夢の中の恋人に「自分」が奪われて行く…
タイトル:(仮)夢の中の恋人に「自分」が奪われて行く…
▼登場人物
●夢煮落太(ゆめに らくた):男性。40歳。シナリオライター。浮気癖の有る妻に愛想が尽きており、勢い余って、世の中の女性全てに絶望している。
●夢煮ヒカリ:落太の妻。35歳。落太に浮気性と思われている。でも本当はそうではなく、ストーカーのタカシから一方的に迫られていた。
●輝恵子(きえこ):女性。40代。かなりの美形。落太の「夢に生きたい本能」から生まれた生霊。
●夢理恵(むりえ):女性。落太から見て丁度いい年齢に見える(年齢不詳の設定)。落太の夢の中に現れる理想の恋人。落太を夢の中に引きずり込んでしまう。
●ドクター:男性。50代。総合病院での落太の主治医。
●タカシ:男性。30代。元パン屋の従業員。ヒカリのストーカー。他のいろんな女にもストーカーしている(登場させず、イメージだけでもOKです)。
▼場所設定
●夢煮宅:一般的なマンションのイメージで。
●バー「Dream Bridge」:薄暗い感じのお洒落なバー。輝恵子の行き付け。店名の意味は「夢の懸け橋」。
●病院:落太が入院する。総合病院のイメージで。
▼アイテム
●「Dream Pleasure」:瓶入りの液体薬。栄養ドリンクのようなモノ。これを飲めばそれから1週間、夢の中でずっと楽園を体感する事が出来る。その楽園に夢理恵がいる。
NAは夢煮落太でよろしくお願いいたします。
メインシナリオ~
(メインシナリオのみ=4139字)
ト書き〈自宅でパソコンに向かう〉
NA)
俺の名前は夢煮落太(40歳)。
シナリオライターをやっている。
ト書き〈回想しながら〉
NA)
初めの内は思うようには稼げなかったが、
やって行く内にコツを呑み込み、その後はどんどん注文が殺到。
お陰で今ではすっかり売れっ子ライター。
収入が安定した頃、今の妻・ヒカリと結婚。
子供はまだ出来ないが、それなりに生活は安定していた。
そう、あの日までは…
ト書き〈妻の浮気が発覚〉
落太)「あ…あいつ、まさか…!」
NA)
結婚3年目。
妻の浮気が発覚!
携帯に見知らぬ男からの頻繁な着信。
ラブメールの嵐!
妻はパン屋でパートしていた。
相手はどうも、そこの従業員らしい。
妻のほうから返信はしていなかったが、これだけ見れば十分だ!
完全なる浮気!
落太)「せっかく生活が安定したと思ったらもうコレだ…!これだから俗世の女は嫌なんだ!やってられるか!くそぅ!浮気女めが!」
NA)
俺は散々悪態づいた。
でも妻を問い質す気力はもう無い。
これまでにも何度かこういう事があったのだ。
帰りが遅かったり、こんなメールや着信が入っていたり。
今度こそ、今度こそ…。
それでも俺は一縷の望みを抱いていた。
でも結局このザマ。
もうどうでも良くなった。
離婚も考えた。
ト書き〈飲みに行く〉
落太)「はぁ。あいつもやっぱり、こんな女だったんだな」
NA)
これまで付き合った女もほとんどが浮気をして逃げてった。
だから女の浮気そのものにはもう慣れっこだ。
落太)「世の中の女は全部こうなんだろうなぁ。浮気しない奴なんて本当1人もいやしないよ…。はぁーあ!もういいや!今日はどっか飲みに行こ!」
NA)
いつもの飲み屋街を歩いていた時。
落太)「『Dream Bridge』…?へぇ、こんな所あったんだ」
NA)
中は薄暗いが結構お洒落。
カウンターに座って1人飲んでいた。
するとそこへ…
輝恵子)「あのー、お隣、いいでしょうか?」
NA)
女性が声を掛けて来た。
かなりの美人。
名前は輝恵子。
歳は俺と同じくらいだが、若く見える。
カウンセラーをしているらしい。
輝恵子)「そうなんですか。奥さんが…」
落太)「ええ。ホント嫌んなっちゃいますよ。女なんて皆そうなんでしょうかねぇ?一生懸命働いてる男の気持ちなんて、全然分ってないんだから!」
NA)
俺は少し当て付けるようにそう言った。
でも輝恵子は冷静に…
