独裁の人形
タイトル:(仮)独裁の人形
▼登場人物
●石久渡紗夜(いしくど さや):女性。27歳。内向的。でも独裁心もある。
●石久渡義也(いしくど よしや):男性。30歳。紗夜の夫。優しい。
●賀成裕子(がなり ゆうこ):女性。30歳。紗夜の直属の上司(課長)。
●早乙女頼子(さおとめ よりこ):女性。27歳。紗夜の同僚。
●麻生佳奈美(あそう かなみ):女性。26歳。紗夜の後輩。
●同僚:女性。27歳。紗夜の唯一心許せる同僚。一般的なイメージでOKです。
●糸名(いとな)メア:女性。20代。紗夜の独裁の本能から生まれた生霊。
▼場所設定
●会社:達が働いている。一般的な商社のイメージでOKです。
●Night of Dictatorship:お洒落なカクテルバー。の行きつけ。
●紗夜の自宅:都内にある一般的なアパートのイメージで。
●佳奈美の自宅:同じく都内にあるアパートのイメージで。
▼アイテム
●呪いの人形:恨む人間の髪の毛を人形に貼り付け、その人形の体の部位にマジック等で線を引くと、現実でもその恨まれた人間はその部位に大怪我をする。首に線を引くと切断されその対象の人間は殺される。『パーマン』のコピーロボットの様なイメージでOKです。
NAは石久渡紗夜でよろしくお願い致します。
イントロ〜
皆さんこんにちは。
ところで皆さんはいじめられた経験がありますか?
人は群れをなせば特定のルールができるもので
その中に弱肉強食のルールも生まれ、
余りに不条理な事も普通に起きたりするものです。
その最たるものが例えば戦争でしょうか。
今回は、こんな人生の不条理に悩み尽くし
どうしても助けてほしいと願い続けた
ある女性にまつわる不思議なエピソード。
メインシナリオ〜
ト書き〈バー「Night of Dictatorship」〉
紗夜「はぁ。どうして私ってこう…どこへ行ってもいつまでたっても、嫌な思いばかりさせられるんだろ…」
私の名前は石久渡紗夜。
今年27歳になる。
一応、都内の会社で働いていて、数年前に結婚している。
夫の名前は義也。
とても優しい人で、私の事をいつも第1に考えてくれ
とても愛してくれている。
会社はもう少ししたら辞めるつもりでいるが、
今のところはまだ働いていた。
まぁ家計の助けにもなるし、と思って。
でも私は昔からのいじめられっ子。
気弱で内向的で誰と居ても引っ込み思案で、
人の輪に入れば必ず目をつけられて、
誰か特定の人にいじめられる。
今は会社の上司や同僚、更には部下からも馬鹿にされ、
散々な目に遭っていた。
(会社で馬鹿にされる)
裕子「なぁに〜?石久渡さん、あんたこんなこともできないのぉ〜?だから能無しって言われんのよw」
頼子「バッカじゃないのアンタ!誰がアンタなんか飲みに誘うかってのよw!しっしっ!向こう行ってよ気持ち悪いw」
佳奈美「先輩ってホント何やってもダメですね〜wそんなんでよくこの会社に入れた事wあ、先輩ってあたしの仲間内でなんて呼ばれてるか知ってます?『ドンガメ紗夜えんどう』なんて呼ばれてんですよw『ドンガメ』はどん臭いって意味でぇ、『えんどう』は縁遠いって意味♪つまりぃ、何やってもどん臭い先輩のそばには誰も寄り付きたくない、みたいな感じの意味なんですってwアハハw」
特にこの3人。
直属の上司・賀成裕子、同じ部署で働く同僚・早乙女頼子、
そしてその2人によく可愛がられてる後輩の麻生佳奈美。
この3人は私にとって天敵のような存在で、
他の社員はまだしも、この3人が会社にいるだけで
私のOL生活はもうホントにどん底だった。
そしてそんな1日の疲れを引きずって
ついそのストレスを発散したくなり、
家に帰るのが遅くなるのは承知でここ、
少し前に見つけた会社から最寄りのカクテルバー、
『Night of Dictatorship』って店によく来ている。
紗夜「はぁ…。ほんともう会社なんて辞めちゃおかな。義也さんはすぐ分かってくれると思うし、こんな思いするぐらいなら…」
とその時だった。
メア「こんばんは♪お1人ですか?よかったらご一緒しません?」
と後ろから急に声をかけてくる女性がいた。
振り返って見ると、結構キレイな人。
紗夜「あ、どうぞ…」
特に断る理由も無かったので隣を空けた。
彼女の名前は糸名メアさん。
都内でコンサルタントの仕事をしていたらしく、
副業でライフコーチなんかもしてるらしい。
紗夜「へぇ、いろんなお仕事なさってるんですね」
メア「フフ♪まぁどれも趣味のようなものです」
