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安住の結婚

タイトル:(仮)安住の結婚

▼登場人物
●芽湯見 勝(めゆみ まさる):男性。37歳。独身サラリーマン。盗撮が密かな趣味。でも純情で真面目。奥手な性格。
●上司:男性。50代。勝の会社の上司。一般的なイメージでお願いします。
●土中安美(つちなか やすみ):女性。享年30代。この世の人でなく霊としてS通りをさまよっていた。それを勝は偶然写真に撮っていた形(心霊写真の様なイメージでOK)。
●安土誘子(あづち ゆうこ):女性。30代。勝の純粋な欲望と理想から生まれた生霊。

▼場所設定
●会社:都内にある一般的な商社のイメージで。勝達が働いている。
●勝の自宅:都内にある一般的なアパートのイメージでOKです。
●カクテルバー:勝の行きつけの飲み屋にあるお洒落なカクテルバー。誘子の行きつけ。
●S墓地:都内のS通りをずっと辿ると郊外に着き、そこから道なりに辿れる墓地。墓地は一般的なイメージでOKです。

▼アイテム
●Love in Reality:誘子が勝に勧める特製のカクテル。これを飲むと現実的な恋や愛に強くなれる。でも現実のトラブルを直接解決する力は無い。
●Peace in the Earth:誘子が勝に勧める特製のカクテル。これを飲むと超自然的な現象を通り抜け愛する人と一緒に成れる。例えその相手がどんな状況にあろうとも。この辺りのカクテルの効果と展開はニュアンスで描いてます。

NAは芽湯見 勝でよろしくお願い致します。

イントロ〜

あなたには今、好きな人が居ますか?
その人はあなたにとって掛け替えのない人でしょうか?
もしそうならどんな状況においてもその人と一緒に居る…
それは当然の事で、一生涯をかけてその人の為に尽くす、
そうなるのもまた当然に思えるものでしょうか?
でもその人がもし訳ありだった場合、
あなたはどうするでしょう。

メインシナリオ〜

ト書き〈会社〉

勝「あ、今日はちょっとすみません。用事があるもので」

上司「なんだ芽湯見君、今日もか?最近付き合い悪いぞ?もしかして良い人でも出来たのか〜?」

勝「い、いえ、そんなんじゃ…」

上司「ハハwまぁ良い、じゃあまた今度な」

勝「はい、すみません」

俺の名前は芽湯見 勝。
今年37歳になる独身サラリーマン。

俺は今日も上司からの誘いを断った。
理由は…

勝「早く写真の現像に行かなきゃ、もう閉まっちまう!」

この前、街中で撮った写真の現像の為。
俺には人に言えない趣味がある。
それはバードウォッチングならぬ、ヒューマンウォッチング。

つまり盗撮で、街中を行き交う人の様子を写真に撮り、
それを家に持って帰ってゆっくり眺め、
自分なりの趣味に浸ると言うもの。

初めは純粋に街中を行き交う
人の光景を見るだけで良かったのだが、
それがどう言う訳かちょっとずつ路線が変わってしまい、
今では街中を行き交う
女の子だけをメインに撮るようになっていた。

やっぱり男も欲望の生き物。
ちょっとした心のエスカレートでそんなふうになってしまい、
これはおそらく誰にでもある事だろう…
そう自分に言い聞かせ、少し無理やり納得させていたところもある。

(写真を貰って自宅に帰る)

