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作家の夢

タイトル:(仮)作家の夢

▼登場人物
●湯芽出(ゆめで)ツトム:男性。45歳。独身作家。作品が認められない。
●編集長:男性。50代。某出版社で働くツトムの担当。
●里美(さとみ):女性。30代。ツトムの夢に登場する。実はアンナが引き合わせた霊なのでどこか不思議な印象の持ち主(数年前に自ら他界していた)。元女流作家。
●石動輪(いするわ)アンナ:女性。40代だが若く見える印象。ツトムの欲望と夢から生まれた生霊。

▼場所設定
●出版社:都内にある一般的なイメージでお願いします。
●Writer's Dream:都内にあるお洒落なカクテルバー。アンナの行きつけ。
●夢の世界:ツトムにとって何もかも華やかな世界のイメージで。
●新しいマンション:それまでツトムが住んでたのはボロアパートでその後に引っ越す。都内にあるやや高級マンションのイメージで。里美が以前に住んでいた。

▼アイテム
●Dream Writer:アンナがツトムに勧める特製の栄養ドリンク。これを飲むと毎晩良い夢を見る事が出来る。またその夢をコントロールする事も出来る。でもその夢に登場した異性に心を奪われると夢と現実の世界が取り換えられる。

NAは湯芽出ツトムでよろしくお願い致します。

イントロ〜

あなたの夢は良い夢ですか?
フフ、眠っている時に見る夢の事です。
夢と言うのは潜在意識の表れとも言われ、
明日へのエネルギーの活力源の1つとも言われたりします。
だからこそ、その夢がもし悪夢だったら嫌ですよね。
今回は、そんな夢に悩まされ、夢に救われた
ある男性にまつわる不思議なお話。

メインシナリオ〜

ト書き〈出版社〉

編集長「あのねぇ湯芽出くん、君が書くのは大体ベタなものばっかりなんだよ。こんなのが、本当に売れるとでも思ってんのかね?ダメだダメ!もっとオリジナリティの利いた斬新なモノじゃなければ、ウチから出すわけにはいかないね」

ツトム「はぁ、すいません…」

俺の名前は湯芽出ツトム。
今年45歳になる独身サラリーマン。
いやサラリーマンというか作家だ。

サラリーを貰って生活できる身分なら良いが、
俺はどうも組織社会の中で上手くやっていけず、
だから今も自宅を書斎に変えて、ずっと独身のまま
物書きの生活を続けているのだ。

でもこの生活も、もう長くは続かないかもしれない。
何を書いても全部はねられて、
俺の作品を理解してくれる出版社はもうどこにもなかった。

ツトム「はぁ、また暫くは内職かな…」

在宅ワーク用サイトでポソポソシナリオライターや
原稿書きの仕事をしているが、在宅ワークでは
収入がどうしても不安定になり、水物商売。
生活費を安定して稼げるまでにはとてもとても。

こんな状態ながら恋愛なんておろか
夢の結婚生活など本当の夢になってしまった。

ト書き〈カクテルバー〉

そんなある日。
俺はなけなしの金を持って飲みに行く事にした。
もう半ば自分の人生を諦めていた俺。

人生を諦めると言う事はつまり、
夢を追いかける事を諦めると言う事。
俺はそう信じていた。

そしていつもの飲み屋街を歩いていた時。

ツトム「ん、あれ?こんな店あったんだ」

全く知らないバーがある。
名前は『Writer's Dream』。

ツトム「へぇ、作家の夢かぁ。どれ、入ってみよ」

外見(そとみ)はまぁ普通のバーだったが、
中はかなり落ち着いていて居心地も良く、
俺はそこが気に入ってカウンターにつき1人飲む事にした。

そしていつものように愚痴りながら飲んでいた時…

アンナ「こんにちは♪お1人ですか?ご一緒しますか?」

1人の女性が声をかけてきた。
見ると結構な美人。

ツトム「あ、はぁ…ど、どうぞ」

その美しさに見とれて俺はすぐ隣の席を空け
彼女を迎えた。

彼女の名前は石動輪アンナさん。
都内でメンタルコーチやライフコーチの仕事をしていたようで、
どこか上品な雰囲気が漂い、心が和んでくる。

それに不思議な事になぜか彼女には恋愛感情が湧かず、
それより、
「もっと自分の事を知って欲しい」
と言う気にさせられ、それと同時に、
「昔から俺と一緒に居てくれた人?」
のような気にさせられてくる。

