青年会
タイトル:(仮)青年会
▼登場人物
●人輪 保(ひとわ たもつ):男性。30歳。人間関係が苦手。教会に通う。人の輪の中ではこれまで自己主張が余り出来なかった(ずっと我慢してきた)。でも自己顕示欲はメチャクチャ強い。
●影田(かげた):男性。50歳。E教会の牧師。
●安田佳代(やすだ かよ):女性。25歳。可愛い。大人しい。愛野教会員。
●堂本信二(どうもと しんじ):男性。25歳。佳代の事が好き。愛野教会員。
●望実教子(のぞみ きょうこ):女性。30代。保の「快適で居られる人間関係が欲しい・自己主張を存分に出来る他人との空間が欲しい」と言う本性と欲望から生まれた生霊。
▼場所設定
●E教会:一般的なキリスト教会。
●愛野教会(あいのきょうかい):教子から勧められた教会。キリスト教会。実は異空間に存在している。
●バー「Relationship」:意味は「人間関係」。お洒落な感じのカクテルバー。教子の行き付け。
●公園:保の自宅から最寄りにある。一般的な公園のイメージでOKです。
NAは人輪 保でよろしくお願いいたします。
メインシナリオ~
(メインシナリオのみ=3987字)
ト書き〈E教会〉
影田「いかがです?礼拝の後で青年会があるんですが、一緒に出ませんか?」
保「い、いえ、今日は帰って仕事がありますので。でも有難うございます」
俺の名前は人輪 保(30歳)。
ここE教会に通うクリスチャンだ。
でも俺の信仰はまだまだ薄い。
俺はここに2年前から通ってる。
俺を青年会に誘ってくれたのは影田牧師。
とても優しい良い先生だ。
でも俺は人間関係が超苦手。
青年会にこれまで数回出席したが、メチャクチャ嫌な思いをさせられた。
会のメンバーに自己主張の強いヤツが数人いるのだ。
そいつらと反りが合わない。
俺はどちらかと言うと臆病の奥手。
自分の気持ちを人に伝えるのが苦手だ。
保「周りがみんな優しくて穏やかな奴らばかりならいいのになぁ」
ト書き〈バーへ〉
あれから俺は何度か影田牧師に「青年会に来ないか?」と誘われた。
でも全て適当な理由を付けて断った。
どうしても行く気になれない。
行って、自分が傷付けられるのが怖いのだ。
保「あークソ!なんでこんな女々しいヤツになったんだ俺!」
溜まる鬱憤。
仕方なく、久しぶりに飲みに行く事にした。
保「ん?『Relationship』?」
飲み屋街を歩いていた時。
少し興味を引くバーがある。
中は落ち着きがあって良いムード。
俺はカウンターで1人飲んでいた。
するとそこへ・・・
教子「こんにちは。お1人ですか?ご一緒してイイかしら?」
女性が1人声を掛けて来た。
不思議な感じの人。
初めて会うのに、1度どこかで会った気がする。
保「あ、ど、どうも」
暫く喋った。
彼女の名前は望実教子。
歳は30代くらい。
ライフコーチをしていると言う。
話の成り行きで、俺は自分の悩みを話してしまった。
教子「なるほど。人間関係が苦手なんですか」
保「ええ。もう昔からなんです。普段喋る相手と言えばホント両親くらいで。25歳を過ぎた辺りから誰とも口を利かなくなっちゃって、家に帰ればもっぱら原稿書きの毎日です。あ僕、在宅ワークでシナリオライターやってんです」
教子「へぇ、そうでしたか」
彼女と居ると、何故か知らないが自分の事を打ち明けたくなる。
本当に不思議な人だった。
俺は教会での事も彼女に打ち明けた。
教子「なるほどねぇ。本当はその青年会に出席したいけど、気が合わない人が沢山いるから出席できなくて、いつも悶々とした気分で居る訳ですねぇ」
保「あはは、ホント情けないお話です」
教子「わかりました。ここでこうしてお会い出来たのも何かのご縁。私がそのお悩みを解決して差し上げあげましょう。きっとお力になれると思います」
