迷った挙句に独裁者
タイトル:(仮)迷った挙句に独裁者
▼登場人物
●真世井 益男(まよい ますお):男性。35歳。サラリーマン。迷ってばかりの性格。優柔不断。この性格でかなり損してると思い込む。性格を直したい。
●出世孝雄(しゅっせ たかお):男性。35歳。益男の同僚。出世して行く。敏腕。
●森原明菜(もりはら あきな):女性。25歳。かなりの美人。益男が片想いしている。優柔不断な人が嫌い。
●夢尾貴子(ゆめお たかこ):女性。30代。益男の「優柔不断な性格を直したい・潔い性格に成りたい」という理想と欲望から生まれた生霊。
▼場所設定
●会社:一般的な商社のイメージで。益男達が働いている。
●街中:ラーメン屋やボーリング場など一般的なイメージで。
●バー「アップライト」:お洒落な感じのカクテルバー。貴子の行き付け。
▼アイテム
●「オネスティ」:栄養ドリンクのような物。「オネスティ・ノーマル」と「オネスティ・スペシャル」がある。これを飲むと優柔不断な性格が直る。しかし「オネスティ・スペシャル」は剛毅果断な性格に成れると同時に常識や理性も無くさせる。
NAは真世井 益男でよろしくお願いいたします。
メインシナリオ~
(メインシナリオのみ=4170字)
ト書き〈会社〉
孝雄「おーい益男!飯食いに行くぞ!メシ!」
益男「あ、ああ」
俺の名前は真世井 益男。
今年35歳になる独身サラリーマン。
こいつは俺の同僚で出世孝雄(35歳)。
中学から一緒の同級生だ。
この会社にも同期で入社した。
ト書き〈ラーメン屋〉
孝雄「じゃ俺、塩ラーメンね!益男、お前は?」
益男「え、えーと、えーと・・・塩ラーメンもいいし、味噌ラーメンもいいし、あ、でもこっちのわかめラーメンも捨てがたいしぃ・・・えーと・・・」
孝雄「おい~好い加減その迷うグセ、直せよな!休憩時間無くなるぜ!」
俺の性格はこの通り、優柔不断!
物事をなかなか1人で決められない。
ト書き〈後日〉
孝雄「おい益男、お前、今日空いてっか?」
益男「え?あ、ああ」
孝雄「ボーリング行かねぇか!お前ご執心の明菜令嬢も来るってよ~♪」
益男「や、やめてくれよ!べ、別にそんなんじゃ・・・」
ト書き〈ボーリング〉
孝雄「よっしゃあ~~!ストライーク!!」
明菜「すっご~い!」
ト書き〈ストライク〉
孝雄「おい!益男!おめーの番だぞ!」
ト書き〈ボールをずっと選んでる〉
益男「えーと、えーと、赤いボールもいいしぃ、こっちの黄色いのもいいしぃ・・・!あ、いやいや!この前確か黄緑色のこっちのボールを使ったら、ストライク結構出せたよな!こっちにしよっ!・・・あ、でも、この金色のボールも」
明菜「・・・何してるのアレ?」
孝雄「ったくまたやってやがる!もういーから早く選んで早く投げろよ!」
益男「ちょ、ちょっと待ってくれよぉ!選ぶボールが大事なんだから!」
孝雄「・・・はぁ~~~(溜息)」
明菜「ね、ねぇ孝雄ちゃん、なんで真世井さんなんか呼んじゃったの・・・?」(小声で)
孝雄「いや実はあいつさ、お前の事がお気に入りで・・・。『1回でいいから1緒に遊びたい』なんて前からずっと言ってたんだよな。で、お前、今日来るからさ、取り敢えず呼んでみよーかなぁなんて思って呼んでみたんだけど・・・」
明菜「アタシ嫌よあんなの!あんな優柔不断を絵に描いたよーな男(ひと)」
孝雄「ま、まぁまぁ・・・」
ト書き〈落胆〉
2人のひそひそ話は丸聞こえ。
彼女は森原明菜(25歳)。
俺は彼女に片想いしていた。
やっぱりこうなる。
分かってても直せないこの性格!
