夢の分身
タイトル:(仮)夢の分身
▼登場人物
●軽井和夫(かるい かずお):男性。30歳。会社員。浮気性。
●軽井佳奈子(かるい かなこ):女性。30歳。和夫の妻。
●西田由美(にしだ ゆみ):女性。28歳。和夫の浮気相手。本編では「由美」と記載。
●暴漢1~2:男性。20代の酔っぱらいの不良のイメージでOKです。
●夢野(ゆめの)カレン:女性。30代。和夫の本能と夢から生まれた生霊。
▼場所設定
●某会社:和夫達が働いている。一般的な商社のイメージでOKです。
●カクテルバー:都内にあるお洒落なカクテルバー。カレンの行きつけ。
●和夫の自宅:都内にある一軒家のイメージでお願いします。
▼アイテム
●Innocence in Reality:カレンが和夫に勧める特製の錠剤。これを飲むと1か月後に効果が現れその後3か月間は真っ当な生活を送れるが、その後は元の性格に戻ってしまう(その後は自力で真っ当な生活を歩む努力をする必要がある形で)。そしてカレンとの約束を破れば、その薬の効果で愛する人の夢の中にだけ登場する事になる。
NAは軽井和夫でよろしくお願い致します。
イントロ〜
あなたは浮気が好きですか?
これまで浮気したいと思った事はありますか?
これは男女共に共通する欲望・本能のようにも思われ、
心の中で密かに浮気する事を考えれば
誰でも必ず1度はその浮気をした事があるのではないでしょうか。
今回は、その浮気をどうしてもやめられなかった
ある男性にまつわる不思議なお話。
メインシナリオ〜
俺の名前は軽井和夫。
俺は今2人いる。
そしてそのどちらも、この現実では実体が無い。
ト書き〈会社帰り〉
由美「ねぇ〜今度はどこ連れて行ってくれるのぉ?」
和夫「んん?そうだなぁ〜、温泉なんかどうかなぁ」
由美「えぇ〜温泉?温泉もいいけど、できたらもうちょっと楽しい所がいいかなぁ〜」
和夫「楽しい所って?」
由美「ん?ウフフ♪ホ・テ・ルとか…」
こいつは今付き合っている由美。
会社の同僚で、少し前からこんな関係になっている。
これが普通の彼女なら良いのだが、俺は妻帯者なのだ。
ト書き〈自宅〉
佳奈子「ちょっとあなた!こんな遅くに帰ってきて、今まで一体どこに居たのよ!?」
和夫「えぇ?会社だよ会社!残業押し付けられちゃってさ、今までずっと働いてたの!」
佳奈子「ウソ!残業で23時(じゅういちじ)までかかるなんて事ないでしょ!まさかあなた、浮気してたんじゃないでしょうね?」
和夫「バ、バカなこと言うなよ!俺は浮気なんかしないよ!それはお前が1番よく知ってる筈だろ!」
こんなふうに家に帰ればいつも妻と喧嘩。
まぁ当然の事。
結婚当初は本当に仲睦まじい夫婦だったが、
俺はいつしか浮気の味を覚えてしまい、
こんな形で妻を騙してでも好きな女と一緒に居る…
この生活を繰り返していた。
ト書き〈カクテルバー〉
そんなある日。
和夫「そっか、わかった。じゃあまた今度な♪」
今日も由美と会う約束をしていたのだが、
どうも用事が出来たとかで今日は会えなくなった。
和夫「ちっ!しょうがねぇか。まぁこのまままっすぐ帰ったってつまんねぇし、どっか飲みにでも行くか」
と言う事で、俺はその日飲みに行く事にした。
別に妻を愛してない訳じゃない。
あいつは本当に出来た女房で、
こんな俺ともずっと一緒に居てくれて、
その事には心から正直感謝していた。
でも俺にとって浮気は
ライフワークのようになってしまっており、
妻のその俺に対する愛情がわかっていても
浮気(これ)をどうしてもやめられなかったのだ。
そしていつもの飲み屋街へ来た時。
和夫「ん、新装かな?」
全く知らないカクテルバーがあった。
