ライヴ!/ マグマ
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マグマ / ライヴ!
①コンターク ②コバイア ③リーンズ ④ハーイ ⑤メカニック・ザイン 全5曲
マグマ〔クリスチャン・ヴァンデール(ドラムス)、クラウス・ブラスキュース(ヴォーカル)、ベルナール・パガノッティ(ベース)、ガブリエル・フェドロワ(ギター)、ディディエ・ロックウッド(ヴァイオリン)、ブノワ・ヴィデマン、ジャン=ポル・アスリン(キーボード)、ステラ・ヴァンデール(ヴォーカル)〕
1975年6月1日∼5日 パリ タヴァン・デ・ル・オリンピア〈ライヴ〉
VICTOR VICP61660
前回のAngels of VeniceのCDはジャンル分けが出来なさそうな音楽でしたが、今回はワタシがクラシック音楽以外では最も力を入れているジャンル、つまりユーロ・プログレッシヴ・ロックからです。このジャンルからは以前ギリシャのアフロディーテズ・チャイルドを紹介しましたが、今度はワタシの最愛のバンドの一つを紹介します。
クラシック音楽程のキャリアはありませんが、それでもユーロ・プログレッシヴ・ロックを聴くようになってから既に40年以上が経過しています。そうして様々なバンドを聴いていると自ずからお気に入りが見つかる訳です。勿論そのお気に入りだけを聴いているのではありませんが、それでもそうしたお気に入りがワタシの中では別格の扱いになっているのは間違いありません。それがドイツのポポル・ヴーであり、そしてこれから紹介するフランスのマグマなのです。
マグマは1969年にジャズ・サックス奏者だったジョン・コルトレーンに傾倒していたドラマーのクリスチャン・ヴァンデールを中心に当時のヨーロッパでのジャズに失望したミュージシャンたちが集まって結成されました。そして翌70年に2枚組(!)のデヴュー・アルバムを発表するのです、その音楽たるやいわゆるジャズロックの範疇に入りますが、それ以上に際立っていたのがそのコンセプトでした。ワタシはマグマのオフィシャル盤の殆どを持っていますので、その辺はそのアルバムのレヴュー時に譲りますが、ここで一つだけ書いておきますと、歌われている言語がフランス語ではなくヴァンデがアルバムのコンセプトに基づいて編み出したコバイア語なる言葉で歌われているのです。
さてマグマはそれからというものの、際限がないメンバーチェンジを繰り返し、3rd.アルバムでは混声合唱を主体とした一種異様な音楽になっていきます。そして4th.アルバム発表後にリリースしたライヴ・アルバムが当CDとなるわけです。
なぜワタシが殆どのオフィシャル盤を持っているのにも関わらず当CDを優先させたのか。これからその訳を書いていこうと思います。
あれはワタシが大学進学の関係で東京都の町田市に住んでいた時のことでした。この時のワタシはクラシック音楽を中心に聴いていたとは言え、プログレッシヴ・ロックの魅力にも惹かれて国内盤として入手出来るバンドのレコードを色々聴いていました。この辺りのことは別記事で詳述するつもりですが、一つ言えるのは国内盤で聴くことの出来るバンドはやっぱりメジャーな存在な訳です(そうではないバンドのレコードがなかった訳ではありませんが)。でもプログレッシヴ・ロックに入りたての当時のワタシにそんなことは分かりません。なのでしばらくの間は国内盤で手に入るメジャーなバンドを中心に聴いていたのです。
そうしたワタシに転機が訪れたのは町田に住み始めてから1年近く経った頃でしょうか。その時ワタシは住んでいるところから近い町田の住宅街を一人で歩いていました。特に当てがあった訳ではなかったのですが、その時何気なく見つけたのがPAMという輸入レコード店でした(今でもあるのかな?)。
今でもそうですが書店とレコード店に入店するのは何の躊躇いもないワタシですので、そのレコード店にも何の気負いもなく入りました。確か最初に購入したのはクラシックの輸入盤のところに置いてあったオーマンディ、バーンスタイン、ストコフスキ指揮によるアイヴズの交響曲全集輸入盤4枚組(CBS)でした。クラシックでは後にティリー(オルガン)によるメシアンのオルガン曲集3枚組の国内盤USED商品(Calliope)なども購入しています。そのレコード店の雰囲気が気に入ったからか、それからのワタシはその店に足繁く通うようになりました。何せ住んでいたところから歩いて10分ぐらいのところにあったので何の問題もなかったのです。
