「恐怖」の引っ越し
タイトル:(仮)「恐怖」の引っ越し
▼登場人物
●春川百合子(はるかわ ゆりこ):女性。37歳。専業主婦。それなりに美人。
●春川義人(はるかわ よしひと):男性。40歳。百合子の夫。単身赴任中。
●梶川佳代子(かじかわ かよこ):女性。38歳。専業主婦。それなりに美人。本編では「佳代子」と記載。
●梶川京介(かじかわ きょうすけ):男性。40歳。佳代子の夫。でも愛は冷めている。実は前科者のならず者。
●後藤清彦(ごとう きよひこ):男性。49歳。警察官。見た目は優男。実は犯罪者。本編では途中まで「警察・警官」と記載。
▼場所設定
●百合子と義彦の自宅:都内から少し離れた郊外にある一軒家のイメージで。
●佳代子と京介の自宅:百合子達の自宅のすぐ隣の一軒家のイメージでOKです。
●街中:必要ならで一般的なイメージでお願いします。
NAは春川百合子でよろしくお願い致します。
イントロ〜
あなたは、信頼している人に裏切られたらどうしますか?
また同時に、見知らぬ人に不条理に襲われたらどうしますか?
これは男女共に共通の問題になると思います。
自分の知人友人の他は、世間に出ればみんな見知らぬ人。
どこで何をしてきたのか分からない人達です。
だからそんな目に遭ってしまえばそれだけで人間不信に陥り、
恐怖のどん底を知ってしまうのは仕方のない事でしょう。
メインシナリオ〜
ト書き〈自宅〉
私の名前は春川百合子。
今年37歳になる専業主婦で、家計を助ける傍ら
在宅ワーク用サイトでライティングの仕事をしていた。
夫の義人は今単身赴任で他府県に出張しており、
帰ってくるのは 1ヵ月後。
それまで私はちゃんと家を守り、
夫が帰ってくるのを心待ちにしながら毎日自分の生活をしている。
(或る夫婦が越してくる)
そして今から2週間前に、隣の家に或る夫婦が引っ越してきた。
旦那さんはとても気難しそうな人で、
未だ面と向かって喋った事は1度もない。
奥さんは普段朗らかそうな人だったが、
それでもその派手な身なりから
何か闇の部分を持ってるような、
そんな感覚を漂わせる人だった。
奥さんとは何度か喋った事があるが、
その朗らかな表情の裏には悩みを抱えていたようで、
それは旦那さんとの関係だった。
奥さん曰く、
「旦那との愛はもう完全に冷めきっている…?」
みたいな事を言ってきた時もあり、
何か複雑な事情があるようなそんな感じだ。
ト書き〈トラブル?〉
その夫婦が住んでる隣の家は
本当に私達の住む家に隣接していたのもあり、
大声で何か叫んで居ればすぐに聞こえてくるのだ。
百合子「…またやってるわ。本当に仲悪いのかしら、あの夫婦…」
最近、あの家は夫婦喧嘩が絶えないようだ。
いつも何かで喧嘩しており
旦那さんの荒声(あらごえ)がよく聞こえてくる。
本当に愛は冷めきっている…そう思われてもおかしくない。
だったらなんで新婚みたいにあの家に引っ越してきた?
それが少し気になった。
(新たなトラブル)
そんなある日の事。
新たなトラブルがあの奥さんの身に起きたらしい。
(百合子の家で)
佳代子「もうイヤ…!こんな目に遭っちゃうなんて。私の人生、なんでこんなについてないの…!?」
奥さんの名前は佳代子さんと言い、
佳代子さんは昨日の夜、家に帰るまでの公園横の道で
見知らぬ男に襲われかけたらしい。
強姦だ。
百合子「そ、そんな事…!?ねぇ佳代子さん、警察には行ったの?」
当然、私はそう聞いたが佳代子さんは首を横に振り、
できれば警察の世話にはなりたくないと言う。
百合子「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう?また同じような事があったらどうするの?」
でも佳代子さんは今の家の事情と
新しく自分の身に降りかかったその不幸が余程ショックだったらしく、
訳が分からなくなっていたようで、
とにかく全てを穏便に済ませ早く元通りの生活に戻りたい…
それだけを思っていたようだ。
同じ女ながらに、彼女がそう言う気持ちもよく解った。
その時は私も何も言えなかったが、そのうち折りを見て、
彼女が落ち着いた頃に「やっぱり警察に行こう」と、
とりあえず勧めてみる気で居た。
ト書き〈隣の旦那がこっちを見ている〉
そんな時、また別の恐怖が私の身にやって来た。
百合子「ハッ…!」
と思いすぐカーテンを閉めた私。
隣の家のあの旦那が、自分の部屋の窓から
私の家を覗き見ていたのだ。
いや、正確に言えば私を見ていた…?