そして行きつけのプリント屋で写真を貰い、
自宅に持ち帰ってその写真を眺めていたところ…

勝「ハハwよく撮れてるなぁ〜♪へへ、やっぱ最近の子は可愛い子が多いなぁ〜」

なんていつものように眺めていたのだが…

勝「ん?こ、この子…めちゃくちゃ可愛くて綺麗じゃないか…」

十数枚の写真の中に1人だけ、
俺の目と心を強烈に引く女の子が居た。

とにかくめちゃくちゃ可愛らしく美しく、
これまで見た事もないような絶世の美女。

少し不思議に思った。
その写真を撮っていた場所はS通りの角(かど)の所で、
俺は確かその日、そのS通りには行ってなかった。

そこで撮った覚えがない写真が1枚紛れ込んでいるようであり、
「なんで?いつ撮ったんだろう?」
なんて思いながらもやはりその子の美しさに惹かれてしまい…

勝「…まぁどうでもいいや。それにしてもこの子…もしこんな子と付き合う事が出来て、結婚までする事が出来たら…」

そう思う欲望のほうが遥かに勝り、他の写真は全部そっちのけで
その子の写真だけを写真立てに入れ、それ以降、
このアパートの部屋の俺がいつも使ってるデスクの上に
飾るようになっていたのだ。

ト書き〈カクテルバー〉

それから数日後。
俺は会社帰りに1人飲みに行った。
行きつけの飲み屋街を歩いていた時…

勝「ん、あれ?こんなお店あったんだ」

最近でもよく通っていたのに
それまで見た事もないお洒落なカクテルバーが建っている。
慌てて新装開店でもしたのかな?
なんて思いながら、俺はふらりとその店に入った。

外観通り中も美しく整っており、何となくだが
どこか居心地の良い空気がずっと流れている。
俺はそこでカウンターにつき1人飲む事にした。

そしてこの時、あの写真もポケットに入れて持ってきており、
俺は彼女の美しい顔を見ながら「ふぅ」と溜息をつき、
チビチビお気に入りのカクテルを飲んでいる。

するとそこへ…

誘子「こんばんは♪お1人ですか?もしよかったらご一緒しません?」

と1人の女性が声をかけてきた。

見るとまぁまぁ綺麗な人で、
その人もどこか不思議なオーラを持っており、
少し喋っている内に分かったが、
「なんだかずっと昔から一緒に居た人?」
のような印象を突きつけてくる。

だからか心が和み、恋心と言うより
心の拠り所を求めたくさせられ、話せば話す程、
なんだか自分の事を彼女に打ち明けたくなる。

そして俺はもっと自分の事をよく知って欲しい…
と彼女に思うようになり、今自分が抱えている
悩みのようなものを全て彼女に打ち明けていた。

勝「ハハwあなたはなんだか不思議な人ですね。こんな事、初対面のあなたに話すような事でもないのに」

将来の事、結婚の事について少し彼女に話していたのだ。
実はここ最近ずっと恋愛しておらず、
将来の悩みとして結婚の事が1つあった。

もう俺も37歳でもうすぐ40歳。
今この機を逃してしまえば、
もしかすると俺は一生独身で居なきゃならない?
そんな不安のようなものが心密かにあったのは本当で、
その辺りの事を彼女に打ち明け、
「何か良い方法は無いものか?」
そんな悩み相談のような事をその時していたのである。
話の流れで、勝手にそうなっていた。

彼女の名前は安土誘子。

都内で恋愛コンサルタントや
メンタルヒーラーの仕事をしていたようで、
そのせいもあってか人の話を聞き出すのも上手く、
また彼女独特の柔らかな雰囲気がその悩みを解決してくれる…
そんな印象まで漂わせてくる。

誘子「そうですか。ご結婚の事を?」

勝「ええ。本当にお恥ずかしい話なんですけど、ここ最近ずっと恋愛なんかしてなくて。僕は見た通り器量も余り良くないしパッとしないし、性格だってとても奥手で、実際女性の前に立つと何にも出来なくて、想う人が居ても陰からずっと覗いているだけ…そんな感じになっちゃってんです」

その直後、彼女は驚くべき事を言ってきた。

誘子「そうなんですか。だから街中でフレームの中からいろんな女性を覗き見て、自分の気持ちを少しでも和らげている…そんな状態になってるんでしょうかね?」

少し笑いながら彼女はそう言ったが、
「な、なんでその事を知ってるんだ君が?」
と言う怒涛のような驚きはどうでも隠せなかった。

勝「え?!ちょ、な、なんでそんな事を…」

どうやら彼女は俺の事を少し前から知っていたようである。
街中でポラロイドカメラを手にウロウロしていた俺を、
いつしか少し離れた場所から見て知っていたようで
「何してるんだろう?」から始まり、
それから俺がしていた本当の事を
彼女も自分なりに分かっていたようである。