そうやって通ううちに店長とはだいぶ親しくなりました。そしてワタシはその店長からそれまで聴いたことのないユーロ・ロックについて色々教えて貰ったのです。また店頭に置いてあった『Fool's Mate』という雑誌(その後しばらくしてからはまるで違う雑誌になってしまいましたが)のバックナンバーが置いてあったので全部買い占めてユーロ・ロックの知識を深めたりしたものでした。ちなみに当時購入したその雑誌のバックナンバーはすべて手元に残しています。
そしてある日のことでした。店長が『こんなレコードがあるよ』と言って見せてくれたのが紛れもなくこの“MAGMALIVE”だったのでした。店長は見せるだけではなくレコードを掛けて聴かせてくれたのです。今思えば聴かせてくれたのはLP2枚組のうち1枚目に収録されていた①だったと思うのですが、その暗黒のサウンドに圧倒されたのは今でも記憶しています。キング・クリムゾンではありませんがそこから聴こえてくる音楽はまさに『暗黒の世界』そのものだったのです。ただそのレコードはその頃は既に入手不可能でしたので、店長の知り合いに頼んで当時のマグマの最新作と一緒にCTにダビングして貰いましたので、ワタシは長い間それだけで聴いていました。ですので初めて購入したマグマのレコードも別のでした。
それから長い年月が経ちました。マグマのリーダーであるクリスチャン・ヴァンデールは自らのレーベルであるSeventhを立ち上げ、新録音のみならず過去の録音も版権を買い戻してそれらもSeventhからCDとしてリイシューしていったのです。そして1995年にその中の3作がKing Internationalから国内盤としてリリースされたのです。この時ワタシは都内に住んでいましたが、disk UNIONで発売された分には国内盤発売記念ブックレットが1,000部限定で添付されていました。ワタシはそのブックレット欲しさにdisk UNIONで3枚のうち2枚は購入しましたが、残りのもう1枚、つまり肝心の “MAGMALIVE” は購入しませんでした。その理由はまた別の記事にするつもりです。なおブックレットは今でも大切にしています。
今度はその6年後になる2001年にまたもやマグマの過去のアルバムから3作が今度はペーパースリーヴ仕様でリイシューされました。これは偶然にも最初に国内盤としてリリースされた3作と同じだったのですが、この時になってワタシは初めてこのライヴ・アルバムをCDで購入したのです。何と言ってもペーパースリーヴですよ。かつて町田の輸入レコード店で見せて貰ったのと全く同じデザインだったのです。ワタシはそれだけでも感激すること一塩でした。この時まで待ったかいがあったというものです。
そう言う訳で、ワタシが最初に採り上げるマグマのCDはこれにします。
個人的な思い出話で前書きが長くなりましたが、このCDをまず最初に選んだ理由を知って貰いたいがためにこうなりました。
この後は当CDのレヴューをどうぞ。
「マグマのレコードを初めて見たのは紛れもなく当CDと同じジャケットだった。このゲートフォールド・ジャケットがマグマの初体験だったのだ。当CDでは中ジャケットの写真も忠実に再現されており、初めて見た時の感慨が蘇る程だった。そのレコードを所有していないのだから記憶に頼っているだけだが、それは数十年前の記憶と寸分違わなかった。
クラシック音楽出身者からすればこんな不気味な音楽が世の中に存在したのかという恐怖に襲われたものだ。勿論クラシック音楽の中にも恐怖を醸し出す音楽がないわけではなかったが、マグマの恐怖を感じさせる音楽と較べると児戯に等しいと言わざるを得ないだろう。良くてリゲティのレクさィエム(映画『2001年宇宙の旅』のサウンドトラックとして使われた曲。ノット指揮のTeldec盤を所有)ぐらいが何とか太刀打ち出来ると言ったところか。
