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疑惑

タイトル:(仮)疑惑

▼登場人物
●山野淳二(やまの じゅんじ):男性。35歳。出版社で働いている。
●山野鈴香(やまの すずか):女性。32歳。淳二の妻。精神疾患あり。長髪。
●落合優香(おちあい ゆうか):女性。35歳。淳二と鈴香の共通の友達。その昔、淳二の父親に裏切られる形で自分の父親が殺されている。ショートヘア。
●川浪里穂(かわなみ りほ):女性。34歳。淳二と鈴香の共通の友達。
●警察:警部を含め、一般的なイメージでOKです。

▼場所設定
●淳二の自宅:都内にあるアパートのイメージで。
●街中:公園など一般的なイメージでお願いします。

▼アイテム
●長い髪の鬘:一応、黒髪を想定しています。

NAは山野淳二でよろしくお願いいたします。
(イントロ+メインシナリオ+解説:ト書き・記号含む=3700字)

イントロ〜

皆さん、こんにちは。
今回は、ある夫婦に起きた悲劇のエピソード。
ぜひ最後までご覧下さい。

メインシナリオ〜

俺の名前は山野淳二。
出版社で働いている。

妻は鈴香。
彼女は精神疾患を抱えている。
街中を徘徊したり、不自然な行動を取る事もある。

でも最近は少し落ち着いていた。

ト書き〈淳二のアパートへ遊びに来る〉

優香「こんばんは〜♪」

里穂「やっほ♪」

ある夜、優香と里穂が遊びに来た。
俺と鈴香の共通の友達だ。

楽しく談笑。
鈴香も最近は友達が増え、それなりに心も和んでいたようだ。

ト書き〈連続殺人〉

しかしここ最近、界隈で連続殺人事件が起きていた。
被害者は男性女性問わず、7人にも上った。
しかも死因は全て包丁による刺傷。

(淳二のアパート)

淳二「あれ?お前、包丁変えたのか?」

鈴香「うん、何だか知らないけど見つからないの。どっかに行っちゃって」

淳二「ええ?お前、普通包丁なんてどっかやったりするもんかぁ?」

以前デパートに行った時、
2人で一緒に買った包丁がどこかに消えていた。
鈴香が「デザインが良い」とお気に入りだった。

そしてこの頃から又、鈴香は少し変な行動を取り出した。

急にそわそわしたり、部屋を出て暫く帰らなかったり。

淳二「なぁ、一緒に病院へ行ってみないか?」

心療内科や総合病院へ連れて行ったが、
目立った変化は見つからず。

ト書き〈目撃〉

そんなある夜、俺は殺人現場を目撃してしまった。

会社帰りに通るひとけの無い公園で、
髪の長い女がぼーっと立っていた。
その女の前には倒れた人が…。

淳二「な…何やってんだ…」

余りの恐怖に立ち竦んだ。
「関わりたくない」という気持ちが先走る。

すると女は俺の方を振り向き…
「ニヤリ…」
と笑ったように見えた。
暗がりだったので顔は判らない。

女はそのまま闇の中へ消えていった。

俺は市民の義務を怠り、そのままアパートへ戻った。

鈴香はまた家に居なかった。
探しに行こうとした直前に帰ってきた。

淳二「お前どこ行ってたんだよ?」

鈴香「ちょっと…」

辺りを散歩していたと言う。
でもこの時少しハッとした。

さっき暗がりで見た女が着ていたコートと、
全く同じコートを鈴香も着ている。

そして鈴香の髪も長い。

淳二「(まさか…。いやそんな事ある筈ない)」

ト書き〈証言〉

翌日、俺が見たあの光景は事件になった。

被害者は30代の女性。
凶器はやはり包丁だった。

淳二「なぁ、やっぱり見つからないのか、包丁?」

鈴香「うん」

淳二「…」

俺は警察へ行こうとした。
でも躊躇した。
関わりたくない。

俺は正直少しだけ、鈴香を疑っていた。

警察へ行けば、
現場の第一発見者として証言しなければならない。
そうなれば、犯人の特徴やなんかを言わされる筈。

長い髪。
鈴香が着ているのと同じコート。
そして凶器は包丁。
うちの包丁も無くなっている。

これだけでも考え込めば、少し身震いしてしまう。

(出版社にて)

しかしそれから数日後。
警察は俺の元へやってきた。
どうやら聞き込みの様子。

俺は何とか無関係を装おうとしたが無理だった。

衝動的な恐怖が無意識の内に…
「自分が目撃者である事」
を暴露した。

警察の目は鋭い。
そんな僅かな動揺も見逃さず、証言を強要する。

警察「あなたは見てますね?なぜ隠すのですか?自分の証言が誰かを傷付けるのを恐れ、それなりの正義感に燃えてるようだが、それが一体何になるんです。遺族の事を考えて下さい。もしあなたの大切な人が同じ目に遭ったら」