最近もちょくちょく来ていたのに
そんな知らないバーが建っていたのもあって
俺は少し興味が湧いて店に入った。
中は結構落ち着いており、
俺はそこが気にいってカウンターで1人飲んでいた。
和夫「ふぅ。でもやっぱり、あいつには悪いよなぁ。いつも帰れば風呂とか飯とか用意してくれてて、俺が帰るまで自分も食べずに待ってくれてたりして…。あいつの事は、今でも変わらず愛しているんだけどなぁ…」
いつものように自分の事を反省しながら愚痴っていた時…
カレン「フフ♪お1人ですか?よければご一緒しますか?」
と1人の美人が声をかけてきた。
彼女の名前は夢野カレン。
都内で恋愛コンサルタントやライフコーチの仕事をしていたようで、
どこか上品ながら温かみもあり、俺は一瞬で彼女に惹かれた。
でも不思議だったのは、
彼女に対してはなぜか恋愛感情が湧かない。
それより昔から知って居る人のような気がして、
なんだか心の拠り所のような気がしてくる。
そんな流れもあったからか、
彼女には自分の事を無性(むしょう)に打ち明けたくなり、
気づけば俺は、今の自分の悩みを彼女に打ち明けていた。
和夫「ふぅ。ダメなんですよねぇ、僕は。1人の人を本当に愛したいと思うんですけど、別の人を見たらどうしても心がそっちに行っちゃって。…それで結局、2人を同時に愛してしまう。いや愛すると言えばまだ聞こえが良いけど、実のところただの浮気ですから」
自分でもどうして良いか分からない。
この気持ちを正直に彼女に伝えていた。
カレン「そうなんですか。まぁ普通の男性ならそういうお悩みを抱えていておかしくありませんよね。いいえ男性だけじゃなく実は女性もそうですよ?私もこんな仕事をしておりますからその辺りの事は、まぁ普通の人より知ってるつもりです」
和夫「え?」
カレン「実は浮気をする回数だけに注目すれば、女性のほうが圧倒的に多いんですよ。男性には確かに狩猟本能と言うものがあり目の前に女性が居ればつい身を寄せたくなるものですが、女性の場合はたとえその人が身近に居なくても心の中で浮気してしまい、それを実行に移すまでが早いんです」
和夫「そうなんですか?」
カレン「フフ、まぁこれはアメリカや、西欧の国でも度々報告されてる論文にもある事ですが、男女関係を総じて言えば、その関係を壊すのは女性のほうが早かったりするんですよ」
俺はその辺りの事は全く知らないが、
彼女にはどうも不思議なオーラがあって、
彼女にそう言われるとそれが本当なんだと信じてしまう。
和夫「…でも、僕だって浮気してるんですし、そんな事を聞かされても今の自分の解決にはならないですよね。はぁ〜俺はこの先どうすりゃイイんだろなぁ。この浮気癖、本当にやめたいんですけど…」
そこまで言うと、彼女は少し姿勢を変えて
真面目に俺にこう言ってきた。
カレン「あなたは本当は奥様の事を愛してらっしゃるんですね。何となくその事がよく分かります。もしそうじゃなければそんなに悩まないですし、自分を反省したりもしないでしょう」
和夫「え?…あ、まぁ…」
カレン「良いでしょう。ここでこうしてお会いできたのも何かのご縁です。私が少し、あなたのお悩みを軽くして差し上げましょう」
そう言って彼女は持っていたバッグから錠剤のような物を取り出し、
それを俺に勧めてこう言った。
カレン「これは『Innocence in Reality』という私が特別に取り寄せたお薬で、現実であなたのように、浮気癖で悩む人の為に作られたお薬です。こんなものがあるのかなんて不思議に思われるかもしれませんが、現代医学も結構発達していて、あらゆる分野に精通した特効薬のようなものもあるんですよ」
和夫「は?」
