ヴァンゲリス / 天国と地獄


ヴァンゲリス初期の最高傑作の1枚!

ヴァンゲリス / 天国と地獄
①天国と地獄 パート1 ②ソー・ロング・アゴー、ソー・クリアー ③天国と地獄 パート2 
ヴァンゲリス(メロトロン、シンセサイザー、ハモンド・オルガン、ドラムス、パーカッション)、①③ガイ・プロズロー指揮 イギリス室内合唱団、②ジョン・アンダーソン(作詞、ヴォーカル)、③ヴァナ・ヴェルーティス(ソプラノ)
1975年9月 ロンドン ネモ・スタジオ〈セッション〉
RCA BVCP5024

去る2月14日に投稿したアフロディーテズ・チャイルドの《666〜アフロディーテズ・チャイルドの不思議な世界》(Vertigo)をレヴューした際、リーダーだったヴァンゲリス・パパサナシューについて触れました。彼はそのアルバム後バンドを解散し、ソロ活動に転じます。
最初にリリースしたのは《アース》(Vertigo)というアルバムで、バンドの時同様にまだシンセサイザーは使われておらず、ギリシャの民俗楽器が多用されたり、人声を効果的に使ったりとどちらと言えばバンドサウンドを彼一人でこなした印象ですが、ワタシは紛れもないヴァンゲリスの傑作の一つだと思っています。ワタシはLPで入手しましたがCDでリリースされているのかは不明で未だに入手出来ていないのは非常に残念としか言いようがありません。
その後ヴァンゲリスはアーティスト名をヴァンゲリスとだけにしてロンドンに移り、そこに自身のスタジオであるネモ・スタジオでアルバムを制作していくことになります。そしてRCA契約第1弾としてリリースされたのがこの《天国と地獄》でした。またこの頃ヴァンゲリスはリック・ウェイクマンの後任キーボード奏者としてイエスに声を掛けられリハーサルまでしたものの音楽観の違いから加入を断ったということもありました。ただイエスのヴォーカリストだったジョン・アンダーソンとは長く良好な関係を築き、この《天国と地獄》に客演している他、ジョン&ヴァンゲリスとしても何枚かのアルバムをリリースしているほどです(ワタシはPolydorからリリースされた“Private Collection”1枚しか持っていません。他に何曲かはヴァンゲリスのベストアルバムで聴いています)。
ワタシとヴァンゲリスの音楽との出会いはあるTV番組でした。皆さんは天文学者(物理学者?)のカール・セーガンと彼の著書である『コスモス』、そしてそれを元にしたTV番組のことはご存知でしょうか。ワタシは(今でもそうですが)幼少の頃から理数系が苦手なくせに天文学にはいっぱしの興味を持っていましたので、朝日新聞社から出版されたその著書を読んだところ特に下巻が後半にいくほど面白くなっていきました。ワタシが脳に興味を持つようになったのはその著書を通じてです。それらはワタシが高校2年生か3年生の頃でした。
さてその『コスモス』なるTV番組は日本では朝日放送を通じて放映されました。ところが当時の山形には朝日放送のキー局がなかったのです。ですから自宅のTVアンテナを工夫して仙台からの電波を受け取れるようにして画質は良くありませんでしたが何とか観ることが出来るようにしたのです。
そうしてどうにか観ることが出来た『コスモス』ですが、残念ながら今となっては殆ど憶えていません。ただ幾つかの音楽だけが強烈な印象を与えただけです。そしてそれがヴァンゲリスの音楽であることを知るのはもう少し先のことでした。
《ライヴ!/ マグマ》の前文でも書きましたが、ワタシは大学進学をきっかけに東京都の町田市に移り住みました。その町田市のとあるレコード店でRVCがリリースした『コスモス』のサウンドトラックレコードを見つけたのです。あのレコードを手に取った時のことは今でも忘れられませんし、ジャケットもまだ憶えている程です。でもその頃ワタシはレコードプレイヤーを持っていなかったので購入するわけにはいきませんでした。それでもそのサウンドトラックレコードを見て初めてヴァンゲリスの名を知ったのです。何でもいいからヴァンゲリスが聴きたいと思っていたら、この《天国と地獄》がCTでもあったのを見つけたのです。ラジカセは持っていたのでそのCTを購入して聴いたのでした。それがどういう音楽だったのかは以下のレヴューをどうぞ。