勝「す、すみません!そう言うつもりじゃなかったんですよ!いやあの、純粋に街中の様子をカメラに収めてあとで眺めようとしてて…」

俺は必死に自己弁護しながら何とか初心を思い出し、
決していやらしい気持ちでそんな事をしていたんじゃない。
その事を彼女に一生懸命訴えていた。

でも実際はそう言ういやらしい気持ちでしていたのもあり、
それを隠すのは大変だった。

でも、彼女は全部お見通しのようにこう言ってきた。

誘子「フフ♪別にそんな事であなたを責めたりしませんよ。まぁ私が覗かれた訳でもなし。他人事だからって言う軽い気持ちもあるんですけどね♪」

勝「あ、ハハ…」

誘子「でも芽湯見さん。あなたがしてきた事は細かく言えば確かに犯罪で、今後はそう言う事を余り続けないほうが良いかもしれませんね。どうです?もうその趣味をここらでやめて、新しい生き甲斐を持とうとは思いませんか?」

勝「え?」

そう言って彼女は、さっき俺が慌てて隠したあの写真を
「カウンターに出してもう1度見せて下さい」
と言ってきたのだ。

この時も恥ずかしさと驚きで困ったものだ。
でもやっぱり彼女は不思議な人。

彼女に何か言われるとふとその気になってしまい、
やがて心が抵抗する事なく、言われた通りにしてしまう。

そして俺はさっき懐にしまい込んだ
あの子の写真をもう1度取り出し、カウンターに置いて、
誘子さんにはっきり見せていた。

誘子「ほう。この女性ですか?あなたが肌身離さず持つ理由も分かりますね♪本当に美しくて可愛らしい人」

そこまでくると、俺も誘子さんと一緒になって写真の彼女を眺め、
自分の気持ちを正直に伝えていた。

勝「でしょう?本当に可愛くて綺麗な人でしょう!?僕、この写真で初めて彼女を見た時、一瞬で心を奪われちゃいましたよ。変な話、写真で心を奪われちゃうなんて普通ない事だと思いますけど、でも本当なんです」

誘子「分かりますよその気持ち。男でも女でも、自分の心を射止めた相手を見てしまえば、それがリアルでも写真の中でも同じ事。やっぱりその相手の事ばかり考えちゃいますもんね」

勝「はぁ、ハハ」

誘子「それならいかがでしょう?その子に会ってみますか?」

勝「え!?あ、あなた、この彼女のこと知ってるんですか!?」

誘子「ええ、おそらくよく知ってる人だと思います。これだけはっきり顔が分かりますからおそらく間違いありません。彼女は私が都内でやっておりますヒーラー教室に通われてるお客様の1人で、間違いなければ彼女の名前は土中安美さんと言う方です」

本当に驚かされた。
俺の心を一瞬で惹いた、写真の中の彼女の名前は土中安美さんと言うらしい。

その安美さんは誘子さんが開業している
ヒーラー教室の顧客だったようで、
今の自分を取り巻く環境と
その心に少し問題を抱えていたらしく、
その事についていろいろ相談を持ちかけられていたとも言う。

だから誘子さんにとっても彼女は少し特別な存在で、
他の人達よりも少し身近な関係にある…との事。

もちろん俺はすぐに答えた。

勝「ぜひ…ぜひ彼女に会わせて下さい!」

別にフラれたって構わない。
ただ彼女にひと目会えるならそれで充分…
俺の存在を彼女に知って貰えるだけで
多分俺は幸せになれる…
これもまた変な話だが、俺はその時本当にそう思い、
誘子さんにその一心(いっしん)でお願いしていた。