そうして少し喋っていると
なんだか不思議な気分にさせられる。
何か「昔から一緒に居た人…?」
のような感覚をまず覚えさせられ、
それから自分の事を彼女にどんどん話したくなってくる。
何だろう…と思いながらも私はその時、
今自分が抱えてる悩みの殆どを彼女に打ち明けていた。
紗夜「あ、あは、ごめんなさい!なんか初対面の人にこんなこと話しちゃうなんてwあたしどうかしてますね♪」
今、自分が会社でいじめられている事を彼女に話してみたのだ。
そのついでにこれまでの自分の経歴や生い立ち、
学生生活もそれなりに悲惨だった事…
まぁその辺りのいろんな事をそのとき打ち明けていた。
そして今の旦那・義也さんだけは自分の事をちゃんと理解してくれ、
愛してくれて、それだけが唯一の心のオアシスだった事も。
メア「そうですか。何か大変な経歴をお持ちのようですね。でもよかったです。こうしてあなたのお悩みを聞く事ができ、少しでもあなたのお役に立つ機会が得られましたので♪」
紗夜「え…?」
そう言って彼女は、
「あなたのそのお悩みを少しでも軽くして差し上げましょうか」
とそのとき持っていたバッグから人形のような物を取り出し
私に差し出してきた。
紗夜「な、何ですかこれ…」
メア「フフ、それはあなたが思う特定の人の霊魂を込め、その人形に何かすれば、その霊性を通して特定のその人に自分の思いを直接遂げられるという代物です」
紗夜「…は?」
メア「まぁ解り易く言えば『呪いの人形』とでも言えばスッと来ますか?はっきり言いましょう。あなたが今恨んでいるその人の髪の毛をその人形に貼りつけ、ボールペンでもマジックでも構いませんので、その人形の体の或る部位に線を引くと、現実で生きているその髪の毛の持ち主も、その体の同じ部位に必ず何らかの怪我を負う事になります」
紗夜「は…はあ!?」
メア「そしてその怪我は軽いものでなく、その後の一生を左右する程の大怪我と心得て良いでしょう。いかがです?お試しになられますか?おそらくその人形を活用し、あなたの人生に投影させてみる事で、今あなたが抱えてらっしゃるそのストレスは、多少なりとも軽減する事でしょう」
その後も彼女はその人形についていろんな説明を詳しくしてくれた。
紗夜「そ、そんな事…」
私は少し恐ろしくなりながら
その人形には手を触れなかった。
でも彼女にそうして勧められている内、
やっぱり彼女は不思議な人なのか。
一切信じられない・信じたくないその事でも、
彼女に言われたら信じてしまう。
そして結局、私はその人形を手に取ってしまい、
彼女に言われるまま、恨みを晴らす心に火がつけられた。
メア「あ、でも1つだけご忠告しておきます。その人形の首にだけは線を引かないようにして下さいね。他の部位に線を引いた場合なら怪我をする程度で済みますが、その人形はもともと首なし人形として作られたものでした。ですから、首に線を引いてしまえばその人形の力が存分に出過ぎてしまい、恨みを込めたその特定の相手を殺してしまい兼ねませんから。…良いですね?」
紗夜「ゴ、ゴク(唾を飲む音)あ、は、はい…わ、分かりました」
かなり怖い事を言われているのに
私の心はもう変わらなかった。
ト書き〈数日後〉
それから数日後。
裕子「ちょっと!このバカ紗夜ぁ!!あんたなんて事してくれんのよ!!」
私は会社で大失敗をしてしまい、
天敵である裕子さんのスーツに
コーヒーを思いっきりこぼしてしまったのだ。
紗夜「ご、ごめんなさい!ごめんなさい!」
裕子「ごめんなさいで済むと思ってんのこのバカ!ちょっとこっち来なさいよアンタ!」
それから私は人目のつかない所に連れて行かれ、
そこで徹底的にヤキを入れられた。
裕子さんは女の割に武闘派で、ビンタの嵐はもちろんの事、
蹲った私を殴る蹴るまでしてきたのだ。
これだけで、パワハラで訴える事はできる。
でも私にはそんな勇気が無い。
それをこいつは既に見通していた。
長年染み付いてきたこの性格は、
私にそんな当たり前の事すらさせないでいた。
気弱な性格は、更なる臆病を呼ぶ。
裕子「キャハハw!良いザマねぇwアンタもうずっとそうしてなさいよwキャハハw」
私はトイレにまで連れて行かれ、
そこで頭から水をかけられて
ずぶ濡れのまま床に這いつくばっていた。
紗夜「な…なんで、何でこんな目に遭わなきゃならないのよ…!」
ト書き〈自宅〉
そしてその夜私は自宅で…
紗夜「…あの女、もう許せない…」
メアに貰ったあの人形をバッグから取り出し
テーブルの上に置いた。