仕方なく、見た事を話した。
でも無くなった包丁の事は隠していた。

ト書き〈優香と里穂が来る〉

数日後。
優香と里穂がまた遊びに来た。
仕事を終えた俺は優香から電話を受け、急いで家に向かった。

しかしアパートの前まで帰った時…

優香「助けてぇ!」

淳二「ゆ…優香!」

足から血を流した優香が、
ほうほうの体(てい)で道端に出ていた。
それからすぐ里穂が飛び出してきて、優香に駆け寄った。

里穂「優香!大丈夫!?」

そして最後にふらりとアパートのドアから、
返り血を浴びた鈴香が出て来た。
震えた手には包丁を持っていた。

淳二「す…鈴香…お前…」

鈴香「ち…違う…違うのよ…」

ト書き〈取り調べ〉

鈴香は現行犯逮捕。

ちょうど里穂がトイレに行った時、
鈴香はいきなり優香に遅いかかり、包丁で刺した…
と優香は証言した。

里穂はトイレの中で…
「やめてぇ!」
と叫ぶ優香の声を聞いていた。

その声を聞いてすぐリビングに出てみると、
包丁を手に持った鈴香と、
足を刺されて蹲った優香が居たと言う。

優香はそれから何とか部屋を這い出し、道端に出た。

里穂の証言は、優香の証言を補足するものになっていた。

しかも俺達のアパートの押し入れからは、
これまでの連続殺人事件に使われたと思われる
凶器の包丁が見つかった。

その包丁からは、複数の被害者の血痕が見つかった。
そして柄の部分には、鈴香の指紋だけが見つかった。

その包丁は紛れもなく鈴香が無くした包丁。

俺も警察に呼ばれ、もう一度、証言させられた。

・妻が精神的に不安定だった事
・その延長で徘徊もしていた事
・事件当夜のアリバイも曖昧な事
・妻も犯人も長い髪をしていた事
・同じコートを着ていた事
・少し前から包丁が無くなっていた事

もう隠せる筈もない。

「全てはバレている」
そう思い、証言した。

ト書き〈収監〉

結局、鈴香は殺人容疑で逮捕。
そのまま収監された。

でも鈴香はずっと…
「自分はやってない!」
と言い続けていた。

挙句、精神がまた極度に不安定になり、発作を何度も繰り返し、
鈴香は発狂してしまった。
そして果てに狂い死んだ。

ト書き〈淳二のアパート〉

淳二「鈴香…」

誰も居なくなったアパートに、1人ぽつんと居る俺。

そんな1人の時間、今までの人生を振り返っていた。

俺が出版社での仕事を選んだのは、
父親の仕事を継ぐのが嫌だったから。

父親は中小企業で工場を営んでいたが、
ある時不渡りを出しかけて、
親友の工場長に頼み込み、金を工面して貰った。

でもその後、その親友の工場が不景気になり、
倒産しかけた時、父親はその親友に金銭的な支援をしなかった。
恩を仇で返したのだ。

俺はそんな自分の父親が大嫌いだった。

父親はその後、工場での事故で他界。
母親も後を追うようにこの世を去った。

実はその親友の工場長の娘が優香であり、
俺と優香はいっとき険悪になった事もある。

でも今は仲直りして、こんなふうに付き合えている。

鈴香が居なくなってからある日。
優香がウチにやって来た。
もう足の傷は治り、それなりに元気になっていた。

ずっと落ち込んでる俺を慰めようとしてくれたのか。
優香はずっと俺に寄り添った。

優香はそのとき紙袋を持っていた。
その紙袋からいきなりウィッグを取り出し、自分にかぶせた。

長い髪。

そしてじっと俺の方を見たまま、次に軍手をはめて、
今かぶった鬘の長い髪を引っ張った。

まるで抜け落ちるように鬘が滑ったあとの優香の頭には、
部屋の蛍光灯の加減でちょうど天使の輪が出来て見えた。

優香はまん丸い瞳で僅かに微笑み、

「解った?次、こんなサスペンスでも書いてみたら?」

そう言った。

解説〜

はい、いかがでしたか?
簡単に解説します。

もうラストの場面を見ればすぐに解ったでしょう。
犯人は優香でした。

鈴香と優香は背格好が似ており、
暗がりの中では区別が付きません。

連続殺人を引き起こした犯人は長い髪をしていました。
その様子を暗がりの中で淳二は見ています。

そしてコート、凶器、鈴香の精神不安の行動、
更には優香を包丁で刺した事件も相まって、
犯人が鈴香である事は、
もう誰にも疑えない状況になっていました。

しかしこの一連は全て、
優香が仕組んだ事。

まず優香が鈴香に包丁で刺された時、
里穂はトイレの中に居て、その現場を見た訳ではありません。

だから誤魔化しも利き、優香が…
「鈴香に刺された!」
と言えばその状況から
それが本当だと信じさせられるのは仕方のない事。

でも実際は、台所に立った鈴香に優香の方から近付いて、
料理中で包丁を持ったままの鈴香の両手を自分に向けて、
優香は自分から包丁に刺さったのです。

コートは同じ物を買って着用。
今まで優香は淳二と鈴香のアパートへ何度も来ていたので、
2人の目を盗み、包丁を盗み出す事も難しくはありません。

そして盗んだ包丁で、数々の殺傷事件を起こしていたのです。
包丁を持つ時は軍手をはめて、指紋を残していませんでした。

後日、もう一度2人のアパートへ来た時、
また2人の目を盗み、
押し入れにその凶器の包丁を隠しました。

そしてラストの場面。
急に長い髪の鬘をかぶり、
それを引っ張るようにまた落とした優香。

これは自分が犯人である事を、
暗黙にアピールした行動です。

つまり冤罪。

冤罪を笠に着て、淳二に見たままの証言をさせ、
結果、鈴香を収監させて、発狂死させたのです。

こんな事までした理由は、
自分の父親が淳二の父親に裏切られる形で殺された為。
その恨みを晴らす為でした。

淳二は仲直り出来たと思っていましたが、
優香は淳二を許していません。
仲直りなどしていなかったのです。

鈴香が自分を弁護した言葉は全て本当でした。
曲がりなりにも、
冤罪により鈴香を死なせてしまった淳二は今後、
その事による罪の意識と、
優香への複雑な思いに苛まれる事でしょうね。

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