その後知人の知人から当ライヴ・アルバム全曲をCTにダビングしてもらって聴いていたこともあり、CD時代になり、やがてSeventhが、そしてKing Internationalが国内盤としてリリースしても入手しなかった。先にトゥールーズ・ライヴ(Akt IV)を入手していたことも理由の一つだった。そして結局Victorが1970年代末にライセンスされていたCharly経由でようやく入手した次第である。ただこのCharlyへのライセンスは不法かも知れないという疑いが持たれている。事実は知らないが。
鷹の爪を形どったと言われる不気味なマグマのロゴに浮かび上がって来る男の顔は3rd.アルバムに名前が出て来る森羅万象の精霊であるクロイン・クォアマーンだそうで、彼の名は⑤のラストで何度も唱えられる。こんなことを書くとマグマの音楽は新興宗教への勧誘のように感じるかもしれないが、そんなことは決してない。
ここでの演奏は何の文句も付けようのないマグマの驚嘆すべきライヴ・アルバムである。前作である4th.アルバムの“Kohntarkosz”と共通するメンバーはリーダーのC.ヴァンデールとヴォーカリストのK.ブラスキュースとS.ヴァンデールの3人のみ。残りの5人はすべて当アルバムで初めて起用されたミュージシャンである。だがそのコンビネーションは目を(耳を?)見張るばかりである。特に若さに任せて思いっ切りヴァイオリンを弾きまくるD.ロックウッドとC.ヴァンデールのドラミングに拮抗するだけのプレイを聴かせてくれるB.パガノッティのベースが聴きものである。それだけにこのライヴ・アルバムは巷では世界最強との声も高いが、先に購入して聴いたトゥールーズ・ライヴの方が収録曲やメンバーも含めて確実に当アルバムを凌いていると確信している。
2023年4月17日 評価 : ★★★★」
以上が《ライヴ!/ マグマ》のレヴューでしたが、いかがでしたでしょうか。
このライヴ・アルバムがリリースされた時は確かに最強のライヴ・アルバムだったのでしょう。でも現在は発掘音源がCD化されるとそちらの方がずっと凄い演奏だったということは往々にしてあることで、ワタシは当CDでも同様の現象が起きているのではと思っていますがいかがでしょうか。
また、実を言えばワタシはライヴ・アルバム以上にスタジオでのセッション録音の方を高く評価する傾向があります。それは3rd. アルバムの “Mekanik Destruktiw Kommandoh” 然り、 4th. アルバムの “Kohntarkosz” 然り、ライヴ・アルバムの次の 6th.アルバム “Udu Wudu” 所収の “De Futura” 然りです。その理由はそうしたセッション録音こそがコンセプトを具現化していると思っているからに他なりません。そりゃ実際にライヴで聴く幸運に恵まれれば話は別ですが。
さらに実はワタシはマグマのライヴを体験したことが一度だけあります。これも別記事にするつもりですが、最愛のバンドのライヴを聴くことが出来たのは得難い体験でした。しかし同時にライヴというのは演奏者と観客の相互関係から成り立つもので、それはその場にいた者だけが享受出来るということも否応なしに分からせられました。なにやらチェリビダッケのような結論になってしまいましたね。
だけどセッション録音は最初からレコード化を考えて発表するわけです。特にマグマのような破天荒なコンセプトを持つバンドならばライヴ・アルバムが悪いわけではありませんがセッション録音を軽視することもないようにしていただきたいと願っています。
ちなみにジャケット画像ですが、ワタシの持っているCDを撮影して使ったため帯が破損したままになっています。この件に関してはご容赦下さるようお願いします。これからもそうした画像を使うハメになることは目に見えていますので。
ついに5,000文字を超えてしまいました。最愛のバンドだけあって書きたいことが予想外に多かったようです。そのためワタシの記事としては最長になってしまいました。
この長い記事をここまで読んで下さった皆さんには心からお礼申し上げます。
長文でのお目汚し大変申し訳ありませんでした。