そして水をかけられて少しもみ合いになった拍子に
裕子の髪を1本抜いており、その髪の毛を人形の額に貼りつけ…
紗夜「…まぁ嘘でも何でもいいわ。少しでも気が晴れるなら…」
とその人形の右足部分に、マジックで真っ直ぐ線を引いた。
ト書き〈翌日〉
そして翌日。
もういつでも辞めれるように辞職願を鞄に入れたまま
いつものように出社したのだが…
紗夜「ん、どうしたの…?」
と唯一、気を許せる同僚に聞いてみたところ…
同僚「あ、大変なのよ!賀成課長、昨日事故に遭ったらしくてね、それも大変な事故、その時、右足がちぎれちゃったんだって…!ああ、ほんとに恐ろしい…」
紗夜「…え?」
心の底から驚いた。
あの人形の呪いの効果は本当だった。
裕子の髪の毛を貼り付けたあの人形の右足に線を引いたその翌日に、
裕子はその人形と同じ右足に怪我をしていた。
それも大事故による大怪我で、
本当に右足は切断されてしまっていたようだ。
紗夜「ま、まさか…ウ…ソ…でしょう」
裕子はそれから退職を余儀なくされて、
その後は一生松葉杖…いや車椅子生活を送る事になったと言う。
でもこれで、私の身の周りから1人、邪魔者が去った訳だ。
ト書き〈復讐開始〉
それから私の復讐劇は始まった。
頼子「あんたさぁ、賀成課長が居なくなったからって、ちょっと気持ちが楽になったとかって思ってんじゃない?残念でした〜♪周りがどうなろうとあんたの立場は変わらないんだし、これから私がみっちり仕込んでやるわよw」
その夜。
紗夜「フン、あいつもこれで大人しくしてりゃ良かったのに…ほんとバカはどこまで行ってもバカよねぇ。あいつはそうねぇ…えい、こうしてやれ!w」
(翌日)
そして翌日、いつも通りに出社してみると…
同僚「今度は頼子さんが事件に巻き込まれちゃったんだって!それも本当に悲惨な事件らしくてさ、相手は拳銃持ってて、それで両足撃たれちゃったんだって!犯人は捕まったらしいけど、頼子さん今病院で…」
結局それから数日後、頼子も会社を辞めた。
正確には裕子と同じく、会社に来れなくなったのだ。
両足が切断された為、仕事どころじゃなくなったから。
ト書き〈バー〉
それから数日後。
私はまた1人でバーへ来ていた。
するとまた前と同じカウンターの席にメアさんが居て、
彼女も1人で飲んでいた。
私は彼女に声をかけ、お礼を言いながら談笑。
メア「そうですか。するとその2人、めでたくあなたのそばから消えてくれたんですね?」
紗夜「ええ。ホントあの人形サマサマです。まさかあんな人形が本当に存在するなんて…。なんか上手く言えないですけど、メアさん、とにかく有難うございます」
すると彼女は少しだけ気になる事を言ってきた。
メア「でも紗夜さん。あの約束だけはちゃんと守って下さいね?」
紗夜「…え、約束?」
メア「ほら『人形の首にだけは線を引かないように』って約束の事ですよ」
紗夜「…ああ、あの事ですか。ハハw大丈夫ですよ。そこまでしなくても…まぁ相手を殺さなくても私の気持ちは充分晴れますから♪」
メア「だと良いんですけど。人間の衝動による欲望は本当に計り知れないものです。果てしない欲望とはよく言ったもので、ついその時の感情に身を任せ、その一線を軽く超えてしまう事もあるので、その事にだけは充分気を留めておいてください」
紗夜「…あは、分かりました。ご忠告、有難うございます」
私はこの時、メアの言葉を軽く聞いていた。
とりあえず本当にそんな気は無かったし、
逆に殺してしまえば生きてその罪を償わせる機会も奪われちゃうし、
それに何より、そんな事で私自身が人殺しの罪をかぶるなど、
たとえ法的に立証できない呪いの人形による罪だったにせよ
「絶対嫌だ、冗談じゃない」と言う理性というか
保身の気持ちがまだあったから。
その辺りの事もこの時、
ついでにちゃんとメアさんには伝えておいた。
ト書き〈オチ〉
でも、それから予期せぬ事が起きたのだ。
(自宅)
紗夜「あなた!この家にあの子きたの?!」
義也「え?あ、ああ、なんかお前が会社に忘れてた書類を届けに来た、って」
紗夜「ウソ!あの子がそんな事する筈ないわ!」
なんと、私をこれまで散々馬鹿にしてきた後輩の佳奈美が、
私と義也の家に上がっていた…と言うのだ。
確かに書類を忘れてたのは本当だったけど、
あの子がただそんな事をする為だけに私の家にまで来る筈ない。
「何か別に目的があったから…」
そう思った時、末恐ろしい妄想が横切った。
義也さんとあの佳奈美、もしかして浮気してる…?
