てんとうマジック
タイトル:(仮)てんとうマジック
▼登場人物
●春川明人(はるかわ あきひと):男性。20歳。大学生。超能力を持っている(てんとうマジック)。
●河本拓也(かわもと たくや):男性。享年20歳。明人と同じ大学に通う。明人をいつもいじめていた。
●警察:男性。40代。一般的なイメージで。
●女性:30代。河本の事故の目撃者。
●裕美(ゆみ):女性。享年20歳。元明人の彼女。河本のせいで自ら他界した。
●岡田(おかだ):男性。20歳。河本の大学の友人。明人をいつもいじめる。
●リエカ:女性。;20歳。河本と岡田の友人。同じ大学に通う。
●佳奈子(かなこ):女性。20歳。裕美の友達。明人の事が好きだった。
●キャスター:女性。30代。一般的なイメージでOKです。
●分身冷子(わけみ れいこ):女性。20代。明人の罪と欲望から生まれた生霊。
▼場所設定
●某大学:一般的な私立大学のイメージで。
●Two Gardian Spirits:お洒落なカクテルバー。冷子の行きつけ。
●明人の自宅:都内にあるやや高級マンション。明人の部屋は4階。
▼アイテム
●てんとうマジック:明人にしか見えないテントウムシの形をしたブローチ。これを取り付けられた人は必ず何らかの事故に遭う。明人の守護霊のようなものがそのブローチを持って人に取り付けに行く形。
NAは春川明人でよろしくお願い致します。
イントロ〜
あなたは誰かを恨んだことがありますか?
その恨みは今でも続いてますか?
ですが、恨みの力は暴力を生み、やがて破滅しかもたらしません。
それがわかっていても、人間は争いを繰り返し、
その争いは戦争にまで至ります。
そしてその争いは戦争にまで行かなくても、
日常で普通に織りなされている事。
誰にでも、身に覚えがあるでしょう?
今回は、そんな日常の争いにちょっと超能力を加味した、
或る不思議なエピソードのぶつかり合いです。
メインシナリオ〜
ト書き〈事故〉
女性「きゃあ〜!!誰か…誰か来てえ!」
その日、1人の男が何を思ったかいきなり車道に飛び出し、
向こうの歩道へ渡ろうとしていたのだろう。
その途中、ビュンビュン車が走ってるその車道の真ん中で
大型トラックにはねられ即死した。
警察「…で、あなたが見つけた時はもうこの状態だったと?」
女性「え、ええ」
警察「ふぅむ、わからんなぁ。どうしてこんな車がびゅんびゅん走ってる車道に飛び出そうなんて思ったんだ?ちょっと向こうへ行けば交差点もあるのに…」
ひき逃げしたトラックの運転手はその後すぐ逮捕された。
その事故で死んだ男の名前は河本拓也。
大学生で、俺の周りに居たやつだ。
俺の名前は春川明人。
今年、ハタチになる大学生。
俺には1つ、特殊な能力がある。いわゆる超能力と言うやつだ。
それは誰にも見えないブローチを人に取り付ける事ができ、
ブローチを取り付けられた者は必ず事故に遭う…というもの。
そう、『ジョジョの奇妙な冒険』と言う漫画に登場する、
スタンドのようなものだと思ったら良い。
そのスタンドが取り付けるアイテムで、
人を事故に見せかけて殺すのである。
丁度てんとう虫の形をしたブローチ。
ジョルノに似てるねぇ…なんて思いながら俺はそのブローチを
「てんとうマジック」と名付ける事にした。
あの河本は、俺にとってひどく邪魔な奴だった。
俺をずっといじめ抜いた奴で、
挙句は俺に想いを寄せてくれていた裕美を自殺に追いやった奴。
裕美が俺に好意を寄せていると知った瞬間、
あいつは裕美を人気のない所に呼び出して
無理やり襲い、それがショックで裕美は自ら他界した。
信じられない悲劇ドラマのような話だが本当の事。
どうしても許せなかったあいつを、俺はこの度、
また事故に見せかけてめでたく殺してやった。
ただそれだけの事。
ト書き〈大学〉
岡田「ほんと、河本のやつ、悲惨だったよな」
リエカ「うん。でもどうしてあんな車道に急に飛び出したんだろ…」
