見出し画像

夢見る狂気

タイトル:(仮)夢見る狂気

▼登場人物
●余輪田(よわた)リク:男性。37歳。独身サラリーマン。不眠に悩む。
●警察:男性。40~50代。一般的なイメージでお願いします。
●尾須野 奈代(おすの なよ):女性。30代。リクの本心から生まれた生霊。

▼場所設定
●リクの自宅:都内にある一般的なマンションのイメージでOKです。
●街中:カクテルバーなど必要ならで一般的なイメージでお願いします。

NAは余輪田リクでよろしくお願い致します。

イントロ〜

あなたは、夢遊病を体験した事がありますか?
どこか非科学的で、非日常的で、
オカルトチックな体験にすら思えるでしょうか。
それはおそらく人が日常的にその夢遊病を体験しておらず、
まだマイノリティな心身状態にあるから…
と言えるかもしれませんね。
ですが、もしこの夢遊病が日常的に起きてしまったら、
あなたはその自分をどうするでしょう?

メインシナリオ〜

ト書き〈カクテルバー〉

俺の名前は余輪田リク。
会社勤めをし始めて数年が経つが、
今、俺は心の底から悩んでいる。

それは、夜に眠れない事。
会社でいろんな仕事を任されてプレッシャーもあったのか、
そんな事の積み重ねで段々神経が尖り始め、
いつも心が落ち着かず、神経が高ぶる調子で夜に眠れない。

初めの内は少し眠れていたのだが、最近はもうダメである。

リク「はぁ…今日も眠れないんだろうな…」

もちろんこれまで総合病院からかかりつけの医者、
そこで紹介された心療内科を何軒も回ってきたが、
全部ありていの処方薬を出されるだけで、
「あなたの不眠はおそらく精神の奥深くから来てるんでしょう。長い視野で直す事を考えないといけませんね」
なんて決まり文句を言われて返される。

長い視野って一体何なんだ。
なんで俺がこんな事で悩まなきゃならない。
実直に、真面目に働いてきただけの俺なのに…。
普通の人と同じく明るい将来を夢見、そのうち良い人と出会い、
子供を持って、人の誰もが欲しがるその幸せを
得ようとしていただけなのに。

リク「…くそ!」

どんな薬を飲んでも駄目だった。
不眠を直すのに最適な薬…と言われてそのつど病院で貰ってきたが、
本当にどんな薬も俺には効かず、
今こうやって酒の力を借りるのに至っている。

人間、ある程度まで絶望を覚えたら、自暴自棄になって。
今の俺はまさにその状態だったのかもしれない。

そんなふうにしていつものようにカウンターで1人飲んでいた時…

奈代「こんばんは。お1人ですか?もしよければご一緒しません?」

と1人の女が声をかけてきた。
見た感じ結構な美人で、どこか上品でもあり落ち着いている。

俺はそんな時でもあったのでちょっと疲れていたが
せっかく声をかけてくれたんだとまた気遣い、
隣の席をあけて彼女を迎えた。

彼女の名前は尾須野 奈代。
都内でライフコーチやメンタルヒーラーの仕事をして居たらしく、
その上品さや心安らげる雰囲気はその辺りから来てたのかもしれない。

そして彼女と喋っている内、もう1つの不思議に気づく。
「どこかで会った事のある人…?」
そんな気がしてきて何となくだが心が和み、
自分の事をもっと彼女によく知って貰いたいと
俺はその夜、今の悩みを全て彼女に打ち明けていた。

不思議と彼女に対しては恋愛感情が湧かず、ただそばに居て欲しい
そばに居て、自分の理解者になってほしい…
そんな勝手な気持ちだけが湧いてくる。

奈代「不眠症なんですか?」

リク「ええ。もうこの症状に罹って随分経っています。全然治らなくて、どこへ行ってもこの悩みの虜になるんです。もう耐えられなくて…」

すると彼女は改めて自分の正体を現してきた。

奈代「実は私いま、都内の総合病院で精神科を担当しておりまして、そう言った悩みを持つ患者さんを多く診てきました。いちどあなたも私の元に来院して、その悩みを解決するため検査を受けてみますか?」