輝恵子)「それは本当にお気の毒です。でも落太さん。本当にその証拠を確認したのですか?奥さんとその浮気相手が実際に一緒にいる場面や通話など」
落太)「え?」
輝恵子)「もしかすると、あなたの思い違いかも知れませんよ?男女関係にはよくあります。感情が昂る分、余計にそう思い込んでしまうという事が…」
落太)「違いますよ!ンなもんちょっと見ればすぐ分かります!」
輝恵子)「そうですか。ではそのお悩みを解決いたしましょう」
落太)「え…?」
輝恵子)「どうぞ、こちらを眠る前に1本ずつお飲み下さい」
NA)
そう言って輝恵子は栄養ドリンクのような物をくれた。
全部で6本ある。
落太)「こ…これ何ですか?」
輝恵子)「それは『Dream Pleasure』と言いまして、それを飲めばその夜に、あなたは夢の中の楽園を実際に体感したような心地になれます。その夢見心地の良さは精神的に作用し、あなたは体内から今抱えてらっしゃるストレスや失意、これまで積み上げて来たあらゆる悲しみを忘れ去る事が出来ます」
落太)「そ、そんな…」
輝恵子)「信じる事です。心の問題やストレスの解消は先ず信じる事が土台になるんです。嘘ではありません。あなたは必ず今の状態から立ち直れます」
NA)
俺は信じなかった。
落太)「あ、もしかしてコレ、ヤバい薬か何かじゃないでしょうね!?そういうの売りつけて、あとで法外な料金ふんだくる気じゃないんですか?!」
輝恵子)「フフ。いいえ、そちらは無料で差し上げます」
NA)
無料だったので貰っといた。
輝恵子)「但し、これだけは約束して下さい。私がその快眠薬をあなたに渡したのは、今の奥さんと仲直りをして貰う為です。人間誰しも間違いを犯すものです。でも夫婦なら、お互いに愛し合う気持ちを忘れてはなりません」
輝恵子)「いいですか?そのお薬を飲む事で、あなたには必ず今の奥さんを許せる機会が訪れます。その時こそ、ぜひ奥さんと向き合ってもう1度話してみて下さい。間違ってもその時に、夢の世界へ舞い戻ってしまわないように」
ト書き〈その日の夜、寝室で〉
NA)
その夜。
俺は半信半疑で『Dream Pleasure』を飲んで寝た。
ト書き〈夢の中〉
落太)「こ、ここは一体…」
NA)
目の前に草原が広がっていた。
少し向こうに果樹園がある。
太陽が優しく、涼風が体に吹いて心地よい。
夢理恵)「こんにちは♪」
落太「え?」
NA)
急に背後から声がした。
夢理恵)「私の事、憶えてますか?」
落太)「あ!君は…!」
NA)
俺がずっと以前シナリオに書いた理想の恋人だった。
まさに瓜二つ!
ト書き〈2人で寄り添いながらピクニック〉
NA)
俺達は果樹園の周りでピクニックをした。
園の近くにロッジのような家もある。
落太)「ホント幸せだ。君と一緒にいられるこんな空間があったなんて…」
夢理恵)「私も幸せ…」
夢理恵)「ねぇ、この先もずっと一緒にいてくれるわよね…?」
落太)「あ、ああ、もちろんさ」
ト書き〈翌朝〉
落太)「ふぁ~あ。…ゆ、夢か…」
NA)
目覚めると朝が来ていた。
隣りで妻はスヤスヤ寝ている。
ト書き〈5日間の夢〉
NA)
俺はそれから5日間、妻の事など1つも顧みず、
毎晩、夢理恵との夢を見続けた。
ト書き〈夢の中〉
夢理恵)「はいあなた💛あーん」
落太)「あ~ん」
(料理が消える)
NA)
夢の中の料理は口の中に入れた途端、
食べたか食べてないか分からない内に消えている。
夢の中での物事は全て同じ。
何かが起きてもその物事は知らない内に消えている。
無かった事のようにされている。
そこだけが少し不満。
でも夢理恵と一緒にいられる時間が嬉しくて、
たとえ料理が消えても家が消えても、本当の事のように喜んだ。
ト書き〈翌朝〉
NA)
そして夢を見始めてから6日目の朝。
いつものようにベッドで目が覚めた。
横で妻が寝ている。
落太)「…寝顔は、可愛いのにな…」
NA)
その時ふと、これまで一緒に生活して来た妻の事を思い出した。
確かに悪い事ばかりじゃない。
良い事も結構あったのだ。
会社へ行ってた時はいつも愛妻弁当を作ってくれた。
俺が病気の時は寝ずの看病をしてくれた。