岡田「ああ、そりゃなんかトイレに行きたいとか言い出してさ、いきなり車道に飛び出したんだよ…」
この岡田もリエカも、河本の親しい友人だった。
河本が事故にあった時、岡田もその場に居た。
岡田「確かあいつ、『なんか知らねぇがよぉ、無性にトイレに行きたくなっちゃってさぁ!ここ渡って向こうへ行ったら、俺のパラダイスみたいな所があるように思うんだぁ!トイレの中に俺のパラダイスがぁ!』とか叫んで急に飛び出したんだ」
リエカ「パラダイス…?」
岡田「あ、ああ。よくわかんねぇよ。『向こうに交差点あるぞ』って言ってやったのに…」
リエカ「ど、どうして止めてあげなかったのよ!?」
岡田「だから何も聞かずに急に飛び出したんだよ!止めれるもんなら止めてたぜ!」
学校でも巷でも、
あの河本の不可解な事故死について話題は持ちきりだった。
(陰で聴きながら)
明人「…フン。あいつは死んで当然の野郎さ」
俺はその噂を聞くだけ聞き、家に帰った。
ト書き〈数日後〉
それから数日後。
裕美の友達だった佳奈子という女から、
俺はまた公園に呼び出され、そこで告白された。
明人「え?俺と…?」
佳奈子「え、ええ。ダメかしら?私、春川君が裕美と付き合ってる時から、実はずっと春川君の事が気になってて…。裕美のこと羨ましかったの…」
明人「…でも俺は裕美の事が好きだったから、君とは…」
佳奈子「で、でもそれはもう過去の事でしょう?春川君の裕美を想う気持ちは痛いほど私にもよくわかるけど、でも、今目の前に居るのは…」
明人「…ごめん」
そう言って何度か俺はその告白を断ったのだが、
それでも佳奈子はやっぱり俺に言い寄ってきて、
自分の気持ちを正直に伝え続けていた。
そんな時、また岡田が横からしゃしゃり出てきて…
岡田「よう明人ぉ!お前にこんなべっぴんは勿体ねぇぜ!ねぇ佳奈子ちゃん、こんな根暗ほっといて俺と一緒に遊ぼうぜw」
佳奈子「な、何言ってんの、嫌よ!ちょっとやめて!」
とまた河本と同じような事をしてきた挙句…
佳奈子「き、きゃあ!!」
と駅の階段からバランスを崩し落ちてしまった佳奈子は、
全治3ヶ月の大怪我を負ってしまった。
岡田「お、俺しらねぇからな!お、おめぇが悪いんだ!分不相応な事をするから俺もつい怒りが沸いちまってよ!」
そう言って岡田は逃げて行った。
まぁ警察に捕まるのは時間の問題だったがそれでは俺の気が済まない。
明人「… 1度ならず、2度までも…。岡田、許さでおくべきか」
俺の守護霊はあのブローチ「てんとうマジック」を持って飛んで行き、
逃げるさなかの岡田の背中にポンと付けておいた。
そしてその日の夜のニュースで…
キャスター「工事現場の横を通りかかっていた大学生が、上から落ちてきた鉄筋の下敷きになり…」
岡田は死んだ。
完全なる事故死とされて。
ト書き〈カクテルバー〉
そんなある日の事。俺は久しぶりに飲みに行った。
その日は俺の周りから2人も邪魔な奴が消えたので、
祝杯をあげたい気分だったのだ。
暫く歩いていると…
明人「ん、『Two Gardian Spirits』?」
全く見た事のないカクテルバーがある。
物珍しさもあり俺はそこに入り、
いつものようにカウンターについて1人飲んでいた。
していると後ろから…
冷子「フフ、お1人ですか?もしよければご一緒しません?」
と1人の女性が声をかけてきた。
彼女の名前は分身冷子(わけみ れいこ)。
都内でスピリチュアルヒーラーの仕事をしていたようで、
どことなく不思議な人だった。
それに何となく、
「昔どこかでいちど会った事のある人?」
のようなイメージが湧いて、俺も少し心が開放的になり
彼女を隣に迎え、暫く談笑して楽しんだ。
でもそこで俺は、あらぬ事を言ってしまったのだ。
冷子「え?超能力、ですか?」
俺は自分の秘めた力の事を、
なんと今初めて会ったこの人に話している。
なんでそうなったのかよくわからない。