リク「え?あんた、お医者さんだったの?」

奈代「ええ。総合病院にしては珍しく精神科を設けている所がありましてね、私もその分野で長年やってきたものですから、自営より雇われの身になったほうが何かと都合が良いところもありまして」

奈代「なに、検査と言ってもそんな大袈裟なもんじゃありません。不眠と言うのは他のお医者様が言ってらしたように精神の奥深くにその原因がありまして、またその理由を突き止める事が大事になります。なのであなたの場合も、その原因を改めて明るみに引き出し、そこから解決を図る事が大事になるでしょう」

やはり彼女には不思議なオーラが漂っていた。
今更ながら、他の医者にそう言われても全部聞き流してきたのに、
彼女に言われるとなぜか信じてしまう。
心が素直になり、そうしてみようと言う気になるわけだ。

ト書き〈来院〉

そして俺はその週末。
彼女が勤めていると言う病院に来ていた。
そして彼女の診察を受けた時…

奈代「そうですね、この症状でしたらいちど心電図検査を受けてみると良いかと思います。こちらの検査をお勧めしたいのですがよろしいですか?」

そう言って彼女が勧めてきたのはホルター心電図検査。
24時間、テープで体に貼り付けた心電図のデータをもとに
まず俺の心身に異常がないか?…それを調べてみたいと言う。

リク「ちょ、ちょっと待って下さい、そんなに大袈裟なモンなんですか?」

奈代「いえ、だから原因を突き止める為だけにこの検査をしたいと思ってるんです。あなたもそのほうがすっきりするでしょう?」

そして俺は結局、そこで携帯用の心電図を体にテープで貼り付けられ、
それを24時間つけたまま、心機能の検査を受ける事になった。

ト書き〈再び来院〉

そして3週間後。
予約を取って改めて俺は来院した。

奈代「…あなた、眠れてないとおっしゃってましたよね?」

リク「…ええ」

奈代「おかしいですねぇ。ここの数値を見ると、とても心が落ち着いているのか心機能も穏やかで、眠っている人の状態と同じように見えるんですが。本当は眠れてるって事ないですか?」

いきなりそんな事を言ってくるのでちょっと驚きながらも
これまでの自分の辛(つら)さ・苦悩を思い出し、ちょっと彼女に食ってかかった。

リク「は、はあ?なに言ってるんですかあなた。眠れてないからこんなに辛い思いしてるんじゃないですか。もし眠れてるんならそれで悩み解決ですよ。こんな所に来たりしません」

奈代「まぁそう怒らないで。あなたの為に検査してるんですから。…でもあなたが書いてくれたこのデータ表と、心電図が出してくれた数値を照らし合わせてみても、どうも腑に落ちない点があるんですよ」

俺は心電図をつけられたのと同時に1枚の紙を渡され、
それに24時間の自分の行動を
なるべく詳細に書き込むようにと言われていたのだ。
その2つがどうも時間的に合わないと言う。

奈代「ここなんてウォーキングをして坂道を登っている時なのに関わらず、脈拍は普段平常に居る時より落ち着いています。全く上がっておらず、普通なら少し運動すれば多少の浮沈は表れるもんなんです。まぁ少し上がってるぐらいなもので、それでも通常、人が坂道を駆け上る程の数値は出ていません。血圧も同じです」

リク「…何が言いたいんですか?」

奈代「こんな事を言っては失礼ですが、あえて言いますね?あなた、嘘をついてるんじゃないでしょうか?」

リク「は?」

奈代「あなたは充分な睡眠を取れている。その上で、確かに日常的には心拍数が上がり、眠れてない人の状態を数値でも表してますが、この10時間の間はどうも人が違ったようにして過ごされてるんじゃないかと、私のこれまで診てきた長年の経験から思えるんですよ」

