~Sometimes, a shot in the dark brings a success in yourself.~(『夢時代』より)
~Sometimes, a shot in the dark brings a success in yourself.~
老人が似合わぬ事をしていた。何やらPC(パーソナルコンピューター)のキーボードをカタカタ叩いて、自分が見たいサイトやsceneを探してハイテクと戦っているのだ。外は夜とも朝とも採れぬ様で、いつしか俺はその老人の事が嫌いになっていた。
YOU・TUBE(動画)で、俺のよく知っている中年の男(俺の元職場で働いていた東京出身の気忙しい男)が左頬少し上辺りから鼻にかけて泥の様なものを塗り付けられて、ドライアイスの様に冷気の煙が上がるアイスクリームを齧っていた。その中年が時折、さっき見た老人と重なるのである。どうしてそうなるのかはわからない。唯、俺はあの老人に対して過去の経験もあり、結局好意が湧かなかった。
その老人とは、私が以前勤めていた老人ホームに入所していたかなり重度の障害を身体に患った男性で、例えば移乗介助をしようと一介助者が努めてみても、ちょっとやそっとじゃ持ち上がらない位に重く、体重は七〇㎏程あった。上半身は細く痩せ型に見えるのだが、下半身や中身が詰まって重いのか、見た目ではわからない〝いやらしい重さ〟があり、私はその辺りもその男(老人)を嫌う一要素として嫌った。〝何でこんなに重過ぎるくらい重いんだ、軽くなれ〟と傍から聞けば殆ど無茶苦茶であろうが介助者当の本人からしてみれば必死である。これくらいの〝愚痴〟が出て来ても不思議ではない。
私は誰か女の人と会う約束をしていた。携帯に電話が入る。メールは少々で、いつもTELを使う女性だった様だ。私達はどこか、大きな大きな博物館で会う約束をしている様で、そこには昔からの知り合いが又わんさか集まって来る様な節があり、青暗い映画の中のone sceneを、地下鉄か家屋から出て来て見上げた街並みに見た時の様な嬉しさがあり、私は今まで観て来た映画と過去から次に何か嬉しく楽しい事が起こってくれるのではないかと期待をし、その時周りに集っていた職場や専門学校の仲間も居たかも知れない友人の中で、忙しく、せっせと目的の女の人を待った。女の人の温かさがどうしても欲しかったその時の私は、その欲しい物を得る事を何よりも優先する癖があり、その分余計な邪魔が入れば即座にそれを却下しようとして、思い通りにならなければ、期待と努力をした分苛立ち、どうしようもなくなるのだ。結局女の人は厚くコートやマフラーを着た体裁をちらっと私に見せただけで、裸を晒す事はなかった。「裸のその人を愛する事が出来るか!?」との問いにまともに答える事も出来ずに私とその女の人との物語は終わった様だ。
それでも私はあの老人が嫌いだった。幾度となく彼の良い所を挙げて平静に戻ろうとはするが、少し落ち着いた後で、又必ずその老人の欠点(私にとっての)が見えて来て嫌いになる。元々嫌な部分を布で隠して又その布を取って元からある嫌な部分を見ただけの事であり、一人で奮闘しているだけの事。あの老人を無駄に美化しようとして失敗しているだけである。そう、私はその老人の体躯もそうだが、性格をとても嫌った。何でも、否特に大事を遠回しに言う癖があり、又それが全て自分の得だけを狙ったもので他人の事は殆ど一切考えない。これは私の心中で言われる事だがその〝大事な事〟にはふんだんに労力を伴う場合が多かった。自分だけが良ければそれで良い、とする様でいてそういった陰湿な彼の性格を丸ごと取り出して彼にぶつけた上で、私は彼を憎んだ。「しょうもない奴っちゃ、下らない奴だ、自己中極まりない。陰湿な輩。〝あんなタイプが私の一番嫌いなタイプや〟、あの時看護婦が言ってた事がしみじみ解る。今になってよく解る。昔の老人の潔さがまるでない。うじうじした小物の様な男。〝….あの人は脆弱(よわ)い〟、あの初老の女が言っていた事も解る。あいつは脆弱(よわ)い、弱すぎる。人に無理ばかり頼む。体はまるで動かないのに頭だけは妙にしっかりしている。故に無理難題を言う。わかっちゃ居るが、それでも腹が立つのは抑えられない…」、様々な思惑が心を飛び交った。
こんな〝あの人〟を私は、YOU・TUBEの画面の中に押し込めて介護士のIが何か夏の食べ物を食べさせている光景を見ながら一度そこから遠去かった。私の携帯には職場の同僚であり一九〇㎝以上あるとっぽい男から電話が掛かって来て居り、何か質問をして来ていたが私が応えるには至らなかった様で、私の後輩であるYが少々無理矢理私に取って代わり、私の代わりというよりもY自身が自分の技量で応えていた。私は少々そのYに嫉妬して疎ましく思った。でもとっぽい男とYはスムースに問題を片付けている様だった。