ただ彼女の前に居るとなんだか自分の事を無性に話したくなり、
おそらくそのせいで自分の正体を告白してしまった…
そんな流れだったと思う。
明人「あ、あははwなんか変なことベラベラ喋っちゃいましたねwどうか気にしないで下さい。スルーしてくれたら嬉しいです」
俺は少しごまかした。
でも彼女は…
冷子「いえ、そんなお話を聞かせて頂くのも楽しいですよ?私も仕事柄、人の霊を扱う分野に少し精通しておりまして、そういったお話も私自身の糧になりますから」
とあっけらかんと言い、
変わらず優しい微笑みを俺に投げかけていた。
でも1つ、俺に忠告してきたのだ。
冷子「ですが明人さん。その力、余り乱用されない方が良いと思います。でなければ、あなたは気づかない内に自分に不幸を招き入れる事になるでしょうから」
明人「…え?」
冷子「フフ、忠告めいた事をしてごめんなさい。でもあなたの為を思って言ってるのです。その『てんとうマジック』…でしたか?それを使って人知れず、他人を事故に追い込む事など、誰かに知られたら、犯罪以外の何ものでもありません。どこからボロが出るか分かりませんよ?人の世の中とは、そう言ったものですから」
俺はこの時、自分の能力について少し話したが、
「てんとうマジック」とは一言も言ってなかった。
明人「(なぜその事を知ってる、この女は…)」
そう思った瞬間から、俺はこの女を警戒し始めていた。
ト書き〈数日後〉
それから数日後。
また俺の周りにイラつく奴がやってきたので、
俺はそいつにあのブローチ「てんとうマジック」を取り付け、
事故死に見せかけて殺そうとした。
でもその直後…
明人「なっ…!あ、あんたは…」
あのバーで会ったあの女・冷子が急に横からしゃしゃり出てきて、
誰にも見えず、手に取る事のできない筈のそのブローチを
さっと手に取りつまみ上げ、
そのままそのイラつく奴を行かせてしまった。
冷子「フフ、本当によく出来たブローチ。誰にも見えず、手に触れる事もないと思ってたこのブローチでも、少し霊感が強い人なら見えて、手に取る事もできるんですよ?ほらこの通り?」
明人「あ…あんた、一体、何者だ…」
冷子「フフ、普通のOLです。まぁ仕事は少し普通の人と違って、スピリチュアルヒーラーなんてやってますけど」
明人「……」
冷子「明人さん。言った筈ですよ?少し腹が立ったからって、何もその人を死に追いやる必要はないでしょう?そんなトラブルは、普通に世間を生きていれば誰でも経験するもの。あのとき私が『乱用』と言ったのはこの点です。あなたはちょっとした事ですぐ人を死に直結させて、『大事なものを守るんだ!』みたいな自分だけの正義を掲げ、その曖昧な決意のもとに人を裁いてしまう」
冷子「でもそれは、偽物の正義です。本当の正義じゃありません」
俺はこのとき怒りが沸いた。
自分だけのテリトリーにこいつが入ってきたからだ。
明人「…言う事はそれだけ?ハハ、何のこと言ってるのかよくわからんね。…あんたこそ、気をつけたほうがイイんじゃないのか?なまじ霊感商法をかじっただけで、それを地(じ)で行く奴とまともに向かい、本気で勝てると思ってるのか?」
冷子「嫌ですねぇ、霊感商法じゃありませんよ?スピリチュアルヒーラーというれっきとした…」
明人「もう良い。あんたと話す事はないんだ。あの時、ちょっとでもあんたに心を許そうと思った俺が恥ずかしいよ。今後、俺の邪魔を一切するなよ?もしかしたら、あんたの身にこそ不幸が降りかかる…そう心得とくんだな」
吐き捨てるようにそう言って俺は立ち去った。
こいつを許す気はまるでない。
そう、俺は自分の秘密を知ったこいつを殺そうと決意していた。
俺の力がこいつなんかに負ける筈がない。
俺はこの能力を身に付けてこれまで、何人も同じ方法で葬ってきた。
おそらくその免疫が、その時の俺を強くしていたのだろう。
ト書き〈対決からオチ〉
(明人の自宅マンションを見上げながら)