冬には少しでも寒くないようにと手編みのマフラーを何本も編んでくれた。
神経痛で体がつらい時でも、俺が主張先から帰って来た時には、
最寄りの駅までいつも車で迎えに来てくれた。
他にも沢山ある。
落太)「何でこんなになっちゃったんだろ…」
NA)
俺は妻の事をもう1度愛そうとした。
この時、妻と夢理恵を天秤に掛けていたのだ。
どっちを取るか。
考えていた時、妻の携帯が鳴った。
ヒカリ)「んー…」
NA)
妻は起きない。
携帯を見ると「タカシ」と表示。
落太)「(浮気相手だ…!)」
NA)
それを見た瞬間、一気に怒りが沸いた。
落太)「(もういい!もうこんな女知るか!許せるわけない!)」
NA)
俺は枕元に隠して置いた「Dream Pleasure」をもう1度飲んだ。
最後の1本。
そして夢の中へ舞い戻った。
遠退く意識の中で、妻が浮気相手とブツブツ話しているのが聞える。
だがそんな事はもうどうでもいい。
夢から覚めた後、妻に離婚届を突き出してやろうと考えていた。
ト書き〈夢の中〉
夢理恵)「ねぇあなた、あの時の返事、聞かせてくれる?」
落太)「ああ。俺と結婚してくれ。ここで一生暮らして行こう」
NA)
その日、夢の中で俺は妻・ヒカリを捨て、夢理恵と再婚した。
この時、夢から現実に通じる扉がピシャリと閉じた気がした…
ト書き〈現実〉
ヒカリ)「もうやめてよ!アタシには夫がいるのよ!」
NA)
ヒカリはタカシに怒涛のごとく怒鳴って言った。
タカシはヒカリが働くパン屋の元従業員だった。
しかし突然、女性社員に破廉恥な事をし始め、
挙句はストーカー紛いの事までするようになったので、
随分前に解雇されていた。
この時もヒカリは、タカシに無理やり迫られていた。
タカシの番号を携帯に残しておいたのは、
着信時、相手がタカシだとはっきり確認できる為。
電話に出ない為の算段だった。
落太に相談しようとしたが、どうも浮気を疑っているようで怖かった。
だからヒカリは打ち明けられないでいたのだ。
余計な心配を掛けたくない、この一心で。
タカシは何度か警察に捕まっていたが、最近また現れていた。
ト書き〈病院にて〉
ドクター)「どうも様子が変なんです。幾ら点滴をして栄養補給しても、体にその栄養が全く吸収されないんです。奥さん、覚悟だけはしておいて下さい」
NA)
俺はそれから総合病院へ搬送されたらしい。
あれから数日間。
俺は目を覚まさなかった。
ト書き〈夢の中〉
落太)「うわぁぁ!食べても食べても痩せて行く!食いモンが全部消える!」
夢理恵)「あなた、頑張って!もう少しで現実世界のあなたの体が完全に消えるわ。そうすれば一生ここで私と2人きり、夢の世界でやっていけるのよ!」
落太)「うう~~!そんなの嫌だぁ~!」
夢理恵)「あなた!」
NA)
ずっと俺は夢の中にいる。
夢の世界の物事は全て消え去って行く。
もう分かっていた事。
夢の中の出来事は全て幻。
だから食べ物も消えて行く。
俺の体は夢の中でもどんどん痩せ細った。
今ではすっかりミイラのようだ。
今更ながら、俺は後悔していた…
ヒカリ)「お願いあなた、目を覚まして…!」
ト書き〈病院を外から眺めながら〉
輝恵子)「あれだけ言ったのに。落太が浮気を勘違いしていた事は初めから知っていた。でもその関係の修復を、落太自身にして貰いたかった…。浮気していたのは奥さんではなく、あなただったのよ。幻想と浮気していたあなた」
輝恵子)「私は落太の『夢に生きたい』と言う本能から生まれた生霊。落太の理想を夢の中で叶えたけれど、現実の落太のほうを救いたかった。そう、夢は全部、幻。そんなものにすがった所で何も変わらない。寧ろマイナスよ」
輝恵子)「落太はその心も体も全て夢の中へと埋没させて行った。だから現実を生きる落太にどんな援助をしようとも、その効果は落太の体に表れない。夢理恵の正体を十分知りながら、奥さんとの最後の時間を過ごすといいわ」
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