俺はもう彼女と遊びに行くのをやめた。
益々、嫌われるだけだ。
ト書き〈数日後〉
それから数日後。
孝雄までが俺の事を避け出した。
好い加減、愛想を尽かしたのだろう。
益男「はぁ・・・完全に、会社でボッチか・・・」
同僚や後輩もみんな俺を避けて行く。
「こいつは面倒臭い奴」
「鬱陶しい奴」
こんなレッテルを背中に貼られ、俺の居場所は益々無くなる。
ト書き〈バー「アップライト」へ〉
益男「はぁ。俺、もうこの会社、そのうちクビだろな・・・」
思いきり落ち込んだ俺は或る日、行き付けのバーへ飲みに行く事にした。
もうやぶれかぶれ。
この性格のせいで人生詰んだ・・・そんな事までふと考えた。
いつもの飲み屋街を歩いていると・・・
益男「ん、あれ?新しい店か?」
全く知らないバーがある。
益男「『アップライト』ってのか・・・。ふぅん、まぁいいや。入ってみよ」
見た感じはお洒落なカクテルバー。
中は落ち着いており、客も少ない。
俺は黙って1人、カウンターに座って飲んでいた。
すると・・・
貴子「お1人ですか?ご一緒してもイイかしら?」
奇麗な女性が声を掛けて来た。
益男「あ、どうぞ・・・」
こんな冴えない男に声を掛けて来るなんて珍しい。
そう思いながら見ていると、何となく不思議なオーラも漂って来る。
「昔から知っている人」
そんな感覚が、心の底から沸いて来た。
益男「あ、あの、あなたは?」
貴子「いきなりお邪魔して済みません。私こう言う者です」
名刺をくれた。
彼女の名前は夢尾貴子。
心療内科を独立開業している傍ら、ライフコーチもしてるらしい。
年齢は30代半ばくらい。
でも彼女はやっぱり不思議な感覚を持つ。
彼女と居るといろいろ喋りたくなって来る。
気付くと俺は、今の自分の悩みを全部彼女にぶちまけていた。
益男「僕もうこんな自分の性格が嫌なんです!ホントいつも異常な程に迷うんです。朝起きて使う歯ブラシに迷い、着る物・携帯する物に迷い、食べる物に迷い、飲む物に迷い・・・迷うばかりの生活で、もう心底から疲れたんです」
貴子「大丈夫ですよ。あなたの悩みはきっと精神的なものです」
貴子「統合失調症、妄想性障害、緊張病に罹った人にもよくある事ですが、迷うというのは人目を気にし過ぎる点から来ています。そのせいで決断する事にひどく敏感になり、自分で物事を決めるのが怖くなってしまうのです」
貴子「ですがそれは心の状態・傾向がそうさせる習慣病の一種」
益男「え?」
貴子「ぜひ、こちらを試してみて下さい。お代は要りません」
そう言って貴子は、バッグからドリンク剤のような物を2本取り出した。
益男「そ、それは?」
貴子「これは『オネスティ』といって、まぁ強壮剤・栄養ドリンクのようなものです。飲んだ方の性格を剛毅果断なものに変えてくれます。何をするにも決断力に富み、意志も強く成れ、どんな行動もスムーズに取れるでしょう」
貴子「ノーマルとスペシャルの2種類がありまして、ノーマルの方は日常的な物事に当たる場合の決断力、スペシャルの方は更に勇気が必要な決断力を促進する効果を発揮します。ですが取り敢えずノーマルの方だけを渡しておきます。スペシャルの方はきっとあなたには効果が強過ぎると思われるので」
益男「そ・・・そんな事って」
貴子「信じる事が大切です。心の病というものは自己暗示を始め、信じる事によって問題が一掃される事が多いものです。あ、言い忘れておりましたが、このドリンクの効用には期限がありまして、大体3か月くらいです。そのあとはこのドリンクがあなたに与えた経験を土台に、どうぞ自分の力で優柔不断な性格を直し、理想の人生を勝ち取れるように頑張って行って下さいね」
俺は半信半疑でそのドリンク「オネスティ・ノーマル」を飲んだ。
ト書き〈数日後〉
益男「俺と付き合わないか?絶対幸せにして見せるぜ」
明菜「はい💛」
あれから数日後。
俺は変わった。
もはや生活において「迷う」という事が無くなった。
何事にも勇猛果敢。