冷子「フフ、ここが彼の住んでるマンションね。彼の事を純粋に助けてあげようとしたけれど、どうやら無理のようね。それどころか私に刃(やいば)を向けて、対決しようなんて。…余りにも馬鹿げた行動よ」
(明人の部屋の中)
明人「…あの女、許すまじ。でもこれまでのあり方から見て、あの女、ただ者じゃない。問題はどうやってあの女を葬るかだ…」
机に1人向かって静かに考えて居た時…
冷子「フフ、そんなに考え込む事ありませんよ?なんなら今すぐにでも、ここで対決して差し上げましょうか?あなたが自分で自分を葬る事になるでしょうけど」
明人「な…!あ、あんた、一体どこから…」
部屋のドアは鍵を閉めており窓も開いてなかったのに
いきなり部屋の真ん中に現れたこの女。
なるほど…と思った時には、もう対決の姿勢をとっていた。
明人「…あんたは俺の秘密を知った上、俺の邪魔ばかりをしてくる。そんなあんたが、俺の周りに居ちゃいけないんだ」
冷子「おやおや、自分の秘密を暴露したのはあなたのほうだったでしょう?私はそれを聞かされただけ…」
明人「うるさい…!お前の存在そのものが邪魔なんだ…。漫画じゃないが、お前は俺に葬られるべきなんだ」
そう言って「てんとうマジック」を彼女の背後に回し、
気づかれないよう取り付けてみた。
まぁ一筋縄ではいかないと思ったが
何らかの効果はあるだろうと踏んだ為。
明人「(よし、気づいてないな…)」
俺との討論に夢中で、
彼女は自分に取り付けられたそのブローチの存在に気づいてない。
そして…
冷子「あ…な、なんだろ、あたし…。なんか無性に、空を飛びたくなっちゃった…」
そう言ってふらふらと部屋の窓のほうに近づいていく。
明人「…フフ…空を飛びたくなったんだ。…その願い、叶えてあげるよ?ほら、この窓。この窓から飛び降りたら、空を飛べるよ?窓を開けるぐらい、僕が手伝ってあげる。さぁ、どうぞ…?」
俺はそう言って窓を開け、彼女をその窓向こうへいざなった。
冷子「あ…ありがとう…ああ!飛びたい!!あの空の向こうに私のパラダイスがあるのよぉ!」
そう言って彼女は一足飛びで窓の桟に足をかけ、
その勢いで窓から飛び降りた。
ここは、それなりの高級マンションの4階。
飛び降りればただでは済むまい。
下手したら即死。
明人「…フフ…さようなら…僕の愛しの人、冷子ちゃん…」
落ちる瞬間そう言ったのだが、
その落ちる瞬間、彼女も同じく…
冷子「…って、本当に私が掛かると思った?あなたは自分で自分の身に破滅を招いたのよ?あのとき私が言った通りになったわね。私を通して、自分のしてきたことを味わってみなさい…」
そう言ってきて、不思議だったが彼女がそう言う瞬間、
一瞬、時が止まったかのようにスローに見えた。
そして彼女が4階の窓から地面に叩きつけられた瞬間…
明人「ぎゃふうぅ!!!」
と叫んで俺は部屋の床に突っ伏し、動かなくなってしまった。
どうやら本当に打ち所が悪く、「下手したら…」の通り、
俺はその場で即死した。
彼女が外の地面に叩きつけられたのと同時に、
俺は自分の部屋の中で死んだのだ。
ト書き〈マンションを見上げながら〉
冷子「フフ、私は明人の罪と欲望から生まれた生霊。彼の罪を食い止めて、何とか悔い改めさせようとしたけれど、所詮は無理だったわね。彼の欲望と罪は大き過ぎたわ」
冷子「私は彼の生霊だから、私の身に起きた事は彼にそのまま起こる。彼はそれで、私が地面に叩きつけられたのと同時に部屋の中で死んでしまった。まさに不可解な事件よねぇ」
冷子「なまじ妙な能力を持ってしまったが故に、彼は自分の能力を過信して、何でも思い通りになると思い込んでいた。人間には無理でも、生霊にはその罪を裁けるの。私の言葉を軽く聞いたあなたの責任。さて、私もそろそろ消えますか」
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