保「え?」
教子「その教会の青年会がダメなら、こちらの教会の青年会に出席してみてはどうでしょう?この教会の青年会はとても穏やかで、あなたが今経験されているような人間関係の不安定や悩みを感じる事もおそらくないでしょう」
そう言って教子は1枚のパンフレットをくれた。
そこには「愛野教会」というキリスト教会の所在が記されていた。
保「愛野教会?」
教子「長年今の教会に通ってられるんなら礼拝はその教会で出席して、青年会はその愛野教会で出るっていう感じにしてみるのはいかがでしょう?大丈夫、愛野教会の青年会は夕方からです。今のE教会へ行かれてから愛野教会へ移動するまでの時間は充分あります。余裕をもって出席できるでしょう」
保「はぁ・・・」
余り乗り気じゃなかった。
でも何となく気になった。
保「じ、じゃあ1度だけ、お試しで・・・」
教子「良かった♪良い出会いがあるといいですね」
ト書き〈愛野教会〉
次の日曜日。
俺はE教会での礼拝を終え、その足で愛野教会へ行った。
目的は青年会。
(青年会)
保「(へぇ・・・ホントだ。みんな大人しそうで、気の優しそうな人ばっかりだ)」
夕方。
愛野教会の青年会に出てみたところ、とても居心地が良かった。
男女合わせて10人程。
皆気さくで良い人で、初めて出席した俺を暖かく迎えてくれた。
堂本「ど、どうぞよろしく」(照れながら)
保「あ、こちらこそ・・・!」
佳代「保さん、これからもぜひ来て下さいね♪お会いできて嬉しいです」
保「え、あ、いや、こちらこそ!(はぁぁ可愛い)」
早速、2人も友達が出来た。
ホントに感じがいい奴ら。
保「(これなら続けて来れるかも!)」
ト書き〈愛野教会へ通い出す〉
それから数週間後。
俺は愛野教会に通うようになった。
佳代「保君、青年会始まるわよ♪」
保「うん!行こう!」
俺はすっかり変わった。
そこの牧師先生も良い人で、
「青年会の司会をしてほしい」
と俺に頼んだりもしてくれた。
今じゃ青年会の殆どの仕事を俺はしている。
それと言うのもメンバーがみんな良いヤツばかりで、
その安心と嬉しさが俺に覇気を与えてくれるからだ。
佳代「保君ってすっごいね♪司会力ばつぐんだし、知識も豊富だし!」
保「へっ、そんな事ないよ」
佳代「あたし憧れちゃうなぁ~」
堂本「も、もうすぐ青年会だよ・・・」
保「お、サーンキュ信二♪」
佳代「保君、行こっ♪」
保「ああ!おら信二!何やってんだよ、早く来いよ」
信二「あ、ああ・・・」
ト書き〈数日後〉
更に数日後。
俺はすっかり変わった。
心が充実し、教会へ行くのが楽しみになっていた。
そんな或る日。
自宅から最寄りの公園で本を読んでいた時。
教子「あ、こんにちは。お久しぶり♪」
保「え?あ、教子さん!」
買い物帰りだったらしく、俺はまた教子に会った。
保「教子さん!本当に有難うございます!僕すっかり変われました♪」
教子「それは良かったです」
保「いま僕あの愛野教会で、青年会の司会をさせて貰ってるんです♪会のメンバー達はみんな良い人ばかりで、僕すっかり青年会が好きになりましたよ」
教子「そうですか♪」
彼女も喜んでくれた。
教子「でも保さん。これだけは注意して下さい。どんなに居心地いいグループに居ても、人間関係の本質は変わりません。つまりあなたがE教会の青年会で経験したような関係が、今の愛野教会の青年会でも同じく在るという事」
教子「人が群れるとルールが出来ます。それは人間関係をバランスよく保つ為のもの。それを無視すれば必ずどこかに綻びが出て、関係はこじれます。つまり誰かがその群れの中で居心地よくなれば、別の誰かが犠牲になり、居心地悪くなる上、自己主張もスムーズに出来なくなるような事があるのです」
