空を飛びたい
タイトル:(仮)空を飛びたい
▼登場人物
●曽羅煮 夢雄(そらに ゆめお):男性。30歳。サラリーマン。ずっと「空を飛びたい」という夢を追い駆けて来た。現実逃避したい気あり。
●上司:男性。50歳。夢雄の会社の上司。
●金江益代(かなえ ますよ):女性。30代。夢雄の「空を飛びたい」と言う本能と理想から生まれた生霊。
●剛田 信(ごうだ しん):男性。30歳。リストラされて無職。バードウォッチングが趣味だったが最近はやめている。ボウガンを所持しており、最近は鳥(又は飛ぶ物)を射殺(いころ)す事が趣味になっている。
▼場所設定
●会社:夢雄が働いている。一般的な商社のイメージで。
●夢雄の自宅:安アパートの感じで。
●バー「Fly to Heaven」:お洒落な感じのカクテルバー。益代の行き付け。
●街中:飲み屋街や夢雄の自宅付近など、一般的な感じでOKです。
●剛田の自宅:安アパートの2階に住んでいる。夢雄の自宅からすぐ近く。
▼アイテム
●フライング・マジック:かなりリアルな感覚で「空を飛ぶ夢」を見る事が出来る薬。錠剤で50錠ある。
●フライ・トゥ・ヘブン:特製のカクテル。これを飲むと鳥人間になる事が出来、現実の世界でも空を飛べるようになる。
NAは曽羅煮夢雄でよろしくお願いいたします。
メインシナリオ~
(メインシナリオのみ=4293字)
ト書き〈会社〉
夢雄「はぁ・・・いいなぁ鳥は。あんなふうに自由に飛べて・・・」(窓の外を眺めながら)
上司「曽羅煮くん!曽羅煮くん!!」
夢雄「は・・・?」
上司「『は?』じゃないよ!一体キミは会社に何をしに来とるんだ!」
夢雄「あ、はいすいません!」
俺の名前は曽場煮 夢雄(30歳)。
ここに勤めて丸5年。
夢雄「はぁ。結局、俺はこのまま何にも無い不毛な人生を送って行くんだろうか。趣味も無いし特技も無い。夢の1つも叶えられないで・・・。ああ、1度でいいからあの小鳥のように空を飛んでみたい!自由でいいだろうなぁ・・・」
こんな俺には子供の頃からの夢がある。
それは「空を飛ぶ事」!
非現実的だ。
でも非現実的だからこそ夢になる。
ト書き〈バー「Fly to Heaven」へ〉
夢雄「お疲れー」
今日もいつも通りに会社が終わる。
「お疲れー」と言って同僚と別れ、いつも通りに1人で飲みに行く。
今日が終わってもまた明日、同じような1日が始まるんだ。
その次も、その次も・・・。
夢雄「くよくよしててもしょうがない。今日はゆっくり飲もう」
そうしていつもの飲み屋街を歩いていると・・・
夢雄「ん?『Fly to Heaven』?新装か?」
全く見慣れないバーがある。
中はひどくこざっぱりして落ち着いていた。
カウンターで飲んでいると・・・
益代「こんばんは。お1人ですか?ご一緒してもイイかしら?」
綺麗な女性が声を掛けて来た。
夢雄「あ、どうぞ・・・」
名前は金江益代。
悩みコンサルタントをしてるらしい。
歳はおそらく30代。
彼女は不思議なオーラを持っていた。
「昔から一緒に居た人」
そんな感覚がふと漂うのである。
益代「私の事業はボランティアですので料金は不要です。他のコンサルタントの方と違う点は、クライアント様の心の夢を本当に叶えて差し上げる点です。お見受けしたところ、あなたの心の中には『人に言えない悩み』のようなものがありますねぇ?悩みと言うより『夢』と言った方が良いかしら?」
