ブーレーズ:《ル・マルトー・サン・メートル》4回目の自作自演、他


ブーレーズが60歳の誕生日記念に果たした
4回目の自作自演はライヴ録音!

ブーレーズ:①《ル・マルトー・サン・メートル(主のない槌)》②ピアノのための《ノタシオン》③2台のピアノのための《ストルクチュール(構造)》第2集
①ピエール・ブーレーズ指揮 アンサンブル・アンテルコンタンポランのメンバー、エリザベス・ローレンス(メゾソプラノ) ②③ピー=シェン・チェン(ピアノ) ③ベルンハルト・ヴァンバッハ(ピアノ)
①1985年3月31日 ②③1985年3月30日 バーデン=バーデン ヴァインブレンナーザール〈ライヴ〉
CBS Sony CSCR8063

去る2月20日に武満徹の《未来への遺産》の記事を書いた時に『本当はブーレーズのCDを記事にしたかったのだが、ノートに書いたレヴューが見つからないので断念した』と書きましたが、この度ノートに書いたレヴューが見つかったので、今回はブーレーズのCDを採り上げることにします。
さてブーレーズと言えば、今年2025年は彼が2015年に90歳で亡くなってからちょうど10年になるんですよね。月日が経つのは早いものです。
憚りながら、正直言ってワタシはブーレーズがノーノ、シュトックハウゼンと並んでダルムシュタットで戦後前衛音楽三羽烏と言われていたあの時代、まさかブーレーズが一番長生きするなんて思っても見ませんでした。ワタシは何となくブーレーズ→ノーノ→シュトックハウゼンの順に世を去るだろうと勝手に思い込んでいたのです。それは彼ら3人の作風の違いとかを勘案した思い込みだったわけですが、結果的にはノーノ→シュトックハウゼン→ブーレーズの順に他界したのです。多分ブーレーズが長生き出来たのは作曲活動のみならず指揮者としても旺盛な活動をしたからではないでしょうか。
そのブーレーズの作曲家としての代表作は何と言っても①と《プリ・スロン・プリ---マラルメの肖像》の2曲でしょう。実はワタシはこの2作はLPの時から聴いていました。①は1964年の2回目の自作自演(dhm)、《プリ・スロン・プリ---マラルメの肖像》は1回目の自作自演(CBS Sony)です。そして①の最初に購入したCDが今回紹介するCDです。
ブーレーズは結局この作品の自作自演を5回残しました。現在ワタシは偶然にもこのすべての録音をCDでも所有していますが、曲は同じで作曲家自らの指揮による録音でも時期によってはその曲のイメージを変えかねないことをブーレーズのこの曲で思い知らされたのです。勿論、この曲が戦後前衛音楽の傑作であることは微塵も疑っていません。それでも何回かに及ぶ自作自演を聴いてこのように思わせたのは多分この曲だけでしょう。
さて当CDはブーレーズの60歳を記念して、彼の自宅がある(旧)西ドイツのバーデン=バーデンでおこなわれたコンサートのライヴ録音です。どのような演奏だったかは以下のレヴューをどうぞ。

「2、3日前にシュトックハウゼンを聴いていたが、今度は同じ戦後前衛音楽の三羽烏と言われたブーレーズの作品。次はノーノか。とは言え、ブーレーズも今は指揮者としての活動が主になってしまったが、だからと言って活動初期の作曲作品には今でも目を見張らされるものがあるのは間違いないだろう。
①はかつてブーレーズ2回目の自作自演をLPで購入しよく聴いていたが、やはりこの曲はブーレーズの傑作だと思う。『ドビュッシーの感性とウェーベルンの論理性が見事に融合した』戦後前衛音楽の最高傑作との評判も素直に頷ける。だからなのか、モデルになったと言われるシェーンベルクの《月に憑かれたピエロ》よりずっと多く聴いている程だ。
ブーレーズと彼の手兵であるアンサンブル・アンテルコンタンポランはこの難曲をライヴで楽々と演奏しているのには恐れ入る。以前のような張り詰めた緊迫感はなくなったが、代わりにブーレーズの指揮者としての経験が生きて指揮者以下の演奏家が聴衆を前にこの難曲を楽しんで演奏している様が伝わってくる。
②③は当CDで初めて聴く曲だが、何やらピアノの音によるオブジェのようである。中では②が一曲一曲が短いながらもまとまりの良さで一歩抜きん出たようである。③はブーレーズ最後のピアノ作品とのことだが、②ほどの魅力は感じられなかった。         2012年8月17日  評価:★★★★☆(①)、★★★★(②)、★★★☆(③)」

以上が当CDのレヴューとなりますが、いかがでしたでしょうか。

レヴューの日付を見ていただければお分かりの通り、これはまだブーレーズが逝去前に書かれたものです。そして『2、3日前に聴いていたシュトックハウゼン』とは、この時期『マリア・カラス〜30のオペラ全曲集〜』(membran)と並行してシュトックハウゼンの『光』からの抜粋音源(RCA/Stockhausen Verlag)を聴いてレヴューしているのです。当CDの次はブーレーズの《プリ・スロン・プリ---マラルメの肖像》(Erato)でした。再びカラスのオペラを挟んで翌日にはノーノの《プロメテオ---聴く悲劇》(Col Legno)をレヴューしているのです。ただこれらはあまり参考にならなさそうなので、ブーレーズ以外は多分記事にはしないと思います。

なお、当時CBS Sonyはブーレーズをブレーズと表記していました。これがブーレーズとなるのはだいぶ経ってからです。ワタシとしてはどちらでも構いませんでしたが。

ここまで読んで下さった皆さんありがとうございます。お目汚しして失礼しました。


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