保「は?」
教子「あなたが青年会でこれほど居心地よく出席できているなら、その会に居る別の誰かが、これまであなたがE教会で感じてきたような居心地の悪さを感じている。その可能性があるという事です。なのでこういう時こそ人間関係のバランスや、自分が出過ぎない事への反省と配慮が必要になるのです」
保「はぁ・・・」
よく解らなかった。
取り敢えず「気配りを忘れずに」という事を言われた気がした。
ト書き〈日曜日〉
そして次の日曜日。
事件が起きた。
信二「お、お前が来たから、俺の居場所が無くなったんだ!佳代ちゃんとあんなに仲良くしやがって!そもそもお前なんか来なきゃ良かったんだぁ!」
保「なんでお前が怒るんだよ!落ち着けぇ!」
信二「うるさい!お前なんかこうしてやるぅ!」
佳代「ちょっとやめて!きゃあ!」
(刃物で刺される)
保「ぐふっ!」
愛野教会の青年会に初めから居た信二に俺は刺された。
・佳代を奪った
・新参者のくせに偉そうにしている
・我が物顔で青年会を支配している
俺をそんなふうに見ていた信二はもう我慢出来なかったらしい。
ト書き〈愛野教会の青年会に初めて出席した時の場面に戻る〉
保「痛てて・・・」
意識を失った俺は暗闇の中を一瞬通り、また光のようなものを見た。
保「・・・ん?あれ・・・ここって・・・」
愛野教会だ。
そこの礼拝堂に俺は1人横たわっていた。
保「俺・・・なんでこんなトコに寝てるんだ・・・?」
すると礼拝堂の扉をガラッと開けて佳代と信二が入って来た。
佳代「初めまして保君♪そろそろ青年会が始まるわ」
信二「ど、どうぞよろしく、一緒に青年会、行こう」(感じ良く)
保「え・・・?」
時間が戻されていた。
彼らと初めて会った時間に戻されている。
そして俺は又、初めて愛野教会の青年会に出る場面に出くわしている。
ト書き〈数週間後〉
俺はあれから夢のような流れで青年会に出席し続けた。
でもそれから数週間後、また信二に俺は刺された。
するとまた愛野教会の礼拝堂に俺は横たわって寝ており、
その礼拝堂の扉をガラッと開けて佳代と信二が入って来る。
佳代「初めまして保君♪そろそろ青年会が始まるわ」
信二「ど、どうぞよろしく、一緒に青年会、行こう」(感じ良く)
この繰り返し。
俺は今日も愛野教会の青年会に出席している。
ト書き〈愛野教会を外から眺めながら〉
教子「この教会は、実は異空間に存在している。保はずっとここで青年会に出席し続ける。いつまでか判らないけれど、人間関係のバランスを完璧に保てるようになるまで、保はここで人付き合いの勉強をして行くのでしょう」
教子「私は保の『快適で居られる人間関係が欲しい・自己主張を存分に出来る他人との空間が欲しい』と言う本性と欲望から生まれた生霊。保の本性を紐解けば、自己顕示欲の塊だった。それまで人の輪の中で自己主張が出来ず、その分ずっと憤懣が溜まっていた為、顕示欲は凄まじいものに成長していた」
教子「保は気付いていなかったけど、実は自分こそ人の輪を乱す元凶だったのよ。弱い者を見れば自分の主張を押し通し、自分の目的を勝ち取るまで徹底的に我儘になる。佳代を奪った時も、信二が彼女に好意を寄せていたのを知っていた。でも信二は温厚で優しそうに見えたから、保は安心していた」
教子「その上で信二を無視して馬鹿にして、『自分はこの青年会の全てを牛耳る事が出来る、ひいてはそれが自分の居場所を造る事だ』と言い聞かせ、自由奔放な行動に走って行った。だから言ったのに。そんな時こそそれまでの自分の行動を反省し、他人への配慮を見直す努力をしなければならないと」
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