そんな感覚を受け、なんだか背中にぬるい氷を入れられたような
何とも言えない不安と不気味さを味わってしまった。
百合子「あ、あの人…何なの…?」
あの目はまるで獲物を狙って居るかのような目だった。
これも女ながらによく分かる事。
少し自意識過剰になって居たのかもしれないが、
私も佳代子さんの身に起きた事が鮮烈に心に残ってしまい、
あることないこと自分ででっち上げ、
少し精神的にまいって居たのかもしれない。
「でも一応、用心だけはしなきゃ…」
自分の身を守る為、その気持ちだけは心に留(とど)めた。
ト書き〈佳代子が殺される〉
そしてそんな時、更なるトラブルが。
或る時から一向に佳代子さんが家に来なくなり、
私は少し心配しながら、佳代子さんの携帯にも連絡を入れてみた。
でもやっぱり出ない。
それから暫く、隣のあの家を何となく気にして見ていたが、
佳代子さんが今居るような気配はしなかったのだ。
百合子「どこへ行ったのかしら…佳代子さん」
当然そうなり、私はただ佳代子さんの行方だけを気にしていた。
そんな日々を送る内、
私はなんだか佳代子さんがとても可哀想に思い始め、
もう居ても立っても居られなくなり、
佳代子さんの代わりに私が警察に行ったのだ。
そう、佳代子さんの身に起きたあの不幸を伝える上で。
すると警察はすぐに来てくれ、気を利かしてくれたのか。
隣の家に住むあの旦那には内緒の形で私の家に来て、
私だけに佳代子さんの身に起きた事情をいろいろ聞いてくれた。
警察「本当にそう言う事があったんですね?」
百合子「ええ。彼女の口から聞いたことです。間違いは無いかと…」
警察「それで今は行方不明と?」
百合子「ええ、私今それが1番気になってるんです。彼女、どこへ行ったんでしょう…」
警察「分かりました。それではとりあえずこちらで捜査しますので、奥さんは余り自分から動かないようにして下さいね。それとそんな事情なら、隣の家には余り近づかないほうが良いかもしれませんね」
もしかするとあの旦那が佳代子さんをどうにかして、
行方不明の形になっているのかもしれない…
そんな事を警察は私に話し、とにかくあの人には近づかないように、
それともし何かあればすぐに警察に連絡して下さい…
それだけ言って、とりあえずその日は帰って行った。
百合子「…ウソでしょ。まさかここまで大袈裟になっちゃうなんて…」
警察が入ったと言うだけで事件の匂いがしてきて、
私はなんだか落ち着かない。
こんな状況になれば、
「本当に佳代子さんの身に何か起きたんじゃないか?」
なんて強く思わされてしまう。
百合子「佳代子さん…無事で居てよ…」
そんな私の願いとは裏腹にそれから数日後のニュースで、
「佳代子さんは帰らぬ人になった…」と報道された。
百合子「そんな、うそでしょう佳代子さん!?」
出会ってまだ日は浅かったが、あんな出来事も踏まえ
彼女には何か特別なオーラのようなものを感じてしまい、
私は他人の気がしなかった。
ト書き〈最後の事件〉
でも悲しむ間もなく、最後の事件が私の目の前に現れたのだ。
百合子「ひいっ…!!」
京介「へっへっへwいま旦那、単身赴任で居ないんだってなぁ?じゃあちょっと邪魔させて貰って良いかなぁw」
なんと、あの隣の家の旦那・京介と言うこの男が、
私がゴミ出しをしに行ったのを見計らっていたのか。
帰ってくるなり私の背後にサッと忍び寄り、
そのまま私を押す形で玄関の戸を閉めてしまった。
鍵まで閉めて、私を逃さないスタンスだ。
百合子「や…やめて…お、お願いやめて…」
もう恐怖でまともな思考が働かない。
何を言ってもどもるようにしか言葉が出ない。
京介「へっへっへw誰も居ないんだからよ、今からちょっくらイイ事しようやwなぁ?」
そのとき電話が鳴った。
電話の音「プルルルル〜プルルルル〜♪」
精神的な恐怖の余り、その音がやたらうるさく感じた。
でも同時にすぐさま電話に出たかった。跳び付くようにして出たかった。
「誰でも良いから助けて欲しい!」
その正直が私の全身を覆っていたのだ。
でも当然この男が私を電話に出させない。
そう言えば今朝方も、電話が何度か鳴っていたのを思い出した。
その時は眠たかったから電話に出る事もできず、
あとで誰から着信があったのか、それを確認するのも忘れていた。
でも今はそれどころじゃない。
百合子「や、やめて…お願いだからやめてよぉ!」
京介「へへっ!wイイじゃねぇかよ!オラこっち来いよぉ!!」
百合子「やめてえ!!」
その時だった。
京介「ぐはあ!!」
と言ってまず京介が私の目の前で倒れ、その背後には…
警察「ハァハァ、間に合ってよかった…」
いつか私の家に来てくれたあの警察が立っていたのだ。
彼の名前は後藤さんと言った。
後藤「大丈夫ですか?この男、やっぱり…」
百合子「ハァハァ…あ、ありがとうございます…」
私はもう恐怖で声が震えて、その姿勢で彼にお礼を言った。