夢雄「え?」
やはり彼女は不思議な人だ。
一緒に居るだけで悩みを打ち明けたくなる。
俺はつい日頃の夢を彼女に話していた。
夢雄「はは、お恥ずかしいです。30にもなってこんな事を言ってるんですからね。・・・でも、本気なんです。本気で空を飛びたいって思ってるんです・・・」
夢雄「自由に飛んでみたい!家の軒先でも会社でも、ふと目の前を飛び回る鳥やなんかを見てると『いいなぁ・・・』なんて羨ましく思ってしまいます。・・・あの『ドラえもん』のタケコプターですら、僕は羨ましく思った程ですから」
俺のバカげた妄想を、彼女は親身に聴いてくれた。
益代「恥ずかしい事なんてありませんよ。人は誰でも心に隠し持つ夢があるものです。『隠す』と言うからには、他人に見られたり聞かれたりすると恥ずかしいもの。普段からそう思っていても、誰にも打ち明けられず、そのまま夢を叶えられないで人生を終えて行くのでしょう。そんな人は多いものです」
夢雄「はは、そうですね。自分を振り返っても、きっとその通りです」
益代「いいでしょう。あなたの夢、少しでも叶えて差し上げましょう」
夢雄「え?」
彼女はそう言って、バッグから瓶入りの錠剤を取り出した。
益代「どうぞこちらを試してみて下さい。これは『フライング・マジック』という薬で、飲んだその人の夢の中に直接効果が働き、かなりリアルな体感をもって『空を飛ぶ夢』を見る事が出来ます。実際に空を飛ぶ事が出来なくても、きっとその夢で得た快感によってあなたの不満は癒される事でしょう」
夢雄「そ、そんな事が」
益代「但しこの薬は50錠だけです。50日間だけ、あなたは夢を見る事が出来ます。でも今まで抱えて来た夢が少しでも叶えられるのですから、あなたにとっては嬉しい体験の筈です。考えようによっては儲けものでしょう?」
夢雄「はぁ。じゃあお試しで。あ、これも無料なんですよね?」
益代「ええお代は要りません。お役に立てて良かったです。ですが夢雄さん、これだけは約束して下さい。その薬の効果は絶対です。それによってあなたは本当に空を飛ぶ快感を得られるでしょう。ですが夢は飽くまでも夢。その夢に溺れて『本当に空を飛んでみたい』なんて思わないようにして下さい」
夢雄「え?」
益代「実際に空を飛べる人なんてこの世に居ません。もし本当にあなたが空を飛び、その姿を誰かに見られでしまえば大変な事になります。あなたは忽ち大勢から注目され、それ迄の生活、あるいは命すら失う可能性があります」
益代「いいですね?絶対に夢から現実への一線を越えないようにして下さい」
よく解らなかったが、取り敢えず頷いた。
ト書き〈その夜、夢雄の自宅〉
夢雄「ふぅ。この薬、ホントにそんな効果あるのかな」
半信半疑で俺は取り敢えず飲んで寝た。
(夢の中)
夢雄「こ、これはぁ・・・」
薬を飲んだ瞬間、パラダイスが広がった。
背中に翼が生え、俺は自由に空を飛べた。
夢雄「ははは!スイスイ飛べる!これが俺の待ち望んでいた夢だったんだ!」
夢の中の体験がまるで実感として味わえる。
俺はその快感にずっと打ちのめされた。
ト書き〈50日目〉
俺はあれから毎晩、益代に貰った錠剤を飲んで寝た。
お陰で仕事もプライベートも充実!
寝るのが心からの楽しみになり、それが生き甲斐のようにもなってくれた。
でも・・・
夢雄「あと1錠だ・・・」
益代から薬を貰って50日目。
もう薬が無い!