カレン「どうぞこれをお試しでも良いので1度飲んでみて下さい。錠剤は1ヵ月分で、おそらく1ヵ月飲み続ければ今のあなたの生活は改善されて、奥様だけを愛する事ができるでしょう」
和夫「そ、そんなバカな事…」
カレン「いいえ、信じる事が大事です。自分の今のあり方が変わる、そして将来の悩みも消える、そうあなたが信じないで一体誰が信じるんです?その信じる心も大切で、この薬はそういう心の覇気にも強く影響します」
やっぱり彼女は不思議な人。
本当に信じられない事でも彼女が言えば信じてしまう。
また気づくと俺はその差し出された薬を手に取り、
その場で1粒早速飲んでいた。
カレン「ただしその薬の効能は約3ヶ月。飲み始めてから1ヵ月後にその効果が表れ、あなたはその3カ月間の間で自分の理想を見つけ、本当に愛する人と共に将来を歩いていける生活の土台を作って下さい。そしてくれぐれもその時に、別の誰かを愛してしまわない事。これが今のあなたの課題だと心得れば良いと思います」
ト書き〈1ヵ月後〉
それから1ヶ月後。
彼女に言われた通り俺はずっとその薬を飲み続け、
実際、これまでの生活と自分が変わっていた。
佳奈子「あなた、なんか最近変わったわね。まっすぐ家に帰ってきてくれて、私と一緒の時間をずっと過ごしてくれたりして、なんか新婚生活に戻ったみたい♪」
和夫「当たり前じゃないか♪俺が本当に愛してるのはお前だけなんだから」
佳奈子「嬉しい♪」
あれから俺は由美と会うのは一切やめて、
本当に妻だけを愛するようになっていた。
もちろん由美から何度も電話がかかってきた事もあったが
俺はそれを全て無視して、由美と会う事はもうやめていた。
ト書き〈トラブル〉
でもそれから1ヵ月… 2ヶ月… 3ヶ月と過ぎていく。
由美からはもうほとんど連絡も来なくなっていた。
ちょうど良い状況だったのだが、そんな俺に新たなトラブルが訪れた。
(会社帰りの道端で)
暴漢1「よぉ、イイじゃねぇかよ!俺達と一緒に来いよ♪」
暴漢2「俺達と一緒にイイ事して楽しもうぜ〜」
由美「や、やめて!離してよ!」
ちょうど会社帰りの道端で、
由美が何者かに襲われていたのだ。
酔っ払いの不良のような男たち2人に由美は絡まれており、
腕を掴まれた挙句、
由美は本当にどこかへ連れて行かれそうになっていた。
こう見えても俺はちょっと正義感のようなものもあったのか、
そういう状況を見れば黙っていられない性格。
それにこれまでの由美との関係もあったので
どうしても守ってやりたくなり…
和夫「おい!やめろよお前ら!」
とその中に割って入って由美を助けたのだ。
もちろん相手は2人だから俺はそれなりにボコられたが…
暴漢1「チッ!なんか変なのが出てきやがって、すっかり気分も削がれちまったよなぁ〜!おい行こうぜ」
暴漢2「ああ」
と言って幸いにも2人はその場を立ち去った。
由美「和夫ちゃん…有難う!私やっぱりあなたの事が好き!ねぇ、あなたに奥さんが居てもいいから私、やっぱりあなたと一緒に居たいの。ねぇお願い、週末だけでも…いや時間がある時だけでもいいから私と会って…」
その純粋な泣き顔を見ていると又ほっとけなくなってしまい…
和夫「あ、ああ…わかったよ」
と今度は素直に彼女に言い、
また彼女と定期的に会うようになってしまった。
つまり元の鞘に戻ってしまったのだ。
ト書き〈和夫の自宅〉
佳奈子「あなたお帰りなさい♪今日も疲れたでしょう?先にお風呂に入る?」
帰ると妻がいつものように優しく迎えてくれる。
その顔を見るともう堪らなかった。
適当に返事をし、俺はとりあえず自分の部屋に行って1人になった。
和夫「くそぉ!…俺は、俺はホントにどうしようもない奴だ。あれだけもう浮気はしないって決めてたのにまた由美に会いたくなってしまってる…。クソ…俺は本当に、どうしたら…」
