この体験は、変える
わたしは獣医師だ。
一般的に人が思い浮かべる「動物のお医者さん」の仕事を離れて久しいけれど、別分野できちんと獣医師として働いている現役の獣医師だ。つまり、科学の子である。
そんなわたしがその本を知り多くの人がざわめいているのを耳にしたとき
「いやでも一般人向けでしょ。わたしが読んで意味あるのかなぁ」
「もーほんと、みんなに教えてくれたらたすかるし」
とかおもってしまっていた……スミマセン
全然そんな本じゃありませんでした……
専門知識を持って世の中を見るということは
その分野に関しては通常より多くのものが見えるため
他人に対して「なぜこんなのを信じるんだ!?」
「どうしてこれを本当と思ってわたしのいってることは信じないんだ」
と言いたくなるようなことが多く
世界に対して半ばあきらめのような気持ちをもってしまいやすいです
「あの人たち、どうして本当のことを見てくれないんだろうね」
そう呟くことすらしなくなってしまっていました。
「ああいう悪徳商品を売る奴らこそ癌で苦しめ!」
そんなことすら、心に浮かびました。
嘘ばかりの壮大な物語が本当かのように大袈裟に語られ
嘲られ嫌われる科学者たちの努力の結晶をいくつもみました。
なんでそうなっちゃうんだろう
なんで、聞いてもらえないんだろう
なんでわかってもらえないんだろう……
日々抱いているそんな疑問たちの答えが、この本の中に納められていました
それも丁寧に下ごしらえして
優しさというお砂糖と、面白さというスパイスをふんだんに使って
誰にでも美味しく食べられるように調理し
人間の脳にとって食べやすいようにと工夫された形で
この本の中に、しっかりと詰め込まれていたのです。
こんな本だとは全く思っていませんでした。
だってさ
帯に書いてあるのがドーンと「世界の教養」とかで
サブタイトルが「 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣」とかってさ
なんか、安っぽいビジネス書の一亜種みたいじゃないですか。
理系の基礎技術をいかにも凄いことのように語った本かと思ってたんですが
ある日kindleのセール商品一覧に並んでいるのを発見したときに
セール!なら買っちゃおう、と何故だか即ポチしてしまいました。
ワンクリック注文って怖いですよね。ポチ後に気付きました
百円くらいしか安くなってませんでした(なんなら今日の方が安い)
いいんです、きっかけにはなったんだから……と自分を誤魔化しますが
再びわたしはヘソを曲げ、読むには至らずさらに1ヶ月以上が経ちました。
が
受講しているスクールの課題でこの本が出てしまったんです
これは読むしかないか……と読んでみたらおどろきました。
口調がめっちゃ軽い……それに本能?
なにこの図。カラフルで可愛いし、解説がなくてもわかるし、見てて面白い。
人口? 所得? え、こんなに具体的に見ていくの?
その時点で想像を超えていました
導入なんてなぜか突然剣呑み芸の話ですよ?
しかもレントゲン写真付き。なんすかそれw
いや普通に面白いしその話。
なに?そのあとクイズ?
よく聞かれてるやつだし、詳しくは知らないけどたぶんこんな感じ……
全然あってなかったまじで……??
そして著者たちは「正答率がチンパンジー以下だ」と煽ってきます。
そして「それは人間が獣だったときの本能によるものだからこう抑えればいいんだよ」といってきます。そうか、みんなそうなってるのが普通なら制御すればいいだけなのか、そういう本能があるなら仕方ないよね、対応しようと思わせてもらえます。ある意味わたしのせいじゃないんだ!これから直すよ!って素直に思えます。ああ恐ろしく懐が広い、怖くない。怖がらせてこない。事実を述べているのに。なんて優しい本なんでしょう
その後も何度もドラマティックなエピソードやストーリーを挟みながら10の本能についての解説がなされて行きます。読み進めて行くうちに人の本能をじわっと利用しながら読者を流れに巻き込みまくってお話はすすみ、何度も何度も腑におち体験を繰り返させられます。
そして最終章で
ああ、やられたなとおもわされるのです。
この本に出会えてよかったです。最高の体験を与えてもらえました。私自身がいかに世界を正しく見れていないのかをはっきりわからせていただきましたし、きっと読んだこの一回ですでに私の世界の見方はもうかわってしまったのですから
これ以上内容は書きません。
機会があればその体験を得ていただければいいなと思うからです。
だってこの本、猛烈に面白くて信じられないくらいためになって、壮絶なほどに世界を変えるポテンシャルを秘めているのですもの。
名著中の名著
そう言ってしまうと、堅苦しいから
「とんでもなく面白いから是非体験して!」 と
この本の口調に合わせた軽い言い方で伝えたいです
ひとりでもおおくのひとにファクトフルネスが届きますように!
そう心から思わせてもらえる、素晴らしい一冊でした。