でも誘子さんはこの時1つだけ、
俺に「ぜひ守ってほしい」という事を言ってきた。

誘子「お誘いした上でこんな事を言うのもなんですが、でも彼女の為にも、これだけは守って頂きたいのです」

誘子「先程も言いましたように、彼女は今、その環境と心の中に問題を抱えて居られます。ですから普通の恋愛をするにはまだ少し準備段階と言った状況で、もし彼女と会って付き合う事になったとしても、一線を超えないようにだけはしてほしいのです」

勝「え?…一線?」

誘子「ええ。まぁ一線と言えばあなたにもお分かりでしょう。普通の恋人達がするような事、つまり男女の肉体関係の事です」

勝「は、はぁ…」(何となく聞き入ってる)

つまり誘子はこの時、
安美さんと俺が付き合う事になったとしても、
プラトニックな関係を絶対壊さず、
不埒な思い、邪な心の姿勢をもって彼女には接するな…
という事を言ってきたのだ。

でも俺には、
「本気で惚れ込んだ彼女に1度会えるだけで良い」
その思いが強烈にあったので、この時こう言った彼女に対し…

勝「…誘子さん。大丈夫ですよ僕なら。絶対そんな気持ちで彼女に対したりしませんし、何より一緒に居るだけで本当に僕は幸せになれると思います。こんな気持ちは本当に初めてなんですよ。どうか、彼女に会わせて下さい」

と応えていた。

ト書き〈会って交際スタート〉

そして翌日。
俺は誘子さんに連れられて彼女のヒーラー教室にまで行き、
そこで本当に安美さんに会えたのだ。

安美「初めまして、どうぞよろしくお願い致します」

勝「は、はい!こ、こちらこそどうぞよろしく…!」

本当に綺麗な人だった。
写真通りの人で、見た事もないような可愛らしい彼女。
性格も良く、気品も溢れ、
「本当にこんな人と一緒になれたら…」
と言う思いが心の底から次々湧いてくる。

誘子「ここでこうして3人でお会いできたのも何かのご縁です。勝さん。彼女の事、本当に大事にしてあげて下さいね。あの時に私が言った事、くれぐれも守るようにして下さい」

誘子「彼女のほうにはもうあなたの事もお話ししてあります。彼女も乗り気で、あなたとの交際を喜んでおられるようです。ですよね、安美さん?」

安美「ええ♪」

勝「あ、ハハw」

誘子「それでは勝さん、そして安美さん。これから2人で支え合って、2人で一緒に幸せな将来へ向けて歩んで行って下さい」

それから俺達の交際が本当に始まった。

定期的に週末にだけ会うようになり、
彼女と2人の時間をゆっくりまったり持っていた。

誘子さんがあの時言ったように
俺達の関係は本当に純粋で、プラトニックを守り、
お互い相手の体には指1本触れてなかった。

ただ一緒に居て愛を確かめ合う事。
こんな経験も本当に初めての事。
でも俺はやはり幸せで、彼女とこうして一緒に居られる事が
何よりの財産に思えていたのだ。

ト書き〈カクテルバー〉

それから又ある日の平日の夜。
俺は1人であのカクテルバーへ立ち寄っていた。

するとそこに前と同じ席で座って飲んでる誘子さんが居た。
どうもこの店は彼女の行きつけだったらしい。

勝「やぁ誘子さん!来てらっしゃったんですね♪」

俺は彼女に心の底から感謝して、
これまでの自分の生活を変えてくれた事、
人生に夢を持たせてくれた事、そして何より
あの安美さんに本当に会わせてくれた事…

これらの感謝を全部その時誘子さんに伝え、
彼女もそれを聞いて自分の事のように喜んでくれていた。
そして…

誘子「それではお2人の出会いを祝して、ここで乾杯でもしますか?」

と指をパチンと鳴らし
マスターに一杯のカクテルをオーダーし、それを俺に勧めた。

誘子「それは『Love in Reality』と言う特製のカクテルでして、こんなお祝いの時に飲むように作られた幸せのカクテルです。まぁこれからの安美さんとの幸せを記念する為にも、ぜひグッとお飲み下さいな」