心の中にまた由美が住むようになってしまい、
妻の顔を見る度に又同時に由美の顔も浮かんできてしまう。
(オチ)
そうして頭を抱え込んで椅子に座っていた時、
俺の背後で人の気配がした。
「えっ?」と思って振り返ってみると、
そこには妻ではなくあのカレンが立っていた。
和夫「あ…あんた、一体どこから…」
かなり恐怖を覚えながらそう聞いたが
カレンはそんな俺に構いなくこう言った。
カレン「あれだけ言っておいたのに、結局あなたは私との約束を破りましたね。由美さんをあの時助けたのは良い事です。でもそのあと、どうして一線を引いて由美さんと付き合おうとは思わなかったんです?」
カレン「男女と言ってもその気になれば、友達として付き合う事もできた筈。由美さんがあなたに言った事を窘めて、『自分には愛する妻が居る。だから距離をおいて付き合う事にしよう』そう言う事も出来たのにあなたはそれをしなかった。それはあなたの中に、由美さんに対する下心があったからでしょう」
和夫「ど…どうしてそれを…」
なぜカレンがあのとき由美が暴漢に襲われて、
彼女が俺に言ってきた事を知っているのか?
もちろんその疑問も湧いたが、それより何より
今こうしてカレンが俺の目の前に立っている事が
何よりもの不思議だった。
部屋のドアも開いておらず、家に普通に入ってきたのなら
妻もカレンの気配に気づいた筈。
そのとき俺は初めて本気で恐怖した。
和夫「ア…アンタ…一体何者…」
カレン「あれだけのチャンスをあげたのにあなたはそのチャンスを自分で壊し、結局、浮気の人生を選んでしまった。その事であなたは確実に2人の人を傷つけます。もちろん由美さんにも責任がありますが今はあなたの事。…とりあえず今からあなたにはその責任を取って貰いましょう」
そう言ってカレンは指をパチンと鳴らした。
その瞬間、俺の意識は飛んだ。
ト書き〈佳奈子と由美のそれぞれの夢の中〉
(佳奈子の夢)
佳奈子「あなた、私あなたの事ずっと愛しているわ。これからもずっと一緒に居ましょうね」
和夫「ああ決まってるさ♪俺もお前だけをずっと愛して、これからも一緒に居るよ」
(由美の夢)
由美「また私の所に戻ってきてくれて本当に嬉しい♪もう私達の関係を邪魔するものは何も無いわよね?これからもずっと一緒に居てくれる?」
和夫「ああ決まってるよそんな事。俺が愛してるのはお前だけだから…」
ト書き〈和夫と佳奈子の自宅を外から眺めながら〉
カレン「私は和夫の『愛する人とずっと一緒に暮らしたい』と言う本能と夢から生まれた生霊。実はその夢を叶える為だけに現れた。だから彼がこの道を選ぶ事も実は知っていたのよね」
カレン「彼は確かに1人の人を愛する力は持ってたが、その愛は同時に2人の人の所へ行ってしまっていた。それを留める事は彼には出来ず、彼は結局、佳奈子と由美、彼女達と同時に一緒に居る道を選んだ」
カレン「でも現実にそれは不可能だから、私が夢の力を彼に与えて、佳奈子と由美の夢の中にだけ現れる人として和夫を作り替えてあげた。あのとき和夫が飲んだ『Innocence in Reality』は、私が言った約束を破ればその愛する人の夢の中にいざない、その夢の中だけで生活させる。この現実での実体は消したまま」
カレン「もう彼は生身でこの世に現れる事はないけれど、佳奈子と由美の2人と夢のような生活を送れるようになったのだから、これはこれで本望だったのかしら。でも佳奈子は現実で、ずっと和夫の帰りを待つ事になるでしょうけど…」
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