「こいつ、ヤブか?」と一瞬思った。
こんな事を言ってわざと患者に不安を覚えさせ、
それで楽しみながら別の何かの目的でもあるんじゃないか?
そんな事も思った。
でもここは総合病院で、もし個人的にそんな事をしていればすぐにバレ、
こいつ自身にもメリットは無い。

いろいろ考えながらも、
それでも俺は自分の事について心配し始め、
「一体どう言う事なんだ?俺に今何が起きている?」
その事だけを考えるようになっていた。

ト書き〈事件〉

そして、それから数日後の夜。
事件が起きた。

警察「余輪田リクだな!殺人、死体遺棄の容疑でお前を逮捕する!」

リク「ちょ、ちょっと待って下さい!コレなんなんですか!一体誰がこんなモノここに置いたんですかぁ!ちょっと放して下さい!やめてくれ!」

警察「こいつ、大人しくしろ!」

俺の部屋のクローゼットの中から、数人の男女の遺体が出てきた。
もちろん俺には記憶がない。

だから一体こんなモノを誰がここに置いたのか!?
それだけが疑問になってこの時、
警察を前に大声で叫んでいたのだ。

でもその時、警察の後ろから彼女が現れた。

リク「あ、あんた…」

奈代「やっぱり秘密がありましたね。それもこんな秘密が…。あなたはあの『10時間』の間に、夢遊病状態での殺人と、その時の落ち着いた精神の勢いで睡眠も充分に取れて居たんです」

リク「は…はぁ?な、何を言って…」

彼女はあの時の心電図データを俺に見せて言ってきた。

奈代「この10時間の内、5時間は夢遊病状態で外に出て、あなたなりに綿密に計画を練った上で殺人をなし、その満足感・充実感をもって家に帰り、その精神の勢いで心を落ち着け、それから5時間の睡眠をとっていた。もちろんあなたには、この10時間の記憶がありません。だからこの状態を全て夢遊病に片付けてしまっても何ら問題はないでしょう」

奈代「もう1人のあなたが存在して居たと言う事。そのもう1人があなたの今の生活を支え、睡眠をしっかり取らせて健康も支え、あなたをちゃんと生き長らえさせていた。その『もう1人のあなた』は、犯罪に精通したエキスパートだったようですね」

奈代「でも完璧な人間など、どこにも居りません。私があなたを見抜き、あなたが居ない時に部屋を調べさせて貰い、この証拠写真を撮っていました」

それはクローゼットの中の死体の写真。

奈代「証拠が出た以上、たとえ記憶が無くても、あなたはこれまでの行為を繰り返す事はもう出来ません。私は私で家宅侵入の罪に問われるでしょうが、あなたの殺人に比べれば塵(チリ)程の罪になるでしょうか」

リク「なん…何を言って…」

警察「さぁ早く来るんだ!」

こうして俺は警察に連行されて、
それから俺の住所は自宅から拘置所に変わっていた。

ト書き〈拘置所を外から眺めながら〉

奈代「私はリクの本心から生まれた生霊。彼の後悔の念が私を産んで、この時点で、それ以上の罪を重ねないようにしてあげた。もう少し早く私を呼んでくれたら、殺人の罪を犯す事がなかったかもしれないのに」

奈代「人は自分についても説明できない曖昧な生き物。何の目的をもって生まれてきたのか?生前死後についても説明できず、今目の前にあるものについても説明できない。だからこんな不思議が起きても人の成り立ちを思う以上、何ら不思議ではない」

奈代「彼は自分を理解しておらず把握しておらず、気づいた時には夢遊病を装い、自分の欲求を晴らす事だけに努めていた。不眠に悩んでるとか言ってたその悩みは、おそらく良心の呵責から出てきたその悩み。自然を追求するより、自分を追求する事のほうが先かもしれないわね。人間にとって」

いいなと思ったら応援しよう!