そんな空気の流れもあって、俺はその時
自分が抱えている悩みのほとんどを彼女に打ち明けていた。

アンナ「え?あなた、作家の方なんですか?」

ツトム「ええ、あははwまぁ…。でも作家と言ったって今はもう何も書けなくなって、この前も唯一、最後の頼みにしていた出版社からダメ出しを食らっちゃって…。今はフリー同然の身ですよ」

アンナ「そうなんですか」

彼女は明るく笑いながらも、親身に俺の話を聴いてくれていた。
そしてもう1つ、
俺が密かに抱えていた悩みの事を彼女に話していた。

それは夜に眠って見る夢の事。

ツトム「なんか最近、毎晩なんですが、ずっと悪夢のような夢ばかりを見るようになってしまって。おまけにそのせいで途中で目覚めてしまうし、快眠できた!って日がほとんど無いんです。せめて夢の中だけでも安らぎたいなぁなんて思ってるんですけど…」

それを聞いた彼女は急にバッグから
栄養ドリンクのような物を取り出し、
それを俺に勧めてこう言ってきた。

アンナ「あなたの生活や人生を直接変える事はできないかもしれませんが、せめてその夢だけは明るいものに変えていければ…と思いまして、こちらをお勧めしたいと思います」

アンナ「これは『Dream Writer』と言う特製の栄養ドリンクのような物でして、私がやっておりますヒーラー教室でも、グッズとしてよく皆さんにお配りしてる物です」

ツトム「そうなんですか?え?これってどんな効果が…」

アンナ「それは簡単に言うと、夜に眠って見る夢を明るくしてくれるもので、明るい夢と言うのはその夢を見る人の理想そのものの世界…その世界を実現させてくれる効果を秘めています。つまりあなたが見たい夢を見せてくれ、途中で目覚める事はもちろん無く、そうですね… 7時間から8時間はきっちり眠る事ができるでしょう」

アンナ「普通、熟睡すると夢は見ないと言いますが、それがそのドリンクの特徴です。良い夢をその人に見せた上で熟睡させて、その夢を生活のエネルギー源に変えてくれると言う、なんとも有難い夢のお薬のようなものです」

そんなこと言われたって、当然信じられない。
これまで俺が何年間、
こんな事に悩まされ続けてきたと思っているんだ。

と、普通ならそうなるのだが、やっぱり彼女はどこか不思議な人。
彼女にそう言われると何となくその気にさせられて、
「そんなものかなぁ」と信じさせられてしまい、
気がつくと、俺はついそのドリンクを手に取っており、
その場で一気に飲み干していた。

ツトム「…あ、すみません!つい飲んじゃって…。あの、お代は幾らですか?」

慌ててそう言うと彼女は…

アンナ「ウフフ、料金は頂きません。いわゆるこれは私の副業のようなものでして、誰かの生活を支えてその人が幸せになってくれる事を望み、ただそれを自分の夢にしてやってるだけの道楽のようなものですから」

ツトム「そ、そうなんですか…あ、有難うございます」

こんな事を言ってくれる人が居たなんて。

アンナ「ただし1つだけ約束して下さいね。眠って見る夢と言うのは飽くまでも夢、現実ではありません。ですからあなたは夢から貰ったその活力をどうか現実の生活に生かし、自分の将来を本当に開拓できる土台を手に入れて欲しいのです」

ツトム「え?」

アンナ「お勧めしておいてこんな事を言うのもなんですが『夢は見ても埋もれるな』と言う事ですね。どうかあなた自身の現実の生活を強くして、将来の為の土台をしっかり固め、夢はただその補強材にしてほしい…私とのこの約束を守って頂けますか?」

なるほどと思った。

つまり夢見がちな男になるだけじゃなく
生活そのもので現実の夢を叶えていく。
まぁ言ってみれば当たり前の事を
彼女はそのとき言ってるんだと思った。

ト書き〈数日後〉

それから数日後。
俺は毎晩、本当に楽しい夢ばかりを見るようになっていた。

(夢の中)

