脾臓病変の診断的洞察:マルチパラメトリック超音波検査の役割

Diagnostic insights into splenic pathologies: the role of multiparametric ultrasound

Diagnostic insights into splenic pathologies: the role of multiparametric ultrasound | Abdominal Radiology (springer.com)

Abstract
脾臓の超音波(US)評価は慢性肝疾患患者の評価に必須であり、脾腫は全身疾患の徴候となりうる。しかし、特定の脾臓病変における特徴的な超音波所見がないため、臨床診断は非常に困難である。
脾腫は、脾臓の大きさの増大によって定義され、基礎にある全身疾患を示すことがあり、門脈圧亢進症(PH)の一般的な症状である。超音波とドプラ法は、門脈圧亢進症における脾臓病変の評価に役立つ。エラストグラフィーを用いた脾臓の硬さ測定は、特に肝臓の硬さが高い場合に、診断の正確性を増す。
エラストグラフィーを用いた脾硬度の測定は、特に肝硬度の測定で結論が出ない場合に、診断の正確性を増す。CEUSは脾局所病変の診断能力を高め、その明瞭な増強パターンによって良性病変と悪性病変を区別する。
脾外傷性病変の診断にも重要な役割を果たす。全体として、CEUSは脾臓病変の特徴を明らかにし、侵襲的手技の必要性を減らし、適切な患者管理を確実にする。本総説では、脾臓の正常なUS所見を説明し、日常臨床で遭遇する最も一般的な脾臓病変の評価におけるマルチパラメトリックUSの役割について考察する。

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 Abdominal Radiologyに掲載の総説です。脾臓の超音波検査は、脾臓疾患が稀であることと、腫瘤性病変があってもほとんどが良性のため、あるいは悪性では転移が多く、その時点で終末期であって、切除されることが少なく、エビデンスの蓄積が不十分という大きなハードルがあります。一方で門脈圧亢進症においては脾硬度が大きな意味を持つことがわかり、その領域では最近盛り上がりを見せています。脾臓の超音波に関する論文は少なく、成書でも記載が不十分で、本論文はそこをまとめてくれていて、大変勉強になります。

 内容は解剖、観察法、正常脾から、副脾、門脈圧亢進症、脾硬度、そして造影と多岐にわたります。正常像では、長径(上極から下極までの距離)の基準値は12cm、厚みは5cmと記述されていて、日本の腹部超音波検診判定マニュアルでの10cmとの違いが見受けられます。また脾臓サイズは年齢、性別、身長、体重、体表面積、栄養状態に関連することが引用されています。

 脾腫については13~20cmでは門脈圧亢進症が、20cm以上では白血病や骨髄線維症といった血液疾患のことが多いとあります。

 門脈圧亢進症は肝静脈圧勾配(HVPG)によって測定される門脈圧に規定され、脾臓サイズはHVPGと良く相関するのですが、重度の門脈圧亢進の場合は相関が悪くなるようです。理由はうっ血により脾臓が増大することから、組織に過形成、線維化といった変化が生じることにシフトするから、ということです。それで脾硬度測定、という話になる訳です。また、門脈圧亢進症でも20%では脾臓のサイズが増大しないそうです。

 側副血行路は脾門部(脾腎シャント)、上極周囲(短胃静脈)、下極周囲(後腹膜)が見られ、これらは門脈圧亢進症に100%の特異度があるということで、その通りかと思います。この部分は順天堂大(当時千葉大)の丸山紀史先生の論文の引用です。

 脾硬度の測定は各装置での基準値が記載されています。
 
 造影については、まず限局性病変で、良性では動脈相でiso~hyper enhancementまたは、全時相でno enhancement。悪性は動脈相で不均質な染影から後期相でwash-out、と思い切ってクリアカットに記載されています。ざっくりしていますが、意外に当たっているかもと思いました。肝臓と同じくwash-outがキーのようです。各論では血管腫、過誤腫、リンパ腫、転移、血管肉腫が取り上げられていて、Bモードの記載があまり無いのは、Bモードで鑑別が難しい、ということなのでしょう。Sclerosing angiomatoid nodular transformation(SANT)の記述が無かったのは残念でした。
 
 また異所性副脾、脾摘後の副脾、脾症などで造影剤静注5分後に造影効果が残って診断根拠になる旨が書いてあります。日本はソナゾイドなので良く行う手法ですが、これはイタリアからの論文で、造影剤の記載が無く、SonoVueでも同様なのでしょうか??

 最後に外傷について、出血の有無や外傷の形状をみるのに造影超音波の良い適応ということが書いてあって、ゼブラパターン、という呼び方があるそうです。私の経験上、造影CTや血管造影でもいまいちどういう状態か把握しきれなくて、超音波のBモードや造影でクリアにわかる、といったことがあります。外傷性脾損傷は小児にもしばしばあるので、超音波は特に良いということも記載されています。また記載は無いですが、ドプラも含めて経過中の仮性動脈瘤のチェックにも良いかと思います。

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