を払うのもしかたないか…)と感じさせる図です。
このフリップは、財務省「所得税の税率の推移(イメージ図)」によると思われます。給与収入を横軸、税率を縦軸にとったこのグラフにおいて年収300万~400万は左端の赤丸のところです。この低・中所得者については税率の大幅な引き下げはおこなわれていません。税率の大幅な引き下げが行われているのは、赤線より右側の超高額所得者です(2015(平成27)年分の図でいえば課税所得1800万円以上)。
超高額所得者にとって、消費税導入以前は所得税と住民税の合計税率は最高で88%であったのに2015年分では55%というように、実に30%を越える大減税がおこなわれたことになります。金額ベースでいえば、もっと大きなものとなります。この人々にとっては、消費税をゼロにしたら「大増税」が待ち受けている可能性が高いといえます。橋下氏は、このように超高額者所得者向けに予想される事態を、あたかも低・中所得者についてもかならず生じるかのように語っているわけです。年収300万~400万の低・中所得者の増税は避けるべきだといいながら、実際には年収1800万以上という超高額所得者の増税を避けるための議論をしているともいえます。
『Live選挙サンデー』では山本太郎代表は消費税をゼロにした場合の対案について自分の意見を述べる機会をほとんどあたえられていませんが、文藝春秋へのインタビューで次のような提案をしています。①年収1億円を越える人々の所得税の最高税率を現在の45%から75%にまで戻す。②株式の譲渡所得など金融所得を含めて所得には同一の税率を適用する、③大企業への優遇税制を廃止し、法人税にも所得税並みの累進税率を適用する(「「消費税ゼロ」で日本は甦る! れいわ新選組・山本太郎が考えていること」)。
消費税をゼロにした場合にどのような税制が考えられるかについては、もちろん、さまざまな選択肢がありえます。山本代表の提案についても異論があるかもしれません。税金の集め方と、その使い方は、「ザ・政治問題」といってもおかしくないくらいに重要なことですから、大いに議論すべきテーマです。それにしても、橋下氏の発言は、きちんとした理由も示さないままに山本代表の見解を「詐欺師的な主張」とおとしめ、議論の可能性を閉ざそうとしている点で「レッドカード」といわざるをえません。
○橋下徹氏×山本太郎代表の会話文字起こし
京都における市民連合「ユナイトきょうと」
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