里美「フフ♪ツトムちゃん、はい♪コーヒーが入ったよ。どうぞ」

ツトム「や、こりゃ有難い♪いつもすまないね、有難う」

俺は夢の中でも物書きの仕事を続けており、
こじんまりとした書斎だが、なんだかとても暖かな空気が流れ、
その中で売れる作品ばかりを書き続けていた。

編集長「やぁ〜今度の君の作品も本当に出来栄えが良く、これは売れるぞぉ〜♪湯芽出くん、その調子でこれからもどんどん書いていって下さい!我々の出版社も全力でサポート致しますよ♪」

ツトム「は、はい!有難うございます!」

夢の中でも現実でいつも会ってる編集長が出てきて
その現実とは大違いの形で俺の作品を褒めちぎり、
また現実とは正反対の形で
俺に原稿依頼をどんどん持ってきてくれる。

ツトム「…これだ。これこそが、俺がずっと長年夢に思い描いていた生活のあり方なんだ…やった…!」

俺がいつも見ているこの夢の特徴は、
まるで現実そのものを生活しているようなリアリティがある事。
本当に夢から覚めても現実と混同してしまいそうな、
それほど大きな俺だけのエネルギー源になっていた。

そして、その夢の中で
決まっていつも出てくる俺のアシスタントの女性。

名前は里美ちゃんと言うのだが、
彼女は本当に美しく可愛くて俺のもろタイプでもあり、
夢の中でさえ俺は少し節制を保つようにしていたが、
「いずれは彼女と本当に結婚してみたい…」
そんな事まで文字通り、夢のように思っていたのだ。

でも彼女のほうも俺に対して好意を抱いてくれていて、
その俺の夢もまんざら叶えられないものじゃない…
その可能性さえふつふつと湧いてくるのである。

と言ってもまぁ、全部は夢の世界の事。

これをバネに現実の生活を本当に変えていく事ができたら。
これが今の俺の大きな課題になっていた。

でも1つだけ不思議な事に、そういう夢を見るようになってから
俺の現実での生活も少しずつだが本当に変わっていたのだ。

(夢から貰ったエネルギー)

編集長「まぁたこんなのを書いてきたのかね!ダメだよダメ!前作からほとんど改善されとらんじゃないか!」

といつものようにダメ出しを食っても…

ツトム「すみませ〜ん♪なんとか書き直して来ますので、もう少しだけ待って頂けませんか?本当にいつも勉強させて頂いて感謝しております!」

編集長「ん?あ…いやまぁ、ちゃんとこちらのニーズ通り書き直してくれるんなら、もう少し締め切りを待ってやっても良いけどね」

ツトム「あ、有難うございます!じゃあすぐ書き直して来ますので、2〜3日下さい!有難うございます!」

こんな調子でこれまでのように落ち込まず、
それを前進する為の力に変える事が出来ていた。

お陰で少しずつ俺の作品も世間に認められるようになり始め、
作家としてのこれまでの生活も少しずつだが安定してきていた。

ト書き〈カクテルバー〉

そんなある日。
俺は又あのカクテルバーへ立ち寄っていた。
するとそこに、また前と同じ席で飲んでいるアンナさんを見つけ、
俺はすぐ彼女の元へ駆け寄ってお礼を言った。

ツトム「アンナさん!いやぁまたお会いできて本当に嬉しいです!私、あなたのお陰で本当に生活が変わりましたよ♪」

心の底からお礼を言うと、彼女も自分の事のように喜んでくれ、
俺の今後の将来まで祝福してくれた。

でもこの時また彼女は1つ、俺に忠告をしてきた。

ツトム「え?それってどう言う事ですか?」

アンナ「その夢の中に出てきた女性…里美さんでしたか?その女性はきっとあなたの潜在意識が作り上げた、理想の女性像そのものです」

ツトム「はぁ…」(聴き入ってる)

アンナ「夢に出てくる異性と言うのは、ときにその夢を見る人の案内人のようになり、今後の生活を左右する助言までしてくる事にがあります。ですがツトムさん、良いですか?たとえその彼女が自分にとって良さそうな事を言ってきたとしても、決してその彼女の言葉を信じ、自分のそれまでの生活を変えてはいけません。もし変えてしまえば、あなたにとっておそらく良からぬ事が起きるでしょう」