変に免疫が付いて自力で「空を飛ぶ夢」を見られるかと思ったがダメだった。
更に俺にはもう1つ、心の奥底から芽生え出した衝動のようなものがある。
夢雄「本当に空を飛んでみたい!この現実の世界で自由に空を飛び回って、夢の中だけじゃなく、現実での実感として『空を飛ぶ快感』を得てみたい!」
その衝動は益々大きくなった。
「あと1錠でこの夢ともオサラバ・・・」
そうなると益々疼いてしまう。
ト書き〈翌日の夜、バーで〉
夢雄「益代さん!お願いします!あの薬もう1度下さい!まだあるんでしょう?ダメなんです!アレが無いと毎日ストレスから逃れられないんです!」
益代「前にも言ったように、『フライング・マジック』はあの1瓶限りです。あなたはもう50日も夢の中で自分の理想を叶える事が出来たのですから、これからは自力で生活していく術(すべ)を身に付けなくてはいけません」
夢雄「そんなぁ!そ、それじゃお願いです!僕を本当に飛べるようにしてくれませんか!ねぇ!あなたなら出来るんでしょう!?あなたは本当に不思議な人だ。僕、初めてあなたに会った時から、あなたに不思議なオーラみたいなのを感じてたんです!あなたならきっと出来るんでしょう?お願いします!僕を、僕を鳥のように変えて下さい!空を飛べるようにして下さい!」
益代「ふぅ。そこまであなたは空を飛べるようになりたいのですか?」
夢雄「出来るんですね!ええ!本気で空を飛べるようになりたいんです!」
益代「分かりました。この現実の世界で本当に空を飛べるようにしてあげましょう。でもいいですか?この前言ったように、そうなればあなたはこれ迄の生活を失います。生活だけじゃなく、命まで失う事になるかも知れません」
夢雄「はい!いいです!それでもいいです!!」
俺はもう何かに取り憑かれていた。ただ、
「空を飛びたい!飛べるようになりたい!」
という言葉だけが心の中を渦巻いた。
益代「いいでしょう。それではこちらをお飲み下さい。これは『フライ・トゥ・ヘブン』と言いまして、あなたの為に特別にオーダーしたカクテルです」
益代「それを飲めばあなたの背中に翼が生えて、あなたはこの現実の世界でも自由に空を飛ぶ事が出来るようになります。翼はあなたの意識によって背中に収納する事が出来ますから、さして日常生活には問題無いでしょう」
俺はそのカクテルを一気に飲んだ。
ト書き〈翼が生える〉
夢雄「おぅわ!は、羽が・・・す、すげぇ。はは・・・ハハハ」
俺の背中に翼が生えた。
「収納しよう」と意識すると、その翼は自然に俺の背中に収納された。
益代「でもいいですね?絶対に他人に飛んでる姿を見られないようにして下さい。誰かに見られて大勢の人に注目されれば、あなたはきっと大衆の餌食にされて、これ迄の生活も、あるいは命だって失う事になるかも知れません」
ト書き〈その後〉
それから俺は夜にだけ空を飛ぶようにした。
夢雄「ハハハ!はははは!これだよ!これが俺の長年求めてきた本当の夢だったんだぁ!いやもう夢じゃない!現実だ!現実で俺は空を飛んでんだ!」
人目を避け、自宅の近場や、ひとけの無い場所だけを飛び回った。
俺は夢を現実に変え、生き甲斐を手にした。
ト書き〈剛田の自宅〉
そんな或る夜。
剛田「くっそぉ。あの会社め、俺をリストラなんかしやがって!」(酒を飲みながら)
剛田「ヒック!くそぉ。趣味のバードウォッチングも最近じゃあすっかり出来なくなっちまった。せっかく道具買い揃えたってのに、全部ムダじゃねぇかこんなモン!代わりにムシャクシャしてボウガンなんて買っちまったぜ」
俺の自宅の近くに、剛田という男が住んでいた。
この男の趣味はバードウォッチング。
だがリストラされて、その趣味を楽しめなくなった。
代わりにその趣味を殺すかのようにボウガンを買った。
空飛ぶ鳥を射殺す事に生き甲斐を覚える為に。
ト書き〈窓から覗く〉
剛田「ヒック!ん?なんだありゃ?あ、鳥だ!ぶっ殺してやる!」
剛田はボウガンを手に取り、部屋の窓から狙いを付けた。
夜だからハッキリ見えなかったのだろう。
「少し大きめの鳥」に見えた俺を、剛田はそのボウガンで射殺した。
夢雄「ぎゃああぁぁ!」
ト書き〈ニュース報道を見ながら〉
益代「一生懸命、人に見られないよう心掛けて飛んでいた夢雄だったけど、いつ・どこで、誰に見られているかはやはり判らないもの。災難だったわね」
益代「言った通りになってしまった。鳥と見間違えて射殺した剛田は、あのあと警察の取り調べでも『本当に鳥だと思った、ムシャクシャしたからやった、まさか人間だなんて夢にも思わなかった』なんて呟いていた。そりゃそうよ、まさか『人間ドローン』がホントにあるなんて、誰も思わないものね」
益代「私は夢雄の『空を飛びたい』と言う本能と理想から生まれた生霊。その夢を叶える為だけに現れた。出来れば、夜眠って見る夢の中だけでその理想を叶え、彼の鬱憤を晴らしてあげようとしたけれど、やはり人の欲は果てしない。夢だけでは飽き足らず、現実の生き甲斐にまで置き換えようとした」
益代「夢は夢だから良いのよ。現実の世界で心の奥底の夢を本当に実現させてしまえば、出る杭は打たれるように、その夢もろとも殺されてしまうわ」
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