俺は喜びの中でそのカクテルを受け取り、
その場で一気に飲み干していた。

ト書き〈トラブル1〉

しかし、それから信じられないトラブルが起きたのだ。

勝「ええ!?ど、どういう事だよそれ!なんで僕とはもう付き合えないの!?」

安美「ごめんなさい。私、遠くへ引っ越す事になっちゃって、もう都内に戻ってくる事はないと思うの。私、これまであなたと一緒に居てあなたの事を本当に愛してしまって、片時も離れたくない…その気持ちだけが本当に膨らんじゃって…」

安美「…だから遠くに引っ越してあなたに会えないかもしれないって思うと、もうやり切れなくなっちゃうのよ。だからあなたの事をなんとか忘れて、これからは1人で生きて行かなきゃ…って本気で思ってるところなの」

勝「わ、分からない!遠くへ引っ越すって、どこに行くんだよ!?そ、それに遠くへ行っても連絡は取り合う事だって出来るし、何も別れる必要(こと)なんて全然ないじゃないか!」

勝「これまで俺達は純粋に付き合ってきたんだろう?お互いに愛し合って支え合ってやっていくんなら、どこに居たって場所なんて関係ないよ!…なんでいきなりそんなこと言うんだよ」

本当に彼女が今言ってる気持ちが分からなかった。
彼女はただ遠くへ引っ越すから俺と別れると言う。
しかもその場所もはっきり言わず、ただ自分の事を思う上、
「俺の事を忘れなきゃならないから」と頑なにそう言うだけで、
その真意が全く分からない。

安美「どこへ行くのかはもう聞かないで!勝さん、ごめんなさい、本当にごめんなさい!」

勝「あ、おいっ!」

そう言って安美は本当に俺の前から姿を消して、
その後は連絡も一切取り合わず、翌日…それから数日後…
本当にどこに行ったのか分からなくなってしまった。

ト書き〈カクテルバーからオチ〉

それから俺はもちろん彼女の行方を追う為に、
おそらく安美の事を今でもよく知っているだろう
誘子さんに会いに又あのカクテルバーへ来ていた。

店に入るとやはり誘子さんは前と同じ席に座って
静かに酒を飲んでいた。

勝「誘子さん!」

俺は彼女を見つけるや否やすぐに駆け寄り、
これまでの事と、
安美が今どこでどうして居るのかを聞き出そうと
その事をメインに訴えていた。

すると彼女はやはり安美の事を知っており、
実はほとぼりが冷めた頃に俺に連絡し、
その辺りの事を1つ1つ伝えようと思っていたと言う。
そしてこう言った。

誘子「こんな事になってしまって私も本当に残念です。でも、これも前にお話ししましたが、彼女にはやはりまだその環境と心に問題があるようで、それをなかなか自力で解決する事が出来ないようです」

誘子「おそらくあなたの前からそうして姿を消した理由も、彼女にとってどうにも出来ないその状況が引き金になり、堪らなくなって逃げるように遠くへ行った…そんなところだと思います」

勝「いや、その環境とか心の問題って一体何なんですか!?彼女と付き合ってこれまで、そんな問題なんて1度も感じた事は無いんですよ僕は!そんなのってあんまりじゃないですか!実際付き合ってる相手の僕に何にも教えずに、こんな形で勝手に離れていくなんて!」

俺はもうやり場の無い心の怒りを、
今目の前に居る誘子に全部ぶつけていた。

でももちろんそれは筋違いと言う事も少し解っている。

彼女は安美さんと俺の仲をとり持ってくれただけ。
あとは俺と安美の2人が将来を確かめ合い愛を育み合って、
いろんなハードルも2人で乗り越えて行かなきゃならなかった。

それがあんな形で出来なかった悲しみが膨大にやってきて、
ただ俺は自分の我儘をぶつけるように
目の前の誘子に甘えてそう言ってるだけ。

でも誘子はそんな俺の心に応えてくれた。

誘子「分かりました。彼女をあなたに紹介した私にも責任の一端が当然あります。ですのでもう1度だけあなたを彼女に会わせ、そこで改めてその愛を誓い合って貰い、彼女のほうにもあなたの愛が本気だと言う事を解って頂けるよう、私も動いてみたいと思います」