ツトム「…は?」

初め、何の事を言われてるのかよく解らなかった。
たかだか夢の中に出てくる女性の事なのに。

アンナ「良いですね?あなたのほうがその彼女を先導する立場に立てるよう、夢をコントロールしていくのです。私があの時に差し上げた『Dream Writer』と言う栄養ドリンクは、あなた自身がその夢をコントロールする力も与えています。ですからあなたはその潜在意識の中からその女性を作り出す事ができ、暖かな夢の世界を実現させているのです」

アンナ「たかが夢の世界だからと言って、甘く見てはいけません。良いですね?」

それからも彼女が余りそんな事をしつこく言ってきたので、
俺はもう彼女の言う事を片耳で聞くようになり、
適当に愛想笑いなんか浮かべて聞き流していた。

でもこの時彼女が言った事は、現実に本当になってしまった。

ト書き〈トラブル?〉

それから数日後。
俺は又あの楽しい夢を見ていた。

でもその日の夢に登場した里美はいつになく大胆で、
まるで俺に色仕掛けをもって迫ってくるような
それまでに見た事もないような行動を見せてきた。

里美「ねぇあなた、私、あなたと夢の中でも結婚できたら良いって、そう今まで思ってきたのよ。…でも、それだけじゃやっぱり我慢できなくなっちゃって…」

ツトム「え?ど、どうしたんだい里美?今日は何かヘンに落ち込んでるじゃないか」

里美「だって、夢から覚めればあなたは現実の人。私の事なんて忘れて、あなたはきっと別の誰かとそのうち結婚してしまう。そうなの、私耐えられないのよ…」

ツトム「そ、そんな事ある筈…!」(遮るように里美が喋り出す)

里美「ねぇ、もし私が現実の人になってあなたに会うような事があったら、あなた、私を選んでくれる?あなたの結婚相手に、ちゃんと私を選んでくれるの!?約束してくれる?」

ツトム「さ、里美…」

里美はどうやら、自分が夢の中の住人である事に
密かな悲しみを募らせてきていたようで、
それがどうもその日の夢の中では爆発してしまい、
俺の自分への愛を確かめる上、そう言って、
改めて俺の心を確認しようとしていたのだろう。

その事が夢内(ゆめうち)ながら分かった俺は…

ツトム「…バカだなぁ。里美、俺がお前の他に本当に誰かを好きになるなんて、ある訳ないじゃないか。これだけ一緒に居て、まだ分からないのか?俺にはお前しか居ない、お前がたとえ現実の世界に生まれていても、俺は必ずお前を選び、俺の結婚相手にして居るよ。もうその事はこの世界でも証明されているだろう?」

里美「ほんと?ほんとにほんとね?嬉しい…!」

女と言うやつは…なんてガラにもなく思い、
俺はその夢の中で思いきり里美を抱きしめ、愛していた。

ト書き〈引っ越し〉

それから俺は少しずつ仕事が軌道に乗って、収入も得られるようになり、
それまで過ごしていたボロアパートから
人並みの生活ができるマンションへと引っ越していた。

フフ、実は何を隠そうこのマンションは、
夢の中で里美が勧めてくれた部屋だったのだ。

「ここなら思う存分仕事ができるから♪」

なんて里美が夢の中で勧めてくれたその部屋は、
現実の地図を見てもドンピシャの形で存在しており、
俺はそこをすぐに借りて住むようになった。

まぁ生活に困る事はもう当分ないだろうから、
俺も里美もそれぞれの夢が叶って万々歳だ。

それに里美にはもう1つの隠れた才能があった。
それは彼女にも作家の才能があったと言う事。
実はその夢の中で、俺は作品のネタを彼女から仕入れており、
そのネタに脚色する形で1つずつの作品を書き上げていた。

だからだろうか。

現実で、夢の力を借りて書いたその作品は
なぜか認められ、飛ぶように売れてくれて、
そんな事から里美は夢の中でも現実でも
俺にとって無くては成らない存在になっていた。

