ゴロヴァーノフの芸術 第6集 スクリャービン:交響曲全集・ピアノ協奏曲


この世界初のスクリャービン交響曲全集は
音が悪くてもその濃厚さにむせ返るほどだ!

ゴロヴァーノフの芸術 第6集
《スクリャービン:交響曲全集&ピアノ協奏曲》
①交響曲第1番 ホ長調 作品26《芸術讃歌》②ピアノ協奏曲 嬰へ短調 作品20 ③交響曲第2番 ハ短調 作品29《悪魔的な詩》④交響曲第4番 作品54《法悦の詩》⑤交響曲第3番 ハ短調 作品43《神聖なる詩》⑥ 交響曲第5番 作品60《プロメテ---火の詩》⑦前奏曲《夢》作品24
ニコライ・ゴロヴァーノフ指揮 モスクワ放送交響楽団、①⑥モスクワ放送合唱団、①リュドミラ・レゴスタエヴァ(メゾソプラノ)、アナトーリ・オルフェノフ(テノール)、②ゲンリヒ・ネイガウス(ピアノ)、④セルゲイ・ポポフ(トランペット)、⑥アレクサンドル・ゴルデンヴァイザー(ピアノ)
①1948年②⑤1946年③1950年④⑦1952年⑥1947年〈セッション〉
Altus ALT513/5 3CDs

この記事を読んで下さる皆さんはゴロヴァーノフなる指揮者のことはご存知でしょうか。彼は1891年に生まれ1953年にこの世を去ったソ連の指揮者です。これまで日本では殆ど紹介されていないので知らないとしても無理はありません。
ゴロヴァーノフの録音自体はMelodiyaに大量に残されているのですが、国内盤は当時のVictorがワーグナー名演集2枚組をLPでリリースしたのが最初と思われます(無論ワタシは買ったりしていません)。CD時代になってからはKingが何枚か国内盤でリリースしたでしょうか。ちょっとその辺の記憶は曖昧です。輸入盤では幾つかのレーベルが1枚ずつリリースしていましたが高価だったので見送っており、その次にロシアのVeneziaが3枚組セットを(安価で)リリースしていたのでこれを入手して初めてゴロヴァーノフの指揮した演奏を聴いたのです。
名前だけは知っていたソ連の指揮者ゴロヴァーノフ。その飛び抜けて濃厚な表現を隠すこともない臆面とした指揮ぶりには心底驚かされました。その3枚組にはチャイコフスキーやムソルグスキー、ボロディンの他にスクリャービンの①も収録されていたはずです。どれも濃厚なロシア臭を強烈に感じさせる激演ばかりでした。例えて言うならメンゲルベルクのロシア版指揮者と言ったところでしょうか。
その後Veneziaからはその3枚組分も含む16枚組という大部のセットもリリースされましたが迷っているうちにあっと言う間に廃盤になってしまい、USED商品は新品より高価なプライスだったのでとてもではないがその気になれず、多いに臍を噛んだものでした。
それからしばらく経った頃、今度はヒストリカル音源の復刻レーベルであるVeniasがゴロヴァーノフの録音を26枚組というVeneziaの16枚組を10枚も上回る規模でリリースしたのです。今度こそ逃すわけにはいかないとばかりにオーダーして無事入手することは出来ましたが、ただ一つ残念なのは録音の存在が間違いなくあるはずの②が収録されていなかったのです。これはもう悔しいの何のって、もう諦めていた時に見つけたのが当3枚組セットでした。
どういった事情で日本のAltusがゴロヴァーノフの録音をリリースするようになったのか、その辺のことは何も知りません。ただジャケット画像の帯を見てもらえばお分かりの通り、このスクリャービン:交響曲全集・ピアノ協奏曲は『ゴロヴァーノフの芸術 第6集』となっているのです。しかしバックカタログを見たところ、先にリリースされた分はVeniasの26枚組と大部分同じ音源のようでしたので、それらのAltus盤を新たに購入することはありませんでした。つまり当3枚組はVenias盤に収録されていなかった②を聴きたいがために購入したのです。Venias盤にその曲が収録されていれば何の問題もなかったのですが。
さて、ここでワタシがスクリャービンの音楽に触れるようになったきっかけなどを書こうとしましたが、この時点で既に1,600字を過ぎていましたので、それは別の機会に譲ります。ただワタシにとってのスクリャービンの音楽はロシア・ソ連の他の作曲家と較べてもかなり上位の位置を占めています。それは大好きなチャイコフスキーやラフマニノフ、リムスキー=コルサコフ以上で、ムソルグスキーやショスタコーヴィチと同様なのです。そのため交響曲全集だけでもムーティ(EMI)、スヴェトラーノフの2種(Venezia/Exton)、セーゲルスタム(BIS)と揃えている程です。
またもや前書きが長くなりました。ここからは当CDに収録された音源のレヴューにしますのでどうぞ。