それから後藤さんは私に教えてくれた。
後藤「実はこの男、前科者だったんです」
百合子「…え?」
後藤「窃盗容疑、詐欺、婦女暴行、その他にも数えあげれば10以上の前科があります。それを改めて署で調べて分かってから、急いであなたの家にやってきました。はぁぁ、とにかく無事でよかった…」(大きく溜息をつきながら)
その時、彼の額に傷があるのに気づいた。
後藤「あ、これですか?…実は情けない話ですが、つい昨日の夜、公園横の道で何者かに襲われて、棒のような物で殴られてしまったんです。でもそれからその何者かが自転車に乗って逃げようとした時、ちょうど車と接触しそうになってそいつは叫びました。そのとき聞いた声と、今奥さんに迫っていたこいつの声が、なんとなく同じだったように思えます」
後藤「…いや、間違いなくこいつだったんでしょう。先日、山中(さんちゅう)で亡くなった佳代子さんの遺体のそばに、こいつの靴跡が発見されました」
百合子「え…?じ、じゃあ…」
後藤「ええ、奥さん殺しの犯人はこいつです」
なんともいろいろな展開が一気にやってきて、
私はもの言えない気持ちになっていた。
でも、助かった。
その思いだけが私を安堵させ、膝から崩れ落ちるように床に座った。
後藤「大丈夫ですか?」
百合子「え、ええ…なんとか…」
余りの恐怖だ。
百合子「あの、お茶でも飲まれますか?…私もう、喉がカラッカラで…」
それから私はなんとか平常を持ち直し、キッチンへ行き、
後藤さんと私の分のお茶を入れようとした。
でもその時、私の背中の後ろをひゅっと風が通り過ぎるような気がした。
「なに?!」と思って振り向くと…
百合子「え…?ご、後藤さん?」
後藤さんがさっきまでとは全く違った表情で
私は見下げて立っていたのだ。
それだけで「まさか…」と言う一線の恐怖が
背中をものすごい勢いで走っていった。
(オチ)
そして後藤さんは何も言わず、寡黙なままで、
ただものすごい勢いで私を押し倒そうとしてきた。
襲ってきたのだ。
百合子「ちょ、ちょっと!な、何するんですか!?あ、あんたまさか…!?や、やめて!やめて下さい!!」
その瞬間だった。
義人「やめろ!!」
聞き慣れた声がしたかと思えば
後藤さんはすごい勢いで殴り飛ばされ、
そのまま床に突っ伏した。
百合子「あ、あなた、あなたぁ!!」
私の夫が帰ってきてくれたのだ。
帰る予定はまだ5日も先だったのに…
義人「こんな事になってたなんて…。なんで電話を取らなかったんだ?何度も電話したんだぞ、今日!」
朝にかかってきていたあの電話は夫からだった。
仕事が早く片付いたので今日帰る、
と夫は何度も私に言おうとしてくれていたらしい。
百合子「あなた…!抱いてて、私もう怖くて…!」
私は思いっきり義人の胸にすがりついた。
ト書き〈後日談〉
そしてこれはあとから分かった事だが、
佳代子さんの身に起きたあの事件の周りでは、信じられない、
凄まじい計画がなされていたのだ。
佳代子さんを強姦して襲ったのは、なんとあの警官・後藤さんだった。
後藤さんはこの辺りの巡回パトロール中に佳代子さんを知ったようで、
その時から彼女に夢中になり、
「いつかやってやろう」そんな気持ちで居たと言う。
そして隣の家に住んでいたあの男・京介は、
文字通り、佳代子さんへの愛は既に冷めており、
次に私に目をつけて後藤さんと同じく、
「いつかやってやろう」
そう思いながら狙っていたらしい。
あのとき窓辺に見た彼の表情は、やはり嘘じゃなかった。
私の予感は当たっていたのだ。
そしてここからが恐ろしかったが、
京介は既に佳代子さんを見捨てており、
後藤さんにわざと襲わせた後、
「亡き者にして構わない」
とまで言っていたらしい。
それで弱みを握り、次は自分が私を襲った後に
「証拠を揉み消して黙って居てくれ」
と後藤さんに迫ったらしく、とりあえず後藤さんはそれを承諾。
でもこれは嘘の承諾で、京介が私の家に踏み込んだ後、
後藤さんはそのまま京介を亡き者にしようとしたらしい。
そうすれば弱みを握る人間は無くなり、
適当な証拠をでっち上げた上、佳代子さん殺しの犯人を
京介にする事ができてしまう。
山中にあったあの靴跡は後藤さんが用意したもの。
そして京介は後藤さんに思いきり殴打されて
そのまま亡くなり、計画通り、帰らぬ人となった。
あの時点で気づくべきだった。
もし京介が恨みを晴らす為に後藤さんを殴っていたなら、
傷が額にあるのはやはりおかしい。
顔見知りの犯行でもない限り、
身構えてよけられる確率のほうが高いのだから、
普通なら背後から襲っていた筈。
どうりで傷も小さかった筈だ。
あの傷も後藤さんが自分で付けていたもの。
もちろん後藤さんはそれからすぐに捕まり、
計画的かつ残忍で、救いようのない凶悪犯とされた上、
その後、極刑に処されたと言う。
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