まさか、里美にこんな才能があったとは。
まぁこれも俺の夢の中の事だから、
俺自身にその才能があった…と言う事になるのだろう。
その点でも俺は二重に嬉しかった。

ト書き〈オチ〉

でも、引っ越してきたその翌日の夜だった。
俺がいつものように原稿執筆の為、パソコンに向かっていると…

ツトム「…ん?」

背後に人の気配を感じ、振り向いた。

ツトム「うおわっ!え、えぇ!?あ、あんた…」

なんとそこに立って居たのは、
バーで会ったあのアンナさん。

玄関のドアも部屋の窓もあいていないのに
いきなりそこに立って居る。
俺は途端に恐怖がこみ上げてきて、
今目の前で何が起きているのか全く解らない。

アンナ「フフ、ツトムさん。あなた、私の言葉を軽く聞いて、夢の中の登場人物・里美の言った事を本気で受け止め、この部屋に引っ越してきたのよね?あれだけ言っといたのに。彼女の口車に乗るなって…」

ツトム「く…口車って…」

俺は一瞬、里美の事を悪く言われたと思い、
アンナに対して猛烈に腹が立った。

ツトム「あ、あなた一体何なんですか!?い、いきなり人の部屋に入ってきて!どっから入ってきたんだ!?そ、それに僕がどんな夢を見ようと、どんな生活をしてようと、もうあなたに関係ないじゃないですか!あなた、一体何様のつもり…」(遮るようにアンナが喋る)

アンナ「言っておいた筈です。夢の中に登場する異性の存在は、ときにその夢を見る人の人生を大きく左右すると。この部屋が一体誰の部屋なのか、あなたご存知ですか?…まぁそれもすぐにわかるでしょうけど、あなたには今から私との約束を破った責任を取って貰いましょう」

そう言って、有無を言わせず彼女が指をパチンと鳴らした瞬間、
俺の意識は飛んでしまったらしい。

(オチ:その部屋で寝たきりのツトム)

その翌日。

里美「さぁ〜忙しいぞぉ♪どんどん作品書いていかなきゃ♪」

俺が引っ越してきたその部屋には1人の女性が住んでいた。
里美だ。

部屋の名義もなぜか彼女の名前に変更されており、
その手続きがどこでどうなされたのか俺は知らない。
でも、それで生活は続けられていたようである。

そして俺は彼女が住んでいる
その部屋のベッドの上で寝たきり状態。
ずっと俺は夢を見続けていたようで、
その夢の中で作家として成功した明るい将来を生きていた。

ト書き〈マンションを見上げながら〉

アンナ「ツトムと里美は、お互いに住む世界を取り替えたのよね。ツトムは現実の世界から夢の世界へ、里美はその逆で夢から現実の世界へ出てきて普通に生活している」

アンナ「実はこのマンションの部屋、里美が以前に住んでいた部屋だったのよ。里美も女流作家としていっときは成功していた。そのうち良い人が出来てその人と結婚し、作家業はライフワークにしようとしていた」

アンナ「でもその相手の男が遊び人で、里美は結局遊ばれたあと捨てられた。それがショックで、里美は自らその部屋でこの世を去った。でも里美は確かに美しく、作家に対する気持ちは本物だった。だから私が彼女の霊を引き寄せツトムの夢に登場させてあげた」

アンナ「夢の中の世界を夢だけで見終えていれば、ツトムはこれからの現実の世界で活躍する事ができたのに。この道は彼が自ら選んだ人生。『自分の人生は自分で決める』と言うその気持ちを尊重し、私はあえてその夢を叶えてあげた」

(仕事の合間ふと眠ってるツトムを見ながら)

里美「フフ、今日も楽しそうな夢を見ているようね。こんなに笑って。…大丈夫、私がこれからもずっとあなたの周りの世話をしてあげるから。ここでぐっすり眠って、自分の作家の夢を叶えてちょうだい」

(マンションを見上げながら)

アンナ「私はツトムの欲望と夢から生まれた生霊。その夢を叶える為だけに現れた。これからは夢の中で第2の人生を歩み始めたあなたを、美里がしっかり守ってくれるわ。夢の中で、お幸せにね…」

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