「ソ連の指揮者ゴロヴァーノフの録音は1953年に他界したにしては驚異的に数多く残されており、その大部分はVeniasの26枚組に収録されている。史上初のスクリャービン交響曲全集も録音されているが、なぜかこのセットには②がなかったので改めて当3枚組セットを購入した。
まず収録順に①だが、この曲のような青春の香りにむせ返るような音楽がゴロヴァーノフの指揮に合っているのか抜群の演奏となっている。下手すると中弛みしかねないこの曲を一瞬の弛緩もなく聴かせてくれるのはさすがスクリャービンのスペシャリストと言われただけある。第6楽章の声楽が若干絶叫調になるのが残念だが、これは当時の録音技術の問題なのかもしれない。
②はショパンのピアノ協奏曲のような感じのするスクリャービンの青春の疼きを瑞々しい響きで演奏している。ピアノの弾いているのはロシアの伝説的なピアニストであるネイガウスだがこれまた一級品で、こうした演奏で聴くとこの曲がショパンの亜流どころかそれよりも良い曲に聴こえるのが不思議だ。
③ではそのロシア色丸出しの金管の咆哮、うなりを上げる弦、雷鳴のようなティンパニと、スヴェトラーノフ指揮 ソヴィエト(ロシア)国立交響楽団の演奏をさらにパワーアップしたかのようなメリハリの立った極めてロマンティックな演奏となっているので退屈する暇もない。④ではポポフのトランペットがヴィブラートたっぷりで、全体的に濃厚なスクリャービンの音楽の渦に飲み込まれるようだ。ただこの曲でもクライマックスでは音が潰れるがちになるのが残念だった。
⑤もこれまで聴いた曲同様にあられもなくロシア臭を出したロマンティックでかつドラマティックな演奏。この全集の中では②と並んで録音時期が最も早かったからか音質が幾分劣り強奏時は音が割れてしまうが、その迫力たるや並大抵のものではない。これこそロシアならではの管弦楽曲を聴く醍醐味であろう。
⑥はこれまでのものを凌ぐ豪演。スクリャービンを得意としたゴルデンヴァイザー(ネイガウスもそうだったが)のピアノがまず凄まじく、それにゴロヴァーノフの強靭な意志がこの難解極まりない曲に一つの方向性を与え、それに向かって突進していく様は圧巻と言うしかない。この曲も録音は決して良くなく、強奏部やクライマックスでは音が割れるが、それ以上の音楽の意志的な力が噴出するので気にならなくなってしまう。気になるのはクライマックスでの合唱なのだが、本来ヴォカリーズで歌われるはずなのに何度聴いても歌詞を付けて歌っているように聴こえるのだ。そんな録音は今まで聴いたことがないだけに戸惑ってしまった。
最後に収録された⑦はこれまでの交響曲で聴くことの出来るスクリャービンとは趣きが異なる小品だが、この曲でもゴロヴァーノフの指揮はスクリャービンの繊細な一面を丁寧に演奏しており、決して豪演だけで聴かせる指揮者ではないことを教えてくれる録音だった。
というわけで、スクリャービンの交響曲全集としてはこのセットは音が悪くてもまず第一に屈することが出来ると言って良いだろう。よって評価は一曲毎ではなく全集として評価したい。
         2013年10月7日 評価:★★★★」

以上がゴロヴァーノフ指揮によるスクリャービン:交響曲全集・ピアノ協奏曲のレヴューでしたが、いかがでしたでしょうか。

前文でも触れましたが、ワタシにとってスクリャービンとはとても大事な作曲家の一人です。以前Deccaが輸入盤でリリースした《スクリャービン全作品集》こそ入手しませんでしたが、レットベリが弾いたピアノ作品全集(Capriccio)を所有していることもあって、スクリャービンの全作品はバラで揃うのです。未完に終わり作曲家のネムティンが完成させてアシュケナージが指揮して録音した《神秘劇 序幕》(London)も、国内盤がリリースされた時に真っ先に購入しました。
だいたい、バラで全作品が揃うなど、他にはシェーンベルクとメシアンくらいなものですから、ワタシにとってスクリャービンという作曲家がどれだけ重要なのかは察していただけるのではないでしょうか。それらのCDもいずれレヴュー出来ればと思っています。でもスクリャービンの交響曲全集で最初からこんな強烈な演奏のレヴューをしたら後がやり難いですよね。

ここまで読んで下さった皆さんには心からお礼申し上げます。
お目汚しして失礼しました。



いいなと思ったら応援しよう!