仕事もプライベートも理想通りに進んで行く。
平社員から係長に出世。
高嶺の花・明菜とも付き合えた。
益男「へっへ、俺は人生の成功者だ!自分の性格をすっかり変える事が出来た!これからはもうバラ色の生活!これが、これが本当の俺の実力なんだ!」
ト書き〈3か月後〉
しかしそれから3か月後。
益男「はぁはぁ、なぜだ・・・どうして・・・?なんだか全然自分に自信が持てなくなって来た・・・。こんな事ここ最近ずっと無かったのに・・・はっ、もしや」
俺は貴子の言葉を思い出した。
「薬の効果は3か月」
益男「まさか、アレって本当だったのか・・・」
ト書き〈バーへ〉
俺はそれからすぐあのカクテルバー「アップライト」へ駆け込んだ。
益男「あ、居た!貴子さん!お願いです!あの『オネスティ』下さい!まだあるんでしょう!?お願いです!あれが無いとダメなんです!あれから僕はすっかり変わったんですが、でもここ最近、ずっと自分に自信が無くて」
貴子「やはり来られましたね。そろそろだと思ってました。ですが益男さん、申し訳ないですが『オネスティ・ノーマル』はもうありません。あれ1本限りです。あとはこちらの『オネスティ・スペシャル』だけです。ですが、こちらはあなたにはきっと刺激が強過ぎます。私としてはお勧め出来ません」
益男「そ、それ!下さい!!!お、お金なら出します!だからそれ下さい!!」
俺はもう中毒者。
貴子「ふぅ、仕方ありません。そこまで言われるなら、こちらを差し上げます。お代はこの前と同様要りません。私のお仕事はボランティアですから」
渡された瞬間、俺はそれを飲み干した。
益男「はぁはぁ!(こ、これで、明菜にも愛想を尽かされる事はないだろう…!これできっと結婚だって出来る!絶頂のままの俺で居られるんだ!)」
貴子「これだけは注意して下さい。その『オネスティ・スペシャル』の効果は絶対です。時に一般の人の理性や常識を失くしてしまう効果すらあります」
貴子「ですからくれぐれも慎重に物事を判断し、取るべき行動の決断をするようにして下さい。でないときっと、取り返しの付かない事になりますから」
ト書き〈数日後〉
数日後。
俺は相変わらず絶好調。
だがそんな時・・・
孝雄「有難うございます!益々精進します!」
孝雄が出世した。
俺の3つ上のポスト・部長に就任。
その敏腕を益々揮えるようになった。
しかし問題は・・・
明菜「はぁ・・・やっぱ彼ってデキル男よねぇ・・・しびれちゃうわ」
明菜の心が、孝雄に靡いていた事だ!
益男「(ヤバい・・・これはどうにかせねば・・・。くそ、幾ら優柔不断な性格を直しても、女心を完全に理想通りには出来ないという事か!くっ、しくじったぜ・・・!まぁ無理も無い。あのドリンクには媚薬効果なんて無いんだからな)」
益男「(さて、問題はやはりあの孝雄の存在だ・・・。あいつが居るから明菜の心が揺れている・・・。俺と一緒になる筈の明菜の心が、アイツに寄り付くなんて事があっちゃいけない・・・。孝雄・・・邪魔だなぁアイツ・・・。どうするか・・・)」
益男「(いや迷う事は無い!俺はもう『迷い』を知らぬ男!優柔不断は金輪際、捨てたのだ!心で『こうしたい』と思ったとき既に、俺は行動を終えている)」
ト書き〈逮捕される益男を眺めながら〉
貴子「やはりこうなったか。まさか女1人の為に級友を殺すなんて、常識人のする事じゃないわね。優柔不断を直したいと純粋に願っていた益男だったけど、そのキッカケを与えただけで、我儘の極致に成り下がってしまった…」
貴子「私は益男の『優柔不断な性格を直したい・潔い性格に成りたい』という理想と欲望から生まれた生霊。その夢を叶える為だけに現れた。こんな結果になるくらいなら、まだ優柔不断のままで居たほうが良かったようね・・・」
貴子「優柔不断というのはそれだけ理性や常識が大きく働き、慎重に物事を考えながら他人との共存を意図しているもの。迷う事も時には大切な事。迷いを忘れ、正直・本能のままに行動して行けば、人間は必ず独裁者と成る」