「現在は世界的なシンセサイザー・ミュージシャンとして名を馳せているギリシャ出身のヴァンゲリスのRCA契約第1弾となったのがこの《天国と地獄》である。ギリシャ出身のミュージシャンとパリで結成したアフロディーテズ・チャイルドの3rd.アルバムとなる2枚組の大作《666〜アフロディーテズ・チャイルドの不思議な世界》を最後に解散し、初のソロ・アルバムとなる《アース》(映画のサウンドトラックを除く)以来である。この時期ヴァンゲリスはリック・ウェイクマンの後任キーボード奏者としてイエスとリハーサルをおこなうなどその行動が注目された。結局イエスには加入しなかったのだが、それだけにこのアルバムが注目された。今改めて聴いてみるとその表出力の強い劇的な表現には相変わらず圧倒されるが、ヴァンゲリスにとっては《666〜》、《アース》で試みてきた音楽の初期の集大成のようにも聴こえる。確かにシンセサイザーのサウンドはこの後のヴァンゲリスを思わせたりもするが、それはそれ程大きな比重を占めているわけではない。むしろピアノやパーカッション、そして大編成の合唱が大きなウェイトを占めており、それらは(編成上からも)オルフを想起させたり、あるいはマグマにも近いものを感じるし、また合唱の使い方などは故国の大作曲家であるテオドラキスの影響を感じさせないでもない。しかしヴァンゲリスの根底にあるのは疑いなく故国ギリシャでありそれは初期から一貫していたが、それが最良の形で現されたのが当アルバムと言えよう。その意味で(故)中村とうよう氏が『破産寸前の文明にしがみついててめえそれでもギリシャ人かと言いたくなる』と当アルバムを酷評したのは全くの的外れと言えるのではないか。それはヴァンゲリスという偉大なミュージシャンへの侮辱としか思えないのである。
②はイエスのヴォーカリストであるジョン・アンダーソンの作詞とヴォーカルで後の『ジョン&ヴァンゲリス』に連なっていく端緒となったナンバーである。またクレジットによるとピアノはベーゼンドルファーを使っているようだが、ロック的と言うよりむしろクラシック的な奏法が多用されるのでヴァンゲリス自身のドラムスの扱い方を除けばロック色は感じられずむしろクラシック曲を聴くような印象を与えるようなアルバムである。特に③後半の盛り上がりが感動的だった。
最後に不満を一つだけ。ワタシが使っているCDプレイヤーではIndexの表示が出来るのだが、①には2つ、③には6つのIndexが入っているのにそのことがどこにも記載されていなかったのである。
        2013年5月14日 評価:★★★★☆」

以上がヴァンゲリスの《天国と地獄》のレヴューでしたが、いかがでしたでしょうか。

このアルバムはワタシにとってはヴァンゲリスの傑作の一つであり、何度聴いても聴き飽きません。パート1と2の対比も見事としか言いようがなく、ライナーにある通りまさに聴き手を天国と地獄に引き入れるかの如くかの音楽がここでは繰り広げられているのです。

この後ヴァンゲリスは《反射率0.39》《螺旋》《霊感の館》をRCAからリリースします。このうちワタシは前2枚をLPでのみ所有しており、《反射率〜》のB面1曲目に収録されていた『アルファ』もあの『コスモス』の中で強い印象を与えた曲でした。
そしてヴァンゲリスは今度はPolydorに移籍します。しかも一説ではこの時ヴァンゲリスはPolydor  International、イギリスとフランスのPolydorと別々に契約していたそうで、Polydor Internationalからは《野生》《チャイナ》《流氷原》などを、イギリスのPolydorからは《ジョン&ヴァンゲリス》を、そしてフランスのPolydorからはアフロディーテズ・チャイルドの《666》で共演したイレーネ・パパスとのジョイント・アルバムをリリースするなどの多作期に入ります。《炎のランナー》や《南極物語》のサウンドトラックアルバムもこの時期Polydorからリリースされました。これらのアルバムは輸入盤CDで入手したイレーネ・パパスとのジョイント・アルバム2枚とジョン&ヴァンゲリスの1枚以外はLP/CDとも所有していませんが、当時近くにあったレンタルレコード店から借りて聴いており、憚りながらヴァンゲリスの音楽に飽きようとしていた時に彼はついに本領発揮とでも言うべきアルバムをリリースしたのです。そのことはそのアルバムのレヴューの時に書くことにしましょう。

なおヴァンゲリスは2022年に逝去されていますが、当レヴュー本文は日付を見ていただければお分かりの通りその前に書かれたものであることをお断りしておきます。

ここまで読んで下さった皆さんには心から感謝申し上げます。
お目汚し失礼しました。



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