そう言ってくれた後、彼女は又1つカクテルをオーダーし、
それを俺に勧めてこう言った。

誘子「そのカクテルは『Peace in the Earth』と言うまぁ前と同じような特製のカクテルでして、永遠の愛を本気で誓い合う時の為に作られたもの。前のカクテルと違う所は、そのカクテルには少し特別な力が備わっていると言う事。あなたの愛が本気なら、きっとそのカクテルの効能はこのあとすぐにやってくるあなたの未来に、大きく役立つものになるでしょう」

勝「…え?」

初め何の事を言ってるのかよく解らなかったが、
とにかく俺と安美の将来をもう1度祝福してくれる
彼女の姿勢に変わらないと思ったのもあり、
俺はその言葉を最後まで聞かず
すぐにそのカクテルを手に取り、
やはりその場で一気に飲み干していた。

ト書き〈地下室へ降りて行く〉

それから俺は誘子に連れられ店を出て、
都内から随分離れた郊外の土地へとやって来た。

勝「あ、あの、ここどこなんですか?…こんな所に彼女が…安美が住んでるんですか…?」

ここへ来るまでにさっき
S墓地と言うお墓の横を通ってきていた。

誘子「ええ。彼女は今ここに住んでおられます。もうすぐです。ついて来て下さい。さっきお店で彼女に連絡しましたが、彼女、あなたの事を待って居られるようですよ?彼女を本気で愛し想うなら、どうか疑わずに私について来て下さい」

それからどんどん歩いて行き、
少し迂回するようにぐるりと回った後、
地面に大きなマンホールのようなものを見つけ、
それを開(あ)け、地下深くへ続いている階段を
誘子について行く形で俺は降りていった。

勝「ちょ、ちょっとどこまで行くんですか」

それから暫く降りて行くと地下室があり、
その部屋のドアを開けて中を見ると…

勝「や、安美!お前こんな所に居たのか!?」

安美が笑顔で立って俺を迎えて居たのだ。
部屋の中は綺麗に整えられており、
まるで新婚生活を始められるかのような
ロマンチックで、夢に富んだ内装だった。

安美「あなた、お帰りなさい。待ってたわ♪」

勝「あ、ああ…」

誘子「さぁ勝さん、どうぞ彼女の所へ。この部屋に1歩入れば、あなたと安美さんの関係を邪魔するものはもう何も無く、2人でずっと一緒に安らかに暮らしていけるでしょう」

誘子「ただ1つ、この部屋に入るには、あなたに覚悟して貰わなければなりません。部屋に入って安美さんと一緒になったなら、あなたのこれまでの生活は一変し、新しい未来へ向けてその1歩を踏み出す事になります。でも本気で安美さんの事を愛しているなら、きっとそれも出来ますよね?私は強制致しません。あなたの人生と将来です。あなたがお決め下さい。今ならまだ引き返す事は出来ますよ?」

なんだか少し怖い事を言われていたようだが、
俺の気持ちは変わらなかった。
俺は部屋に入り、安美をそこで初めて抱きしめて、
部屋の扉はその瞬間に閉ざされた。

ト書き〈S墓地で1つの墓標を眺めながら〉

誘子「私は勝の『愛する人と一緒になりたい』と言う純粋な欲望と理想から生まれた生霊。その夢を叶える為だけに現れた」

誘子「安美さんはもうこの世の人ではなく既に亡くなっていた人。勝が彼女を写真に撮ったのはあのS通り。そのS通りをずっと辿って行けばやがて郊外に出て、このS墓地に着く。彼女の霊は今安らかに、この墓標の下で眠っているのよ。勝はその彼女と一緒になった」

誘子「1つの趣味が、超自然的な現象を通り抜け、彼女との奇跡のような愛を育みそれをモノにした。2人にとって永遠の愛を誓い合ったその約束は、そんな恋愛と結婚の形に成るのでしょう。お2人共、永遠の安住の地でどうかお幸せにね…」

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