そう思い込んでしまうともうまともな理性が働かず、
見るもの聞くもの全てが疑わしくなる。
そして私は新たなる復讐に出た。
復讐の対象はこれまで私を純粋に愛してくれた義也さんではない。
もちろんあの女、佳奈美だ。
(佳奈美の部屋)
それから私は打って変わって佳奈美に優しくなり、
会社でもプライベートでも、
佳奈美に気に入られるように振る舞っていた。
それで少し気を良くしたのか、それから数日後、
私はようやく佳奈美のアパートに入る事ができ、
そこで儀式に必要なアイテム・佳奈美の髪の毛を1本、
きちんと失敬しておいた。
佳奈美は少しボーイッシュな黒髪ショート。
ちゃんと無くさずに財布に入れて自宅まで持ち帰った。
(自宅)
義也「おう、お帰り〜♪今日は俺が飯作ってやったぞ」
紗夜「あ、有難うあなた♪ちょっと待っててね、部屋で着替えてすぐ来るから♪」
私はキッチンに夫を待たせ、すぐ2階の自分の部屋に駆け上がり、
引き出しにしまってあるあの人形をテーブルに置いて
持ち帰った佳奈美の髪の毛をその人形の額に貼り…
紗夜「アハハw佳奈美〜、あたしがアンタを許すとでも思ってたの〜?ハハw…この恨み、晴らさでおくべきか」
私から最愛の夫を奪おうとしたあの佳奈美を絶対許さず、
私はその勢いで、人形の首の所に真っ直ぐ
マジックで線を引いてやった。
するとその直後…
義也「おぐう!!」
と階下から声がして、バタン!と派手な音がした。
私は嫌な予感がし、すぐキッチンへ降りて見ると…
紗夜「よ…義也さん…い、嫌…いやぁあぁ!!」
義也さんの体が椅子から崩れ落ちたように床に倒れており、
その首は少し向こうのほうに転がっていた。
ト書き〈紗夜の自宅を眺めながら〉
メア「あれだけ言っといたのに。人形の首にだけは線を引くなと。佳奈美はボーイッシュな黒髪ショート。その髪の毛と義也の髪の区別が殆ど付かなかったんでしょう。感情的になっていたから、そんなのを見分ける冷静さなんてあの時の紗夜は持っていなかった」
メア「佳奈美は確かに紗夜と義也の家に上がり、紗夜に更なる嫌がらせをしてやろうと、義也と浮気しようと考えていた。でも義也はそれをはねのけ、本当に浮気なんてしていなかった。でもその部屋に上がった時に、佳奈美の上着に義也の髪の毛が付着していた。それが奇跡的に佳奈美の部屋まで持ち帰られて、そこで床に落ちてしまった。だから紗夜が佳奈美の部屋で拾ったのは、その義也の髪だったのよ」
メア「私は紗夜の心に隠れた独裁の本能から生まれた生霊。その本能の夢だけを叶える為に現れた。あの人形の恐ろしさが解っていながら、彼女は結局それを自分の手足として使い、自分が恨む相手の人生を損なわせていた。でも結局、衝動に負けて、その一線を越えてしまったようね」
メア「これまでずっといじめられてきた紗夜の心の中には、彼女も気づかない内に凄まじい独裁の心が芽生えていた。あの人形を手にした時から、その独裁の心は開花していたわね。あの人形は、いわゆる途轍もなく威力を発揮する武器に等しい。個人的に使うなら、世界を震撼させる核兵器にさえ匹敵するだろうか」
メア「そんな恐ろしい物を使う時には細心の注意が必要なのに、その時に限って理性や冷静さは欲望に負け、その目的だけに突っ走ってしまうらしい。その欲望による独裁で、紗夜は最愛の人まで失った。自業自得とするには、余りに代償が大きかったわね。おそらくこれから紗夜は、計り知れない罪の意識に苛まれるわ」
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